Gのレコンギスタ[外伝] アメリアン・ソルジャー 作:榊原啓悠
「グッ……!」
奥歯を噛み締めて、恐怖を殺す。
サブマシンガンを全弾直撃させてもなお効果的なダメージらしきものを与えられない眼前のモビルスーツに対し、他に何ができるかを模索する。
「無傷で捕らえられるか、じゃない。無傷で捕らえることしかできないんだ……!」
思い上がっていた。見くびっていた。
この敵に対しての認識が、根本から誤っていた。
コンソールパネルを操作し、残っている武装をチェックする。
プラズマ・ナイフが一本と、頭部バルカン砲が一門。
「あとは僕の……知恵と勇気!」
硝煙を突き破って接近して来る《G-イシュリア》を迎え撃つべく、弾切れのサブマシンガンを捨ててプラズマ・ナイフを構える。モビルスーツの基本は格闘戦なのだから、ここからが本番という言い方もできる。制服のネクタイを緩めながら、カイルは《G-イシュリア》の一挙一動を見逃すまいとモニターを睨めつけた。
だがその刹那、眼前の敵に全神経を集中させていたカイルの集中を乱す何者かの接近をアラート音が告げた。
「後ろから!? カーキの《ジャハナム》かぁッ!」
前方から襲いかかる《G-イシュリア》と、後方から迫る《ジャハナム》。挟み撃ちのカタチだが、まだ詰みには早い。素早く《グリモア》の身をかがませると、カイルはこちらに掴みかかろうとしている《G-イシュリア》の脇に飛び込んだ。
横や上空に避ければ二機の射線上に立ってしまうが、これならば少なくとも《ジャハナム》を相手に《G-イシュリア》を盾にとれる。カイルのとっさの判断は功を奏し、結果として《グリモア》は、味方の登場で油断が生まれた《G-イシュリア》の隙を突いて背後に回り込むことに成功した。
「はぁあぁあああッ!」
《グリモア》の限界値スレスレの高速挙動で《G-イシュリア》の背面をとったカイルは、今度は《G-イシュリア》めがけて渾身のタックルを叩き込んだ。パイロットは数トンぶんの衝撃に晒される格好となり、昏倒は必至。更に言えば、向こう側の《ジャハナム》に《G-イシュリア》をぶつけることもできる。
だがしかし。敵のパイロットもそれを読んでいたとでもいうのか、カーキの《ジャハナム》はタックルをくらって吹き飛ばされた《G-イシュリア》をジャンプで回避して、上空からプラズマ・アックスを振り下ろしてきた。
「だがしかしッ!」
焦ることなくフットペダルを踏み込んで、背後に飛びすさる。先程からの連続した高速機動でカイルの肉体はGでガタガタだが、今は捨て置く。目と鼻の先で《ジャハナム》のプラズマ・アックスがテキサスの大地を割り、凄まじい轟音と土煙を立てるのを見れば、あの攻撃を避けていなければ身体の不調どころで済まなかったのは明確だ。
「このパイロット、素人ではない……が!」
見敵必殺が戦場の常である。こちらもプラズマ・ナイフを構えると、カイルは土煙に紛れて回り込もうとしていた《ジャハナム》に飛びついて刃をコックピットハッチのある腹部装甲に突き立てた。
『グォォォォオオォッ、ティアラお嬢様あぁあ………!』
接触回線が、《ジャハナム》パイロットの断末魔をこちらに伝えてくる。だが同情はしない。撃たなければ撃たれることを、カイルは知っているからだ。
「恨みは無いが……死んでもらう!」
カーキカラーに塗装された《ジャハナム》の腹部装甲をプラズマ・ナイフが溶断し、やがてその刃がコックピットに到達する頃、カイルは《ジャハナム》のセンサー光が消えたのを確認してゆっくりとナイフを引き抜いた。
力が抜け、寄りかかってくる《ジャハナム》を引き剥がして脇にうち捨てる。だが、安心はできない。やっとクリアになった視界をざっと見わたすと、300メートル程離れた地点で別の《ジャハナム》が《G-イシュリア》を《フライスコップ》で回収していた。
エフラグという兵器に分類されるそれは、宇宙世紀におけるサブ・フライトシステムの流れを汲む航空支援ユニットだ。魚介類でいうところのカレイにも似た平べったいシルエットをしており、上にモビルスーツを載せて運用する。アメリア軍で採用されている《エフラグ》の中でも特に大型であるその《フライスコップ》は、無茶をすればかなりの積載量でも飛べるパワーがあるだろう。
「クソッ……あんなもので逃げられたら……!」
一度《フライスコップ》で上空に離脱されたら、もう《グリモア》単機での追跡は不可能だ。カイルは《G-イシュリア》を載せて飛び立った《フライスコップ》めがけて、再三の加速をかける。
「間に合え……!」
全速力で《フライスコップ》を追跡するが、しかし元来が隠密作戦用に作られた《グリモア》が空を飛ぶエフラグに叶う道理はない。一瞬《グリモア》のマニピュレーターが《フライスコップ》の機体底面を掠めるも、それが最後の接触となった。
「逃げられ、た……。僕は何をやっているんだ……!」
こうしてカイルの追跡も虚しく、《G-イシュリア》はテキサスの地平線の彼方に飛び去っていった。
※※※※
『ティアラ様、ティアラお嬢様、聞こえますか!』
接触回線で《フライスコップ》のパイロットがこちらの無事を確認してくる。汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を清掃服の袖で拭いつつ、ティアラは震える声で返事を返した。
「問題ありません。心配をかけましたわ……」
『よかった。しかし、初陣で《ジャハナム》を2機も失ってしまいました』
当然、《ジャハナム》にはパイロットが乗っていた。これでティアラたちは、勇敢なモビルスーツ乗りを一度に二人も失ったのだ。そうでなくとも、人の命は命だ。それが失われた。悔やんでも悔やみきれないが、それでもティアラは衝動的な涙を堪える。今生きている仲間たちの士気を盛り立てて、次の戦いにも臨まなければならないからだ。
「失われた命に換えは効きませんが、この《G-イシュリア》を手に入れられただけまだ成功というものです。私たちの勝利ですわ」
『それはそうでありましょうが……』
「まだ私たちの戦いは始まったばかりです。全てはアメリアを正しい形に戻すため……。今は勝利の凱旋といきましょう」