Gのレコンギスタ[外伝] アメリアン・ソルジャー   作:榊原啓悠

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来訪、キャピタル・アーミィ
キャピタルの使者


 あれから数日が経った。

 テロリストの奇襲を受けたアメリア軍テキサス基地は見事に壊滅。守備隊の《ジャハナム》4機を撃墜され、基地施設もそのほとんどが機能麻痺に陥った。

 

 だが、それでも生きていかなければならないのが人間だ。宇宙世紀以来の環境破壊から未だ立ち直れずにいる荒野のテキサスで、カイルたちアメリア軍人たちは崩れた瓦礫の撤去作業と破壊された区画の修繕作業にあたっていた。

 

「悪いな、カイル。こんな辺境の基地で、華のエースパイロットにこんな現場作業させちまって

 

「いえ。もともと宇宙艦隊が完成するまでの間はここの隊員として勤務する予定でしたから」

 

 昼休みをとっていたカイルのところへ、缶コーヒーを両手に持った男が歩み寄ってくる。豊かなヒゲや刻まれた皺は、まさに貫禄たっぷりといった様子だ。そんな彼からコーヒーを受け取って、カイルは親しげな微笑みを返した。

 

「なるほど。ここで《G-イシュリア》の慣熟訓練をするはずだった、と……」

 

「ええ。そのはずだったんですけどね……。ところで、教官はここで何を?」

 

「試作モビルスーツのテストパイロットだ。ここで開発されていたのは《G-イシュリア》だけじゃない。……ま、老骨には似合いの仕事さ」

 

「でも、ブレン教官殿がいてくれて助かりました。正直言って、テキサスはアウェーでしたから」

 

「貴様ならうまくやっていけるさ」

 

「恐縮です」

 

 訓練学校での日々を思い返しながら、当時と変わらず頼もしいブレンの姿にカイルは安堵を覚えた。

 

 ―――だが、瓦礫の向こう側の基地司令部前に停められているキャピタルのエフラグが、カイルの心をざわつかせる。テロの直後にやって来た彼らは、自らを《キャピタル・アーミィ》と名乗り、《G-イシュリア》奪還に協力すると持ちかけてきたのだ。

 

「教官殿」

 

「んぁ?」

 

「連中、いったいどういうつもりなんですかね。それに《キャピタル・アーミィ》って」

 

「新聞くらい読め。キャピタルはここ二十年の大陸間戦争で緊張が高まる我が国とゴンドワンへの警戒を建前に、新たに軍隊を設立したんだ。《アグテックのタブー》を言いだしたのは、連中のくせしてな」

 

「キャピタルが軍隊を……。そんなことしたら、世界中の信者を敵に回すようなものじゃないですか」

 

「どういうつもりかなんて俺が知るか。それを言いだしたら、アメリアだってゴンドワンだってバチあたりもいいとこだろ」

 

 スコード教の教えの一つに、《アグテックのタブー》というものがある。科学技術、とりわけモビルスーツのような兵器技術の進歩を、ある一定の段階で抑制せよというものだ。これを守らなければ来年度以降のフォトン・バッテリーの配給権は怪しくなる。当然、フォトン・バッテリーが無ければ文化的な生活など維持できなくなる。そして、フォトン・バッテリーを生成できるのはキャピタル・エレベーターだけだ。そうしたキャピタルのスコード教による統治によって、1000年の平穏を人類は保ってきたのである。

 

「でも、そのキャピタルの軍隊がどうしてココに? それも、《G-イシュリア》を取り返すだなんて……。アメリアが宇宙艦隊を建造して、キャピタルを占領しようとしていることくらい知ってるだろうに」

 

「だからこそだろ。それに加えて、恐らく連中はトワサンガのことも知っている。俺のカンだがな」

 

「まさか! ……いや、有り得ないことはない、か」

 

「トワサンガから落ちてきた疑いのある《G-セルフ》の具体的なデータが欲しいのさ、連中は。だが肝心の《G-セルフ》はアメリアの海賊部隊がおさえちまってて、奪いようがない。となれば、コピー品の《G-イシュリア》で我慢しとこうって、まぁそういう腹積もりなんだろう」

 

「あいつらも、《G-イシュリア》が欲しいってことか……」

 

「分からんのはテロリストだ。連中、なんだってGを強奪していったんだか……」

 

 ブレンのつぶやきに、カイルもふと彼ら―――テロリストのことを考える。

 

 状況から察して、恐らく清掃員に化けていたあの少女が《G-イシュリア》に乗り込んでいたのは間違いない。そして、あのテロリストには似つかわしくない上品な言葉遣い……。

 

「……『ティアラお嬢様』って、もしかして……」

 

 

 ※※※※

 

 

 アメリア軍テキサス基地の、その司令室。

 同基地の司令官と同じテーブルにつきながら、そのキャピタル・アーミィの男は含みのある笑みを浮かべていた。

 

「―――つまりあなたがたは、《G-イシュリア》が今どこにあるのか分かる、と?」

 

「ええ。それだけではなく、彼らの正体についても情報があります」

 

「だから、情報と引き換えに奪還作戦に協力させろ、と……?」

 

「我々の望む条件は、《G-イシュリア》の原型となった《G-セルフ》の機体データの譲渡ですから」

 

 どさくさに紛れて《G-イシュリア》を強奪しようとしているくせに、どの口がそれを言うのか。喉まで出かかったその言葉を慌てて飲み込むと、キャピタル=アーミィの男はまるでこちらの心内を読み取っているかのごとく含み笑いをする。

 

「とにかく。情報提供には感謝するが、諸君らキャピタル・アーミィの手を借りずとも我々にはテロリストからモビルスーツを奪還する程度の任務は容易いことだ。これは本国の意思でもある。お分かりいただけたかな、ジェイ=ハミルトン少佐」

 

 本国からの指令を盾にどうにかやり過ごそうとするが、声の震えが誤魔化せていない。与しやすしと踏んだジェイは、鼻を鳴らして脚を組んだ。強気に打って出る合図である。

 

「―――なるほど分かりました。ですが不測の事態に備え、我々はもうしばらくこちらに駐留させて頂きます。いざという時には、我々の戦力もアテにしてもらって構いませんよ」

 

「戦力」というワードに反応するように、ジェイの背後に控えるアーミィの女兵士が眼球を蠢かせて基地司令を捉える。生気の失われたその瞳は、ゾッとするほど凍りついており、辺境の基地司令としての立場に甘んじてきた彼を心胆寒からしめるには充分すぎるほどの効力を発揮していた。

 

「モルテ=ポルテ少尉、そこまでにしておけ」

 

「…………はっ」

 

 アーミィの女兵士―――モルテ=ポルテは、人形めいた表情のない顔で静かに呟いた。

 

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