Gのレコンギスタ[外伝] アメリアン・ソルジャー   作:榊原啓悠

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アーリー・アメリアン

 その日の夜、カイルは基地司令によって会議室へ呼び出されていた。《G-イシュリア》の奪還作戦の目処が立ったのだという。カイル=ガウェインは腰の低い男だが、決してプライドの無い人間ではない。目の前で自分のものになるはずだった機体を強奪されたことは彼を激しく動揺させており、そしてそれを取り返すチャンスを得られるというのであれば、それは是が非でもモノにしたいところである。

 

「失礼します」

 

 軍人らしくキビキビとした動作と声で入室し、与えられた席に着席する。モビルスーツ隊の隊長と基地司令、そしてキャピタル・アーミィの士官が既に着席していた。階級章から察するに、佐官クラス相当の人物であるのは恐らく気のせいではない。

 

「では、これより《G-イシュリア》奪還作戦の説明を始める」

 

 時計の針がきっかり21時を示したタイミングを見計らって、基地司令は年相応のしゃがれ声で告げる。すると、示し合わせたかのようにキャピタル・アーミィの佐官は席を立って朗々と語りだした。

 

「こんばんは諸君。私はキャピタル・アーミィのジェイ=ハミルトン。階級は少佐だ。今回の《G-イシュリア》の奪還作戦に協力させていただく」

 

 顔を見合わせる基地職員たち。だが、誰一人として口を開けることはない。それはカイルとて同様である。ごく近い将来敵国同士になる間柄であることはお互い承知の上であるいえ、今はまだその時ではないからだ。

 

「ではこの場をお借りして、まずはあのテロリストたちの正体を説明する。彼らの組織名は《アーリー・アメリアン》。アメリア国内の、一部のスコード教信者たちが作り上げたテロリスト集団だ」

 

「なんだと!?」

 

「そんな……今さら!」

 

《アーリー・アメリアン》の名が出たとたん、職員たちは目の色を変えて吠え出した。ある者は怒り、ある者は狼狽している。カイル自身にも、その名前は聞いたことがあった。

 

 キャピタル・テリトリィへの不信感から始まったアメリアのスコード教離れが今日のアメリア軍の軍備を作り上げてきたのは言うまでもない。スコード教に忠実であれば、ここまで高い技術力を持つことなど不可能だった。

 だが、1000年の安寧がスコード教によるものであることもまた厳然たる事実であることは確かであり、その背景には進みすぎた科学文明が人類を滅ぼしかけた宇宙世紀という負の時代がある。そうした主張をもとに、スコード教の教えに則った、宗教国家としての古いアメリアを再興しようとした勢力があった。それこそが《アーリー・アメリアン》である。

 

「彼らの指導者であったハリソン=ブリーチ議員は既に他界しているし、政治組織としての《アーリー・アメリアン》はとっくに解体されたハズだ!」

 

「まだその根は絶えていなかったということだろうな。我がキャピタル政府は、フォトン・バッテリー供給にあたり各国の審査を行う調査部を抱えている。その調査部が、この武装テロ組織として再生した《アーリー・アメリアン》の存在をキャッチしたのだ」

 

「そんな馬鹿な……!」

 

「事実だ。彼らはアメリア軍内部に内通者を潜り込ませ、この十年間軍の装備を少しづつ準備していた。そしてついに、武装闘争を開始したのだ」

 

 ジェイの語り口は歌うように、楽しむように、基地職員たちを追い詰めていく。事前にこのことを告げられていたはずの基地司令でさえ、顔を青くしている始末である。

 

「現在の組織としての実態は未だその全容を掴みきれていないが、彼らは危険な存在だ。少なくとも、10年前までのようなタダの宗教団体ではない。教義を盾に殺戮をも厭わなくなった、凶悪なテロリストだ。……これを」

 

 ジェイが差し出した端末は、一枚の航空写真だった。経緯線も書き入れられており、縁に書かれた経緯度からそこが北太平洋―――つまりこのアメリアのすぐ西の海であることが分かる。

 だが、カイルたちの興味を引いたのはそこではなく、写真に写っている被写体そのものであった。

 

「………ぐ、軍事要塞だと………!!」

 

 ―――それは、前世紀の遺物である海上除染施設を基に作られた洋上軍事要塞であった。上空から確認できるだけでもモビルスーツは中隊規模相当が配備されており、生半可なものではない。

 

「これでは、奴らもタブー破りではないか!」

 

「だから言っただろう。……凶悪なテロリストである、と」

 

「………諸君、聞いての通りだ」

 

 基地司令の、苦虫を噛み潰したような顔に注目が集まる。これが事実であれば大変なことである。彼らの増長を許せば、《G-イシュリア》の強奪だけでは済まなくなるのは時間の問題だ。ここにいる誰もが皆、リギルド・センチュリー史上類を見ない凶悪なテロリスト集団の誕生に戦慄を覚えていた。

 

「よって、本テキサス基地は本国との合議の結果、《アーリー・アメリアン》を国家に仇なすテロリストと断定した。《G-イシュリア》の奪還を第一目標に、余裕があれば基地の殲滅も同時に行う。作戦の決行は、明朝○八○○。詳しい作戦の概要は……」

 

 

 ※※※※

 

 

「ティアラお嬢様、機体の方はいかがですか?」

 

「いい感じです。この子、今まで触ってきたどのモビルスーツとも違う、不思議な構造がたくさんあるんですよ」

 

「お紅茶をお持ちいたしました。作業のお手休めにどうぞ」

 

「ありがとう、ギャリソン。いただくわ」

 

 北太平洋、《アーリー・アメリアン》の洋上軍事基地の整備区画で、ティアラは執事のギャリソンの淹れた紅茶の香りを楽しみながら、整備途中だった眼前の《G-イシュリア》を見上げていた。

 

「皆の様子はどうでしたか?」

 

「初めての実戦を終えて数日ですが、やや浮き足立っております」

 

「あの高揚感というのは、到底拭えるものではないわ……。私自身、未だに胸の動悸が収まらない時があります。あなたも、軍にいた頃にそういう経験はあったでしょう?」

 

「ええ」

 

「士気が落ちているわけではないのなら、それで結構ですわ。………して、キャピタル政府からのお返事は頂けまして?」

 

「未だ、返答はございません」

 

「そう……。では、実力を見せるしかないですわね。我ら《アーリー・アメリアン》こそが、スコード教と世界の未来を導く聖戦士であることを示す、その実力を」

 

 純粋で無邪気な微笑みをたたえて、ティアラが《G-イシュリア》の装甲をそっと撫でる。その様子を、執事のギャリソンは糸の如き細い目でじっと見守っていた。

 

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