ガールズ&パンツァー 山吹の場合   作:かじたろう

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戦車も原作キャラも出ないです
適当に読んでも大丈夫です


出会いの話1

 

 戦車道は雨の日が日和らしい。

 

 

「ちょっと待って」

 

「……?」

 

「あの、天ヶ瀬さん」

 

 

 気づけば彼女の足を引き留めていて、目を見合わせていた。

 外のにわか雨が彼女の足を止めたのではなく、私が彼女を止めた。それに驚いているのは彼女だけでなく、私自身でもある。

 

 

「な、何か私に用でも……?」

 

 

 彼女、天ヶ瀬紅葉さんは怯えたような表情でこちらを見てくる。

 ここで井手上さんのように、優しい声で親切な言葉をかけられるほど、私は器用でない。

 

 

「雨の中帰るつもり?」

 

 

 むしろ不器用と言っていいほどで、出た言葉と言えばまるで感情のないただの質問。

 

 

「……え。そ、そうだけど……」

 

 

 それを受けた彼女は少しこちらから引くように、目を合わせてくる。

 当然だ。私は何をしているのだろう。小さく息を吐いて、もう一度伝えたいことを考え直す。

 

 

「少し経てば雨は止むから」

 

 

 

 

 一

 

 

 

 

 空を見れば、どこまでも曇り空が広がっていた。

 天気予報も、今日一日ずっと日差しが差すことはないと言っていた。

 

 教室の端っこで机に突っ伏す。

 天気の悪い日は好きじゃない。たとえ雨が降っていなくとも、晴れ晴れしい気分とは真逆の気分になる。

 

 

「紅葉ちゃ~んっ!!」

 

 

 すると後ろからこちらを呼ぶ声がした。

 振り返るといつもの見慣れた顔がそこに居た。

 

 

「どうしたの、詩織?」

 

「宿題やってなくてさ~……紅葉ちゃんの見せて?」

 

「ダメ」

 

「うっ……い、一生のお願いだからさ」

 

「ダメ」

 

 

 詩織の表情が険しくなる。またこのダメ娘は。

 

 いつも明るくて元気なのはいいが、もう私達も高学年なのだからもう少ししっかりして欲しい。

 いまだに一生のお願いを頻繁に使うし、宿題はテレビを見た等の理由でやらず、よく門限を破り外で遊ぶため親に怒られる。それで本当にもうすぐ中学生になれるのだろうか。

 

それが日比谷詩織という娘、といえばそうなのだろうが。

勿論、悪い子ではないのは良くしっているが、良い意味でも悪い意味でも感受性が豊か過ぎ、好奇心があり余りすぎるのだ。

 

すると詩織が一本指を自信ありげに立てた。

 

 

「じゃ、じゃあ交換条件を提示します」

 

「え?」

 

「私ここに来る時、とってもスゴイの見つけちゃったの」

 

「何?」

 

「それを知りたければっ……!! 宿題を見せるがいい……」

 

「ダメ」

 

「あっ、うん……」

 

 

 詩織は肩を落とす。

 たぶん登校中に彼女が見つけるのなんて、どうせ綺麗な石か花だ。

それで今、手に何も持っていないということは、花ではない。おそらく綺麗な石がポケットに入っている。

 

 もう少しマシな条件を提示出来なかったのだろうか。

 思わず『はあ』とため息を吐き、詩織へ手招きをする。

 

 

「宿題持ってきて、私が教えるから」

 

「えっ!! ホントに!?」

 

「ホント。休み時間使えばまだ間に合うと思うから早く持ってきて」

 

「ありがとう!! さっすが紅葉ちゃんだね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんよりとした天気のまま、どんよりと一日の授業は終わった。

 途中の体育でやった跳び箱も、体育館のジメジメで一番上の布が湿っていて少し気持ち悪かった。

 

 だがあとは帰りの会を終えて帰るだけだ。

 

 

「今日、山吹さんすごかったねー」

 

「うん、そうだね」

 

「こう、ふわって感じで身体が浮いてて、あれってどうやってるんだろうね~」

 

 

 ジェスチェーを交え熱演する詩織の話を聞きながら、先生の到着を待つ。

 すると詩織が思い出したように手を叩く。

 

 

「あっ、そうだ!! 紅葉ちゃん、今朝私が見つけたスゴイのの正体、気にならない?」

 

「全然」

 

「そうだよね!! 宿題を教えてくれた紅葉ちゃんには、特別に教えてあげよう!! すっごく可愛いから!!」

 

「え……」

 

「じゃあ帰りの会終わったらね!!」

 

 

 まるで話を聞かず、自分の席へ詩織は戻ってしまう。

 ああなると詩織の勢いは止められない。これは付き添うしかなさそうだ。

 

 しかし詩織にはもっと落ち着きをもって行動をしてほしい。

すると教室に前の扉から先生が入って来た。その後ろから続いて入って来たのは、山吹さんだった。

 

あの山吹さんほどとはいかなくとも、詩織には彼女を目標にするくらいの心持で居て欲しい。

 

山吹さんは先生と親しそうに何か言葉を交わしてから、席へ戻った。あの娘は勉強も出来てスポーツも出来て、クラスの皆だけでなく、あの様子だと先生とまで仲が良いようだ。それに日本人離れした容姿も可愛い。

 

もはや生まれた世界が違うとしか表現しようがない。クラスの端で慎ましく生きる私とは真反対にいる子だ。

 

 

「はーい。それじゃあ帰りの会始めるよー」

 

 

 そして先生の号令で帰りの会は始まった。

 

 

 

 

 三

 

 

 

 

「ヘイ!! わんちゃん!! 暇なら私達と遊ばない?」

 

「…………」

 

 

 今どき、こんなことがあるのも、ここが田舎であるからだろうか。

 詩織が妙な手振りで誘っているのは、ダンボールの中にいる子犬だった。ダンボールには『引き取ってください』と油性ペンで書かれている。

 

 道の端の端、普段人通りのほとんどない、舗装はされていないが獣道ともいえない道路。たぶん普段から綺麗な花や石を探しているような人しか通らず、見つけられない場所にそのダンボールと子犬は居た。

 

 

「うわっ、うわっ、すごい元気だねー」

 

「……………」

 

 

 子犬はまだ元気そうで、詩織の差し出した手をへっへっと忙しなくペロペロ舐めている。

 端っこには少量のエサも添えられており、飼い主の最後の優しさが伺える。

 

 

「ね? すごい可愛いでしょ?」

 

「うん。でも……」

 

「でも?」

 

「どうするの?」

 

「………………え」

 

「………………」

 

 

 当然、見つけてしまったからには簡単に見捨てられない。それが責任である。

 当人の詩織といえば、眉根を寄せて難しそうな表情をした。まさか何も考えていなかったのだろうか。

 

 

「…………紅葉ちゃん」

 

「無理かな」

 

「だよねー……。だからって私も無理だし……」

 

 

 詩織は過去に何度も生き物を捕まえたりしては、家に持ってきて母親から怒られている。詩織の母曰く詩織が何かの面倒を見られるとは思えないらしい。なら可愛そうだから飼わない方がいいと。

 私も全く同意見だ。

 そして私の家も、ペット禁止のマンションだから犬を飼うことはできない。

 

 

「こういうのって……どうすればいいのかな?」

 

「たしか、引き取り先が見つからないと、保健所で殺処分されちゃうとか……」

 

「え…………そうなの?」

 

「たぶん……私もテレビで見ただけだから」

 

「それは……嫌だね……」

 

「…………うん」

 

 

 ふと子犬と目が合ってしまう。

 元気そうに尻尾を振る姿を見て、これで情を移すなという方が無理だ。

 すると詩織は立ち上がり、思い切ったように言う。

 

 

「まずは!! 私が家から毛布とかごはん持ってくるから!! 誰かにどうすればいいか訊いてみよう!!」

 

「う、うん。それが一番だと思う」

 

 

 詩織にしてはまともな発想だった。

 たまにある行動的な一面は私ももっと見習うべきだ。今回ばかりは詩織の意見が正しいだろう。

 

 

 

 

 四

 

 

 

 

 ここ最近、ずっと曇り空が続いて、ジメジメとした空気が辺りを満たしている。

 そして私と詩織の間でもあの問題はまだ解決できていなかった。むしろ悪化の一途を辿っている。

 

 

「どうしよっか……」

 

「…………」

 

 

 詩織はまた難しそうな表情をした。

 

 私もあの時、あの子犬に情が沸いてしまったものだから、このままの状況は正直心苦しい。

 しかしあの後、担任の先生や両親にどうすればいいか訊いてみても、あまりいい答えが返ってこなかった。

 

 誰に訊いても、謝られるか公的な機関に届けた方が良いと言われる。だがそのような機関に届けて、飼い主が見つかるパターンは稀だ。見つからなければ勿論殺処分。

 詩織も飼い主を捜そうと奔走しているが、実は結ばれない。

 

 それからもっと悪いことに。

 

 

「それに昨日、お母さんに冷蔵庫漁ってるのばれちゃってさ……」

 

「え……」

 

「うーん……不味いなあ、もうご飯ももってけなさそうだし……」

 

 

 詩織は親に犬を飼ってくれるように毎日頼んでいる。

 もちろん毎日断られている。飼ってくれるまでは友達の家に犬を預けており、許可してくれるまで詩織は諦めないらしい。という設定で毎日母に頼み込んでいる。

 

 実際は預かってくれる人などおらず、子犬には申し訳ないが毛布とごはんを置いて、あの場所にずっと居て貰っている。

 

 きっとあそこに居ても、偶然飼い主が見つかることはないだろう。田舎でも更に人通りのないあの道で、誰かが子犬を見つけるとも思えない。

 

 

「あー!! 誰か優しい人が来ないかなー」

 

「そうなるのが一番だけど……」

 

 

 

 

 どんよりとした天気と同じく、私達の間にもどんよりとした空気が流れた。

 




次回は早めに投稿します
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