「それにしても、ツインテールの少ない世界よ――嘆かわしい! これだけ電気と鋼鉄にまみれながらその実、石器時代で文明が止まっていると見える!!」
好き勝手ほざく人外に、二足歩行トカゲもどき怪人の言にイラッとしたのは、前世と今世をぐるっとひとまとめにして馬鹿にされた気がしたからだろうか。
「驚いた。アレに驚いちゃいらっしゃってねぇんですね」
それでも、驚いては居た。驚き立ちつくし声も出ない状況だったからこそノーリアクションだったのだが、僕をこんな場所に連れてきた少女は、そう受け取ってくれなかったらしい。
「この人ならとは思いやしたが、まさかこれほどのお人とは……。無理矢理ご足労頂いたことについちゃ、平にお詫びしやす。あっしのこの身体を好きにして下さって構いやせん」
黙っていたのが悪かったんだろうか、僕のことを全力で買いかぶった上にとんでもないことを言い出し。
「ですんで、どうぞ一つ、頼みをひ」
「たすけてー!」
彼女が続けようとした言葉に幼い少女の声が被った。
「っ」
振り返れば、先程のトカゲもどきの元へと泣きじゃくる幼女が引き出されるところだった。お約束だった。お約束過ぎて、どうしたものかと一瞬ここには居ない誰かに問いかけたくなった。だが、ホンの一瞬、刹那の間のこと。連れてこられた幼い女の子へ待ち受けてる運命がロクなものでは無いことぐらい、僕にだって判る。これはヒーローショーじゃないのだ。
「助けるべきだ」
と自分の中の誰かが言った。
「待て、飛び出していってアレをどうこう出来るのか?」
と自分の中の誰かが問うた。衝動と冷静な問いかけの板挟みになった僕は足を一歩前に動かすことすら出来ず、せめてもの抵抗と彷徨わせた視線が金色の髪を揺らす一人の少女を捉えた。
「会、長」
制服姿と言うことは、学校の帰りなのだろうか。そう言えばこの世界の人って髪がカラフルだなと前世との違いを今更のように一つ、思い出しつつ、凝視する先の人は、新入生に向けての歓迎スピーチをした生徒会長の神堂先輩本人で間違いないと思う。特撮ものっぽい玩具を抱えてるみたいだが、そんなことは今はどうでもいい。今すべきは、必要な情報の収集。
「ちょっと護身術を囓っただけのパンピーに車跳ね飛ばすような化け物を物理的にどうこうするとか無理ッスよ」
なんて泣き言はいつでも言える。とりあえず、トカゲもどきと僕に絶望的なまでに戦闘力の差があることは判っている。その上で、何とかする方法を求めるには圧倒的に情報が足りなかった。もし、あのトカゲもどきに何らかの弱点が有れば、状況は変わるかも知れないし、そもそも、アレはいったいなんだというのか。
「あいつらは、アルティメギル」
絶妙のタイミングで飛び出してきた答えに僕は思わず振り返る。心を読まれたのか、とも思う程完璧なタイミングだった。
「随分と旦那は冷静もしくは剛胆なお方とお見受けしやしたが、こういう時聞かれることはだいたい何時どんな世界でも変わんねぇと思いやすんでね」
「なるほどな」
一つ、とりあえず、あの変態トカゲもどきの属してる集団の名が明らかになった訳だが、とりあえず聞き覚えはない。
「究極……!? それよりあなた、何者なんですの!? 人間の言葉がわかりますのね!? 他の子たちを解放なさい!!」
「分かるとも。こうして意思の疎通ができているではないか。故に、解放は出来ぬと弾ずる」
そして、俺が彼女と言葉を交わすのと同時進行で行われる会長とトカゲもどきのやりとりから交渉による解決も望み薄そうだなと知れた。囚われた人達の身柄と引き替えに何かを要求するなんてケースも考えられるから一概には断じられないが、ただ。
「貴様はこの子猫のぬいぐるみを持つがいい! 敵意もまた愛らしさと光る……腕白な幼女には、子猫のぬいぐるみがよく似合う!! さあ、抱けい!!」
なんの目的があるのかと問う会長をはぐらかし、大きなぬいぐるみを差し出すトカゲもどきを見て、遅ればせながら僕は察した。このまま情報収集を続けるというのは、ツッコミを封じられたままトカゲもどきの変態性を見せつけられるという苦行と同意味であることを。
「説明しろ」
だから、果たして僕に耐えられるのかという自問を投げた後、くるりと振り返った僕は白衣の少女に言った。ぶっちゃけ、もっと早くこうしておくべきだったのかもしれない。
「承知しやした、ですが、まずはキ……こいつを受け取って下せぇ」
説明してくれと言ったのに、差し出されたのは金属製と思わしき光沢を放つ深緑のブレスレット。白衣のポケットから取り出した様子を見るに、さっきポッケの内側で握っていたのは、これなのだろう。
「ふむ」
この状況下で、わざわざただの腕輪を差し出してくる筈はない。だからこそ、おそらくはこれが事態を解決するための鍵。それは分かる。
「何故――」
僕を選んだ、そう聞きたかった。たまたまここに来る途中に出会ったからなのか、それとも僕が転生者であることに関係があるのか、だが。
「む、新たなツインテールの気配……どこだ、どこに隠れているー!!
ツッコミどころしかない言葉を口にし、周囲を見回し始めた変態トカゲもどきに質問してる場合なんかじゃないと気づく。
「このままではまた誰かが捕まってしまう」
というのも大問題だったが、それより何より、あのトカゲもどきが僕の視界に入っていると言うことは、あっちからも見えると言うことでもある。つまり、見つかる。見つかってしまう。口にしていた世迷いごとが真実ならツインテールと無関係な僕は大丈夫かも知れないが、何らかの事情を知っていると思われる同行者を放っておくとは思えない。
「使い方は?」
少女に問いかける時には、既に腕輪を填めていた。
「心の中で強く念じて下せぇ、変身してぇと。それだけで、あとはブレスレットが応えてくれまさぁ」
「了解」
なんとお手軽なとも思ったが、ありがたい。と言うかこれは変身ブレスレットだったのか。定番と言えば定番であるが、今考えることではない。ブレスレットを着けた腕から、光が産まれ、まるで風のように渦巻きながら、身体を包んで行く。声を上げる暇もない、全ては刹那のできごとだったのだから。
「ほう」
念じた時に俯いていたからか、最初に視界に飛び込んできたのは谷間。そして、谷間を形成するけしからん大きな、大きすぎる膨らみ。ある意味、僕の理想がそこにはあった。ただ、なぜだろうか、それは僕についてるような気がして。
「すげぇ、成功した……旦那、あんたはやっぱり――」
顔を上げてみたが、何故か感激に打ち震えている少女はまともに答えてくれそうにない。
「って、いかん」
呆けてる場合じゃなかった。この変身で状況がどうにか出来て、捕まった人達が危ういなら、眼前のどたぷんについての質問は後回しにすべきだ。それよりも、今は囚われた人を。
「な」
そう思い、首を巡らせた僕は、見てしまった。一列に並べられた少女たちが直径三メートルぐらいの輪っかをくぐらされて行く姿を。輪に貼られたシャボン膜のようなモノを抜けた少女たちの髪はなんの手品かさらりと解け、あのトカゲの言葉通りツインテールを奪われてゆく。
「これは」
そして、僕は愚かにもようやく真相に気づいた。似た展開を見たことがあった。あれは確かゲームだったと思う。行方不明になった市民が何日か後に発見されるという奇妙な事件がとある町で起こった。一見、何もされなかった様に思えたため、事件の記憶はその後風化してしまうのだが、行方不明になった人々には魔物の卵が植え付けられていたという展開だったのだ。時間をおいて宿主を喰い殺し溢れ出る魔物による阿鼻叫喚。あれはぶっちゃけトラウマになった。
「この一見、髪が解けただけに見える変化があの手の『置きみやげ』を隠すための偽装だったとしたら?」
なんて高度な情報戦だ。あのトカゲもどきの変態じみた言動もそう言った置きみやげを隠すための情報操作だとしたら、僕にだって理解出来る。おぞましい戦略を変態性と言うオブラートで隠しているとすれば、とんでもない奴らだ。尚のこと、どうにかしないといけない、なら。
「一つ、聞く」
問題は髪を解かれてしまった少女たちだ。何らかの置きみやげをされたとしても、対処が早ければ助けられる可能性はある。そして、俺のそんな質問に答えてくれそうなのは、ブレスレットを託してくれた少女だけ。
「助けられるか?」
視線は髪を解かれた少女たちの方へ向けたまま問う。
「あの輪っかさえ破壊できりゃ問題ありやせん。時間が経過しすぎちまうとアウトですがね」
朗報だった。大元の機械だけ壊せばいいとはお手軽だが、助ける方法がないから殺してやってくれと言われるよりは良い。しかし、髪がほどけたのは、やっぱり厄介な置きみやげを隠す為のものだったらしい。
「了解」
短く答え、駐車場のアスファルトを蹴る。全てはブレスレットが応えてくれるというなら、僕がするのは思いを伝えることだけ。早く走りたいと、目の前に立ち塞がる障害をぶちのめしたいと、そして――。
「やめろーーーーーーーーーーッ!!」
走り始めた直後、甲高い叫び声が響き。
「な」
僕は邂逅したツインテールをなびかせた赤い
あるぇ? またちょっと出すだけで終わっちゃってるぅぅう?!
ふぅ、ようやく勘違い要素は出せました。
次回、第四話「それは、きっと」
巻き起こせ、緑の旋風っ!