俺、つかみたいものがあります   作:闇谷 紅

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第六話「あくまで俺は――」

 

「せいっ」

 

 振るった(シュトゥルムアクスト)の一閃で巨大な金属の輪は両断された。これをたわいもない、と

言うのはあんまりだろう。全ては、あの幼女がトカゲもどきを引きつけてくれているからなのだ。

 

「さて……」

 

 これで、あの少女の言った輪をくぐらされた少女達を助ける方法はやり遂げた。ワンテンポ遅れ粉々になった輪から中の粒子が散って行く中、俺は倒れている生徒会長をちらりと見やる。

 

「動かすか」

 

 それとも、幼女の加勢に回るか。トカゲもどきが変態の偽装を織り交ぜて派手な攻撃に移っていなかったのか、爆発音だとかは聞こえてこなかった。だが、本格的な戦闘が始まってしまえば、せっかく助けた少女達が幼女とトカゲもどきによる戦闘の巻き添えを喰うかも知れない。

 

「旦那ぁ、その子たちの事はあっしに任せて下せぇ」

 

 判断に迷っていると聞こえてきたのは、ブレスレットを託してくれた少女の声。

 

「そうか」

 

 よくよく考えると、あの少女は離れた場所から一瞬で俺をここまで運んだ。あれが他者にも出来るなら、避難誘導にはうってつけだ、それに失念していたがあの幼女にだって俺は事情を説明してくれた誰かが居ると考えたじゃないか。避難誘導に必要な人員は充分、だったら、俺の為すべき事は一つ。

 

「……うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 声に弾かれ、視線をやれば、叫んで駆け行く幼女の姿。

 

「む?!」

 

「ペチってしてやるぜ、顔出せ!!」

 

 大きく振りかぶりトカゲもどきに挑む姿を見て、俺は頼むとだけ呟き、アスファルトを蹴った。斧を片手斧バージョンにして投擲する事も考えたが、幼女とトカゲもどきの距離が近すぎる。

 

「なら」

 

 白兵戦を仕掛けるしかない。いかに変態のフリをしようと、それはあくまで擬態。ただの変態として幼女へ無抵抗に負けてくれるような相手ではあるまい。

 

「うおう!」

 

 視界の中で、トカゲもどきが幼女の斬撃をかわす。やはりなと思った。

 

「っ」

 

 それでいて、トカゲもどきの頬へ横一線に走った火傷の傷へ、俺は密かに驚く。トカゲもどきは避けたように見えていたのに、微かとはいえ斬撃は届いていたことへ。

 

「おのれ」

 

 だがあくまで一筋の火傷痕ダメージとしては軽微。やられっぱなしではいないと踏めば案の定、手を突き出し。

 

「危」

 

「はあっ!」

 

 警告の声はトカゲもどきの気合いにかき消された。

 

「し」

 

 しまったと言えるような時間はない、放たれた光線は幼女を直撃し。

 

「なっ」

 

「むう?!」

 

 あっさり霧散した光線に声を上げた俺とトカゲもどき。剣の方に威力があるのは、戦闘員が霧散らされていたからある程度察しはついていた、だが防御面もトカゲもどきの攻撃をあっさり無効化してしまうというのは予想外だった。なんなんだろう、あの反則戦闘服。

 

「フォトン、アブソーバー……あ」

 

 何気なく幼女が呟いた言葉を耳で拾った俺は、思わず顔をひきつらせた。このスーツらしきモノが教えてくれる言葉通りなら、俺のスーツにも同じモノが搭載されているようなのだ。なんというか、完全にやらかした。トカゲもどきがかき消してくれなければ、俺は問題ない攻撃に警告を発した間抜けになるところだった。もっとも、受けた運動エネルギーを分子レベルの強制介入で殺しちゃうとか、それなんてチート。

 

「はぁ」

 

 解説を聞かされた俺は顔を隠すように掌で覆い、思わず嘆息する。助太刀なんて必要ないレベルではないか。ひょっとして、あくまで俺はやるべき事をやったと言うことにして立ち去るのが正解だったのだろうか。

 

「いや」

 

 否だ。

 

「フッ……恐るべき奴! 久方ぶりに戦士としての昂揚が噴き上がる!」

 

 攻撃を無効化され、それで居て笑ってるトカゲもどきの様子にあれで決めつけるのは早計と思ったこともある、だが足を止めたままの理由はそれだけではない。

 

「我はアルティメギルの斬り込み隊長、リザドギルディ! 少女が人形を抱く姿にこそ、男子はときめくべきという信念のもと戦う者よ」

 

 うん、もちろんトカゲもどきの正式名称を聞くためでもないのだが、なんというか、まるで本当に少女が人形を抱く姿にときめくべきと思いつつ戦っているかの様な偽装レベルに戦慄しつつ、同時に己が不明を恥じる。あの、助けた少女達へ不安を抱かせないためには、このレベルに至らなければならないというのに、なんたる態かと。

 

「改めて聞こう、貴様の名は!!」

 

「――テイルレッド!!」

 

「っ」

 

 更に迷うことなく今度は名乗った幼女の姿に、思い知らされた。あの、何なの俺発言はやはり俺への気遣いからであったことを。ただ、ここは俺も名乗るべきなのか、名乗っても良いのだろうか。

 

「……いや」

 

 駄目だ。この状況で名乗ってもただの空気読めないおまけとして処理される気がする。リザドギルディとテイルレッドのやりとりはそこだけで完成されているし、そも、警告さえトカゲもどき改めリザドギルディの気合いにかき消されて聞こえてないのだ。くわえて、俺から見えるテイルレッドと名乗った幼女は背中側だけ。任せたって言ってリング破壊しに行ったし、後ろにいること認識されてない可能性もある。

 

「くっ」

 

 どうしたものか、ここであのトカゲもどきが気を遣ってこっちにも話を降ってきた場合、こう、前世で小学校の班分けで一人余って仕方なく入れて貰う時レベルの居心地の悪さを味わうことになりかねない。もちろん、かといって問答無用に乱入してあのトカゲもどきを攻撃するとか、人としてやっちゃいけない気がするし。

 

「成る程」

 

 とか意味ありげに口の端をつり上げ。

 

「見せて貰おう、テイルレッド」

 

 とか呟いて傍観してた方が、良いかな。それで、テイルレッドが危なくなったら助けに入れば面目は保たれるよね。

 

「だ、旦那……だからどーいう把握力をなさってるんで?」

 

 えっ、ちょっと待って、何故このタイミングでブレスレットの少女から通信っぽいものが来るんですか。まさかとは思うけれど――。

 

「口に」

 

「へい、出てましたぜ」

 

 恐る恐る漏らした短い単語なのに少女は読み取って絶望という名の答えをくださいました。うわーい。

 

「そう、か」

 

 駄目だ、ここで動揺を顔に出したらただの残念キャラになる。だから、俺は内心を顔には出さず、不敵な笑みを浮かべたまま一見物人へと自分の立ち位置を変えたのだった。

 

 

 






次回、番外編1「残された謎(総二視点)」
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