俺、つかみたいものがあります   作:闇谷 紅

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番外編1「残された謎(総二視点)」

「結局、なんだったんだろうなあの人……」

 

 ついぞ名乗ることなく気が付けば姿を消していた緑のスーツを纏った戦士。

 

「そーじ? またあの『ただの巨乳好き』のこと考えてるの?」

 

 話しかけてきた幼馴染の津辺愛香の声のトーンは不機嫌そのものだったが、仕方ないのだ。何せ、俺にあの腕輪(テイルブレス)を渡して来た女の子、トゥアールでさえあの人の存在を全く知らなかったのだから。

 

「……未だに夢だったんじゃないかって思うけど」

 

 夢でないのは分かっていた。だが、色々なことがありすぎた。準備中札を出し(へいてんさせ)た筈の実家である喫茶店の店内に現れた少女にブレスレットを着けられ、一瞬でマクシーム宙果まで瞬間微動させられたかと思えば、ツインテールを狙う怪物が現れ。俺は腕輪で幼女になって変態発言を前面プッシュする怪物と戦い、勝ったのだ。その後、一度元に戻れた安堵とツインテールを守れた達成感で一度意識を失いはしたが。

 

「何を仰ってるんですか、総二様っ! 夢だなんて、いえ、確かに夢のような美少女との出会いだったと仰られるなら私も女冥利に尽きますが、それでしたら、このまま情熱的な一夜の夢に゛っ」

 

「夢を見たいなら、今ここであたしが寝させてあげるわよ! 半永久的にね!」

 

「ひぎゃああ、あだまがくだけるぅぅぅぅっ!」

 

 ずいっと身を乗り出し迫ってきて愛香に頭を掴まれ、そのままアイアンクローされた少女と俺の腕に填ったままの腕輪があまりにもぶっ飛んだ出来事を真実だと証明している。

 

「ま、詳しい話とかもまだ聞いてないしな」

 

 幕を閉じた初陣と帰路の間、空を見ると太陽は徐々に地平線へ近づいてきている。

 

「日が沈むまでに帰れるといいな」

 

 漏れた呟きは車で二十分かかる距離を歩くから、じゃない。

 

「何をするんですか、愛香さん!」

 

「その言葉そっくり返すわよ! そもそも夢というか――」

 

 非友好的な会話を繰り広げ、時々一方的な暴力沙汰に発展する二人を見れば誰だって危惧を抱く。

 

「はぁ……」

 

 我関せずで傍観して茶駄目だ。この二人は置いていけないし、並んで歩いていれば言い争いからの幼馴染による鉄拳制裁で立ち止まらざるを得なくなるのは目に見えてる。

 

「なぁ、トゥアール」

 

 変身が解ける前、サイレンの音が聞こえていた。車が吹っ飛んだりしてたんだから、当然だ。だが騒ぎになって人が集まってきているとしたら、俺達は見とがめられず帰れるのか。

 

「問題有りません。ご安心下さい。ですから、無事お家に帰った暁には私に総二様のぉぉぉぉ」

 

 問えば、頼もしい答えが返ってきて、更に何か付け加えようとしたトゥアールは案の定愛香に捕まって腕を捻られる。

 

「そーじの何?」

 

「は、放して下さい。分かりました、話しますよ。……まず、総二様のお部屋にお邪ぁぁぁぁぁっ!」

 

 上がる悲鳴、トゥアールの腕が間接が曲がっちゃいけないところまで曲がっちゃってる気がするのは、俺の気のせいだと思う。

 

「……それぐらいにしておけよ、愛香も」

 

 そして、やむを得ず止めに入ったのがきっと正解だったのだろう。愛香から解放されたトゥアールは持っていた認識を攪乱する機械を使ってくれ、俺達は誰にも見咎められずに現場から帰ってくる事が出来た。問題は、これからなんだけどな。

 

「裏口から……そっとな。母さん、帰って来てる」

 

 普段は気兼ねせず足を踏み入れる喫茶店の入口を避け、家の裏口に回る。足音は忍ばせ、鍵を開ける時は慎重に。何故こんな帰宅をしなければならないのかとも思うが考えるとちょっと悲しくなってくるので、ただ、母さんに気づかれずに中に入れるよう神経をとがらせ。

 

「おっじゃましま~……おぐぅッッッ」

 

 友達の家に遊びに来た小学生の様な挨拶をかましかけたトゥアールが愛香の手刀で沈黙する。日本語が達者な子だったと思ったのだが、「そっと」ってファジーな言葉は通用しなかったんだろうか。

 

「あら、総ちゃんー?」

 

「あ、ああ、ただいま!!」

 

 台所から聞こえた声に、まあ気づかれるよなと納得するよりも、身体を強ばらせながら慌てて返事をする。

 

「おばさん、愛香です! おじゃまします!」

 

「は~い」

 

 後に続いた愛香がわざとらしく名前を告げてくれたお陰かいつもの調子で返ってきた声に、俺はほっと胸をなで下ろした。

 

「そーじ、あんたは自分の部屋に――」

 

 言語化するとそうなりそうな目配せを残し、愛香が台所へ向かう背を見て、俺もトゥアールが母さんに気づかれないよう注意しつつ階段を登って、自室へ。

 

「こ、ここが総二様の部屋……」

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、お気になさらず。……そわそわ、そわそわ」

 

 お気になさらずと言うなら、部屋に入ったとたん口に出してそわそわとか言い始めないで欲しい。だが、これでようやく話は進みそうだ。後は台所に行った愛香が合流さえすれば。

 

「はあ……」

 

 謎は多い。俺が貰った力も、あの変態達も、そして自称「ただの巨乳好き」である緑の戦士も。愛香曰く、俺がリザドギルディと戦い始めると成る程とか意味ありげに納得し、俺達の戦いをじっと見ていたらしいが。

 

「敵、じゃないよな……」

 

 俺が戦ってる内にあの金属の輪っかを両断してツインテールを救ってくれたことも愛香達から聞いてる。ツインテールにはしてないが、思わずツインテールにしてくれって口に出したら、短い沈黙を挟んで「考えておく」と答えてくれたし、やっぱり悪い人とは思えない。

 

「その辺り、トゥアールが答えてくれたらいいんだが……」

 

 半ば物理的に愛香が問いただしても、知らない一点張りだったのだからきっとトゥアールもあの人については知らないのだろう。何にしても愛香が戻ってきてからだ。相変わらずそわそわ口にしているトゥアールを横目で見た俺は、視線を部屋のドアへとやった。

 

 




いきなり戦闘シーンはしょって終わったあとからの描写ですみません。

番外編の挿入、もうちょっとあとにすべきだったかも。

次回、第七話「初陣の回想」

戦闘シーンはこっちで補完出来るといいなぁ。
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