※今回はネタでは無いです。また本編小説を読まないと解らない部分があります。
このSSは本編「悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999」の
2話と3話にあたる部分をユリウスの視点から書いたものです。
現在本編でユリウスの出番が無いため書いてみました。
最初のキャラセレクトでラングではなくユリウスを選んだ場合
こんな始まりになる……というていで読んでみて下さい。
本編小説→https://syosetu.org/novel/81422/
変化が起きたのは3ヶ月前、ヨーロッパ某国の深い森の中だった。
近くの村に住む子供が一人、行方不明になったのだ。
子供の両親はわが子が森で迷子になったのではないかと思い、森に探しに入った。
しかしそれからいくらたっても親子が帰ってくる事は無かった……。
◆
――西暦1999年 7月某日 東ヨーロッパA国――
まだ夜も明けきらぬ深い森の中を、颯爽と駆け抜ける一迅の影がある。
「――っと、もう着いちまったか、……何だ俺が一番乗りか?」
それは赤い長髪をなびかせたあの青年であった。師との別れから半年、さらにいくつかの場数を踏んだと見え、その顔はもう立派な一人前の戦士の風格を漂わせていた。
仲間たちとの合流地点にたどり着いた青年はとりあえず周囲を見回した。辺りは深い霧が立ち込め、ほんの数メートル先も見えない白の世界である。多少開けてはいるがすでにここは敵の領内。いつ敵が襲い掛かってきてもおかしくはない。
「!」
と、青年は不意に殺気を感じ腰の鞭を引き抜いた!瞬間、何者かが放った火球は青年の攻撃によってたちどころに霧散してしまう。
青年は鞭を構えたまま、炎の出所を注視し続けた。
「無事……試練を乗り越えたようだな」
やがて白い霧の中から漆黒のスーツを纏った長身の男性が姿を現す。
「……おかげさんでな」
青年が突き出していた鞭を引いた。どうやら男性と青年は顔見知りの様だ。
「久しぶりに会ったってのに随分なご挨拶だな。え?アルカー……いや、その姿の時は有角だったか」
「どちらでも構わん。どうせ発音は似たような物だ」
有角と呼ばれた男性は攻撃した事を悪びれる様子もなく、淡々と受け答えをしている。青年も一歩間違えれば大けがをしていた所だったというのに、とくに気にする素振りも見せず男性に話しかける。
「ほかの連中はどうした?」
「教会の者達も、日本の神官も、全員近くまで来ている。だが中には非戦闘員もいる。おまけにこの霧だ。俺が先行して安全な道の確保をしている」
「ふぅん……」
男性の言葉を聞いて、青年はしばし考え込むような仕草を見せた後、再び尋ねた。
「お前……この森に入ってからここまで何匹の敵と会った?」
「………………」
しばしの沈黙ののち、男性が答える。
「……ゼロだ」
「俺もだよ。いくらなんでもおかしくないか?ここは悪名高き”悪魔城”の敷地だろ?」
青年が首をすくめるジェスチャーをする。
「それにお前も気づいてるだろ?霧と木の匂いに混じって……」
「…………」
青年の問いに男性は無言で答えた。青年の言う通り、森に入ってからずっと……微かではあるが人間の血と火薬の匂いがするのだ。しかもそれは城に近づくにつれて強くなっている。
「考えたくは無いが……俺たちの他に先客がいるようだな」
「火薬の匂いがするって事は宗教関係者じゃ無いな。警察か?それとも軍か?お前軍関係には頼まないって言ってたよな?」
「ああ……いくら戦闘のプロでもここでは被害が増えるだけだ。情報は伝えていない筈だが……」
「その様子じゃどこからか漏れた可能性もあるって感じだな。しゃーない、ちょっくら俺が見てきてやるよ」
青年は手に持っていた鞭を腰のホルダーにかけると、一人城へと向きなおる。
「な……皆が来るまで待て!この先は何が起こるか解らんのだぞ!?」
もう走り始めている青年を男性が慌てて呼び止める。しかし……
「心配すんな!それよりお前は連中の引率しっかりやっとけ!辿り着く前に全滅なんて笑い話にもならねえぞ!」
青年はそう言い残すと、あっという間に白い霧の中へと消えていった……
「……やれやれ、あの性格は変わっていない様だな……」
一人残された男性は青年の無鉄砲さにしばし呆れかえっていたが、やがて青年とは反対の方向へ音も無く消えていった。
◆
一寸先も見えぬ白い闇の中を青年は進む。だがやはり敵は一体も襲ってはこない。さらに数分も走った頃、濃い霧の中でも解るほど巨大な城壁のシルエットが青年の視界に入った。
「ついちまったな……」
とうとう青年は一匹の魔物とも会う事無く、悪魔城の入り口にたどり着いてしまった。悪魔城の恐ろしさは師から嫌という程聞かされていたが、正直何だこの程度かと拍子抜けしてしまう。
……だが、すぐにそんな甘い考えは掻き消えた。微かだった血の匂いが、今ははっきりと判るほどに濃くなっているのだ。案の定、正体不明の攻撃が青年を襲う!
「!」
不意に感じた邪悪な気配に、青年は反射的に後方へ飛びのいた!
”ヂィッ!”
瞬間目の前を見えない何かがかすめ、青年の前髪を数本切り裂いていった。
「くッ!」
すぐに腰のヴァンパイアキラーを取り出し戦闘態勢をとる。さっきのアルカードとは違う、今の攻撃は完全に自分を殺しに来ていた。
「…………」
辺りは不気味なほど静まり返っている。周囲を見回そうにも相変わらず深い霧が立ち込め、敵の姿は全く見えない。
「!」
再び気配を感じ咄嗟にかがみこむ!やはり見えない何かが攻撃を加えたのだろう、青年の赤毛が今度は数十本も舞い散った。
「くそが!」
だが青年もただ敵の攻勢に甘んじているだけではない。瞬時に攻撃の出所へカウンターの鞭を振るった!
”スヒュッ”
「何!?」
だがどうした事か、敵の攻撃と同時に放った鞭に全く手ごたえがない。飛び道具を使っているのかと思ったが、確かに敵の気配はすぐ近くから感じられる。
”ブオッ!”
「ちっ!」
困惑する青年を尻目に、見えない敵は三度攻撃を加えてきた!青年は再びカウンターを見舞ったが、やはり鞭は空しく霧をさくのみ……
”ビシッ”
「くッ」
そうこうしている内にクリーンヒットでは無いものの、初めて敵の攻撃を喰らう。こちらの攻撃は当たらないのに敵の攻撃は当たる。実に理不尽である。
「……まさか」
……ここで青年は気付いた。気配はある、だが実体は無い…………
……敵の姿は見えないのではなく、すでに見えているのだとしたら…………
「――霧自体が……魔物!」
”ザワワワワワワッ”
敵の正体に気付いた青年をあざ笑うかのように、笑い声とも風切り音ともつかぬざわめきが辺りに響いた。
”ビュウッ!!”
嘲笑する敵を振り払うように、辺りを鞭で切り裂いてみたが、やはり手ごたえは無い。少なくとも物理的な攻撃が効く相手ではないようだ。
”パチィッ”
と、何故か青年は手に持つ鞭をホルダーにかけると、上着の内から文庫サイズの古びた本を取り出した。
…………?
霧の魔物は青年の行動の意味するところが解らず、一瞬攻撃の手を緩めた。だが一向に動く気配の無い青年を見て、戦闘を放棄したとでも思ったのだろう、寝首を掻いてやろうと背後から忍び寄る。だが……
「……かかったな?」
…………!?
不用意に魔物が近づいた瞬間、青年は持っていた本を宙に放り投げた!何百という本のページが鋭利な剃刀となって周囲に舞い散る!
……♪
だが当の魔物は青年の攻撃を鼻で笑っていた。いくら攻撃範囲が広かろうと、いくら切れ味が鋭かろうと、物理的な攻撃では自分にダメージは与えられない。そう余裕ぶっていたのだが…………
「……てめえの負けだ」
……ッ!?
……気付いた時には遅かった。乱雑に舞っているとばかり思っていた本のページは、理路整然と……青年と魔物を包み込む様に巨大なドーム状の壁を作っていた。霧の魔物は自身を取り囲む紙の檻を突き破ろうと攻撃を加えたが……
”バジィッ!!”
…………ッ!?
魔物の攻撃は即座に跳ね返された。青年が使ったのはただの本ではない、神の加護が施された戦闘用の”聖書”だったのだ。
聖書の壁は徐々にその範囲を狭め、青年と魔物に向かって押し迫ってくる。一方青年は全てを悟ったように目を閉じ、右手で妙な印を結んでいる。
――このままではまずい!――
さすがに自身が置かれている状況を察知したのか、霧の魔物はこの紙束を使役している青年に矛先を向けた。青年は無防備にも目を閉じ瞑想している。今なら楽に殺せる……!
――――ッ!!
無音の咆哮をあげながら魔物が青年に襲い掛かる!だが……
「色即是空……」
!?
魔物の攻撃は空しく宙を切った。攻撃を加えた瞬間、青年の姿が霞の様に消えてしまったのだ。一体どこへ消えたのか、後には敵を見失った霧の魔物が残るのみ……
………………ッ!!!!!
――魔物は半ば自暴自棄になりながら必死にあがく!だが……もはや手遅れだった。聖書の壁は魔物を押しつぶさんばかりにどんどんその空間を狭め、そして――
――コロン。
最終的に聖書は小さめのボール程の大きさにまで縮まった。中に閉じ込められた魔物はまだ生きているのか、脱出しようと必死にもがき、そのせいで紙のボールはコロコロと揺れている。
「やれやれ……」
青年はその間魔物に切られた髪を整えていた。だがやがて上着の内ポケットから小ぶりなガラス瓶を取り出すと、ボールに向かって放り投げた。
!!!!!!!!!!
ガラス瓶がボールに触れた途端、青白い火柱が巻き起こり、瞬く間に紙のボールは炎に包まれた。声にならない叫びをあげながら、霧の魔物はあっけなく消滅した。
「これは!」
ふと青年が辺りを見回すと、周囲に立ち込めていた霧がさっぱり晴れているのに気付く。やはりこの霧は人為的な物だったらしい。
「!?」
霧が晴れた事で辺りの惨状を見て驚いた。青年の周囲にはボロボロに引き裂かれた無数の死体が転がっていたのである。
「匂いの原因はこれか…… !? これは
周囲の遺体は原型こそとどめていなかったが、着ている服の切れ端は間違いなく海兵隊の戦闘服だ。ここまでの敵が異常に少なかったのは、恐らく彼らと魔物との間に激しい戦闘があったからだろう。
「フゥ――――」
青年はここに来てから初めての戦闘で若干乱れた呼吸を整えると、すぐさま堀に渡された橋を渡り、場内へと足を踏み入れた。群がる敵を蹴散らしつつ、城門から中庭へと歩みを進める。そしてほどなく……天高くそびえる悪魔城正門がその姿を現した。
「これが……悪魔城……」
その重厚な扉は、いまにも青年の体を押し潰さんと、無言のプレッシャーを放っている。その凄まじい威圧感に思わず青年は足がすくみそうになった。だが青年はすぐにそんな弱気な心を振り払うと、目の前の門に手を触れる。
「……待っていろドラキュラ……先生や母さん……一族の因縁は俺がケリをつけてやる……!!」
やがて待ち構えていた獲物を飲み込む様に、悪魔城がゆっくりとその双鋼を開いた……