ダイヤのA━━あと一勝のために━━   作:獅子身中の無知

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お久しぶりです。覚えてますか?福山 ◯治です!


...スリップなんでポイント加算は無しの方向でお願いだぜ!

死ぬほど忙しくて投稿の暇がありませんでした!

今回はインフルエンザで暇になったので、手慰みに丁度仕上げられました。


極致

「それでなー、奴はこう言ったのさ!『カレーは飲み物じゃねぇ!』...ってさ!アハハハハ」

 

シーン.....。

 

「......」

 

「......」

 

「外した?」

 

「物凄く、な」

 

俺の鉄板ネタ、『加齢によるカレーの華麗なる処理能力』がまるで滑ってしまったかのような言い種だ。おかしい。俺はこの話を知り合いから教えて貰ったとき、三時間は腹抱えて悶絶していたのに。

 

「お前ら、朝から機嫌悪いのかなんか知らんが、空気を和まそうとした人の努力を何だと思ってやがる」

 

本日は快晴なり。昨日関東予選を快勝した我が青道高校野球部一軍主力メンバーには、束の間の休息が与えられた。のにも関わらず、全員が自主トレに来ているところ等から意識の高さが窺える。

 

そして、自他ともに認める主力の一人、この俺 愛川 鷹南がいるのはグラウンド。一軍は本来休養が宛がわれているので、此処にいるのは一軍控え、及び二軍三軍の全学年の選手達。勿論新入生も含まれる。

 

面白いのは、新入生と二、三年が別れてベンチに陣取っているところだろうか。

 

そう、これは青道高校野球部恒例、『新入生歓迎!...と見せかけボコボコにして自分をアピッちゃおうのコーナー』である。

 

今は春期大会の途中ではあるものの、高校野球の本番は夏。二、三年にとってはそこでベンチ入りするためのアピールには絶好の機会である。しかしながら、今日のこいつらの気合いの入り方はそれだけが理由ではない。

 

そして同時に、一軍の俺がこの紅白戦に呼ばれた理由でもある。

 

 

「はてさて。期待の新人クンはどんなもんかなぁ~」

 

見定めるは向かいのベンチに腕を組んで座っている細身の少年。

 

眠そうな顔と裏腹に、闘気がこちらまで伝わってくるかのようだ。

 

実はこの少年。昨日の夜、食堂で『この雑魚どもを(ピー)したら、俺の球捕ってね』と御幸に大声で伝えたらしい。少し違ったかもしれんが、そんな感じのニュアンスだった筈た。

 

そして、そんなことを一年生に言われてなんとも思わない上級生ではない。青道高校の層の厚さで二軍に甘んじているものの、中学ではバリバリレギュラーで活躍していた自信家達。プライドだって無くしちゃいない。『舐めんじゃねぇ』とばかりに牙を剥いている。厳つい坊主頭が多いため、ともすれば通報されても可笑しくない光景である。

 

 

話は戻って、俺が此処にいる理由。時系列的には昨日の夕方、まだ食堂で事件が起こる前。監督室に呼び出された俺は、今日の紅白戦に監督直々に呼び出された。

 

『降谷を測ってほしい』と。

 

降谷 暁。今年の一般入部枠でありながら、体力測定で遠投120Mをクリアした逸材。どうやら監督はこの降谷少年に大きな期待を寄せているらしい。なにせ、俺に当てる位だ。測ってほしい、なんて言いながら俺を抑える可能性が少なからず在るのだろう。でなけりゃわざわざこんな手の込んだ事はしない。

 

 

 

 

「...で、だ。いつまでこの虐めを続けんだよ?」

 

既に4回終わって16対0。いくらなんでも、同じ投手を引きずりすぎだ。あの一年生投手が潰れちまう。

 

「確かに気の毒ではある。しかしこの先、ウチで野球を真剣にしていくならもっと厳しい事がある。この程度で潰れるようなら、早めに諦めた方が本人のためだ。」

 

「そんなもんかねぇ...」

 

隣に座る増子が言うが、俺は素直には賛同しかねる。

 

ピッチャーってのは恐ろしくデリケートな生き物、に見えてしまう(・・・・・)

少しの精神のズレが、コンマ1㎜以下の体のズレを生じ、結果としてボール一個分の制球のズレを生む。

 

勿論、だからこそ強靭な精神は必要だ。増子の意見は本来100%正しい。だからここで論戦を繰り広げるつもりはないが...。

 

 

「...!いずれにせよ彼、今日はもうお役御免のようだね。...そんで、俺の出番、と。」

 

 

俺達の目線の先には、落とした肩で息をしながらマウンドを降りる一年生投手。

 

 

 

 

そして、真打ちが登場した。

 

 

「ピッチャー、降谷 暁!マウンドにあがれ!」

 

 

グラウンドの砂を踏み鳴らしながら、ゆっくり歩みを進める姿には貫禄を感じなくもない。貴子から聞いた話を考えれば、むしろその逆であって然るべきなのだが。

 

ま、何でもいいさ。彼から感じる一種のシンパシーが本物であるなら、むしろその貫禄は当然のものの筈だ。

 

「じゃ、悪役になってこようかね?」

 

ヘルメットを被り、手にはバッティンググローブ、そして握るバットを携えた俺は、ネクストサークルで降谷をガンつけしている同級生に仕方なく告げる。

 

「代打、オレ。」

 

「......!?」

 

あ、また外したっぽい。出番を奪うようで気まずいから冗談めかして言ったのに。...嫌われたくねぇなぁ。

 

「ま、待て鷹南!お前は出る必要ないだろ!邪魔すんな!あいつは俺が...!」

 

「悪いけど、お前の出番は終わりだよ。お前があの一年生を打てるか否かは今は関係ないんだ。俺が出るのはチームのため。理解してくれ」

 

あぁ!?こんな言い方したい訳じゃないのに!

 

気を遣いたいのに、口からうまい言葉が出ない。なんてバカヤローなんだ俺は。

 

自己嫌悪に苛まれながら、右打席に立つ。同時に主審をしている監督にまばたきを絡めたアイコンタクトを送った。

 

パチパチ、パチ。

 

『ワタクシ、キノウノホシュウジュギョウ、ハンブンネテマシタ。』

 

パチパチ。

 

『アトデセッキョウダ。』

 

げぇ!?つ、通じちまった!ふぅ、天才は辛いでホンマ。

 

 

おふざけはやめにして、軽い投球練習を終えた降谷に対してバットを構える。

 

見たところ、軽く流して130半ばの速度が出ていた。一年生には破格の速度。これでまだ軽く投げているだけなのだから、末恐ろしい。

 

それに何か普通の球と違和感がある。

 

 

「...愉しくなってきたなぁ」

 

こういう逸材の出現には、何度立ち会ってもゾクゾクする。現金なもので、既に俺は先程の同級生に対する罪悪感を失っていた。

 

はやく。はやく球がみたい。

 

投球動作がこれほど煩わしいと感じたのはいつ以来か、じっと俺は堪え忍ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《これで、やっと御幸先輩に受けてもらえる》

 

紅白戦に登板した降谷は、打者を前にしてもその事ばかり考えていた。

 

地元ではほぼ無名の投手である自分。それなりの理由があるとはいえ、当然強豪からの誘いはなかった。

 

そうしてたまたま目にした野球雑誌に載っていた天才捕手。東京都の強豪、青道高校において1年生からスタメンマスクを被る御幸 和也。

 

このキャッチャーなら、自分の全力を受け止めてくれるかもしれない。

 

自惚れでなく、事実として自身の球が特別なものであることは理解できていた。故に『特別』を捕るのもまた、『特別』でなければならない。『特別』でしか捕れない。

 

そんな事実に気づいてしまったが故の、視野の狭さが今の降谷を鈍感にさせていた。

 

 

振りかぶり、久しぶりの本気の投球。

 

わざわざ代打として出てきたわりには、打者からは何の気迫も感じ取れない。

 

今までのキャッチャーと同じ、自分のボールに恐れおののくだけの木偶。

 

 

 

 

ビリっ!

 

「っっ!」

 

球を放った刹那、それまで何の印象もなかった打者から、異様な気配を得た。あえて言葉で形容するなら『殺気』、とでも言うのだろうか。

 

 

キャッチャーミットに納まる筈ですらなかった自身の球は、何故か今、自身のグラブに納まっている。

 

 

 

打たれた。完璧に。

 

その事実は、理解が及ぶまで数秒を要した。目で追って反応したわけでも、反射で捕った訳でもない。

 

まさしく偶々、グラブに納まっただけ。結果としてはアウトカウントだが、勝負としては確実に負け。なんせ、同じことが二度とできる気がしないのだから。

 

 

半ば呆然としている降谷に、主審の監督が告げる。

 

「降谷!もういい、合格だ!明日から、一軍の練習に混ざれ!」

 

それを聞いてはっ、とした。確か、自分は御幸先輩に受けてほしくて此処に来たのだ。一軍に昇格するということは、それが叶うということ。

ジャストミートされたことを考えれば、むしろいいのか?とも思ってしまうが、せっかく上がれるならば文句はない。

 

 

しかし、このモヤモヤはなんだろうか。

 

今までは、誰かに自分の全力を受け止めてもらうことばかり考えていた。だが、そればかりで、自分の球が打たれることなんて想像したことが無かった。

 

 

 

降板を告げられ、後ろ髪を引かれながらもマウンドを降りる。降谷は気がついていないが、その胸中には、初めて圧倒的格上の選手との邂逅による興奮が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....本気か?愛川」

 

「もちろんです。あれは試合で伸びるタイプでしょ。うちの攻撃力を考えれば、早い内から多少無理しても経験は積ませとくべきです。才能は折り紙つきですけど、その他はダメダメですからね」

 

 

 

紅白戦の行われた夜。俺は監督室に報告に参上した。

 

 

「しかし、1年生を君と二枚看板(・・・・)扱いなど...!それはあまりにも優遇のし過ぎではないかね!?」

 

 

同席者その1の太田部長も、俺の提案にあまり賛成では無いようだ。

 

「その価値はあると思いますがね」

 

「ほかの一軍投手に示しがつかないんしゃないか?と部長は仰りたいのよ」

 

声のトーンからすると、同席者その2の巨乳メガネも反対派のようだ。

 

「二枚看板、とは言っても実質先発は彼にいってもらう感じで。守備と打撃で援護しつつ、ある程度で俺が投げます。甘やかしすぎと言われるかもですけど、彼は試合の素人ですからね。これぐらいでも十分な経験値になるはずです」

 

言ってしまえばとんでもない過保護だが、その価値は十分にある。宝石を傷つけないように最も光る場所に展示することの、何がおかしいのか。

 

 

部長と副部長はそれでもまだ納得はしていないようだ。とはいえ、俺のボキャブラリーもそこまで多くない。俺のこの気持ちはどう伝えればいいのだろうか?

 

 

「...今日、何故お前はピッチャーライナーを打った?」

 

思わぬ助け船は、監督であった。

 

「...恥ずかしながら、お察しの通り。『打たされた』んです。俺は、バックスクリーンにブチ込むつもりでした」

 

そう、俺はなにかを意図してアレを打ったわけではない。完全に押さえ込まれたのだ。

 

 

スピードは、恐らく145前後。キレ、ノビはそれほどでもない。

俺にとっては、そこまで驚異ではない程度の球の筈だった。120M飛ばす事ができると確信する程度には。

 

 

予想外だったのはその球威(・・)

 

インパクトの瞬間の重みは、其処らの投手とは桁違いのものであった。同じ球速であれば、俺よりも重いかもしれない。

 

...いや、確実に重いだろう。

 

 

そう正直に伝えると、3人とも驚いた表情をしていたがすぐに冷静さを取り戻した。

 

「お前が素直に他人を誉めるのは、御幸以来だな」

 

え、まさか俺が誉めたのがそんなに驚いたの?俺そんなに普段から偉そうなの?

 

「まあ、話はわかった。降谷の起用法については参考にしよう。今日は悪かったな。戻っていいぞ」

 

「あ、監督」

 

「ん?」

 

「1つ、全く別件...でもないんですがお願いがあります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬわーっはっは!!昨日の今日で、もう二軍にきたぜ!春っち!こりゃ、降谷に追い付くのも時間の問題だな!」

 

「栄純くん、昨日は殆どまともに打たれなかったもんね。俺もそこそこアピールできたし、その息だと思うよ」

 

1年生。沢村 栄純と小湊 春市は昨日の試合の立役者。アピールに成功し、実践訓練が可能となる二軍に昇格したのだ。

 

今日からやっとボールが投げれる。沢村は期待に胸を膨らませ、グラウンドに踏み入れる。

 

「お、やっと来たか」

 

すると、待ち構えたように。半ば呆れたような、聞いたことある声が耳に届いた。

 

「あ、あんたは!!」

 

「『無欠』...」

 

 

 

「さぁ、お前らが最後だぞ。アップしてこい。今日も試合だ」

 

『無欠』愛川 鷹南。その名の通り、何一つとして能力の欠点を持たない、全国トップクラスの選手。

 

「青道高校野球部二軍、一日監督代行の愛川だ。よろしくな」

 

そういって愛川は顎でクイっと、一塁側のベンチを示す。

 

 

「今日の相手はあのチンピラどもだ。勝っていいぞ」

 

 

 

あー、なるほど。遠目にもガラの悪そうな奴らが多い。あ、髭の生えた奴もいる。こりゃチンピラだわ。

 

沢村はぼー、っと乱闘になった際の対処法をイメージしていると、隣の春市が小さく震える。

 

「どうした?春っち?」

 

「あれ、嘘でしょ...

 

 

 

 

青道の一軍レギュラー陣だ!」

 

 

 

 

青道高校、愛川 鷹南のいない一軍レギュラーVSその愛川率いる二軍。

 

平時であれば明確な住み分けがされた、争うことの無い2つの勢力。

 

戦いの火蓋が、今。

 

 

切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

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