妹がいましたが、またさらに妹が増えました。   作:御堂 明久

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何年ぶりでしょうか。はじめましての方ははじめまして、そしてお久しぶりの方は本当に申し訳ない。御堂でございます……!

当時在籍していた高校を落第の危機を迎えながらもなんとか卒業し、今やうっかり入学することが出来た第一志望の大学を卒業せんとする中、日々の生活の忙しさに定期更新を諦めた本作品を久しぶりに見返していたのですが、その際にまだ更新を待ってくださっている方がいるということを知り、かつて書きかけのままボツになった話を加筆修正する形で投稿させていただくことにしました!

どの面下げてというところではありますし、このような形で投稿を再開した私に思うところがある方もいらっしゃるかと存じますが、まだ数話ほど書きかけの話のストックがありますので、せめてそれらの投稿だけは待っていてくださっていた方々へのせめてもの謝意として行おうと思っております。

今回のお話の時系列は最新話からすぐのものとなっております。つまり真冬。季節感あるよな。

長々と失礼しました。それでは、どうぞ!



兄とゲーマーの看病日和

 

 

「おっはよー!」

「あ、(ひいらぎ)さんおはよう」

伊織(いおり)ちゃんおはよー」

「やーやー、皆おはようっ。今日も一日頑張ろうねー♪」

 

 

 冬季休業が明け、肌を突き刺す冷気や吐息の白さから冬の寒さもいよいよ本格的になってきたことを感じさせる時頃。

 柊伊織は特に遅刻したり曲がり角で転校生と衝突したりどこからともなく現れた美少女のスカートの中に顔を突っ込んだりすることもなく、いつものように高校に登校し、いつものように教室に入ってクラスメイトたちと挨拶を交わした。

 そしていつものように自分の席に荷物を置き、また気の抜けた表情で席に着いているであろう、中学からの腐れ縁に当たる少年に挨拶をしようと───。

 

 

「あり?」

 

 

 ───したところで、伊織はいつもの日常との差異に気付く。

 そのことに関して話を聞くため、伊織は近くにいたクラスメイトの一人である男子生徒に問いかけた。

 

 

「クラモトくん、ちょっといい? 祐す⋯⋯もとい、クスノキくんって今日はまだ来てないの?」

(くすのき)か? あー、そういや今日は遅いかもな。いつもならもう登校してきててもおかしくない時間だけど」

「だよねえ。いつもなら面倒くさそうな顔してボクに毒舌飛ばしてきててもおかしくない時間だよねえ」

「いや知らんが。というかそれがいつも通りになってるんなら、楠への態度を改めたらどうだ?」

 

 

 応じてくれた倉本に対して軽く礼をした後に伊織は考え込む。

 そう、彼女の大親友の一人である(要出典)男子生徒、楠祐介(ゆうすけ)がまだ登校してきていないのだ。

 彼は日々を適当に生きている感が半端ではないものの、存外真面目なのは昔から知っている。平素ならば学校へは伊織よりも少し早いくらいの時間に来ているはずなのだが、今日はそんな彼の姿が教室内のどこにも見当たらなかった。

 

 

「もしかして⋯⋯」

「⋯⋯おはよ、伊織ちゃん」

「ひゃふん」

 

 

 と、そこで彼女の背後から小さく声がかけられる。その声に僅かに肩を跳ねさせつつ振り向くと、そこに現れたのは見慣れた美少女フェイス。

 

 

「ち、ちーちゃん。おはよー」

「⋯⋯うん」

 

 

 八雲(やくも)千秋(ちあき)。伊織や祐介のクラスメイトであり、特に伊織とは親友と称し合うほどの仲である。

 クラス内、ひいては学年内でもその端麗な容姿や物腰の柔らかさが人気を呼び、噂では本人非公認ながら彼女のファンクラブが形成されているとか。

 

 ファンクラブ会員は普段その身分を秘匿しているものの、定期的に素顔のまま校内で祐介に襲撃をかけている姿が目撃されるために、かなりの数、会員の顔と名前は割れている。

 千秋と特に仲がいい異性ということで高頻度で襲われる祐介だが、同じく彼女と親しい、学生離れというか人間離れした豪傑、笠原(かさはら)信二(しんじ)への襲撃は稀な点から、弱い者いじめの様相を呈してきている気がしてならない。

 

 ちなみに、容姿だけなら千秋に負けず劣らずの高評価を得ている伊織だが、性格の方のクセが強すぎる上に下手にファンクラブを形成すると彼女の道楽で壊滅させられかねないという理由から、固定ファンはそこそこいるもののファンクラブが出来るまでには至っていないという話を小耳に挟んだことがある。いたく不服である。

 いや、今はそんなことはどうでもいいのだ。

 

 

「そういえばちーちゃん。祐介クンがまだ学校に来てないんだけど、何か知らない?」

「⋯⋯ああ、それは知ってるけど⋯⋯伊織ちゃん、楠くんのこと、名前で呼ぶのはすっかり慣れたみたいだね」

「んー、年越し以来ちょっと心境の変化があってね。一応変に騒がれても困るし、あの時のメンバーの前以外では、今まで通り名字で呼べって祐介クンには言われてるんだけど」

 

 

 ちなみに、伊織が祐介のことを名前で呼ぶようになってからは、彼の方も実に嫌そうに彼女のことを名前で呼ぶようになった。

 そうするよう脅迫したとも言う。祐介の弱味を溜め込んだ秘密のUSBメモリが火を噴くぜ、べいべー!

 

 

「それで、祐介クンは」

「⋯⋯今朝、メッセージが来たんだ。風邪引いて今日は学校休むから、何か連絡事項があったら教えてくれって」

「風邪?」

 

 

 確かに1月も中旬に差し掛かった今、寒さはピークに達しようとしている。風邪を引いてもおかしくない時期ではあるだろう。

 だが、まずそれよりも気になることがある。

 

 

「なんでちーちゃんには連絡があったのに、ボクには無いんだろうね……」

「……あっ」

 

 

 普段つるんでる面子の中では一番付き合い長いのにおかしくない? おかしくなーい? 

 そんな風にブツブツ呟きながら急激に伊織が落ち込み出し、場の空気が非常にいたたまれないものへと遷移していく。

 咄嗟のフォローが浮かばず、どうしたものかと八雲が首を捻り始めたとき、ガラッと音を立てて教室の扉が開かれた。

 

 

「よう、伊織に千秋! おはよう! いい朝だな……と言いたいところだが! 先ほど連絡が来ていて今日は祐介が風邪で学校を休むそうだ! 残念だな!」

「そうなんだカサハラくんにも連絡来てたんだボクには来てないけどね……!」

「……い、いやっ、多分楠くんも風邪でダルくて大人数に連絡する余裕は無かったんだと思うよ⋯⋯! 私と笠原くんが選ばれたのもたまたまで⋯⋯!」

「お? どうした伊織? 風邪か?」

 

 

 結局、朝のHRが始まるまで、千秋は加速度的に落ち込み、いじけ始めた伊織をひたすら慰めることとなった───。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「⋯⋯頭が重い」

 

 

 俺こと楠祐介は、既に始業のベルが鳴っているであろう時刻になっているのにも関わらず、寝間着姿のまま自室のベッドに横たわりつつ息を荒げていた。

 こう聞くと俺が高校をサボった上にいかがわしい行為に及んでいるように聞こえなくもないが、もちろん違う。

 

 

「祐介~? 体温計、どうだった~?」

「ノックくらいしてくれ、お袋。38度3分だってよ」

 

 

 ノックもせず無遠慮に我が子の部屋に侵入してきた母親、楠千歳(ちとせ)に対し、俺は先ほどまでは脇に挟んでおり、今は枕元に置いてあった体温計を彼女に手渡しつつ言った。

 

 

「ん~、昨晩よりちょっと上がってるわね。やっぱり今日がピークかしら〜」

「でも、数値の割には調子良いぜ。少しダルくて咳が出て、たまにお袋の顔が二重に見えるくらいだ」

「寝てなさ~い?」

 

 

 起こしかけた上半身を押し返され、半強制的にベッドに寝かせられる。むう、まるで体に力が入らない。

 現在俺は風邪を引いて、寝込んでいる状況にある。以前、お兄ちゃん争奪戦の際に風邪を引いた演技をしたことがあったが、今回はガチモンである。

 昨日から若干体が重いなーと思い熱を測ってみると、ガッツリ発熱していることが発覚。それなりに高めの熱だったので昨晩は冷却シートを額に貼り早めに就寝したのだが、一日経過したくらいでは完治という訳にはいかなかったようだ。

 

 

「詩音ちゃんも昨日からずっと泣きっ放しで大変だったんだし、悪化だけはさせちゃ駄目よ~?」

「いや、あれは詩音が大袈裟なだけだろ⋯⋯」

 

 

 昨晩、俺の身体が風邪に侵されてしまったことを知った詩音は即座に自らの服をはだけ、いつぞやかのお兄ちゃん争奪戦の際に未遂で終わった『私に感染(うつ)せば万事OK作戦』を決行した。

 半裸+涙目の義妹が頬を赤らめ息を荒らげる兄の体に覆い被さるというとんでもない画が我が家にて展開されたことは記憶に新しい。

 飛鳥と光男(みつお)さんによって俺から引き剥がされた後も、「お兄ちゃんが死んでしまいます」などと言いながら号泣していた。

 ちなみに俺は感染を避けるためにしばらく妹たちとは密着できないことを悟り号泣していた。当然のことである。

 

 

「ちゃんと詩音は学校に行けたのん? あの有様で」

 

「朝までは祐介の看病をするって言って聞かなかったんだけどぉ⋯⋯、光男さんが説得してくれたわぁ~。うふふ~、流石は私のダーリンよねぇ~♡」

 

「息子の前で惚気けるのはやめてくれ⋯⋯」

 

 

 しかしまあ、流石は詩音の実父と言うべきだろうか。意外と頑固な所のある詩音を朝の内に説得し終えるとは、一体どんな方法を用いたのだろうか。

 そんなことをお袋に聞いてみると。

 

 

「そうねぇ~。『祐介くんが風邪などに負けるはずがありません! それに、ここを乗り越えれば後で心配させたお詫びとして、倫理的に際どい要求も聞いてもらえるかもしれませんよ』みたいな感じで説得してたわねぇ~」

 

 

 なんてことを吹き込みやがるあの義父! 

 

 

「風邪が治ったら、頑張ってね~」

「お袋、俺は不治の病を患ってしまったと詩音は伝えておいてくれ。完治した後、俺は今度こそ貞操を奪われかねない」

「それは駄目よぉ。詩音ちゃんはまだ中学生なんだし、ディープキスまでで我慢しておきなさ~い?」

「なあお袋、俺とアンタは血が繋がっているはずなのに、なんでこうまで根本的な考えが違ってくるんだろうな?」

 

 

 ほんわか笑顔で生々しいことを躊躇いなく言ってくるのは本当にやめて欲しいです。

 

 

「病人をこれ以上喋らせるのもいけないし、私はそろそろ仕事に行くわぁ~。何かあったら電話するのよぉ~?」

「ああ⋯⋯。悪い、手を焼かせて」

「息子のためなら何のそのよぉ~♪」

 

 

 そう言うとお袋は、俺の額の冷却シートを新しいものに替え、俺の枕元に冷たい麦茶の入ったストロー付きのコップやタオル、万が一のためのエチケット袋等を置いてから部屋を出ていった。

 昼食の方は食欲があったら冷蔵庫の中にある果物やゼリーなどを食べておけとのこと。

 

 

「昼まで暇になるな⋯⋯」

 

 

 普段から何度か学校を休んで退廃的な生活を送ってみたいという衝動に駆られたことはあるが、風邪を引いて頭に(もや)がかかっている今、ゲームや読書をする気にもなれない。許すまじウィルス。

 と、なれば解答は一つ。

 

 

「寝るか」

 

 

 俺は人間の三大欲求の一つに身を委ねることにした。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 一体どれくらい寝ていたのだろうか。

 寝起き特有の意識の混濁に抗いながらも、俺は自らが目を覚ましたことを自覚した。

 目は半開きで体は未だベッドに吸いついたように動いていないこの状態を起きたと表現して良いかは迷うところだが。

 そんな中、階下から声が聞こえた気がした。

 

 

 ──おんちゃん、ゆう──けくんは──

 

 ──らぎさん。──ちゃんの寝込みを──いに? 

 

 ──違──よ!? 

 

 

 聞こえてくる声は少なくとも二人分。

 我が家が有する二人組といえば詩音と飛鳥だろうが⋯⋯。アイツらが帰ってきているということは、俺は結局夕方の3時くらいまで寝てしまっていたということだろうか。とりあえず水分補給をした方が──。

 

 

「(ガチャッ)おまたせ祐介クン! ボクが看病に来たよ!」

「お兄ちゃん、身体の具合は大丈夫ですか!?」

「うおビックリした! だからノックしろノック、プライバシーって言葉知ってる? ⋯⋯って」

 

 

 突然部屋の扉が開け放たれ、なだれ込むように二つの人影が飛び込んで来た。

 人影の片方は俺の愛する義妹、詩音。そしてもう片方は。

 

 

「伊織!? キサマ何故ここに!」

「だから看病しに来たって言ってるじゃんか! ひどいよ祐介クン、なんでボクには風邪のこと教えてくれなかったのさ!」

「お前に教えると面倒なことになると思ったからに決まってんだろ。八雲とお前とじゃ信頼の度合いが桁違いだ。笠原もまあ、お前と比較すれば常識人」

「ひっでぇ言い草!」

 

 

 柊伊織。実は今回の風邪の原因の一端は、この馬鹿に付き合っていたことによる疲労の蓄積にあるのではないかと密かに思っていたりする。最早俺の中ではウィルスと大差ない、そういう存在だ。

 ……悪いところばかりではないが……。

 

 

「⋯⋯こんにちは、楠くん。具合はどう?」

「おー、祐介。大丈夫かー?」

「ただいまお兄ちゃんっ。果物買って帰ろうと思ったんだけど、途中で伊織さんたちに会ったんだ〜」

 

 

 俺と伊織がいつものようにいがみ合っていると、彼女たちの後に続くように八雲、笠原、飛鳥がぞろぞろと部屋の中に入ってきた。飛鳥は部屋着に着替えていたが、帰宅してから俺の部屋へ直行してきたらしい詩音、そして学校が終わった後そのまま来てくれたのか、伊織と八雲、笠原は制服姿のままである。

 皆、俺の見舞いに来てくれたということなのだろうか。ただの風邪で大袈裟な気もするが、せっかくの好意。無下にしようとは思わないし、素直に嬉しかった。

 なんなら滂沱のように涙が溢れそうになったので上を向いて堪えた。風邪の時は涙腺がユルユルになっちゃうの.

 

 

「ありがとなお前ら。心配かけたみたいで、悪い」

「⋯⋯ううん。大丈夫。とりあえず、今は風邪を治すことに専念しよう?」

「そうだぜ祐介。ほれ、スポーツドリンク持ってきたぞ。風邪の時は水よりコッチの方が良いし、どれもオレのお墨付きだぜ! あとプロテインもある。百薬の長だぞ」

「ん、サンキュ、笠原。プロテインはいらねえ」

「お兄ちゃんが笠原さんにお礼を!? あっ、じゃあ飛鳥はリンゴ剥いてくるから!」

「調理器具に触るな。家を半壊させたいのか、飛鳥」

「皮剥きも駄目なの!?」

 

 

 胸に暖かいものを感じながら、俺は常識人三人とそんなやり取りを交わしていく。

 友達っていいなあ⋯⋯家族っていいなあ⋯⋯。

 

 

「し、詩音ちゃん。ボクたち、完全に蚊帳の外だよ⋯⋯!?」

「ぐすっ。柊さんはまだ良いじゃないですか。私なんて柊さんのインパクトが強すぎたのか、ほとんど声もかけてもらえませんでしたよ⋯⋯」

 

 

 部屋の隅で二人が仄暗いオーラを纏っているのが分かる。心配してくれて嬉しいのは確かなんだけど、ぶっちゃけ今の体力でコイツらと本格的に絡むと死にそうなんですよね。

 だが、伊織はともかくとして詩音があんな寂しそうにしているのは兄として見過ごせない。直接的な原因は他でもない俺にあるというのは一旦措いておくとして、とにかく見過ごせないのだ。

 

 

「えっと、詩音? と、ついでに伊織」

「「はいっ!」」

「ひえっ。⋯⋯あー、実は俺、朝から今までずっと寝てたんだよ。だから少し腹が減っているというか。食欲も大分戻ってきたし、果物やゼリーだけじゃあ物足りな」

「「お粥作ってきます!」」

「あ、よろしくお願いします」

 

 

 俺の長ったらしい台詞を遮るように二人が部屋の扉を開いて我先にと階下へ降りて行った。そんなに慌てて、階段から転げ落ちても知らんぞ⋯⋯。

 

ドタドタドタ

ガッ

ドガガガガ!!!

 

えっこれマジで転落してない?

 

 

「⋯⋯なんか心配だから飛鳥も下に行くね。り、料理は出来なくても、監督くらいは出来るからねっ!」

「んじゃオレも。ゆっくり寝てろよ、祐介」

「ん、ああ」

 

 

 そしてその二人に続くように飛鳥も笠原も階下へと向かった。丁度アイツらがここに入って来た時と同じような流れだ。ただ一つさっきと違うのは。

 

 

「八雲は行かないのか?」

「⋯⋯楠くんが一人だと暇になるじゃないかなー、と思いまして。⋯⋯迷惑だった?」

「いや。確かに一人でただ待つってのは退屈だな」

「⋯⋯じゃあ、私は楠くん係で」

「やったぜ、学校一の美少女を独り占めだ!」

「⋯⋯か、からかわないで」

 

 

 八雲千秋は部屋に残り、俺が横たわるベッドの側面に背中を合わせるように腰を下ろしていた。俺の戯言も真面目に受け取ったらしい彼女は頬を桜色に染めてぺしぺしと平手で俺が(くる)まっている布団を叩いてくる。

 

「⋯⋯さ、さて。何しようか、楠くん。それとも、もう一眠りしたい?」

「流石に今は目が冴えてる。つっても、八雲には悪いが今はゲームをして楽しめるような体調でもないしなあ⋯⋯とりあえず何か話すか。っと、あんま俺の方に近付くと感染るかもだぞ」

「⋯⋯大丈夫。それより、何かって?」

「今日学校であったこととか、あとは千春ちゃんのこととか?」

「⋯⋯⋯⋯あー⋯⋯」

 

 

 俺と八雲の共通の話題の一つに挙げられるのは、彼女の妹である八雲千春(ちはる)ちゃんについてのことである。

 千春ちゃんとはクリスマス会の時以来(厳密には夏祭りの際にも会っているが、アレは色々と特殊なので除外)会っていないが⋯⋯。

 

 

「⋯⋯あの子については最近分からないことが多くて。黒魔術の研究がマイブームだとか何とか」

「危ない世界に片足突っ込むどころか、全力でダイブしてんじゃねぇか」

 

 

 しかも分からないって、あなた肉親でしょ⋯⋯。

 思ってた以上に千春ちゃんが黒すぎてヤバい。何がヤバいってマジヤバい。松崎しげるとか目じゃないくらい真っ黒だ。

 

 

「ていうか、止めて下さいよ姉様。千春ちゃんの研究成果とやらの標的になるのは間違いなく俺らだぞ」

「⋯⋯そ、それは分かってるんだけど。実際に事に及ぶまでは自由にさせてあげたいなって⋯⋯」

「妹に激甘かよ。時には厳しくしないと妹のためにならないぞ」

「⋯⋯それをシスコン楠くんに言われると、そこはかとなくショックだね。ドシスコンの楠くんに言われると」

「何度も言ってるけど俺はシスコンじゃねぇからな」

 

 

 あくまで家族愛が強いだけでシスコンではない。

 補足説明をさせて頂くと、千春ちゃんは自らの姉である八雲と何故かこの俺、楠祐介をくっつけようとしている。もちろん物理的な意味で密着させてやろうと企んでいる訳ではなく、恋愛的な意味で。

 それだけならまだ、子供ながらに姉の幸せを願う妹の可愛い行動として見ることも出来るんだが⋯⋯それに至らせようとする手段が、ね? 法とか人の道から外れるのはどうかと思うんですよね。

 

 

「八雲はまだ、恋愛への興味とかは無いのか」

「⋯⋯うーん。そこまで積極的には⋯⋯」

 

 

 千春ちゃんがそんな行動に出たそもそもの原因として、現在の八雲が恋愛に全くと言っていいほど関心を持たず、絶対の趣味であるゲームに首ったけであるからというモノが挙げられる。

 千春ちゃんはそんな姉のあまりののめり込みっぷりを見て、「もしや姉は将来誰とも恋愛をせずゲームと結婚する気なのではないか?」という危機感を抱き、強行手段としてクスリや黒魔術の研究に勤しむようになってしまったのだ。いや、それにしたってぶっ飛び過ぎだろ。ロケットエンジン搭載してます? 

 俺がそんなことを考えていると、八雲が。

 

 

「⋯⋯まあ、進歩はあったんじゃないかな」

「進歩?」

「⋯⋯うん。恋愛ゲームの平均クリアタイムが30分くらい縮まったよ」

「千春ちゃんはそれを進歩と認めないと思う」

 

 

 それは恋愛経験豊富な人ではなく、ただのゲームが上手い人への一歩だ。

 私は成し遂げたのだと言わんばかりに誇らしげな顔で胸を張る八雲に強くは言えないが、千春ちゃんの攻勢は今後も変わらず続きそうだった。誰も幸せにならない……。

 

 

「ま、頑張ってくれ。応援くらいはするよ」

「⋯⋯んー」

 

 

 八雲の恋愛成就は俺の身の安全にも繋がる訳だしね。

 俺がそんな意を込めた言葉を八雲に贈ると、彼女は困ったような、されど慈しむようにへにゃりと柔らかく微笑んだ。

 

 

「⋯⋯なんだかんだ可愛い妹なんだけど、こればかりはねえ。……いっそのこと、本当に付き合ってみる?」

「勘弁してくれ。緊張のあまり心臓が爆発する」

 

 

 冗談めかして言ってみたが割とマジで爆発するかもしれない。異性として魅力的どころか神格化されそうなレベルで可愛い八雲と付き合った場合、俺は自らの狼化を防ぐために日々精神をすり減らしていくことになるだろう。

 そして精神の病みっぷりが頂点に達した俺の心臓は、その負荷に耐え切れずBOMB!!! 

 

 いやねえよ。なんだこの妄想。

 

 

「⋯⋯ぶぅ」

「あ、いや、別に八雲さんと付き合うのが嫌だって言ってる訳じゃなくてですね? そういうのはもっと心の準備ってのが必要になってくるっていうか」

 

 

 あまりに即座に突っぱねてしまったせいか、若干拗ねたような表情になった八雲を宥めるためにそんな言葉を矢継ぎ早に繰り出していく俺。風邪引いてるっつってんのに、何してんだ俺は⋯⋯。

 と、そこで拗ねつつも俺に視線を向けていたらしい八雲が、俺の方を見たまま少し驚いたように肩を弾ませた。どうしたんだろう、俺の背後に霊でも見えたのかな。千春ちゃんからの黒魔術(スタンド)攻撃は既に始まっていた……!? 

 

 

「⋯⋯楠くん、パジャマが汗でびっしょりだよ。着替えなきゃ⋯⋯」

「あ? おお、言われてみると」

 

 

 風邪なんだし当たり前と言えば当たり前なんだが、指摘されて気付くと中々に不快。汗で寝巻きが肌に張り付く上に、汗が乾けば症状の悪化にも繋がりかねない。適当に汗を拭いて着替えるのがいいだろう。

 

 

「んじゃ、濡れタオル取ってくるか」

「⋯⋯あ。待って」

 

 

 そんな訳で俺が階下へとタオルを取りに行こうとベッドを降りかけると、慌てた様子の八雲に肩を押さえられた。やだ、まさかこのタイミングで押し倒してくるんですか! そんな急に襲って来るものなんですか! 天井の木目数えなきゃ。

 などとアホな考えが一瞬脳内に浮かんだが、もちろん八雲にそんな気は無い。彼女は軽く頬を膨らませ。

 

 

「⋯⋯楠くん、病人。安静にしてないと、だめ」

 

 

 一言一言を区切り、わんぱくな子供に言い聞かせるように指を立てる八雲。

 千春ちゃんで慣れているのだろうか、その姿に妙な大人っぽさ、もとい姉っぽさを感じて思わず口を噤む。

 

 

「⋯⋯私、着替えとタオル取ってくるよ。後で私も手伝ってあげるから⋯⋯ちゃんと寝ててね」

 

 

 俺が再度口を開く前に八雲は部屋を出ていってしまう。まあ、少々心苦しくもないがここは甘えさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯手伝う? 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 八雲千秋は祐介の着替えとタオルの調達のために一旦彼の部屋から退出し、階段で下の階へと降りて行く。

 ⋯⋯異性の部屋に入ったのは初めての経験だった。

 クリーム色に統一された色調。祐介の体格に合った、自分のモノよりも大きめのベッド。タイトル名や文庫かハードカバーかなど、細かく種類ごとに揃えられた几帳面さが垣間見える本棚。この家自体にはよく訪れるものの、専らリビングを溜まり場にしていたため、なんだか新鮮だった。

 と、そこでタオルがある脱衣場に赴く際にリビングを通りかかった千秋は、飛鳥と信二の二人と遭遇した。二人でキッチンでひたすらに調理を続けている伊織と詩音を監督しているらしい。

 二人は千秋に気付くと、揃って人懐っこそうな笑顔を浮かべつつ話しかけてくる。

 

 

「おー、千秋。お前も降りてきたのか」

「千秋さんっ。お兄ちゃんの様子はどうでしたか?」

「⋯⋯体調自体は落ち着いてるみたい。でも、寝てる間に汗かいちゃってたみたいだから、着替えとタオルを持っていってあげようかなって」

「なるほど」

 

 

 こくりと頷いた飛鳥は、手際よく祐介の着替えがある場所を示してくれた。タオルはともかく着替えの位置はさっぱりだったのでありがたい。

 

 

「それと⋯⋯さ、流石に同級生の男子の下着を運ぶのは抵抗あるでしょうし。飛鳥が持っていきますね?」

「⋯⋯大丈夫」

「えっ」

「⋯⋯私、そういうのはあまり気にしないタイプだから。大丈夫、だよ?」

「お兄ちゃんの方は中々の羞恥プレイな気もしますけど⋯⋯。い、いや、八雲さんなら大丈夫ですよね! 信頼してます、お願いします!」

 

 

 何を信頼してくれたのかはイマイチ測りかねたが、とにかく任せてもらえたらしい。

 以前のクリスマス会の手伝い以前から、祐介には世話になっている。鈍臭い自分だけれど、こういう時こそしっかりと彼の力になりたいというのが千秋の本音だった。

 ⋯⋯そういえば、飛鳥と信二が監視していた伊織と詩音の料理の方はどうなったのだろう。千秋はタオル等を取りに行く前に、ひょこっと顔を出してキッチンを覗き込んだ。

 そこでは件の二人が調理器具を握りながら向かい合っていて。

 

 

「完全に完璧に全璧に美味です! これぞ至上のお粥、柊さんの出る幕はありませんね!」

「なにおう!? じゃーなにさ! 詩音ちゃんのお粥の方がボクのお粥より美味しいって(のたま)うの!?」

「ふっ、無論です。なんならお互いに食べて比較してみますか?」

「じょーとーだよ。絶対ボクの方が美味しいもん」

 

 

 〜 互いが作ったお粥を交換、試食中 〜

 

 

「「うまい! もう一杯!」」

 

 

 お粥を完食し、満足そうに空になった皿を机に置いて催促する二人。

 二人で一つのお粥を作ればいいのにとか、なぜ祐介にあげるはずのお粥を二人が食べてしまっているのだろうだとか、そういう疑問は全て胸の奥にしまっておいた。

 

 ただお粥を作って欲しいと言われただけなのに、なぜお互いの作った料理を凄絶にディスり合った上の食べ比べなどに発展するのだろうか。

 まあ、あの二人は自分たちの中でも一際思考回路が異質なのだ。そこが彼女たちの魅力なのだけれど、今は気にしたって仕方がない。

 若干失礼なことを考えつつ、必要なものを抱えた千秋はキッチンを後にした。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「⋯⋯服を脱いでください」

「い、嫌です」

 

 

 八雲がありがたくも俺の着替えと汗拭き用の濡れタオルを持って来てくれてからわずか数分後。

 俺は芋虫のように毛布にくるまりながら、奪衣婆(だつえば)がごとく俺の寝間着を剥ぎ取らんとする彼女から可能な限り距離をとり、警戒心を顕にしていた。

 

 

「いやマジで一人で出来るから。異性の同級生に半裸見せて体拭いてもらって着替えさせてもらうとかどんな羞恥プレイだよ、いくら払えば良いんですか? というか笠原呼んできてくれよ!」

「⋯⋯笠原くんは監督で忙しいみたいだし、そもそも私は気にしない。……病人が我儘(わがまま)言わないの」

「俺が気にするんですぅ! あと、ちょっとボーッとするけど体は動くから!」

「⋯⋯何本?」

「え、指の数? 12本」

「⋯⋯正解は4本。ダウト」

「うひっ!?」

 

 

 突然手の指を立て問いかけてきた八雲に対して俺が回答を返すと、彼女は不満げに頬を膨らませ、瞬く間に俺から毛布を剥ぎ取り、そのまま流れるように俺の寝間着の上半身を脱がせた。

 薄く抵抗を試みたものの、風邪で弱った体では大した力も出せず、八雲の華奢な腕さえも払い除けることは叶わない。いや……! 見ないで⋯⋯、こんな私を見ないで⋯⋯! 

 

 八雲が純粋に俺を気遣ってこのような行動に出ているということは重々承知しているのだが、いい歳こいて母親に身の回りの世話を全部されるような、そんな気恥ずかしさとむず痒さを八雲相手には感じてしまうのだ。

 これが飛鳥や詩音相手なら遠慮なく頼るだろうし、伊織や笠原ならば病人であることを殊更にアピールしてこき使っていただろうが。こいつ最低ですよ! 俺だよ。

 

 

「……暴れるとまた悪化するから、安静にして。……しないと、怒る」

「わかり、ました……」

 

 

 しかしこれ以上抵抗したところで勝機はないし、八雲の言う通りこれ以上風邪を悪化させたいわけでももちろんない。

 俺は葛藤の末に渋々八雲の言葉に従い、濡れタオルで汗ばんだ身体を拭いてもらうことにした。

 

 しかし、真正面で向かい合って身体を拭かれるのは俺のいたたまれなさが許容限界を越えそうだったので、八雲にはベッドの上に乗ってもらい、俺の背後から身体を拭いてもらう形にしてもらった。

 

 

「……背中から拭くね」

「はい……」

 

 

 ぽそりと耳元に背後から囁いてくる八雲の言葉通り、まずは背中から濡れタオルが這い、一定の感覚でそれが上下左右に動かされていく。男女のこういう看病イベントは創作物でも散見されるが、まさか俺が拭かれる側で体験するとは思わなかった。

 

 

「……祐介くん、割と筋肉あるね。伊織ちゃんよりも力ないのに」

「アイツと比べるんじゃあないよ。アイツが出鱈目なのはわかってるけど、いつぞやかの昼休みに教室でやった腕相撲で負けたときはちょっとショックだったんだから……」

 

 

 俺と伊織、笠原と八雲の四つ巴で突発的に開催された腕相撲大会だったが、笠原がブッチギリの一位で八雲が最下位というのは大方の予想通りだったが、なんだかんだ純粋な腕力勝負ならそれなりに競えるのではないかと考えていた伊織に圧敗したのは結構な心の傷である。

 あとアイツの、人間ってここまで勝ち誇れるの? ってくらいのドヤ顔が非常に腹立たしかったので、脳裏に焼きついている。

 

 

「……ふふ。でも、うん……、男の子って感じの、背中」

 

 

 愉快そうに笑いながらそう漏らす八雲。

 タオル越しの彼女の細い指の感触が強まった気がして、少しくすぐったくなった。

 

 

「……よし、背中終わり。次は右腕」

 

 

 ぐいと腕を上げられ、肩から手首の方へ伝うように拭かれる。

 常に八雲の手つきは優しく、万が一にも俺の負担にならないようにと細心の注意を払ってくれているのだとわかる。実際に気持ち良いし、先ほどまで大人気なく駄々をこねていた自分が恥ずかしくなってくるほどだ。

 俺だってもう高校生なのだ。ここは大人の余裕を持ち、身を委ねることとしよう。

 

 右腕の次は左腕。

 左腕の次は首元。

 胸元。

 脇腹。

 お腹。

 

 

「……じゃあ次は下半身だね。パンツ脱いで」

「ふざけんなバカ!」

 

 

 なにが大人の余裕だバカ! 

 

 

「……私は気にしないから」

「気にして! 年頃の女の子だからそこは気にして! お前そんなんだから千春ちゃんにあーだこーだ言われるんだぞ!」

「……心外。私だって……」

 

 

 なにやら言いかけながらも、するりと背後から寝間着のズボンを下ろし、俺の下着の方へと手を回してくる八雲に、先ほどとは比較にならないほどに強固な抵抗を試みる。これクリスマス会の時もやっただろうが! もういいよ! 

 俺の羞恥心的にも法的にも下着(ここ)は最終防衛ラインだ。何があろうと突破される訳にはいかない。

 しかし、例によって体力の落ちた俺と元々華奢で膂力に乏しい八雲とでは拮抗したまま膠着状態となる。

 静かな自室の中で、終わりの見えない戦いが続く。

 

 が、しかし。

 

 

「……へぷちっ」

 

 

 闘いの中で埃でも舞ったのか、唐突に八雲が小さくクシャミをし、下着にかけられていた手の力が微かに緩む。

 

 ───好機!! 

 

 即座に俺は八雲の手を払い除け、そのまま彼女の動きを封じるために振り返って身体ごと押し倒し、両手をベッドに押しつけるようにして拘束した。

 

 

「……あっ……」

「ぜぇ、ぜぇ……。あのなぁ、いくらお前が気にしないからって、こういうのはマジでやめとけ、って……」

 

 

 そこで気づく。

 

 

「……あぅ」

 

 

 俺が半裸でいようと、その上で汗を拭くことになろうと気にしないと連呼していた八雲の顔が、熟れたトマトのように紅潮していることに。

 八雲の吐息は熱っぽく、制服越しからも胸が大きく上下していることがわかる。俺と視線が交わりながらもそれを遮る手が抑えられているせいか、困ったように視線を逸らした。

 

 

「やっぱりお前も恥ずかしかったんじゃねえか。どうしてあんな強引に」

「……だ、だって、私も楠くんの役に立ちたかったし。……友達から体調崩して学校休むって連絡されたら、心配するのは当たり前じゃん」

「…………」

 

 

 それはそうかもしれんが。

 

 

「それにしたって強引だっつってんの。伊織と笠原を見ろよ。笠原は落ち着いてるし、伊織だって騒がしくしちゃいるが、素直に俺の頼みを聞いて下に降りて飯作ってくれてんだろ」

「……うん……」

 

 

 いざ見舞いに赴き病床に伏していた俺の姿を見て、自分も何かしなければならないといった焦燥感に囚われてしまったといったところだろうか。

 

 友達としてここまで俺の身を案じてくれたことには感謝したいところだが、友達には友達なりの適切な距離感というものがある。伊織や笠原は普段その距離感がぶっ壊れてるんじゃねえかと思うが、今回のような有事の際にはそれなりに弁えるようだった。

 かといって、今回の八雲が全面的に悪いというわけではない。繰り返すように有難い点もあるにはあったわけだし。

 

 まあ、とどのつまり。

 

 

「もうちょっと適当でいいんだよ。友達同士なんだから」

「……ん……」

 

 

 しかし八雲は何事にもさほど動じない、おっとりマイペースな性格だと思っていたが、案外心配性な部分もあったものだと少々おかしくなり、意地の悪い笑みが漏れる。

 それを見て、八雲はぷうっと不満げに頬を膨らませる。

 

 

「……なんで笑ってるの」

「いや、悪い。とにかく、下半身は自分で拭くから八雲は詩音たちの様子を見に行ってくれよ。しっかり者のお前が見てくれるなら安心できるから」

「……ん。わかった」

「じゃあ手ぇどかすぞ。病人に無理させやがって……」

 

 

 なんだかんだ納得してくれた様子の八雲に安堵しながら、未だ俺に両手を抑えられ、ベッドに押し倒されている状態にある彼女を解放してやろうと手の力を緩める。

 まったく、こんな場を誰かに見られたら誤解されてしまうところ「(ガチャッ)すみません遅くなりましたお兄ちゃぁああああああ──────っっっ!?!?!?」もはやこれまで。

 

 

「いや詩音、これは」

「お、おおおお兄ちゃん! 食欲が戻ったってそういうことだったのですか!? 女を存分に食い散らかしてやりてえぜ的な意味だったのですか!?」

「うわーっ! 祐介クンがほぼ裸みたいな格好でちーちゃんのこと押し倒してる! エロだ! エロすけクンだ!」

「お兄ちゃん、後で家族会議だからね?」

「祐介! オレたち部屋からしばらく出て行った方がいいか!?」

「出て行かなくていい出て行かなくていい! おい八雲、お前からも説明してくれ!」

 

 

 強い振動や衝撃を受けた上で開封されて噴き出した炭酸飲料みたいな勢いで騒ぎ出す4名を宥めようするも、半裸で息を荒らげる今の俺の格好にはまったく説得力がない。

 ここは俺ではなく八雲からの詳細な説明が必須だと、拘束が解かれて俺のベッドの上にちょこんと腰掛けたままでいた八雲に助けを求めた。頼む、この事態を収集してくれ───! 

 

 

「……まあ、なんか、色々あったよ」

「適当でいいとは言ったがそこの説明は適当にするんじゃねえよ!」

 

 

 曖昧な返答は混迷極まる現状にさらなる油を注ぐ。

 その後俺は重い体を引きずるようにして、慌てふためく4名に対して事の一部始終の説明に長時間を費すこととなり、健やかに病状を悪化させるまでに至ったとさ。

 

 見舞いに来たんじゃねえのかお前らは。

 

 





いかがでしたか?

久しぶりに書いた祐介たちは、やはり昔書いた彼らとは毛色が変わっているような感覚があります。語彙力と文章力は大して上がってないけど。
妹モノの小説なのに久しぶりに投稿した話が友人キャラへのスポット話という、あんまりといえばあんまりなものなので、飛鳥と詩音がメインのお話も投稿したいですね。

それでは今回はこの辺で。ありがとうございました!
それと、本当に申し訳ありませんでした!!

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