内容は……お分かりですよね?
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とある一匹の妖怪の能力によって起きた幻想郷、外の世界の存在が一部を除いて消滅するという恐ろしく大規模な異変のことである。この異変の恐ろしいところは、博麗の巫女である博麗 霊夢と幻想郷の賢者、八雲 紫の二人を除いた存在が異変を異変だと認識できなかったところにある。
しかしその異変は既に解決しており、この異変の詳細を知る者は上記の二人と閻魔大王の四季映姫・ヤマザナドゥの三人のみである。世界と幻想郷には再び生命が溢れ、依然と変わらない日々が訪れている。
そしてこれから紡がれていくお話は……新たに始まる、ほのぼのとした……ありふれた日常のお話。
さあ、再び日常を語ろう。
「~♪」
幻想郷の中にある人里の門の前に、機嫌の良さそうに鼻歌を歌いながら現れたのは1人の少年。しかし、その少年は人に非ず。
綺麗な首までの長さの青い髪、青というより“蒼”と言うべき瞳。そして頭から生えている髪色と同色の獣の耳。顔の横に人間の耳はなく、お尻からは獣耳と同じ毛色の獣の尻尾が生えている。
彼は妖獣。子狐の妖怪。その背には彼の体には少し大きい網籠を背負っており、中には山の幸が沢山入っている。
門の前に立つ門番の男性は彼の姿を見ると人の良さそうな笑みを浮かべ、彼に里の中に入るように促す。それに従った妖怪は里に入り、目的の場所を目指す。その道中に、妖怪にとって見慣れた少女の姿があった。
腋がむき出しになり、下がロングスカートになっている明らかに一般の物とは違う紅白の巫女服。長く艶のある黒髪を頭の後ろで縛っている大きなリボンが特徴の少女は妖怪の姿を見て笑みを浮かべ、妖怪も嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「おはよう、
「おはよーれいむ♪」
子狐の妖怪氷狐。少しだけ成長し、少しだけ会話できるようになりました。
「いらっしゃい子狐ちゃん、巫女様」
「あーうー♪」
2人がやってきたのは、人里にある八百屋。この八百屋が氷狐の目的の場所である。彼は毎日のように山から山菜やら果物やらを採ってはこの店で売っているのだ。それは、彼の“在り方”が変わっても変わらない日常の一つ。
採ってきた山の幸を売買する彼を見ながら巫女服の少女、霊夢は以前起きた異変“無想異変”のことを思い出す。
“純粋な想いが全てを無くした異変”。その異変の犯人は、目の前にいる氷狐である。“
その彼が今こうして存在しているのは、彼がもう一つの能力を持っていたからである。
“愛し愛される程度の能力”
お互いの心にちょっとした切欠を与えるという小さな効果の能力。その切欠が好意として育っていくのかは、お互いの接し方次第という能力。彼の体はこの能力にとって適切な体に変化し、その在り方を変えることでこうして存在しているのだ。
故に、彼がもう無邪気に神の如き力を振るうこともないし、その能力が切欠で厄介事に巻き込まれることもない。それでも巻き込まれるとすれば、それはもはや逃れられない運命なのだろう。
「れいむ?」
「っと、もう終わったの? 氷狐」
「うー♪ だんごー」
「はいはい、それじゃあ行きましょうか」
「うー♪」
不意に、霊夢の袖が引かれた。引いたのは当然というか氷狐。八百屋で採ってきたものを売り、お金を得たら甘味処というのが一日の彼女たちのサイクルである。
そうして甘味処に着き、2人はみたらし団子と3色団子を一本ずつ頼む。この注文も既にお約束となり、店員は馴れたように2人の下へと2種類の団子を運ぶ。そして2人がみたらしを掴んで口に運んだ瞬間、もう1つのお約束が“やってきた”。
「いただき」
「あっ! まりさ!」
氷狐が手にしていない3色団子をひょいと盗ったのは黒い三角帽子に黒い服の上から白いエプロンを着け、団子を持っていない手で箒を持っている魔法使いですよーと公言しているかのような服装の霧雨 魔理沙。
この白黒魔法使い、とにかく手癖が悪い。こうして氷狐から団子やら甘味やらを盗った回数は1年を日に置き換えても足りないほどである。
「うー! うー!!」
「いいじゃん一本くらい」
「駄目に決まってんだろ白黒!!」
「おっと、甘いぜ霊夢!」
怒る氷狐に反省もせずに笑う魔理沙、仇を取るかのように拳を振るう霊夢に、馴れたかのように避ける魔理沙。毎回攻撃を受けているだけあって、いい加減馴れてきたようだ。
しかし、魔理沙がこの甘味所の前から無傷で帰れたことは、一度もない。
「まりさ……ばかー!!」
幽香直伝「ますたあすぱあく」
「ちょ、いつの間にそんなああああ!?」
氷狐が掲げた1枚の札が発光し、そこから放たれたのは魔理沙と同じくらいの大きさのビーム。幽香とは幻想郷最強の一角であり、フラワーマスターの異名を持つ風見 幽香のことである。
無想異変前までは小妖怪程度の妖力しか持っていなかった氷狐だが、異変以降は少しずつ、時が経つにつれて強くなってきているのだ。いや、本来あるべき強さになろうとしている、といったところだろうか。今では中級妖怪程度の力をつけている。
氷狐、順調に成長中である。魔理沙はその犠牲となったのだ。
「くー……すー……」
あれから2人は霊夢の住処である博麗神社に来ていた。今は神社の後ろにある居住スペースの縁側でのんびりとしている。氷狐に至っては霊夢の膝の上に頭を乗っけてお昼寝中である。
春特有のぽかぽかとした陽気が眠気を誘うが、霊夢は眠るのは勿体ないと眠気に抗い、氷狐の髪を撫でて触り心地を楽しむ。
時間がゆっくりと流れているかのような錯覚……それほどに心地よく静かな時間の中で、霊夢は成長した氷狐に目を向ける。
今まで自身の胸くらいまでだった背丈は、いつの間にか肩ほどまで伸びている。髪も心なしか伸びた気がする。今の見た目で年齢を図るなら、おおよそ9歳ほどといったところだろうか。まだまだ幼さが残るが、いずれは大人の姿となるだろう。
こうして愛らしい姿が見れなくなるのは悲しいが、霊夢にとっては成長してくれた方がありがたい。
そう、博麗 霊夢は、子狐の妖怪の氷狐に恋をしている。初恋は実らないと誰かが言ったが、あらゆるものから浮いている霊夢は思う。そんな迷信からも浮いてやると。
「ん~……」
「……ふふっ」
不意に、撫でていた手が氷狐に握られた。子供特有の体温の高さゆえか、それとも春の陽気のせいかは知らないが温かかった。手のひらも、心も、思わず笑みが零れてしまうほどに。
そのままゆっくりと流れる時間に身を委ね、何をするでもなく霊夢は過ごす。涼やかなそよ風に髪を撫でられ、温かな日の光に眠気を誘われ、次第に瞼を閉じていく。膝枕をしていた氷狐を起こさぬように動かし、その隣に横たわって彼を抱きしめる。
ああ、お日さまのにおいがする。そんなことを思いながら、霊夢は幸せそうな表情で眠りに落ちていった。
高き天空から、退屈そうな声がした。
眠る2人を、全く気配を感じさせずにじっと見ている妖怪がいた。
魔界という場所で、かつて人妖の平等を願った僧侶が封印されていた。
かつて人の身捨て、戸解仙なって不老不死を目指した聖人がいた。
それを知る者は一部を除いておらず、いずれ来る未来を知る者は1人としていない。
これから紡がれていく物語は、ほのぼのとして、ほんの少しだけ危険で……それでいて優しい物語。このお話は、その序章に過ぎない。
さあ、再び物語を綴ろう。これは、少しだけ成長した彼と少女たちが愛し、愛される。
ただ……それだけのお話。
プロローグ的なお話なので文字数は少ないです。
ちょっぴり成長した氷狐くん。ほのぼの路線は変わらない。