これは、読者方の脳内で四コマを思い描きながら読んで欲しいと思ったり思わなかったり、是非ともこの話を元にして四コマを描いてどこかにアップして欲しいと思ったり思わなかったりしながら書いた子狐幻想記の短編である。
―とある素敵な巫女の憂鬱―
「……はぁ」
とある日の朝、楽園の素敵な巫女である博麗 霊夢は居間にて空になった湯飲みを手に溜め息を一つ吐いた。
かと思えば開いた障子の向こう側に見える青空に顔を向け、空をジッと見つめる。チチチ……と小鳥たちの鳴き声が聞こえ、チリーンとなる風鈴が実に涼やかな雰囲気を醸し出している。のんびり、ほのぼのと過ごせるなら1、2を争う程に過ごしたい空間であろう。
「……はぁ」
そんな空間と時間の中にいるにもかかわらず霊夢はテーブルに伏せ、再び溜め息を一つ。
そして、一言だけ呟く。
「氷狐に会えない時間が死ぬほど辛い……」
いつもより早く、どこかでカラスが鳴いた。
―子供の泣き顔も三度まで―
「頂き!」
「やー! うーあーうー!!」
一日目、いつものごとく甘味処で団子を食べている氷狐の下にやってきた霧雨 魔理沙は、これまたいつものごとく団子を氷狐から取り上げて口にした。どこからか飛んできた霊弾に断罪されるまで、後数秒。
「貰うぜ」
「まりさ! あーうー!!」
二日目、先日の霊弾で立ち止まって貰(うば)うのは危険と判断したのか、魔理沙は箒に跨がりながら素早く氷狐から団子を貰(と)っていった。
みるみるうちに離れていく魔理沙だが、当然ながらその背後からは母の愛(だんまく)が迫っていた。
「いただ……氷狐?」
「……」
三日目、既に氷狐から奪っていた団子を口にしようとしていた魔理沙だったが、最初と二日目と違って無言な氷狐を不思議に思ったのか顔をそちらに向ける。よく見れば、彼は小刻みに震えていた。
次の瞬間、呆けた表情の魔理沙を小さな影が覆い隠した。
その影の正体が何だったのか……それは、彼女自身しか知らない。
―策士な妹様―
「ふむふむ……」
その小さな体には不釣り合いなほど大きな本を手に、フランドール・スカーレットは真剣な表情で数回頷く。
「うーん……」
本を読むというよりは読みながら何か考え事をしていたのか、今度は唸りながら首を傾げる。しかしその視線が本から外れることはない。
やがて考えが纏まったのか「よしっ」と一言呟き、フランはパタンと本を閉じた。
そして、座っていた椅子から立ち上がり、この一言。
「次は氷狐と○○をして○○を切欠に○○を迫るぞー!!」
○○の内容は各自好き勝手に御想像下さい。尚、本のタイトルは……。
“愛憎と肉欲の宴”。
―鶴ならぬ狐の一声―
「なぁ氷狐」
「う? なぁに? らん」
とある日の昼下がり、洗濯物が入った洗濯カゴを持った氷狐を同じく洗濯カゴを持った八雲 藍が呼び止めた。名前を呼ばれた氷狐はピクッと耳を跳ねさせて立ち止まり、首だけ後ろに振り返る。
立ち止まった氷狐に近付いた藍は顔を近付け、洗濯カゴを置いて彼の前で両手を合わせる。
「少し頼まれてくれないか?」
「う?」
「ゆかりー」
「あら氷狐。何か藍に頼まれたのかしら?」
少しして、氷狐がやってきたのは藍の主であり、“現”氷狐の保護者である八雲 紫の部屋。
何か書いていたのか、札と筆を持っていた紫は部屋に入ってきた彼に顔を向けた。
そんな彼女に、彼は藍に頼まれたことを果たす為に近付き、無邪気な笑顔を浮かべながら言った。
「はたらけにーと!」
「!?」
後日、幻想郷の結界維持と妖怪達への食料の補給などに勤しむ賢者の姿を従者が見かけたそうな。
―バカと天才は……―
「あら?」
その日、置き薬の集金の為に空を飛びながら人里に向かって八意 永琳は、その道中で幾つもの丸い光を見かけた。
それは、この幻想郷においては特に珍しくもなくなってきた勝負であり、遊びである“スペルカードルール”、別名弾幕ごっこの特徴的な光だった。
(あれは……氷狐と氷精?)
スペルカードルールを行っているのは、氷狐とチルノの2体。遠巻きに見ている永琳には正確な戦況を把握すること出来ないが、なかなかいい勝負をしていると思った。
(そういえば、氷狐と遊んだことってあんまりないわね……そうだわ!)
2人の姿を羨ましげに見ていた永琳の天才的頭脳が、どうすれば自分と彼が遊べるのかを考え始める。
そして、その天才的頭脳が答えを出した。
「私があの氷精になればいいじゃない!」
天才の発想とは、常人には理解し難いモノなのである。
尚、しばらくの間幻想郷では、普段の氷精とえらく頭のいい氷精の2種類が見かけられたそうな。
―未だに続いていたりする―
「うーん……」
藤原 妹紅は悩んでいた。その悩みとは、自身の理解者であり、大事な友である上白沢 慧音のことである。
慧音と言えば、人里で寺小屋にて子供達相手に教鞭を振るい、里の住人たちからの信頼も厚く、その実力も“守護者”と呼ばれるほど。
「……やっぱり言うべきか? でもなぁ、慧音は真剣だし……」
焼き鳥屋の仕込みをしながら、尚も妹紅は考える。その内容は未だ彼女の口からは発されていないが、口振りから何かを慧音に言うべきか否かを悩んでいるようだ。
「よし、言うべきだな。今日はしっかりと分からせないと……それが慧音の為だ」
やがて、言うべきだと考えた妹紅は決意を形にするかのように両手に串を持ったまま強く握り締め、今宵も来るであろう女性を思い浮かべる。
「子供が好きだって性癖を治さないと、教師をやらせるのは不安だしな」
慧音は氷狐のことが異性として好き。その勘違いは、未だに彼女の中からは払拭されていない。
―聖戦を一時的に終わらせる程度の能力―
「団子はみたらし! なぜそれが分からないんですか!」
みたらし団子を片手にそう力強く語っているのは犬走 椛。普段は白狼天狗の役目として妖怪の山を巡回している彼女だが、時間を見つけてはこうしてこの甘味処に訪れ、好物のみたらし団子を食べている。
「いいえ、3色よ! それを分かるのよ椛!」
対するは3色団子を手にした幻想郷最強の一角、フラワーマスターの風見 幽香。普段は太陽の畑にて向日葵や他の花達を育てながら人形の妖怪、メディスン・メランコリーと共に暮らしている。椛と同じく、彼女も時間を見つけては甘味処に現れては3色団子を食べている。
「まぁまぁお2人共、これでも飲んで落ち着いて下さいな」
がるるる、と唸りあう2人の間に割って入った勇者は甘味処の店員の女性。ニコニコと笑顔を浮かべながら、彼女は手に持ったお盆の上にあった飲み物を2人の間に置いた。
「抹茶をどうぞ」
「「はふぅ……」」
甘ーいお茶菓子に苦味の強い抹茶。ぺこりと頭を下げる店員の前には、抹茶を飲んでホッとした表情で息を吐く妖怪が2体。
今日も人里は平和である。
―順調に進んでます―
「美鈴さーん!」
「文さん!」
空から風を裂きながら飛んできたのは、烏天狗のブン屋の射命丸 文。降り立った場所は、紅魔館の門……番である紅 美鈴の目の前。どちらも嬉しそうな顔でお互いを見合っている。
「……」
「……」
「「えへへ……」」
しばらく見つめ合っていた2人だが、やがてお互いに照れくさそうに笑い、頭をかく。
そこから2人の影は、夕陽が沈むまでずっと隣り合い……たまに重なっていたという。
どこからか聞こえてきた「春ですよー♪」という言葉は、幻聴だろう。
―過去の真実―
「神奈子はさ、氷狐に何か思うことはないの?」
「ん? 私か?」
とある日、妖怪の山の頂上にある守矢神社の生活スペースにある居間にて、洩矢 諏訪子はふとそんなことを目の前で茶をすする神、八坂 神奈子に問い掛けた。
氷狐が彼女達の前から消えたのは、諏訪大戦の直後。この時はなぜ氷狐と神奈子がお互いのことを知っているのか不思議だったが、後に氷狐は神奈子の元にも時折足を運んでいたことがわかった時は多少ながら嫉妬したものだ……と諏訪子は内心で思う。
「そう。わたしみたいに昔から氷狐のことを知ってるならさ、幻想郷でようやく出会えたってことだよ? わたしみたいに泣いたりしてもおかしくないんじゃない?」
「んー……別に嬉しくなかった訳じゃないし、本音を言えば抱擁の一つでもと思ったんだが……」
「だが?」
「過去に一度、全力で抱き締めたら……文字通り潰れてしまってな。そんなことがあってもあいつは私に笑いかけるだろう? 罪悪感が凄まじくてな……どうしても微妙な心境になって……」
潰したのかこの軍神。というか死ななかったのか氷狐。知らなかった事実を哀愁漂う軍神に教えられた祟り神は、間抜け面を晒しながらそう思った。
それは、神と神の間だけに語られた……何とも呆れた真実。
―笑顔の理由―
「~♪」
「ふふ、随分機嫌がいいじゃない」
人里にて、手を繋ながら歩く人妖が一組。人の名は霊夢と言い、妖の名は氷狐と言った。
今日の氷狐は、いつにも増して機嫌が良い。それを見ている霊夢も自然と機嫌が良くなり、笑みがこぼれた。
「何かいいことでもあったの?」
「う?」
何となく、霊夢は氷狐に問い掛ける。それに対し、氷狐は彼女の方に顔を向け……満面の笑みを浮かべた。
「れいむといっしょ♪」
一部の存在に破壊力抜群な言葉だった。現に、霊夢は手を繋いでいない手で顔の下半分を真っ赤になりながら押さえている。
そんな霊夢を、氷狐は不思議そうに見ているのだった。
非常に短いが、今回のお話はここまで。また出会える日まで、しばしのお別れ。
それでは、またいつか。
いかがでしたでしょうか? お話としては非常に短いですが……楽しんで頂けたら幸いです。