外の世界では12月25日……つまりはクリスマスの日。よい子にはサンクローズからのプレゼントがあり、前日には子供達は枕元や用意した靴下にプレゼントが入っていることを期待し、ドキドキワクワクしながら眠る。朝起きてプレゼントがあったなら……それはそれは歓喜することだろう。
そんな外の世界に対し、ここは幻想郷。忘れ去られたものが迷い込むこの場所に、クリスマスというメジャーなものは風習としても情報としても入ってくる訳がない。幻想郷の賢者たる紫とて冬は冬眠することもあり、クリスマスやらお正月やらといったものはほんの少しの知識しかないのだ。
しかし、今年の幻想郷は違う。
「うーあーうー?」
「そう、クリスマス!」
場所は守矢神社の生活スペース。そこには外の世界からやってきた神様家族、守矢 諏訪子、八坂 神奈子、東風谷 早苗が住み、今は子狐の妖怪の氷狐を加えてコタツに入っていた。電気は早苗の起こす奇跡で用意している。奇跡マジ便利、とは諏訪子談。
当然ながら、氷狐はクリスマスというものは知らない。下手をせずともキリストよりも前に生まれて生きてきた氷狐だ、風習として染み渡っているならまだしも、染み渡る前から存在した彼が知るハズもない。そんな彼に、諏訪子が簡単に説明をする。
「クリスマスはね、サンタって人の格好をしたお父さんやらお母さんやらが自分の子供の欲しいプレゼントを用意して寝ている子供に忍び寄り、音も立てずにプレゼントを置いてサンタの存在を信じた子供を見ながらほくそ笑む日だよ」
嫌に現実的で夢も希望もなかった。しかしながら氷狐に理解出来たのは、サンタという人物の格好をしてプレゼントを渡す、という部分だけ。彼には清らかなままに成長していって欲しい。
それは、クリスマスから3日ほど前の日の話であった。
その翌日、氷狐は人里で上白沢 慧音と共に甘味処にいた。外の世界と同様に四季の存在する幻想郷は冬真っ盛り、当然甘味処も冬用にメニューは変わる。
2人の手には温かいお汁粉。小豆の煮詰まった深い甘味と温かさにほう……と白い息を吐く1人と1匹。実にほのぼのとしている。
「それで氷狐。私に聞きたいこととはなんだ?」
慧音は人里唯一の学舎で教鞭を振るう教師だ。幻想郷の歴史にも知識は豊富であり、紫や八意 永琳ほどではないにしろ、頭がいい。知識が豊富ということは考察も多種多様に行えるということであり、慧音は氷狐が自身の何らかの知識をアテにしているのだと考えた。無論、それは当たりである。
「けいね。あーうー、うーうー?」
「さ、さんた?」
氷狐から聞かれたことは、サンタを知っているか? ということだった。流石に知識が豊富で歴史に深いといえども、幻想郷に関わりのない歴史や知識など彼女が知るハズもない。恐らくは外の知識なのだろうと考察は出来ても、答えに至ることは出来ないのだ。
「……すまない。私には分からない」
「うー」
残念そうな氷狐を見て、慧音は胸が張り裂けそうな罪悪感を抱いた。
「サンタ?」
「うー」
次に氷狐がやってきたのは紅魔館。慧音が外の世界にいたことのある彼女達なら知っているだろうと教えたのだ。
今彼がいるのは紅魔館のエントランス。相手は仕事中だった十六夜 咲夜だ。尚、門番である紅 美鈴は射命丸 文と長いマフラー1つを互いの首に巻いていた。
「それなら、サンタクロースの絵本を妹様が持っていたわ」
「ふらん?」
「ええ、そうよ」
「さくや、うーあーうー♪」
「どういたしまして」
「めでたしめでたし」
「うー♪」
氷狐はフランドール・スカーレットとレミリア・スカーレットの部屋でフランにサンタクロースの絵本を読んでもらっていた。絵本故に一般的なイメージのサンタクロースの絵も描かれており、彼はようやくサンタの姿を見ることが出来ていた。
絵本の内容はいたく単純。サンタクロースと呼ばれる赤い服を着た立派な白髭のお爺さんがトナカイの引く空飛ぶソリにプレゼントを乗せ、世界中の眠っている子供達にプレゼントを配っていく。やがて配り終えたサンタクロースの元に、大量の手紙が送られてくる。それは、プレゼントを貰った子供達からの感謝の手紙だった。一枚一枚を丁寧に読んでいくサンタの目には、嬉しさからくる涙。全てを読み終えたサンタは窓の外を見つめ、来年も頑張ろうと決意するのだった。というありふれたお話だった。
そんなサンタの子供達に対する愛情を感じたのか、氷狐は大満足のようだ。フランも氷狐を見て嬉しそうな表情をしている。
「ところで氷狐。なんで急にサンタの話を?」
「すわこ、あーうーうー」
氷狐は守矢神社で聞いたことを自身が理解している範囲でフランに話す。氷狐は幼い見た目と拙い口調に見合わない理性的な行動を普段からしているが、見た目相応の好奇心旺盛な一面もあるのは周知の事実だ。故に、初めて知ったサンタを知りたいというのも仕方ない……フランはそう判断した。
その後もしばらく、1人と1匹はサンタとクリスマスの話をしていた。
紅魔館から出た氷狐を出迎えたのは、すっかり暗くなった夜月だった。昔ながらの自然の中に存在する幻想郷の澄んだ空気は冬に入ったことで更に澄んでいる。
さあ帰ろうと氷狐が足を踏み出すと眼前の空間が縦に裂け、目玉だらけの空間の先に家が見える。その家の前にいる9本の金色の尻尾を生やした女性……八雲 藍は笑みを浮かべて氷狐を待っていた。
紫の式である藍は、多少ながらスキマの能力を扱うことが出来る。冬はその紫が冬眠することもあり、扱う能力も上がる。とは言っても、使い道はもっぱら氷狐に橙のこうした送り迎えや移動なのだが。そのスキマを、氷狐はじーっと見つめていた。
「……氷狐? どうした?」
不思議に思い、藍は氷狐に声をかける。しかし彼は動かず、スキマを見つめたまま足を踏み入れようとはしない。もしかして怖いのだろうか……と考えるがすぐにそれはないと切り捨てる。出なければ送り迎えにスキマなど使わず、抱き締めて氷狐の温もりを感じながら……などと危ない思考をした時には氷狐は藍の前にいた。
「らん!」
「わひゃ!? ひ、氷狐……いつの間に……どうした?」
「あーうー!」
氷狐が言ったのはただ一言。手伝って! という言葉。
「……何を?」
藍はワケが分からず、首を傾げるのだった。
翌日の12月24日、時刻は23:55。早寝早起きが普通の幻想郷では夜行性の妖怪とて一部寝入る時間帯。そんな真夜中に起きている一部に、氷狐と藍はいた。
「本当にやるのか? 氷狐」
「うー♪」
藍の言葉に元気よく返事を返す氷狐。そんな彼だが、今の格好は普段の着物や寝る際に着る寝間着ではない。
縁や頂点の真っ白なモコモコが可愛らしい、頭にちょんと乗った真っ赤な三角帽子。大人用のサイズのこれまた真っ赤な生地に所々真っ白なモコモコが彩られたダボダボな服。それ一枚で足首まで隠れ、元気に上げている右手の袖は手首と肘の間で垂れており、左手には白いそれ程大きくはない袋。敢えて言おう。
子狐サンタである!!
子狐サンタである!!(二回目
可愛い子にはダボロンが私のジャスティスなどという話はさて置く。
なぜ氷狐がこんな格好をしているかと言えば、それはサンタになりたかったからだ。諏訪子から知り、フランから聞いたサンタという存在は氷狐の好奇心をいたく刺激し、やってみたいと思わせるには充分。結果として、今ここに子狐サンタが誕生した。
流石にトナカイでソリを引くということは出来ない為、移動は藍のスキマを使わせてもらう。プレゼントは準備期間が1日しかなかった為、用意出来たのは僅か5つ。内1つは橙の枕元に置いてある。
「らん。あーうー」
「ああ、行ってらっしゃい。スキマは開けておくからな」
既に向かう場所は決まっているらしく、藍は氷狐から聞いた場所に開いたスキマを3つ用意し、家の中へと入っていった。時間が経てば自動的に閉じてしまうが、直接目的地に出ることを考えれば充分過ぎる程余裕がある為、侵入や氷狐が帰れなくなる心配を藍はしていなかった。
かくして、幻想郷初めてであろう子狐サンタは行動を開始した。
氷狐が最初に向かったのは守矢神社。妖怪の山の頂上に位置するが、スキマを使ったり空を飛んだりすれば長い山道は関係ない。
彼が向かうのは早苗の部屋……ではなく、諏訪子の部屋。寝静まっているのであろう静かな生活空間の廊下を抜き足差し足で無音のまま進んでいく子狐サンタ。妖獣である彼は気配や足音を消すなどお茶の子さいさいである(死語)。
そうしてたどり着いた諏訪子の部屋。そーっと障子を開けてみれば、部屋の中心で眠っている諏訪子の姿。枕元に置いてある帽子の目が閉じられているように見えるのは気のせいだろう。
そんなことは微塵も気にせず、氷狐は袋から1つの箱を取り出す。外の世界同様に包装紙でラッピングされ、リボンを巻かれたこれは、香林堂と呼ばれる場所で氷狐が購入したものだ。彼はその箱を諏訪子の枕元に置き、何を思ったのか……というか何を教えられたのか、彼女の額に軽く口付け、部屋を後にするのだった。
「……にひひ。メリークリスマス、氷狐」
次に氷狐がやってきたのは紅魔館。スキマのおかげで直接館内に入ることが出来た氷狐は、真っ直ぐにスカーレット姉妹の眠る部屋へと向かっていた。
「どこへ行くのかしら、侵入者さん?」
「う?」
その途中、彼は後ろから声を掛けられる。声色や台詞から考えても歓迎されているようには思えない。しかし氷狐はそんなことを微塵も考えていないのか、普通に振り返っていた。
「あら、氷狐じゃない」
振り返った氷狐の視線の先に居たのは、先日にも会った咲夜であった。この紅魔館のメイド長である彼女の仕事は夜中にもあるため、こうして起きているのはなんら不思議ではない。
「こんな夜中にどうしたの? それにその格好は……ああ、なるほど」
少しの間不思議そうに氷狐を見ていた咲夜であったが、服装や先日の彼の行動で納得したのか数回頷き、私は何も見なかったわと言って氷狐に背を向けて歩いていった。
氷狐は彼女の背が見えなくなるまで不思議そうに首を傾げていたが、やがて姿が見えなくなると当初の目的地であるスカーレット姉妹の部屋へと向かった。
なるべく音を立てないようにドアを開けると、月明かり1つ入らない部屋は完全に真っ暗だった。しかしながら氷狐は妖怪。暗闇の中でも多少ながら目は利く上に夜目に馴れた今では行動に何ら支障はない。
真っ直ぐに姉妹の眠るベッドへとたどり着いた氷狐は諏訪子の時と同じように袋からプレゼントの入った箱を取り出し、2人の枕元に1つずつ置いた。これで袋の中にあるプレゼントは残り1つ。最後の目的地へと向かおうとする氷狐だったが、その手を誰かが掴んだ。
誰かと言っても、この部屋には氷狐以外にはフランとレミリアの2人しかいない。必然、掴んだのはどちらか、ということになる。
「氷狐サンタ、つーかまーえた♪」
「うー?」
そんな声と共に、氷狐はベッドの中へと引きずり込まれた、誰かに抱き締められた。
その誰かは、フランだった。今、氷狐は互いが向き合うようにフランに抱き締められている。その際に帽子が落ちてしまっているが、そんな些細なことはどうでもいい。
「今年はいい子だったから、サンタが来てくれたんだね♪」
「……うー♪」
495年もの間地下にいたフランにとっては、サンタが枕元にプレゼントが置いていってくれるなど初めてのことだった。無論、フランは現実にサンタがいるなんて信じるほど子供ではない。
しかし、サンタは存在した。目の前に、今こうして抱き締めることが出来る現実の存在として、自身の大好きな相手として。それが嬉しくない訳がなかった。
「ねぇ氷狐サンタ。私が眠るまでお話ししよう?」
「あー♪」
フランが眠ったのは、それから10数分後のことだった。彼女が眠ったことを確認した氷狐は起こさないようにベッドから抜け出し、最後の目的地へと向かった。
たどり着いた先は、博麗神社。そのまま家主たる霊夢が眠る部屋に向かうが、彼の足取りは重い。というか少々危ない。
本来なら、氷狐はこの時間帯は既に寝入っている。しかし普段はやらないような夜更かし、多少の行動、紅魔館で入った温かなベッドが重なり、眠気が凄まじいことになっていた。
そんな状態でたどり着いた霊夢の寝室。最早細かいことに気が回らないのか、音を気にせずに障子を開ける氷狐。幸いにも霊夢が起きることはなかった。
眠気を我慢し、氷狐は目を擦りながら袋から最後のプレゼントを取り出して霊夢の枕元を置く。後はこのまま帰るだけなのだが……。
「うー……」
氷狐の目の前には、ぐっすり眠っている霊夢と温かそうな布団。しばらく見つめていた氷狐は……。
「ん……」
朝、霊夢は目覚めた。そのままいつものように屈伸をする為に体を起こそうとするが、それが出来ない。
寝ぼけた頭で何が理由なのか考えてみたが、何となく胸元に視線を送ると頭の中が真っ白になった。
「くー……すぴー……」
氷狐がいた。霊夢の体にしがみつきながら眠っている。何がどうしてこうなった。もしやこれが朝チュンという奴なのか。霊夢は混乱していた。
「ん~……」
「……ま、いっか」
しかし、温もりを求めるかのような愛し子の姿を見ればそんな混乱も収まってしまった。霊夢は氷狐のサラサラとした青い髪を撫で、いつかされたように頬に口付け、二度寝する為に目を閉じる。
熱を持った自身の頬に、気付かないフリをしたまま……彼女は眠るのだった。
メリークリスマス。聖夜の夜に、あなたに愛が訪れますように。
「咲夜! サンタさんが来てくれたわ!」
「はい? ああ、それは」
「シッ! 言っちゃダメ! お姉様を見てみなさい」
「は?」
「きっと私がいい子だったからプレゼントをくれたのね♪幻想郷にいたなんて、夢みたい!来年も来てくれるかしら?♪」
((サンタの存在を信じてる……純粋すぎる!))
という訳で、クリスマス記念のお話でした。如何でしたでしょうか?
アンケートでは綿月姉妹や罪袋の話などの意見を頂きましたが、結果としてほのぼの+サンタという話に。
氷狐が渡したプレゼントの中身は各自ご想像下さいw
それでは皆様、メリークリスマス!またお会いしましょう(*゜∇゜)ノ