ひとつ前の話を投稿した日に他の小説を探していたら、この小説が日間ランキングに載っていました。何それ怖い。でもありがとうございます。
次は、次こそは束を出します。
ふははは!!砂糖を吐かせてやろう!!思う存分にな!(できるとは言ってない)
「だからプリント作成は後回しで良いと言っただろう。」
「だから、自分で言った日に渡せないのは悪いって…」
「その結果慣れない徹夜をして寝坊する奴がどこにいる。」
「それは………ごめん。」
「はぁ……いいからさっさと行くぞ。」
***
一年一組の教室ではささやかな拍手がセシリアに送られていた。日本を貶してしまったことを、ほとんどが日本人であるクラスメイトに謝っていたのだ。この殊勝な行為に対して真耶も朝のHRを中断して拍手をしていた。
拍手が収まってきたというタイミングで真耶が切り出す。
「さて、それではHRを再開します。この学園に入学してまだ数日ですが、転校生を紹介します……といっても、飛行機の欠航などで入学式に間に合わなかっただけなのですが。では、入ってきてください。」
その声を合図に教室のドアが開く。同時に教室中の視線がそこへと注がれるが、ブロンドの少女は緊張する素振りもなく堂々と壇上へ上がった。
「フランスから来ました、シャルロット・デュノアです。みなさん、よろしくお願いします。」
『よろしくお願いしまーす!』
皆が元気よく挨拶を返す中、ひとりの生徒が手を挙げた。
「山田先生、織斑先生たちはどうしたんですか?」
「えーと…もうすぐ来ますよ。(寝坊だなんてとても言えません!)」
理由を述べない真耶に生徒が首をかしげながら座ると、このタイミングで件の二人が来た。
「遅れてすまない、山田先生。ほら、お前も謝れ。」
「わかってるよ……遅れてごめん、真耶。」
「いえいえ、気にしないでください。それより、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。昼休みに眠ればなんとか…」
「もう、無理はしないでくださいね!」
そんな教師三人の会話に生徒たちは意識を向けていたが、それは転校生の行動で中断される。
彼女は初対面であるはずの空に抱きつき、その顔を空の胸にうずめたのだ。皆は突然のことに一瞬呆けていたが、間もなくクラスは黄色い声に包まれた。箒は「やれやれ、またか……」と目頭を押さえ、一夏は「空兄は顔が広いなぁ…」とよくわからないところに感心し、鈴に至っては「はぁ!?何やってんのあいつ!?ふざけんじゃないわよ!!」という言葉を皮切りに荒れ始めてしまっている。
そんな騒がしい周りも気にせず、シャルロットは空に向けて話しかける。
「お兄ちゃん、久しぶりだねっ!」
…………………静寂。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!??』
そしてさらに騒がしくなる教室。真耶も千冬も驚く側のため、これを鎮静化する人はいない。まだ朝だから良かったものの、授業中だったならば他のクラスに迷惑だ。
「久しぶり、シャルロットちゃん。」
「もう……だから、ボクのことはシャルって呼んでって言ったでしょ?」
「そうだっけ……じゃあ改めて、久しぶり、シャルちゃん。」
「シャルだって!」
「ごめん、つい癖で…」
「はい、もう一回。」
「久しぶり、シャル。」
「うんっ!」
二人が会話していた間もクラスは変わらず騒がしかったが、一時間目の予鈴が鳴り、千冬が我に返った。
「………お前たち、そろそろ静まれ。色々と聞きたいことがあるだろうが、今はISの実習に備えてしっかりと勉学に励むように。空は夜に話を聞く。もちろんお前もだ、デュノア。」
……………僕、何か悪いことした?
***
その日の夜、僕と一夏くんの部屋は人口密度が高かった。それだけなら汗が出るまで室温が上がることはないけど、暑い。この部屋への来客が原因だろう。だって、なんか赤いオーラが見えるんだもん。
今この部屋にいるのは、ベッドに腰掛けている僕、「えへへ~~♪」と僕に抱きついてスリスリしてくるシャル、僕の向かいのベッドに座って機嫌悪そうに腕組みをしている千冬、その隣で「ふしゃー!!!」と猫のようにシャルを威嚇する鈴ちゃん、台所で料理を作っている一夏くん、そしてこちらを見ながら一夏くんを手伝う箒ちゃんの六人。真耶は今日の仕事が残ってるみたいでいない。……って箒ちゃん、ノールッククッキングは危ないよ!?
「で、だ。どういうことだ?」
「そうよ、説明しなさいよ!」
二人が身を乗り出して訊いてくる。これ、一応女性権利団体が関わってるんだけど……と千冬にアイコンタクトを送ると、そこは誤魔化せと返された。
「えー……まず、デュノア社の社長には本妻と愛人がいまして。とある犯罪者を追跡したところその本妻に行き着きまして。それを捕まえたら、愛人とシャルへの執拗な嫌がらせがなくなり……………今に至ります。」
「……はぁ!?それだけ!?」
「静かにしろ。すぐ近くで騒ぐな。」
「はっ……ご、ごめんなさい。」
「まぁ良い。空、それだけではないだろう?それだとデュノアの懐きようが説明できん。」
何か隠し事をしているだろ?という視線を千冬から受ける。
束もこのことに関わっているからそっちに訊いたら……とでも言いたいけど、千冬が許してくれなさそうだなぁ。
「ほら、僕らがISを造った後千冬と真耶はまた高校生をやったでしょ?」
「ああ、そのことは鮮明に覚えている。無理矢理IS学園に入学させられたからな。」
二度目の高校生は非常に面倒だったんだからな、と恨めしそうに睨んでくるけど無視。目力だけで人を殺せそうだけど無視。怖いし。
「その時にね………色々と変装して束とヨーロッパに行ったんだ。………旅行に。」
「………はぁ!?あいつ……いつか捻る。」
………束、ごめん。
「それで、フランスの片田舎に行ったとき、その町には宿がないらしくて泊めてくれる家を探したら、シャルのいる家ならもしかしたらって教えてもらってね。どこでもドアとか使えたけど、旅行中に一回帰るのは嫌だって束に押されて結局泊まらせてもらったんだよ。そこでシャルと仲良くなったんだ。」
「ほぉ………私が学園に通っていた間にそんなことを……それで?」
勘、良すぎでしょ………
「それで、束がシャルを気に入っちゃって、シャルの母親も引き留めてくるから、いつの間にか数ヶ月が経ってて………」
「それで懐かれた、と。……………あいつ、今度会ったら全力で殴る。」
やめて!それはやめてあげてよ!細胞レベルでオーバースペックな束でも耐えられないよ!スプラッタは良くない。絶対。勿論暴力も。
「ところで………あんたは一体何をしてるのよ!?」
「むふふ~…うん?これはお姉ちゃんに教わった……二人羽織って言うみたいだけど、鳳さんは知らないの?」
今現在、シャルは僕の着ているポロシャツに後ろから入り、袖から腕を出して僕に抱きついている形になっている。背中に柔らかいものが当たってるけど………こんなに大きかったっけ?げふん、いや、うん、そういう時期なんだよ。あれ、なんかデジャヴが……
「勿論知ってるわよ!?だから、どうしてそんなことをしているの!?」
「え…?兄妹はこういうことをするものだってお姉ちゃんから……」
「お姉ちゃんって…まさか束さんのこと!?」
「うん。」
……途端に部屋の温度が急激に下がった気がした。一夏くんは何がなんだかわからないみたいだったけど、他の人たちがなんというか…怖い。「またあの人か…」「束さん、何してくれちゃってるのよ!?」「またあいつか………
……………束、ホント、ごめん。
結局このままの雰囲気でお開きになってしまい、この部屋の住人である僕と一夏くんは気まずい沈黙を保っていた。ちなみに、一夏くんと箒ちゃんが作った料理はもう食べた。やっぱり美味しかったです。
「今日はもう寝ようか。」
「ああ、そうするよ。」
***
カーテンの隙間から朝日の光が差し込み、目蓋の裏が明るくなってくる。居心地悪そうに寝返りを打った空はベッドから落ちて目を覚ました。そして、背中に感じる布団の感触と体の前側に感じる柔らかい感触に意識が覚醒する。
自分の下を見てみると金色の髪が目に入った。
「………は?」
僕の背中に両手を回して眠っているシャルを驚いたように見つめる。
どうしてこの部屋に、しかも同じベッドに彼女がいるのだろうか。昨日寝る前に鍵はちゃんとかけておいたし、この部屋の鍵は僕と一夏くん、寮長の千冬しか持っていないはずだ。
「おい、空、そろそろ起きる時間だ。………何故ベッドから落ちている。まさか、この状態で寝ていたのか…?」
げっ。
「ほら、起きろ。」
僕の焦りなどつゆ知らずして布団がめくられる、と同時に千冬の周囲に圧倒的な圧がかかっている錯覚に陥る。傍から見れば、僕がシャルを押し倒しているような姿勢だ。
「ほう……学園が始まって早々に教え子と不純異性交遊か?良いご身分だな、空?」
「ちょ、待ってよ!朝気が付いたらシャルがいたんだよ!昨日の夜に鍵は掛けたし、僕だって理由が知りたいよ!」
「では、なぜお前は既に目が覚めているのだ?いつもならば顔を洗うまで目覚めないというのに。」
「ベッドから落ちたからだよ!!」
「ふむ……嘘はついていないようだな。ならばこの小娘に訊こうではないか。ほら、起きろ。」
千冬がやや乱暴にシャルを足で突っつく。いや、仮にも教え子なんだからそれは……
「ふぁ……ぁ…もう、朝ぁ……?」
「ほら、起きろ小娘。」
「……………ふぇっ!お、おおお織斑先生、どうしてここに!!」
「私は寝起きの悪いこいつを起こしにきただけだ。で、何故お前はここにいる。というか、どうやってここに侵入した。」
「あ。えっと……怒りません?」
「ああ、怒らないでおいてやる。だから話せ。」
「はっはい!き、昨日の夜にお兄ちゃんから鍵を拝借しまして、お姉ちゃんに複製してもらいました!」
「はぁ………またか。」
どうやら怒るを通り越して呆れてしまったようだ。ただ、その瞳には束を木っ端微塵に粉砕する未来が見えていることだろう。両手をポキポキ鳴らしてるし、妙に綺麗な笑顔だし。
「この件は見逃してやる。だから複製した鍵を寄越せ。没収だ。」
「いえ、あの………ボクが使ったのはお兄ちゃんのもので、複製はお姉ちゃんが持ってます…」
こめかみを抑えて低く千冬が唸る。束の未来が木っ端微塵から無限の拷問にランクアップしたようだ。
………匿ってあげよう。結局は束自身で怪我とかを治せるといってもあまり気分のいいものでもないし。
「………私は用事を思い出した。お前らはさっさと身支度を終えてここを出ろ。」
「はっはい!!」
「うん、了解。」
………ところでシャル?なんでまだ抱きついてるのかな?これじゃ僕は動けないんだけど。いや、「えへへ♪」じゃないよ。また千冬に怒られるよ?ちょっ待って待ってにおいとか嗅がないでよくすぐったい。え?まさか寝惚けてる?二度寝直前?ほら、早く起きなよ!ほら!おいっ!服の中に手を突っ込むな!!
『もすもすひねもすー!こちら、空の愛妻束さんだよー♪』
「………束。」
『ぴゃっ…ち、ちーちゃん、どどどどうしたのかねいい一体。』
「………空と旅行。」
『えっ…』
「………シャルロット・デュノア。」
『ま、まさか…』
「………二人羽織。」
『あ……あぁ…』
「………鍵の複製。」
『ひっ…』
「今度会ったら……覚えていろ。」
『ままま待ってよちーちゃん!取引!!取引をしよう!』
「取引だと…?」
『そうそう!ちーちゃんに空の匂いたっぷりの布団と空の「好きだよ」ボイスをあげるから!』
「………」
『じゃ、じゃあじゃあ空の健康状態とか居場所とかがわかるアプリもあげるから!!』
「………わかった、取引成立だ。」
『え、ホント!?な、なら明日の朝に届けに行くよ!』
「了解した。」
「(千冬先輩、物凄く真面目に会話してますけど誰なんでしょう?取引とか言っていましたし………仕事関係ですかね?あんな短時間で話を付けるなんて、流石です。)」