無事文化祭が終わり、受験シーズンになってきました。
そのため、更新速度がさらに落ちるかと思われます。
まぁ、最低でも月一で出す予定ですけどね。
ふと思ったんだけど、後書き読んでる人ってどのくらいいるのかな。
土曜日の夜、安眠の大敵である千冬の襲撃を恐れながら眠りに就いた空は、一瞬の浮遊感と全身への衝撃によって目を覚ました。
寝ている間の抱き癖はあるが、空はベッドから落ちるほど寝相が悪い訳ではない。(シャルロットが布団に潜り込んでいた時は例外だが。)
つまり、寝がえりでベッドから落ちたのではなく誰かに落とされたということだ。
「痛てて……」
いくら寝起きが悪いといっても痛みで目を覚まさないことはあまりない。あったとしても、徹夜をした翌日ぐらいだろう。
半ば強制的に起こされた空は、自分をベッドから突き落とした犯人を探すために部屋を見回した。
可能性の高い、同じ部屋に住む一夏を探してみるも隣のベッドは既に空になっている。
他にこの部屋に入ることのできる人は千冬と真耶、束くらいだが、千冬と真耶はそういうことをするような人間ではない。違うだろう。
ならば、束だ。
しかし不思議なことに、部屋に人がいる気配はない。
何か道具でも使ったかと考え5分程度待ってみたものの、依然として部屋は静かなままだ。
ならばそう警戒する必要はない、と判断した空は二度寝を始めた。
………その僅か10分後。
「え~いっ!」
「ぐふぉっ!!」
意識が沈む…といったタイミングで腹部に強烈な衝撃が加わった。恐らく今までに受けたことのない…………いや、千冬の打撃の次に強いものだった。
「がおーたべちゃうぞー!」
「たべちゃうぞぉ~!」
…………………は?
「食べられたくなかったらご飯を作るんだー!」
「つくるんだぁ~!」
「……………ごめんなさい、お父さん。止められませんでした。」
え。何これ。
***
今朝僕をベッドから突き落としたのが束、二度寝した僕にドロップキックをかましてきたのが布仏ちゃんだった。
束はいつもの無機物なウサ耳を外して兎の着ぐるみウサ耳付き(布仏ちゃん曰くパジャマ)を、布仏ちゃんは黄色い狐のような着ぐるみを着ている。……もしかしたらドラえもんの前にやっていたアニメのキャラクターかもしれない。
そして二人を抑えきれなかった(らしい)クロエちゃんも何故か猫の着ぐるみを身に着けている。
………いや、どゆこと?
「私が空の部屋に入るところをこの娘に見られちゃったんだけどね…」
「その時に~びびっときたんですよ~」
「それで、この娘の勧めで兎の着ぐるみを着たんだよ。」
「そしたら、とっても可愛いかったんです~」
「いやいや、本音ちゃんのほうが可愛いよ!」
「いやいや~お姉ちゃんの方が可愛いよ~」
「そう?……でもやっぱり本音ちゃんの方がーーー」
なんか、実の姉妹よりも姉妹らしく姉妹な会話をしてる姉妹みたいな……あれ?
「お父さん、お腹が空きました。秋刀魚の塩焼きが食べたいです。」
「あ、うん、わかっ………いや、秋刀魚なんてこの部屋に保存してないしできないんだけど。」
クロエちゃん、抑えきれなかったとか言ってた割には乗り気じゃないのかな?
「それなら私が持ってきたよー」
そして用意周到な束。僕が作ってあげた量子変換器で取り出し………まだ生きてるし。
「わ~新鮮だ~」
いや、まぁ、そうなんだけどさ…
「床、びしょびしょなんだけど。」
「「「………あ。」」」
……いつも通り、と言えばいつも通りか。布仏ちゃんはどうか知らないけど、束とクロエちゃんはどこか抜けている節があったりするから、こういうこともよくある。素でやっているのかわざとやっているのかわからないケースも普通に存在するため、油断していると僕が被害を被ることになりかねない。
今回は軽かったからよかったけれども。
「それじゃ、ご飯作るから片付けよろしく。」
朝食を食べた後、布仏ちゃんは自分の部屋に、束とクロエちゃんはどこでもドアで潜水艦に戻っていった。
床はちゃんと綺麗に掃除してくれたし、更に布団も干して貰えたけど、束はほとんど何もやっていなかった。というのも、布仏ちゃんとクロエちゃんが優秀で束に仕事が回って来なかったのだ。
クロエちゃんは言うまでもなく家事が上手だが、まさか布仏ちゃんができるとは思わなかった。本人に訊いてみれば、彼女は一応メイドの立場のようで、家事は幼い頃に教え込まれたらしい。
そつなく家事をこなす二人を悔しそうに見る束の目は、若干だが涙に濡れていたような気がしなくもない。夏休みにでもシャルと一緒に叩き込もうかな。まずは部屋の片付けから、掃除、洗濯、料理……。
……と、ここでようやく気づいた。
千冬が来ない。
毎週日曜日の朝は、放っておくと昼まで寝てしまう僕を起こしに来るんだけど……今日は来ない。
腕時計に目をやると既に10時を過ぎている。
昨日は確か、千冬の部屋に行っていつも通り夕飯を作って、その後軽くビールを飲みながら雑談でもしていた。
それに、ちゃんと千冬が寝付いたところに布団を掛けて戻ってきたはずだ。なのに何故だろう。
自ら進んで夜更かしをするとも思えないし、特に変わったことはないんだけど……
……………あ、ビールの制限かも。
僕にアルコールの摂取量を抑えられているからか、その頃から不機嫌オーラを纏う頻度が上がっている気もするけど……でも実際は違う可能性がないわけでもないし……もしかしたら体調を崩したのかもしれないし………。
考えていても仕方がないから早速千冬の部屋に行くことにした。一応、自販機で何か冷たい飲み物を買ってあげよう。
***
あー………頭が痛い。寒い。怠い。
喉も痛い、咳も出る、さらに体は妙に熱っぽい。不愉快この上ない。
これは完全に風邪だ。
にしても何故だ。風邪をひくようなことはしていないはずなんだがな……
昨日空と飲んでいたことは覚えているが、それまでには特に風邪の原因となりうることはしていない。
その後の記憶がほとんど残っていないのだが、そのタイミングか?
私が酒で記憶を飛ばすことなど滅多にないのだが……寝落ちしてしまったのだろうか。
空が布団を掛けてくれたようだから、冷えたということはまずないは……ず………
………窓を開けたままだった。
そういえば、ビールを飲み始めてしばらくしたところで、暑いからと窓を一度開けたんだったな。それに、同じ理由で薄着に着替えてもいた。
………完全にこれが原因だ。ちょうど服を脱ぎ始めたときに、風邪をひくからやめておけと空から注意された気がするが………それを無視した自分のせいだな。
「千冬ー?起きてるー?」
扉の向こうからくぐもった空の声が聞こえた。………駄目だ。どうしてもにやけてしまう。
「入るよー?」
私を心配してくれているのは身に染みて理解している。大方、朝起こしに来なかったから様子が変だと考えたのだろう。心配をかけて申し訳ないと思ってはいるがそれでも、心配されているという事実が嬉しい。
「千冬ー……風邪引いた?」
「ああ。」
「あらら、予想が当たっちゃった。冷たい物買ってきて良かったよ。」
そう言って右手に持ったスポーツドリンクを手渡してくる。そのひんやりした温度が気持ちよい。
「んー、熱はあるかな…」
ぴとっと私の額に何かが触れた。いや、空の台詞から分かる通り空の手なのだろうが、今はいちいち恥ずかしがっている余裕はない。普段通りの私ならば、この程度の接触でも顔を赤くしていたのかもしれないが………もう二十も半ばだというのに、どうして私はここまで初心なのか。いい加減、この程度の肌の接触には慣れたいものだ。
「げっ、割と高いぞ……汗も結構出てるし。」
この焦っている顔を見るのは何度目だろうか。今まであまり健康を損ねるようなことはしていないため病気になること自体少なかったがあったとしてもそれは十を下る程度の回数だと思う。
「千冬、今寒気はしない?」
「する。暑いのに寒いんだ。」
「まだその段階か。なら、さっきのスポーツドリンクは後にしてまずは温かいものを飲もう。千冬は体を冷やさないようにして待ってて。」
こういうときの空は非常に頼もしい。まだ学生だった頃、私に限らず束や真耶、一夏や箒もあいつに看病してもらったことがあるが、皆口を揃えて空の手際の良さを褒めていた。真耶に関しては、風邪でただでさえ赤かった顔を更に一層赤くしていたが……一体何があったというのだ。
「とりあえずこのお茶飲んで。お粥はもう少し時間がかかるから薬は後でね。」
空が自分に付きっ切りというのは、束にしても真耶にしても、まあ私にしてもだが、この上ない至福と言えるだろう。そのためにはこの不愉快な状態にならなければならないが、束なら自ら進んでやりそうだな。それこそ、細かいことまでもあの技術を総動員してし兼ねない。あいつのソレは、それだけ大きいのだから……私のよりも。
「ほら、できたよ。体は動かせる?」
だから、こういう時ぐらい思い切り甘えても文句は言われないだろう。
「無理だな。力が抜けて碌に動かん。」
「やっぱり。じゃあ口を開けて。あーん。」
「あーん、うむ、美味い。」
「それは良かった。……はぁ、だから窓を開けるなって言ったのに。いや、その、僕が部屋を出る時に閉め忘れたせいでもあるんだけど…」
……ふふっ。
「え、なんで笑ってるの?僕なんか変なこと言った?」
お前が責任を感じる必要など全くないと思うのだがな。
「いや、なんでもないよ。」
その気持ちだけでも十分だ。
「んー?なんかいつもと雰囲気が違うと思うんだけど…柔らかいというか優しいというか。」
そんなことは別にいいだろう。というか日頃から私はどういう風に見られているのだ。
「それより早く次をくれ、次。私は腹が減っているんだ。」
「はいはい、わかったよ。食べ終わったら体を拭くからね。」
………え。
「な、何をすると言った?」
「いや、だから、掻いた汗を拭きとるんだよ。千冬は動けないから自分でできないでしょ?放っておくと体を冷やしちゃうからね。僕が拭いてから別の服に着替えてもらうよ。」
……聞き間違いではなかった。私は一向に構わん。ああ、そうだとも。むしろこれは束の言う役得というものだ。断じて恥ずかしいという感情はない。あわよくば、などとも考えていない。羞恥心など要らん。今この状況においてそれは邪魔だ。そんなもの捨ててしまえ。
***
「すー……すー……」
規則正しい間隔の息遣いが聞こえる。隣を見やれば薄く笑みを浮かべた空の寝顔が目に入る……いくら眺めても飽きない。
昼の出来事の後、私はもう一度眠ろうとしたのだが、その際一人でいることを心細く感じたために空を呼び止めた。
今にも去ろうとするところで思い至ったことだったから、咄嗟に伸ばした手で空の袖を摘まむのが精一杯だった。私に似合わない弱々しい声も伴っていたためか空は不思議そうに私を見た。そして何かを悟ったかのように優しく微笑むと、風邪がうつる可能性があるにもかかわらず、一緒に寝てほしいという私の申し出を受け入れてくれた。いや、もしかしたら私のこの寂しさに気付いたのかもしれない。
空のその優しさが、その気遣いが、とてつもなく嬉しい。昔からこいつはそうだ。誰にでも優しく接し、思わせ振りな台詞を恥ずかしがることなく、自然と口にする。今まで何人の女子がその被害に遭っただろうか。
………まあいい。今はこの安らかな時を過ごすことに気を向けよう。
「いつもいつも、ありがとう。私は、お前のことが好きだ。束には先を越されてしまったが………いつか、そう遠くないうちに、きっと伝える。でも、今はーーー」
そっと、唇を触れ合わせる。
「ーーーこれで勘弁して欲しい。」
『んっ……』
『………』
『…んぁっ……』
『………』
『やぁっ……ぁぁ…』
『………あのさ』
『んっ…な、なんだ?』
『声、我慢できない?』
『む、無理だ……ひゃっ…』
『……ならいいけど。じゃあ次はここだね』
『ひぅっ…おおおお前、どこ触って……』
「………」
「………」
「ねぇ、セシリア」
「なんでしょう」
「これってさ……」
「恐らく……でしょう」
「なんでこんな昼間から……」
「……はっ破廉恥ですわね」
「うん……お兄ちゃんのえっち」
「あら?オルコットさんにデュノアさん、千冬先輩の部屋の前で何をしてるんですか?」
「あ、山田先生」
「と、とりあえず聞いてみてください」
「……?」
『はぁ……はぁ……』
『どうしたの?なんか息が荒いけど…』
『お前のせいだ!』
『えぇ…』
『体の隅々まで撫でまわしただろう!』
『いや、だって、千冬動けないんじゃ…』
『だ、だからといってだな…』
『はいはい、もうちょっと気を付けてやるから今度は脚ね。』
『おい待て……やめっ…』
「ど、どうですか?」
「あれはですね……」
「「あ、あれは…?」」
「看病です」
「「………はぁ!?」」
「多分熱で掻いた汗を拭きとってもらっているのでしょう。」
「そうなんですか……」
「ですが何故わかったのですか?」
「ふぇっ……?」
「「……?」」
「そ、その…………私も昔に体験したことが……」
「「……え」」
「あの時は全く体が動かなくて、体のあそこまで空先輩に……」
「ふーん………」
「………」
「………」
「………シャルロットさん?」
「………いいなぁ」ボソッ
「へっ………?」