天災?いいえ、間に合ってます。   作:104度

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お待たせしました。
ちょっと読みづらくなってしまったので後々修正するかと思います。
あと、今後の投稿速度が落ちるかもしれません。

それではどうぞ。


休みの後の学校って嫌だよね

 休みの日も四日経ち、ゴールデンウィークも残すところ最後の一日となった。

 といっても、ゴールデンウィークの最終日は日曜日のため日直の教員以外は皆休みである。

 

 そんな中、空は昨日のうちに終わらせるべき仕事は一通り終え、今はISを宇宙で運用するための機構について考えていた。

 機体のエネルギーは機体の周囲から取得しているから宇宙でも十分に稼働ができるし、そのエネルギーのおかげで搭乗者の体温管理もできる。他にも、太陽といった恒星から吹き荒れる恒星風や紫外線、宇宙線、宇宙塵への対策もできている。

 

 

 ……けど、酸素はどうしよう。

 

 

 地球上(今のところは対流圏内)ならば酸素は存在しているからそれらを使えば呼吸はできるし、ちゃんとISにもその機能を搭載している。

 しかし、宇宙となると話は別だ。宇宙といった空間自体がそもそも謎でどのような性質の物質が存在するか分からないし、それが分からないことには対抗策も作れない。暗黒物質やダークエネルギーと呼ばれる正体不明のものがその例にあたる。

 

 というかそもそもそれらへの対策以前に、その宇宙に満ちている未知を求めて、詳しく調査するためのISであるのだが。

 

 

 ……前途多難だなぁ。

 

 

「はいはーい!そんな空に提案でーっす!」

 

 空が自室で悩んでいると、聞き慣れた声とともに細い腕が彼の首に巻き付いた。音無く忍び込んだ束が無駄のない動きで空に引っ付いたのだ。

 それに空は心底驚くが、顔には出さずに束の方を向いた。

 

「………いつ来たの?」

 

「空がうんうん唸り始めたところから、かな?」

 

 それって一番最初からじゃないかと空は頭を抱える。

 というかどうやって気配を消しているんだ。隠密スキルが高すぎる気がするんだけど。

 

「それはちーちゃんから逃げ……じゃなくて、酸素の問題に対する解決策を考えて来たんだよ!」

 

 さりげなく心を読まれた気がする…まぁ、いつものことだから気にすることはない。そんなことよりも、どのようにするのかが気になった。

 

「どんな方法?」

 

「えーっとね、宇宙空間ってさ、そのほとんどを水素とヘリウムが占めてるでしょ?だからそれらを使って新たに酸素原子を作りだすんだよ。そうすれば宇宙のどこに居ても酸素分子が作れるし、呼吸もできるってこと。勿論吐息に含まれる酸素も二酸化炭素も再利用するけど。どうかな?」

 

「確かに理論上はできるかもしれないけど……二酸化炭素から戻すのは気体の分離とか工程が多いし、水素からの酸素の生成は恒星での核融合みたいに相当なエネルギーが必要でしょ?どうするの?」

 

「ふっふっふ……実はね、二酸化炭素の方はちょっと時間がかかるけど、それらを可能にする装置ができたんだよ!!それもISに搭載できるサイズのものをね!」

 

「マジぐぇっ!?」

 

 束の重大な報告に空は思わず立ち上がろうとするが……首に回された束の腕で椅子に引き戻され、その拍子に喉が圧迫されて咽てしまった。

 

「ちょっ、大丈夫?」

 

 束が心配そうに空の顔を覗き込むが…元凶は束の腕である。

 

「げほっげほっ……うん、大丈夫。」

 

「よかったぁ。」

 

「いや、束のせいだからね?」

 

「ふぇっ?どうし、て…………………あれ?」

 

 不自然に長い間を空は疑問に思う。

 

 ……まさか、この腕は無意識のうちにやったこと?

 

 いやまさか、とこの可能性を一蹴した空は話題を転換する。

 

「別に気にしなくてもいいよ。それよりも、ISの回収の方はどのぐらい進んだ?それぞれの国に公式で登録されている機体を除いて、百機はあったと思うんだけど。」

 

 この世に出回っているISは合計で三百機程度あり、そのうちの三分の二程が現在各国に配備されているものとなっている。それ以外は渡した先で盗まれたり、各国軍や施設からどこかへと流出したものが多い。空が教師になるまでは彼が直接出向いて回収をしていたのだが、束が無人機を造ってからはそちらを回収に向かわせることとなった。そんなこともあってか回収効率はあがったのだが、それでも百という数は少なくない。

 

「それなら結構終わったよ。半分は終わってるかなぁ?数えてないから詳しくは分かんないや。でもこの調子でいくと来年あたりには集め終わると思うけど……どうする?」

 

「どうする、ね……」

 

 束の言う『どうする?』は、おそらく今後どのような行動をとるかについての問いだろう。空の両親の夢でもあり、そして空と束の夢でもある宇宙への挑戦はそろそろ始めることができる。勿論空と束の二人だけでは人手が足りないので、会社を建てて優秀な人材を募集するかもしれないし、シャルロットの父親が社長をしているデュノア社を吸収するかもしれない。

 彼個人的には、一夏や箒といった顔見知りには宇宙開発や宇宙研究を手伝ってもらいたい部分もある一方、承諾してくれるかわからないし断わられたとしても無理強いするつもりもない。

 

 依然として抱きついたままの束の両腕を優しく掴むと、空は目線をデータで埋め尽くされたノートパソコンに留めたまま話す。

 

「一応一夏くんたちが卒業するまで待とうと思ってるけど…」

 

「だよねぇ…ISに関しては十全の知識を蓄えてほしいし、じゃないと宇宙での活動は危ないし……」

 

 どうやら束の中では、一夏たちを取りこむことが既に決定事項となっているらしい。

 

「確かに宇宙に出るのは僕たちが十年ほど掛けてようやくできたことで、待ち遠しいことでもある。でもさ、世界でも僕らだけが宇宙に進出しようとしたら、どうなると思う?世界各国はどう動くと思う?」

 

 おもむろに振り返り束と目を合わせた空は、真剣な雰囲気を纏って問う。

 束は空の変りように一瞬口籠るが、その回転の速い頭脳を以ってすぐさまそれに答える。

 

「それは……あの有象無象共はISを兵器としか見てないから、私たちのしていることを兵器開発の一環とみなすだろうね。そしたら、武力を使ってでも止めようとしてくる。……でしょ?」

 

「そうだね。だから僕たちは、その前にやらないといけないことがある。」

 

 力の籠った眼差しを向けられた束はその記憶の中から心当たりを探る。

 確か完成したISがまだ片手で数えられるくらいしかなかったとき、空が何かをコアに仕込んでいた。しかもそれを「後々役に立つもの」を説明していた。今後起こると予想されるものに対して役に立つというと……

 

「………ああ!!てことは、空が製造の時にしてたあのセッティングはまさか、このときのための…!」

 

「そういうこと。そうすれば、ISはもう戦うことができなくなるからね。ただ、IS全機が一度にそうなると混乱するだろうから、あまり使用されていないものから一機ずつ、徐々に切り替えていくんだ。」

 

「ふぉぉ……流石だよ空!」

 

「それに、例え国から抗議されても、『小娘の戯言だ』と一蹴したお前らが悪いって返してあげれば口を噤むだろうからね。その時の映像は当時のうちに入手したし、束は音声を録音してたから、反論はさせないよ。そうそう、他にも――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、空が今のところ考えている方法を全て束に話した。

 すると束はキラキラと目を輝かせて『ホント流石だよっ!!かっこいいよもう大好き!!』と言いながら空に抱きつく。

 

 

 ちょっと動きづらい、けど嬉しい。でもなんだかもやもやする……なんでだろう?

 まぁそれはともかく、こういう平和な日常が続いてくれればいいんだけどなぁ。先を考えると難しい…よね。

 

 

「話は聞かせてもらったぞ。」

 

 

 束に説明を終えたところで部屋の扉が押し開けられ、動きやすそうな服装の千冬が入ってきた。

 

 聞かせてもらったってことはまさか……

 

「ああ、最初からだな。」

 

 やっぱりだと思うと同時に、またしても心を読んでくる千冬に戸惑う。

 

 え、何?二人はエスパーか何かなの?非科学的な能力でも持ってるわけ?

 

「そんなことあるわけないだろう。長い付き合いの中で培われた勘、とでも言えばいいか。まぁ、そんなものだ。だろう?」

 

「そうそう。鋭いってよく言われる女の勘がさらに鋭くなったって感じ?かな?」

 

 あ、そうですか……。ちょっと前まではこんな芸当なんてできてなかったはずなのに。

 

「そんなことより、先の話、私も協力しよう。」

 

「ちーちゃんそれほんと!?」

 

「そう喚くな。嘘は吐かん。お前たちがそこまで惹きつける宇宙というものに私も興味を持ったからな。といっても、私は実際に宇宙に行くというより次世代の育成に力を注ぐつもりだ。優秀な即戦力となる者が欲しいのだろう?」

 

「お、おぉぉぉ……ちーちゃぁぁぁぁんあ゛っ」

 

 またさっきみたいに感動してか、束が千冬に跳びかかった。そして流れるような動きで千冬が束にアイアンクローをかけてその体を持ち上げた。

 

 このやり取りを見るのは何年ぶりだろう。本当に久しく見てなかった気がする。一番古い記憶だと学生の頃だったかな。

 

「だからそんなに近くで喚くな。耳が痛い。それと、私にそういう趣味はない。」

 

「私もない…って痛いいたいいたい!!待って右手に力を籠めないでっ、たすけっ…みぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 …………こういう時って、僕は無力なんだよね。ごめん。

 

 痛みで気を失ったのか、脱力したままぴくりともしない束を千冬がベッドに放り投げると、空に向き直った。

 

 いやいや、いくら細胞単位で過剰スペックな束でもその扱いはあんまりじゃ……

 

「気にするな。どうせ直ぐに復活す「もう、ちーちゃんひどいよー!」…………それよりも、今日はお前に用事があって来たんだ。」

 

 千冬の言う通り数瞬の間に元気になり、千冬に文句を言う束を見て空は苦笑する。やはり二人は仲がいい。………その再生力にはもうツッコまないけど。

 ひと悶着した後、束は不貞腐れたように空の後ろに回ると、ここは私のポジションだと主張するように空に抱きついた。それを見てか千冬の眉がぴくっと動いた気がするが、触れたら碌なことが起きないと知っている空は話を続けた。

 

「それってこの前言ってた転入生のこと?」

 

「そうだ。明日から授業に参加することになるから、お前にも紹介しようと思ってな。そろそろ来るはずなんだが………」

 

 

――コンコン

 

 

「教官、ボーデヴィッヒです。」

 

「入っていいぞ。」

 

 中で会話をしているときのことを考慮してか、控えめなノックと共にゆっくりとドアが開く。千冬の言う新入生は、銀の長い髪と左右で色の違う目をを持った女の子であった。それはまるでクロエのような見た目で、瓜二つの容姿で……

 

 

「えぇっ!?くーちゃん!?」

 

「なっ…!?篠ノ之博士!?」

 

「………いや、あり得ることにはあり得るか。」

 

 その姿を見て、束は実の娘のように可愛がっているクロエに似ていることに驚き、空はそのことを冷静に受け止めてその理由について考えていた。

 一方ラウラの方はというと、ISの創始者であり世間から天災と称される大物が目の前にいることに驚いていた。全世界で指名手配されており、各国が力を注いで探そうにも見つからず行方不明となっているはずの篠ノ之博士がこんなところに居ようとは思わなかったのだろう。

 

「なんだお前たち、知り合いか?」

 

「いや、違うよ。」

 

 そうかと返そうとしたところで千冬の携帯電話から着信音が流れた。驚きで固まったままの二人を尻目に発信者を確認すると、千冬は空に一言断わってから廊下に出た。

 

 

 そこからしばらくは沈黙が保たれていた。両者とも何かを言いたげにしていたが、言いたいことを言葉にできないのかなかなか会話が始まらない。何か話のきっかけでも作ろうかと考えた空だが、学生だった頃に気の利く友人からもらった言葉に従ってやめた。彼曰く、敢えてそうするのは無粋なことで、当事者たちから行動しなくては意味がない……らしい。空は理由を理解できていなかったが。

 

 先に言葉を発したのはラウラの方だった。

 

「……ひとつ。一つだけ、篠ノ之博士、貴女に問いたい。」

 

 きっちりと着こなした制服姿で軍人然とした態度を崩さずに口を開いた。

 

「どうして、ISを造り出したのだ。」

 

「……………。」

 

「それが私を……いや、これは捨て置こう。」

 

「……………。」

 

「私は、その理由をどうしても知りたい。」

 

 己の目をまっすぐに見つめるラウラに近づいた束は、普段より幾分かトーンの落ちた声で真摯に話し始めた。

 

「………君は、ISのせいで辛い目に遭ったんだね。」

 

「っ!?そんなことは……!!」

 

 聞いていない、と続けようとしたラウラだったが、それは叶わなかった。

 不意に、束がラウラを抱きよせたからだ。

 

「な、何を……」

 

「最初はね、別に誰がどうなろうと構わなかったんだ。たとえISのせいで赤ちゃんが死んでも、幼気な子供が殺されても、何も思わなかった。所詮は有象無象、どれもこれも取るに足らない奴らばかりだから。けど、やっぱりそれは違うんだって気付かされたんだ。お母さんたちにもよく言われたかな。他人の気持ちを考えなさいってさ。」

 

 居心地が悪くなったのか、ラウラがもぞもぞと身じろぎをする。

 

「一般人を巻き込まないようにし始めたのはそれからだよ。人間の価値ってものは一意的に決まるわけじゃないしね。それでも例外はもちろんあるけど。」

 

「だ、だから――」

 

「ああ、ISのことだっけ。あれはただ単に宇宙を目指したかったからだよ。人間が自由に宙を飛ぶ、これだけでもすごいことだと思わない?………まぁ、全部学者どもに否定されたんだけどね。それで、そいつらに認めさせるために軍事的な方法を使ったんだ。これが多分君の遭ったことの原因かな。だから、ごめんね。」

 

「………。」

 

「…………やっぱりあれは、結構な悪手だったかなぁ。」

 

 言いたいことを言い終えた束は最後に小さく呟くと、さっとラウラから離れて静かに話を聞いていた空の隣に立った。

 

「これがIS開発の動機だよ。どう?思ったよりしょうもない理由だったでしょ?」

 

「………………いや、そんなことはない。」

 

 頭の中で束の言ったことを整理していたからかうつ向いていたラウラは、ゆっくりと顔を上げた。

 

「くだらないなんてことはない。確かに私がISによって苦しんだことは事実だが、それはあくまで間接的なものであり、私の中に燻ぶっていた悪感情も既に私が決着をつけている。故に、貴女が気にすることはない。………思えば、私は生まれが生まれであるから自由奔放な貴女を羨んでいたのかもしれないな。」

 

「それじゃあ君は……」

 

 その時、ラウラの後方で突如として扉が出現し、それに気配のみで気づいた彼女が振り返った。と同時に中からクロエが姿を現した。

 

「お母さん、終わりました…よ…………。」

 

「な……ま、まさか………。」

 

「あ、なたは……。」

 

「姉さんっ!」

 

 クロエとラウラは同じ研究所で生まれ、複雑な調整や設定をいち早く終えたラウラが先に社会に出ることとなった。しかし、試験管の中にいる時でも五感は働くのでクロエはこれを見ていたのだ。クロエはその研究所に居た研究者から不完全体と呼ばれていたが、それが気にならない程に、姉妹たちの中で唯一表の世界へと旅立った妹を気にかけていた。

 

 その妹と再会したのだ。長らく心配していた妹と、試験管にいたためにできなかった触れ合いができたのだ。自身に抱きつく妹を見るクロエの中では様々な感情が渦巻いた。嬉しさ、喜び、安心といったものから……嫉妬といったものまで。

 突然の邂逅からしばらくした後、自分の前方にいる両親に見守られる中、ようやくラウラに声をかけた。

 

「………久しぶりですね。元気にしていましたか?」

 

「ああっ、勿論だ。そういう姉さんこそ大丈夫か?あれから何かされなかったか?聞いたところによるとあそこは事故で消し飛んだようだが……」

 

「ふふっ、心配しなくても大丈夫ですよ。お父さんがあそこから私を救い出してくれて、お母さんが不安定だった私を治療してくれたので。」

 

「お父さんとお母さん……?」

 

「ああ、そこに居るお二人のことですよ。篠ノ之 束と星野 空といいます。」

 

「そうか、貴女たちが……紹介が遅れたな、私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。姉さんのこと、感謝する。」

 

 クロエの言葉にラウラは目を丸くするが、すぐに二人に向き直って頭を下げた。

 

「うん、よろしくね。」

 

「よっろしくぅ!」

 

「ラウラ、そこまで硬くしなくても大丈夫ですよ。なんといっても私たちは家族ですから。」

 

「家族……か。それなら……」

 

 ラウラが何かに少し悩んでいると、長い電話が終わったのか話の腰を折らないよう気遣って待っていたのか、ようやく千冬が部屋に入ってきた。ラウラと双子のようなクロエを見て彼女は驚くが、その存在に気付かずにラウラは続けた。

 

「ママは教官…がいいな。」

 

「えぇっ!?なんでぇ!?くーちゃんが私の娘だったらその妹のらーちゃんも私の娘になるんじゃないの!?」

 

「!?」

 

 言葉の上では残念がっているように聞こえるが、束の顔はいやらしい笑みで一杯だ。隣の空も珍しくニヨニヨしている。

 それを怪訝に思うラウラだったが、構わず続ける。

 

「確かにそうなるが……私は教官のことが好きだからな。私の心を救ってくれたというのもあるが、普段厳しそうに見えて実はかなり面倒見がいいんだ。それに優しい。どこか心配性なところもあって少々過保護になることもあるが、私にはそれが好ましいのだ。」

 

 話しているうちにラウラの顔にはとても嬉しそうな笑みが浮かび、自慢げな表情となっていく。それに比例して千冬の顔が赤くなっていき、羞恥に耐えきれずぷるぷると震え出した。面に向かって褒められるという経験が少ない彼女にはそれへの耐性がないのだから仕方がない。やめろと言いたくても、本当の娘のように可愛がっていたのだろう、ラウラに強く出ることができないのだ。

 流石に千冬を気の毒だと思い、クロエがラウラに耳打ちする。

 

「ラウラ、後ろに貴女のお母さんがいますよ。」

 

「ふぇっ!!?」

 

 今度は、千冬の存在をようやく確認したラウラが顔を赤くする。空と束、クロエはただ優しく見守っているだけだ。

 

「ききき教官っ!?いいいつの間に…」

 

「い、いや、つい先ほどだが……」

 

「いや、その、違うんです!あれは、その…」

 

「……………なら。」

 

「……へ?」

 

「わ、私でいいのなら、母親代わりになってやらんこともない。」

 

「…………え?ほ、本当ですか!?」

 

「………嘘であって欲しいのか?」

 

「そんなことはないです、教官!」

 

「ならば、もう教官呼びはやめてもらえないか…?」

 

「で、ですが……」

 

「その敬語も禁止だな。ふふ。ほら、甘えてみろ。」

 

「…………その、ママよ。私を、抱きしめてくれないか…?」

 

「ああ、勿論だ。」

 

 幼くして両親がいなくなった千冬と、そもそも親らしい親がいなかったラウラ。二人とも一人になることの多い日々を過ごしてきたのだ。人肌が恋しいのかもしれない。そのせいか、千冬とラウラはともに相手を抱きしめる手に力が入っている。

 

 

 

 そんな様子を見ているもうひとつの母娘組はというと。

 

「ラウラ……良かったですね…本当に。」

 

「ちーちゃんも物凄く嬉しそうだよ。こっちまで嬉しくなっちゃうね。ほらくーちゃんも、ぎゅぅぅー。」

 

「わぷっ、ちょ、お母さん…」

 

「ああもう!恥ずかしがってるくーちゃんかわいい!!」

 

 

 流れで一人蚊帳の外となってしまった空は、時計を確認すると台所に向かった。そろそろいい時間だ。昼からラウラを迎えに行っていた千冬もだが、ずっと作業をしていたらしい束とクロエもお腹が空いていることだろう。一夏たちは外で食べてから戻ってくると聞いているので、今日は五人で食べることとなる。五人前となると割と時間がかかりそうだ。

 クロエとじゃれついていた束も、ラウラと抱き合っていた千冬も空の動きに目敏く気付いた。

 

「あ、ご飯作るの?だったら私も手伝うよ!」

 

「それなら私も手伝います。お二人は待っていてくださいね。」

 

「いや、私も手つだ」

 

「ちーちゃんは待っててね!ねっ!!」

 

「む…しかし……」

 

「ラウラちゃんと話してるといいよ。結構長い間会ってなかったんでしょ?積もる話もあるんじゃない?」

 

「………ではそうさせてもらおう。」

 

「ご飯は期待しててね。腕をふるって作るからさ。」

 

 渋々と引き下がった千冬とラウラはベッドに腰掛け、束とクロエは空と一緒に台所に並んだ。少しもしないうちに部屋の奥から談笑の声が聞こえてくる。かくいうこちら側も、束がミスしたり、クロエが諫めたり空が慰めたりと、楽しそうだった。

 





「―――なるほど、そんなことが」
「それでもうちの部隊はいいものだぞ」
「そのようだな。まさかあのクラリッサがああなるとは私も予想できなかったぞ」
「だがそれで部隊の雰囲気は良くなったんだ」
「………ところで、その『ママ』という呼び方はどこで…」
「クラリッサだが?」
「やはり……」
「もしかして嫌だったか…?」
「そんなことはないが……学校ではそう呼ぶなよ?そこでは私たちは教師と生徒なのだからな」
「大丈夫だ、問題ない」
「…本当に大丈夫か?」

「いやぁー、それにしてもあのちーちゃんがお母さんかぁ…」シミジミ
「私も少し驚きです。お母さんの話ではそのような人ではないと…」
「……束、クロエちゃんになにを教えたの」
「えーっと……料理ができなくて、掃除もできなくて、洗濯もできなくて、とにかく家事ができない人……かな?」
「合ってるけどさ、もう少しマシな言い方はなかったの?」
「あはは…ちーちゃんって言ったらまずこれが浮かんじゃって……」
「いい、クロエちゃん?確かに束の言ったことは正しいけど、もっと他のことも見てあげるんだよ。」
「わかっていますよ、お父さん」
「ちょっと、なんか私が悪いみたいになってない?」ブーブー
「それより手を動かそう。五人分作らなきゃだし」
「むー……最近私の扱いが雑な気がする………」
「そんなつもりはないんだけど……」
「ちょっ、お母さん!?醤油入れすぎてますよ!?」
「へぇっ!?」
「お酒も多いですって!?」
「うそぉ!?」
「塩入れ忘れてますよ!?」
「うわぁぁ!?」

「………今日の料理は大丈夫なのか?」
「お前が言えることでもないだろう。……私も他人のことは言えないが」
「ふむ、私も料理の練習をするべきか…?」
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