『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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2.凍土・エリア1
● 狩ります / ambush


 先頭を歩くバニィさんが小さく息を飲んで、素早く針葉樹の幹の背後に隠れた。そのまま顔を見もせず手信号で指示を出し、マーキさんとジュンさんが即座にバックパックを下ろして行動を開始する。

 その滑らかさに、あたしは驚嘆するしかなかった。

 ここはハンターズギルドが定義する、凍土の“エリア1”。

 ベースキャンプを河に沿って北上し、しばらくしたところで左手に折れて山道に入り、そのまま一時間ほど針葉樹林の中の小道を進むと到達できる。周囲を隆起した地形に取り囲まれた窪地で、木々の類は生えておらず、氷に閉ざされた短い下生えの平らな地面を、風が静かに舐めていくだけの静かな地域。

 危険な動物の目撃例は少なく、だからこそ近くにベースキャンプが敷設されたんだけど――

 まさか、こんなところでティガレックスに遭遇するとは。

 決してピクニック気分じゃなかったし、その心の準備はしていたつもりだった。しかし、もしあたしへの指示が『待機、動きがあったら左手から攻撃』じゃなかったら、二人のように迷いなく動けたか?

 その自信がない自分を戒めるように、バニィさんの広い背中の後ろで、身の丈ほどの全長を持つボウガン――『バズルボローカ』に装填した通常弾を指で数える。六発。

 鐘は半時間ほど前に鳴ったばかり、奇襲に影響はない。

 ジュンさんは“エリア1”の境界を右手方向へと音もなく走っていき、マーキさんはもっとゆっくりした歩調で静かにその後を追う。

 数分後、視界の端でチカッと光信号が見えた。色は緑、マーキさんだ。

 ジュンさんはあたしからは見えない位置に移動したのか、信号は見えない。

 バニィさんも鏡をチラリと動かし、返信の黄の光を閃かすと――

「うっしゃあぁ!」

 わざとらしい大声と共にマーキさんが飛び出した。

 大盾で右半身を覆い、ランスを正面に向けての愚直なチャージ――陽動だ。

 もう本番だ、自信の有無は関係ない。

 姉のことを思い出せ。

 あたしにもできるはずだ!

 ボウガンのストリングを引き、幹の左手から身体を転がり出す。

 窪地の中を走り抜けるのは小さな黒い影。

 だが別方向から走りくるジュンさんに気付くと、影は方向転換。

 ――あたしの方へくる!

 腰だめに構え、

 ブレと距離を計算し、

 トリガーを引く。

 ストリングがプライマーを叩き、成型火薬に着火。

 発砲音と燃焼ガスと共にカートリッジが射出。

 カラの実のカートリッジが、空中で分解。

 ハリの実の弾頭が真っ直ぐ影へ――

「え?」

 ――弾頭は着弾の圧力で実の先端から裂けて、長い角の一方を根本からへし折りそのまま脳天をぶち抜いた。

 その二メートル程度の影は転倒、動かなくなる。

「あれ?」

 バニィさんが幹の右手から土煙とともに走り出す。

 背中のハンマーを抜き放ち、その挙動のまま地をえぐるように振り上げ。

 すくい上げられた草食動物のガウシカは宙を舞い、地に落ち……絶命した。

「よし! いいよ!」

 バニィさんが腕と声で合図すると、目を輝かせたマーキさんと、ポンチョの中で肩を竦めたジュンさんが近付いてくる。

「肉と毛皮を剥ぎ取っておいて」

 あたしは射撃姿勢のまま、口を閉ざすことしかできない。

 バニィさんはそんなあたしのところに走り寄ってくると、肩を叩いた。

「グッジョブ! そのボウガンはクセが強いと思ってたけど、もうモノにしてたとはね」

「あ、はい、探索がない時は訓練してましたし……じゃなくて、え、えっと」

「群れからはぐれたガウシカだね。運が悪かったけどしょうがない」

 ガウシカはポポとは逆で、寒冷期の終盤から温暖期いっぱいまで凍土に北上してくる草食系哺乳類で、低脅威動物に属する。雄には巨大な角が生えており、その素材は“ハンター”の装備よりも一般家庭や建材で使用されることが多い。

 ……じゃなくて!

「あの!」

「ん?」

「ティガレックスは……どこに?」

 あたしの言葉にバニィさんは目を丸くしたが、その意味を数瞬で汲み取ったからしく、先ほどの手信号を繰り返した。

 ……ああ、『低脅威目標』って言ってたのね。

 あたしは脱力して、ペタンと氷の上に腰を落としてしまった。

 バニィさんは困った表情で息をはく。

「ごめん、ボクの手信号が速すぎたね。君が緊張してたのは分かってたから、もう少しゆっくりするべきだった」

「あ、いえ、その……」

 だってさっきの檄を聞いてたら、ここでただの草食動物を狩るなんて想像しないじゃん! 食料も防寒具もたっぷり持ってきたのにさ!

 ……というのがあたしの本音なんだけど、とてもじゃないけどそんなこと言えない。

「あたしも次は気をつけます。ごめんなさい」

 バニィさんは笑って頷くと、ハンマーと自分のバックパックを背負い、二人分のバックパックを手に二人のところへ向かう。

 あたしもガンナー用拡張ポーチから通常弾を出してボウガンに装填、ストリングを定位置に戻し、ストラップで肩にかける。

 結果オラーイ? 釈然としない。

 みんなと合流するのは、気が重かった。

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