『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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● 飛竜種と初遭遇です / absolute power

 ――ティガレックスは飛竜種に分類されるが、前肢は走行のための強靭な筋肉と爪を有する“腕”として進化しており、翼膜は発達した第四指と背中の痕跡器官として残されただけで、滑空程度にしか使えない。そのため長距離を移動する際には“飛ぶ”というより“跳ぶ”ことになるため、跳躍の方向から外れるようなルートを通れば逃走も可能らしい。その辺りの情報は、ハンターズギルドの文献の写しで穴が開くほど読んだ。

 でも、ああ、そんな事前情報がなんだというんだろう。

 体長一五メートル近いその巨躯が、氷を易々とえぐった巨大な爪が、ムチのようにしなやかに地を打ち、先端に鋭く長い棘を尻尾が、あたしを逃がしてくれるとでもいうのか?

 それはまだあたしに背を向けていて、大きく前傾した姿勢ゆえに顔も見えてない状態なのに、もう身体を地面に縫い付けられた気分なんだぞ?

 スケールが違う。

 これが飛竜種?

 いや、“ティガ”なのか?

 大きさじゃない、あたしが今まで出遭った“モンスター”が持っていなかった威圧感がある。

 同程度のサイズだった“水獣”ロアルドロスには感じなかった、“凄味”が。

 クソ、『飛竜種を狩りたいだ』なんて笑わせるぞ。

「エリちゃん、一旦退いて体勢を立て直すんだ!」

 ティガの向こうでバニィさんが叫んでいる。

「“エリア4”への通路へ逃げて、ティガを観察して――」

「――そんな状況じゃあねえぞ!」

 顔を上げると、盾を構えたマーキさんがティガを覆い隠して立っている。

「立てエリちゃん! レクチャー受けたんだろ!? 今さら腰抜かしてる場合かよ!」

 盾に隠れて叫びかけてくるが、あたしは指先を振るわせたまま、立ち上がることもできない。

「こんなのはザコだ! 図体がでかくて大食いなだけでザコだ! オレらにとっちゃこいつは生肉でしかねえ! そうだろ生肉!」

「ちょっと、マーキさん!」

 マーキさんはあろうことか、もうティガに言葉を投げ始めた。

 その声を聞いたか、ティガが首を持ち上げて、わずかにこちらに傾ける。

 それ単体が小型の肉食動物ほどもある頭が見える。

 その半分を引き裂くように開いた口が、嘲るように歪む。

 悪寒が走り、指先が震えた。

 一瞥でこれなのか。

「ざ、ザコったって、マーキさんは――」

 『――戦ったことあるんでしょ?』と口に出る前に、目に入ってしまった。

 ティガの右奥に転がっている、さっきあたしをおののかせたポポの死骸が。

 頭を氷の中に押し込まれて、血の塊になった頭と、意図せず見せることになった首の切断面が。

 ――あたしもあんな風になるの?

 マーキさんが顔だけで振り向き、あたしの視線の先を追う。

「そこにいたってああなるだけだぞ! お前はこいつに食われたいのか! 食いたいのか! どっちだ!」

「ど、どっちって、別にこんなの食べたくないですよ!」

「でも食われたくもないだろ!」

 そ、そりゃそうだけど!

「お前はこの程度で腰抜かすマジもんの“名誉ハンター”なのかよ!」

 “名誉”?

 あたしが今までこなしてきた“ハンター”稼業は、“名誉”の威を借っていたか?

 ……違う。そんなつもり、ない。

 初めて中脅威肉食動物の“大猪”ドスファンゴに出遭った時のことを思い出せ。

 あいつだって、村の大人を跳ね飛ばして一生残る怪我を負わせたり、その牙で何人も死なせたりしてたじゃないか。

 出遭ってしまった以上、本質的にはファンゴもティガも、大きな角を生やしたさっきのガウシカだって同じだ。

 ミスすれば死ぬ。

 あたしはそれをミスせずこなしてきた。

 “名誉ハンター”なんてレッテルで、自分を下に置いちゃダメだ。

 なしくずし的でも棚ボタ的でも“名誉”でも、あたしは既に“モンスターハンター”、その上位。

 姉のおまじないを思い出せ。

『恐怖を否定するな。勇気は恐怖からしか産まれない』

 飛竜種を倒して、かっこ悪い自分のギルドカードにピリオドを打って、“名誉”を返上するんだろ。

 憧れのハンターに近付くんだろ!

「……あたしを“名誉ハンター”と呼ばないでください」

「なら証明しろ! こいつを食ってみせやがれ!」

 もう震えてない。

 ボウガンの通常弾を再度確認。

 思考を瞬間的に言葉で処理し、その一つ一つで自分を支える。

 前傾姿勢だったティガが、さっと身体を起こした。

 隠れていた首筋が再度露出した。チャンスだ。

 ボウガンを小脇に、マーキさんの横へと躍り出る。

「あ、ちょ待てやめろエリちゃん!」

「やらせてください!」

 先制攻撃はもらった!

「耳をふさげ!」

「えっ――」

 ――視界がたわみ、直後、あたしの全ての感覚が消失した。

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