『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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● アレは大嫌いです! / unconquerable aversion

「マーキさん、どうです?」

「やっぱり角度が深くなってる。南の方に移動してるな」

 数分前から鼻をひくつかせていたマーキさんは、右の方に首を傾けた。彼は若干二五歳の時点で既に、ペイントの匂いから単独で“モンスター”の位置を特定する技能を獲得している。

「ベースキャンプの方に?」

「いや、“エリア1”の方だ。ベースキャンプはこっからだと南西の方になるだろ。大体予定どおりだな」

「予定?」

「ガウシカの死骸置いてきたろ? ポポ以外のメシ目的なら、あっちに惹きつけられるかもってさ」

 ああ……それでバニィさんはガウシカの討伐を命じたのか? なら言ってくれればよかったのに……。

「ん、じゃあ“エリア3”から“エリア2”に行かないで、直接“エリア1”に向かった方がよかったんじゃないです? 結果論かもですけど」

「いや、結果論を持ち出すなら、こっちが最良だ。双眼鏡はあるよな?」

「え? は、はい……」

 普段は見通しのよい雪原の道で、最初は“エリア2”の奥にある山脈まで見通すこともできたのだが、今はもう午後五時を回るかどうかの時間だ。周囲はあっと言う間に墨を流したような黒で覆われ、あたしたちが持つたいまつは風に混じった雪を照らせるだけだった。突然ティガと鉢合わせる危険は……ペイントの匂いの接近で気付けるだろう、と割り切っていた。

 右手の針葉樹林を基準に道を進んでいると、さっと開けて、だだっ広い雪原に到達した。

 ここが凍土の“エリア2”だ。ただただ広い雪原は氷河によって削られてできた地形であり、足元には摩擦で丸く削られた礫が敷き詰められ、植物の気配は南側の針葉樹を除いてまったくない。南側には“エリア1”へと下る急勾配の山道が続き、北側には、さっきまでいた“エリア3”から連なる凍りついた山々が引き続き延びており、二箇所で暗く冷たい洞穴が口を開けていた。

 曇天の中央からは細いケーブルが垂らされていて、雲の向こうにはエリアとクエストの状況を見守る観測船がいるのが分かる。ケーブルは先端に受光機とスピーカーがあり、あたしたちはそこに光を当てることで観測船に信号を送り、逆に観測船は音であたしたちに信号を送ることができるのだ。

 そしてここより北東方向が、この地域の名称ともなっている、年平均気温が氷点下を下回る永久凍土が待ち構える、極寒の地となる。ここより先へ進むか進まないかで、ハンターの装備は大きく変わってくるのだった。

 ……でも、今はそこも、この“エリア2”自体にも用はない。

 ティガは何度かの跳躍でここに辿り付いたらしく、低脅威動物の小さな足跡だけがポツポツと残る綺麗な雪の上を、道中にもあった着地の痕跡が醜く乱している。だがティガはここにはいない。ペイントの匂いを位置情報に変換するマーキさんの言葉を元に、あたしたちは南側の山道から“エリア1”に向かうのだった。

「ああ、違う、そっちじゃない。こっちだ」

「へ?」

 声がした方を見ると――

「なにしてるんです!?」

 ――人が通らずでこぼこした氷に、雪をまぶした安定感のない丘の頂上で、たいまつの明かりが揺れてるじゃないか。距離も大分離れているけど、いつの間に。

「エリちゃんこっち! こっちの方がよく見えるんだよー!」

「だから、なにがです!?」

「ティー! ガー!」

 うん、分からん。

 だがマーキさんは再度の手招きをして、雪を滑る音と共に丘の向こうに行ってしまった。

「こっちって、もう道に降りられないんじゃないの?」

 あたしは呟きながらも足元に注意して丘を登る。幸いところどころに木の幹や風に撫でられた岩があって、丘の輪郭も夜空を背景に見ることができたので、登攀にはそれほど苦労しなかった。

 というかこの丘、降りる方が危険だぞ。ブーツの底には氷上でも歩けるように細かなスパイクをつけているけど、闇と雪と影で地面がどこにあるかはっきりしないんだから、注意しどころが分からない。

「マーキさん? どこです? 足元に気をつ――」

 ベトリ。

 ――息が止まった。

 首筋に、なにか。

 柔らかい重みが。

 滑らかな感触が。

 痺れるような痛みが。

 こ、これは。

 あ、あ。

「ぎいいいやああああ!!」

 叫び、走り、走り、転び、転がる。

 転がり転がり転がり、ぶつかって止まる。

「誰か! ちょ、誰かああああ!」

「なにしてんだよ」

 左肩をぐいと地面に押し付けられ、更に舐めるような赤い炎が近付いてきて――

 キイイイ!

 ――と高い声を出して、あたしの首からなにかが離れた。

「あ、ああ、おお」

「エリちゃん、そろそろ慣れたら?」

 あたしは身体を起こすと、首筋から垂れてきた血に首を振り、雪まみれになったポーチから大急ぎで応急薬を取り出す。

「これはギィギと言って、ギギネブラの子供だ。直径二〇センチ、長さ四〇センチほどの、白っぽい円柱型の生き物で、鋭い歯で獲物に食らいつき、血を吸い出して毒を出す生き物だ。エリちゃんが大嫌いな滑らかな皮膚はまるでオモチのようで、ちょこんと出た短い足はまるでふくれたオモチのようで」

「説明すんなああ!」

「えー。描写しておかないと読者が分からないじゃん」

「そんな推敲されてない描写はカット! この部分カット! 全部カットしますから!」

 結局カットしなかったんだけど、でも、描写はしません。

「オモチっぽいよなあ。ユクモで食ったオモチ、美味かったなあ。あのあと五キロくらい太ったんだよな。でもギィギは焼いたら不味いんだよな。ああ、オモチ食いたい」

 描写はしません。

「お、ほらほら、歯でオレのヒゲをカサカサしてるぜ。可愛いよなコイツ」

 描写はしま。

「とりあえず、エキスだけ吸っておいていい?」

 描写は。

「火を近付けて、いやがって口を開いたところにこう、ナイフを突き立ててさ」

「うるせええ黙ってやってろやああ!」

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