『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
● 初めて秘境にきました / obbo
一応補足すると、ギィギエキスはタンジアの港でもそれなりの珍味として有名で、持ち帰るといい値段で買い取ってもらえる。クエスト中のハンターの食べ物としては、限りなくグレー扱いだ。
言うまでもないけど、あたしは絶対に飲まない。絶対にだ。
さて、すさまじく危険な方法で丘を一つ降りたあたしは、若干の登りとまだまだ続く下り勾配の雪原を進む。
「ギルドが定義したエリアの外なんて、初めて来ましたよ」
「そういうハンターは多いぜ。だからその辺の岩やら骨やら、結構古いもんが残ってたりするんだ」
確かに、人の手はほとんど入っていないように見える。針葉樹の密度も高い。
マーキさんはニチニチと≪自主規制≫の≪自主規制≫を噛みながら、時々あたしに口の中を見せようとしてくる。子供か。
ちなみに狩った“モンスター”は、大型であれ小型であれ、討伐数や理由をハンターズギルドに申請することになっている。その辺りは“自然と人間の共存”を目的とするギルドなら当然のことだろう。基本は“素材採取のため”とか申請しておけば問題ないんだけど、あんまりに討伐数が多いと、その“モンスター”が一定期間討伐禁止リストに載っちゃったりするから、“ハンター”には節度が求められてるのだ。
三〇分ほどの移動で風の音が変わってきた。周囲の高低差が大きくなったらしい。
林がまばらになってきて、吹き上がってくる風から顔を庇って――
「うわあ!」
――目の前が上から下まで真っ暗になって、あたしの足がすっぽ抜けた。
「おいおいおい」
なんとかバランスをとるあたしのバックパックを、マーキさんが掴んで後ろに倒してくれた。
ここは崖の上だ。登ってくる風があたしの服の羽根を吹き上げて、後ろでまとめた髪をかき混ぜてくる。
身体を起こして、目を凝らして、眼下に広がる窪地と向い側の隆起した土地が見えてきた。それには見覚えがあった。
「ここって、“エリア1”の北側の崖の上なんです!?」
ごうごうと唸る風に耳たぶの中をかき回されるので、マーキさんに叫びかける。
「そうだぜ! ティガが“エリア1”に向かったんなら、オレたちは馬鹿正直に同じ土俵に立つ必要はない! 上から覗き込んじまえばいいってこと!」
なるほど正論だ。口の中のものはともかく。
吹き付ける風に注意して這うように身を屈めると、大分騒音が小さくなった。そのまま崖ギリギリまで進んで、闇の中を覗き込む。
「うわあ……!」
地図で何度も見た、凍土の“エリア1”の輪郭線そのものの中に、あたしたちが狩ったガウシカや、よくハチミツを取りにいくハチの巣や、メラルーが盗品を隠しておくほこらが点在している。
不思議な気分だった。
観測船に乗って空を飛んだことはあるけど、あっちは高度が高すぎて逆に現実味がなかった。でもここでは高さ三〇メートルくらいだから、自分の足で歩いた道を、ほんの一歩引いて見ることができる。
これが空を飛んでいる感覚なんだろうか。
「風に気をつけろよ。落ちたら血の染みだぞ」
「分かってますって」
分かってはいるが、身を乗り出さずにはいられない。
「ちなみにギィギは木の上からも落ちてくるからな」
せっかくの気分を、この男……。
「でも普段あたしたちがうろうろしてるすぐ上に、こんな秘境があったなんて」
「地図だけ見てたら、エリアと、エリア同士の繋がりしか意識しないからな。こういう空白の部分は見逃しちゃうんだよな」
確かに、エリアから出ようとするなんて思いもしなかったわ。
「さて、ペイントの匂いは下の方からだけど……もっと南か? 準備しよう。双眼鏡出しておいてね」
マーキさんはバックパックからガウシカの毛皮を出して、まだ血の滴る面を下にして、雪の上に敷いた。そして自分は雪の上に寝転がる。
「……寒くないんです? いや、一人分のスペースしかないのは分かるんですけど」
どっちにしてもホットドリンクを飲んでいるから、多少雪に触れていても大丈夫なんだけどさ。
「オレの装備は水を弾くからな。エリちゃんのは濡れちゃまずいだろ?」
確かに、マーキさんの鎧は“水竜”の鱗で作られており、水への耐性は高い。対してあたしの“紅彩鳥”の羽根で作られた服は、鳥の羽根ゆえそれなりの撥水性はあるものの、一度濡れると乾くのに時間がかかってしまう。ティガと対峙する可能性がある今において、水の重さはバカにならない。
と、そんな理屈が分かった上で――
「――ドMだから、じゃないですよね?」
「違うって……」
バニィさんの顔を思い浮かべ、なんとなくそのキーワードが浮かぶあたしだった。