『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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5.凍土・秘境
● 初めて秘境にきました / obbo


 一応補足すると、ギィギエキスはタンジアの港でもそれなりの珍味として有名で、持ち帰るといい値段で買い取ってもらえる。クエスト中のハンターの食べ物としては、限りなくグレー扱いだ。

 言うまでもないけど、あたしは絶対に飲まない。絶対にだ。

 さて、すさまじく危険な方法で丘を一つ降りたあたしは、若干の登りとまだまだ続く下り勾配の雪原を進む。

「ギルドが定義したエリアの外なんて、初めて来ましたよ」

「そういうハンターは多いぜ。だからその辺の岩やら骨やら、結構古いもんが残ってたりするんだ」

 確かに、人の手はほとんど入っていないように見える。針葉樹の密度も高い。

 マーキさんはニチニチと≪自主規制≫の≪自主規制≫を噛みながら、時々あたしに口の中を見せようとしてくる。子供か。

 ちなみに狩った“モンスター”は、大型であれ小型であれ、討伐数や理由をハンターズギルドに申請することになっている。その辺りは“自然と人間の共存”を目的とするギルドなら当然のことだろう。基本は“素材採取のため”とか申請しておけば問題ないんだけど、あんまりに討伐数が多いと、その“モンスター”が一定期間討伐禁止リストに載っちゃったりするから、“ハンター”には節度が求められてるのだ。

 三〇分ほどの移動で風の音が変わってきた。周囲の高低差が大きくなったらしい。

 林がまばらになってきて、吹き上がってくる風から顔を庇って――

「うわあ!」

 ――目の前が上から下まで真っ暗になって、あたしの足がすっぽ抜けた。

「おいおいおい」

 なんとかバランスをとるあたしのバックパックを、マーキさんが掴んで後ろに倒してくれた。

 ここは崖の上だ。登ってくる風があたしの服の羽根を吹き上げて、後ろでまとめた髪をかき混ぜてくる。

 身体を起こして、目を凝らして、眼下に広がる窪地と向い側の隆起した土地が見えてきた。それには見覚えがあった。

「ここって、“エリア1”の北側の崖の上なんです!?」

 ごうごうと唸る風に耳たぶの中をかき回されるので、マーキさんに叫びかける。

「そうだぜ! ティガが“エリア1”に向かったんなら、オレたちは馬鹿正直に同じ土俵に立つ必要はない! 上から覗き込んじまえばいいってこと!」

 なるほど正論だ。口の中のものはともかく。

 吹き付ける風に注意して這うように身を屈めると、大分騒音が小さくなった。そのまま崖ギリギリまで進んで、闇の中を覗き込む。

「うわあ……!」

 地図で何度も見た、凍土の“エリア1”の輪郭線そのものの中に、あたしたちが狩ったガウシカや、よくハチミツを取りにいくハチの巣や、メラルーが盗品を隠しておくほこらが点在している。

 不思議な気分だった。

 観測船に乗って空を飛んだことはあるけど、あっちは高度が高すぎて逆に現実味がなかった。でもここでは高さ三〇メートルくらいだから、自分の足で歩いた道を、ほんの一歩引いて見ることができる。

 これが空を飛んでいる感覚なんだろうか。

「風に気をつけろよ。落ちたら血の染みだぞ」

「分かってますって」

 分かってはいるが、身を乗り出さずにはいられない。

「ちなみにギィギは木の上からも落ちてくるからな」

 せっかくの気分を、この男……。

「でも普段あたしたちがうろうろしてるすぐ上に、こんな秘境があったなんて」

「地図だけ見てたら、エリアと、エリア同士の繋がりしか意識しないからな。こういう空白の部分は見逃しちゃうんだよな」

 確かに、エリアから出ようとするなんて思いもしなかったわ。

「さて、ペイントの匂いは下の方からだけど……もっと南か? 準備しよう。双眼鏡出しておいてね」

 マーキさんはバックパックからガウシカの毛皮を出して、まだ血の滴る面を下にして、雪の上に敷いた。そして自分は雪の上に寝転がる。

「……寒くないんです? いや、一人分のスペースしかないのは分かるんですけど」

 どっちにしてもホットドリンクを飲んでいるから、多少雪に触れていても大丈夫なんだけどさ。

「オレの装備は水を弾くからな。エリちゃんのは濡れちゃまずいだろ?」

 確かに、マーキさんの鎧は“水竜”の鱗で作られており、水への耐性は高い。対してあたしの“紅彩鳥”の羽根で作られた服は、鳥の羽根ゆえそれなりの撥水性はあるものの、一度濡れると乾くのに時間がかかってしまう。ティガと対峙する可能性がある今において、水の重さはバカにならない。

 と、そんな理屈が分かった上で――

「――ドMだから、じゃないですよね?」

「違うって……」

 バニィさんの顔を思い浮かべ、なんとなくそのキーワードが浮かぶあたしだった。

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