『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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● マーキさんと“水竜”の関係ってなんでしょう / markey's spin

 バックパックをマーキさんのものと一緒に木の幹に立てかけると、あたしは支給されたガウシカの防寒着をまとって毛皮の上に寝転がる。そして双眼鏡で“エリア1”をざっと見回す。

 三~四時間前に来た時と趣が違うのは、昼夜以上に風の有無が強い。さらさらと吹き上げられる雪と音を立てて揺れる木々のおかげで、丘を降りて窪地で渦巻き、崖にぶつかる風がよく分かる。これがあたしが今まで見てきたどの“凍土・エリア1”とも違う、とても動的で不思議な雰囲気だった。

 とマーキさんに話したら、『そんなことよりメシ食おうぜ』と簡単に返された。風情のない人。

 その言葉通りバックパックから携帯食料を取り出したマーキさんは、火を起すか一瞬迷ったようだったが、結局なにも言わずにそのまま食べ始める。

 双眼鏡を覗いて一息ついて……。

 ティガはやってきた。

 窪地の南側に転がっているガウシカの死骸――あたしたちが狩り、今まさに敷いている毛皮の持ち主――の左手側を、彼は二足歩行で歩いている。

 そう、二足歩行で歩いているのだ。頭、胴、尻尾を水平にして。先ほど接触した時には、ティガは前傾姿勢で肘を上げた状態で両手を地面につけ、不自然とも思える四足歩行で走っていたのに。

 タンジアでのレクチャーでは『“飛竜”なのに走るのか!』と揶揄されたティガだが、こうしてみると、シルエット的にはオーソドックスな飛竜である“火竜”や“角竜”と変わりない。きっと、高速移動すると共に、地面を這う獲物に対する投影面積――攻撃範囲を最大にするためにあの姿勢を編み出し、その攻撃のために翼を退化させた“飛竜”がティガレックスなんだろう。

「なるほどねえ」

「どうした? なんか分かったか?」

「あ、ううん、いえ、違います!」

 身体を休めるマーキさんに否定の意を示し、あたしは観察に戻る。

 ティガはガウシカの死骸に顔を近付けると、首を下げて、周囲を見回すように各“エリア”への出口に巡らせた。

 やがて警戒をやめたティガは、体勢を下げて四速歩行に移行すると――思い切りガウシカを叩き潰した。

「うわ!」

「おいおい、なんだァ!?」

 意外な行動に思わず声を上げてしまうけど、空気に乱された音はティガの耳には届かない。

 死骸を片手の爪で押さえると、大口を開けて食らいつく。

「メシか? 大胆な食いっぷりだな」

「いえ……あれ食べてないです。投げ捨ててますよ」

 文字通り、“噛み千切っては投げ”。

 四肢が断裂して方々に投げ捨てられる。あたしがへし折ったガウシカの角も崖まで吹っ飛び、跳ね返った音が小さく聞こえた。

「どうなってんだよおい」

 分からない。

 ヒトであれ“モンスター”であれ、生物の行動は三大欲求に支配されていると考えていい。

 すなわち、食欲、性欲、睡眠欲――食って、気持ちいいことして、寝る、だ。

 だけどティガはそれに囚われない、むしろ人間と同じように複合的な欲求によって行動していることが分かっている。なにしろ凍土にくる本来の理由からして、「ポポ=美味しいものが食べたい」なんだから。自らの生息地から遠く離れて、場合によっては生命の危険さえある凍土に“食”を求めて毎年通うなんて、どんなグルメだよ。マーキさんかよ。

 だから今回のケースもその三大欲求じゃないだろうというのが、ハンターズギルドや古生物書士隊での共通認識だった。

 だったんだけど……。

 なんだ、この行動は。なんの意図があるんだ。

 ポポを押し潰したのは捕食のためだと思うけど、これはなんなんだ。あたしたちから逃げたことで“絶対強者”のプライドに傷がついたから、そのカンシャク? いや、カンシャク起こしても逆にプライド傷付くよね。

 ポポの死骸を見た時に感じた恐怖心とは違う、純粋な疑問がわだかまる。

 異常な行動が終わり、ティガは息をついた。

 数時間前に死んだガウシカの肉片と血はあたりに飛び散り、それを風が雪で消そうと頑張っている。

 まるで何事もなかったかのようにティガは二足歩行に戻ると、足音を響かせて“エリア1”内を移動していく。

「あーあ、もったいね。まだ食えたのによお」

 なに言ってんだこの胃袋人間は……。

 でもそれは確かに気になる。

 どうして食べなかったんだ? あのポポの死骸で食事をしたのがいつかは分からないけど、さっきあたしたちと戦ってスタミナを使ったはずなのに、それを補充しようとしなかった。

 ギルド支給の剥ぎ取り用ナイフで傷付いた肉なんて食べないの? それが“絶対強者”のプライド? そんなのただの痩せ我慢じゃないか。

「ティガの肉かあ……。アマツのヒレより美味いのかな?」

「あの、そんなこと言ってる状況じゃないですよね」

 ……頭の芯まで休んでるみたいだな、こちらのプライドゼロっぽい人は。

「あークソ、またあいつのこと思い出しちまった。チクショウ、まだ港にいんのかなあ、あいつ。一発はぶん殴ってやらなきゃ気が済まんぜ」

 始まった。マーキさんはこのクエストに出発する直前、タンジアの港で“アマツマガツチのヒレ”と偽ってマンボウのヒレを売っていた商人に騙されていて、それをことあるごとに口にするのだ。

 その平然とした態度に、あたしは直前に見た光景の異常さについての疑問はするするとなりを潜めた。まあそうだね、今は情報をどんどん集めて、あとで全員で考えればいいか。

「おとぎ話の竜の食材なんて、看板の時点でニセモノ確定じゃないですか」

 だからあたしは、マーキさんの愚痴に乗ることにした。

「男には、負けるって分かってても、手を出さなきゃいけない時があんだよ」

「それで恨まれる方はたまったもんじゃないですね」

「美味けりゃよかったんだよ、美味けりゃさあ」

「そんなことでイライラしてないで、ティガのお肉を食べること考えて集中してくださいよ」

「へーへー。ティガは美味けりゃいいなあ。予想は筋っぽいんじゃないかと思うんだけど、エリちゃんはどうよ」

「どうでもいいです。どっちにしたってそんなの狩ってみなきゃ――」

 ん? 予想?

「――マーキさん、ポッケ村でティガを討伐した時、なんで食べなかったんです?」

「え、オレ討伐してないぜ」

「えっ? あ、じゃあクエストのメンバーが討伐したんですね。その時に――」

「――オレ、ティガに遭ったことないぜ」

「えっ?」

 マーキさんがこの調査クエストに手を上げた時――まだ彼の名前も知らなかった時――、その辺りをアピールポイントにしてたよね?

 してたよね!?

「えー!? じゃ、じゃあ、あの『倒したことあるぜ!』って手を上げたのはウソだったんです!? なんでええ!」

「だって、言ったらクエに参加できないじゃん」

 思わず双眼鏡から目を離し、マーキさんを見てしまう。

「いやいやいや、騙して参加したってことじゃないですか!」

「いやまあウソだけどさあ、他に『オレも討伐した!』ってヤツいなかったじゃん。同じ条件なら、エリちゃんだってオレがいいだろ?」

「え、なに!? なんなのその自信! なんで顎ヒゲさすっちゃってんの!?」

「チャームポイントだからな」

「うぜええええ!!」

 ははは、と朗らかに笑うマーキさん。

「ちなみにバニィとジュンは、さっさと気付いてるぜ」

「え、ええぇぇ……」

 ホットドリンクを貫通して鳥肌が立った。

 もう言葉もない。

 でも考えてみると、さっき突進をガードできるか分からないようなこと、言ってたね。バニィさんもそれに突っ込んでなかったし……。

「ああ、もう、あたしがマーキさんに感じてた心強さはなんだったのよ……」

「いいじゃん気付けてよ。ウソがあるからこそ真実の魅力が際立つんだぜ?」

 殴りたい。

「ほら、ちゃんとティガ見ておけよ」

 『知らないならマーキさんも見ててくださいよ!』とも言えず、慌てて双眼鏡を覗き込むのが悲しいあたし。

 ティガは“エリア”を繋ぐ出入口に気を配るように、首を下げて周囲を伺っているだけだった。なにかを探しているようにも見えるし、なにもしていないようにも思える。

 ……首を下げて、か。

「動きなしです」

「おう」

「はあぁぁ……」

「溜息つくなよー」

 つくよ、ほんと。

 あたしの心の拠り所を粉砕しやがって。

 …………。

 まあでも、ハンターズギルドのタンジア支部がマーキさんに騙されっ放しでいるわけじゃないだろう、ってことは分かるんだ。誰がなんの“モンスター”を討伐したかはギルド本部が一元管理していて、それをタンジア支部が問い合わせていないはずがない。今回のように重要度の高いクエストなら、なおさらだ。

 その上でマーキさんがクエストに採用されたってことは、あのウソに目を瞑ってもいい実力があると判断されたわけで。

 実際のところ、あたしが彼の立ち回りに心強さを感じてたのは間違いないんだよね。あの時点じゃ討伐経験を疑わなかったくらいだし、現に、あたしは三回も彼に助けられたんだし。

 うん……。

「さっきは、その、ありがとうございました」

「お、殊勝じゃん。でも帳消しでいいんだぜ、オレも助けられたしな」

「いえ、それじゃなくて」

「咆哮のこと? ありゃオレじゃなくて、引きつけてくれた二人に礼を言うべきだぜ」

「それでもなくて……その、なんでもないです」

 双眼鏡から目を離し、マーキさんを見る。でもポカンとした彼になんて言えばいいのか分からなくて、あたしは目線を戻した。

 そう、助けられた。

 飛竜種を目の当たりにして、動けなくなってしまったあたしの身体を動かした種火は、マーキさんの一喝だった。

 ドスファンゴを捕獲した自信、姉から教わったおまじない、“飛竜種を倒す”という目的、それらは全部燃料ではあったんだけど、あの種火がなければ燃え上がらなかったはずだなんだ。

 『生肉でしかない』

 初めて目にしたティガに対してもぶち上げられたあの矜持は、虚勢が混じっていたとしても、きっと紛れのない本心なんだろう。

 それに力をもらったのなら、マーキさんがどんなウソをついていたとしても、あたしが彼に支えられたことに変わりはない。

 “モンスターハンター”か。

「あたし、かっこ悪いですよね。飛竜種を狩るぞって意気込んでたのに、その背中を見ただけで腰抜かしちゃうなんて。上位亜ペッコの服着て上位ボルボロのボウガン使って『“上位ハンター”だぞ!』って顔してても、やっぱり中身は下位の“名誉ハンター”なのかなあ……」

 マーキさんに言うでもなく、口から言葉が漏れる。

「ううん、それ以前に、ティガが殺したポポを見ただけで竦んでたんだし。自信あるつもりだったんだけどなあ。初めてドスファンゴと遭った時は、もっとしょぼい武具で、武勇伝の“ハンター”みたいにいられたのに。ペッコもボルボロも、こんな“ハンター”に着られてて恥ずかしいですよね、きっと」

 自分の服とボウガンに目を落とすも、もちろん、なんの声も聞こえない。彼らはあたしとそのチームに狩られることで、永遠にこの世界から退場してしまったんだから。

 顔を上げてまた双眼鏡を覗くも、ティガは移動してない。

 耳を澄ませているのか、目を凝らしているのか、鼻を利かせているのか、なにもしていないのか。

 彼(彼女?)はなにを考えているんだろう?

 ジュンさんは“絶対強者”ではないと言ったが、彼も自分に不安を抱いたり、戦いに疑問を感じたりするんだろうか。

 見ただけでは分からない。言葉も通じない。ううん、通じたとしても、きっと分からない。

 その行動から、解釈して、判断するしかないんだろうか。

 彼の謎を?

 疑問と不安が巡り、あたしの顔は少しずつ暗くなっていく。

「休んでろよ」

「え?」

 あたしが双眼鏡から目を離すと、マーキさんはもぞもぞと雪の上を這いながら崖に移動していた。考え事をしていて気付かなかった。

「でも――」

「――いいから。オレが見てる」

 と双眼鏡を顔に当て、あたしに木陰を示す。

 その是非を問わない態度に、あたしは目を伏せる。

 そうだよね、こんな自信のないあたしが見張りなんて、心配でしょうがないよね。

 木陰に毛皮を敷いて、バックパックから取り出した携帯食料を口に、ノートにティガとの最初の遭遇やその前後の話を書き始める。だがやはり気になってマーキさんをちらちらと見ていると――なんだか、あたしに怒っているわけじゃないように見えてきた。

 頭をかいたり、耳をかいたり、足の裏をかいたりと落ち着きがなく、そわそわしてるような……。

 もしかして、照れてるの?

 そう思い至ると同じタイミングで、

「オレがこの装備……ガノス……あの“水竜”……ええとガノトトスの装備を着てる理由、知ってるか?」

 とマーキさんが言ってきた。

「え? ……いえ」

 知るわけがない。まだ知り合って二週間強なんだから。

「知ってのとおりオレはポッケの出身でさ、農場でポポの世話とかやってたガキだったのよ。別に“モンスターハンター”になんて憧れてるわけでもなくて、このまんま大人になって、オレより若い“ハンター”連中がこの農場でできた薬草とかハチミツとか持ってクエストに行くのを見ているんだろうなって、子供心に思ってた」

 なんだ、なんか昔語りが始まったぞ。

「でもさ、一五歳くらいの時か? “モンスターハンター”が狩ってきた“ガノトトスの大トロ”を食う機会があってな。それが滅茶苦茶美味かったんだよな。いやもうほんと、とろけるんだよ口の中で、でもさっぱりしてて残らないっていうか、口の中じゃ脂の塊みたいに濃厚なのに喉ごしや後味は水みたいにあっさりなんだよ、分かるかなこの感じ」

 分からん。てか結局食べ物の話じゃん!

「まあそれが忘れられなくてさ。次のガノトトス討伐クエストが発注された時、行ったんだよ。農場の食料をこっそり確保して、荷車に忍び込んでさ」

 ……え?

「だってさ、トロが取れるかどうかも分からんし、オレの胃袋に入るかどうかも分からんから、自分で剥いだ方が手っ取り早いじゃん? で、狩り場についたらガノスが討伐されるのを待ち構えて、みんながいなくなった隙にトロを剥ごうと思ったんだよ。トロがなんで、どこにあって、どんな形してるかも知らないのにさ。でまあ案の定というかなんというか、狩り場をちょろちょろしてたらガノスの超高圧水流カッターで脇腹吹っ飛ばされて、重体よ」

 思わずマーキさんの足を見る。相変わらずぴょこぴょこ動いているから、お化けじゃないらしい。

「村から一歩出れば命の保証はない、全て自己責任、ってのはエリちゃんとこのユクモも同じだろ? だからオレも死を覚悟はしてた。でも助かった。“モンスターハンター”に助けてもらっちまったわけ」

 おお、いい話だ。それで“モンスターハンター”を目指したのか。

「で、一足先にポッケ村に戻ってたらさ、その人たちが来て、オレにトロをくれたんだよ。うわ言で言ってたから、ギルドにわけ話して持ってきたって」

「なんだ、ハッピーエンドじゃないですか!」

「そのトロは不味かった」

「えっ?」

「不味かったんだよ。オレは混乱したね。あの味はなんだったのか」

 いや、あたしも混乱してるよ。

「で、オレは“モンスターハンター”を目指した。あの“ガノトトスの大トロ”をもう一度食うためにな。で、なってからは、ガノスの討伐クエストがあったら欠かさず行ってる。っていうか、ベースキャンプに戻ったら見せてやるけど、オレのギルドカード、ガノス討伐数だけ桁が違うぜ」

 え、待って待って、腰を折るのも悪いと思って聞いてたけど、この話なんなの? 今まさに速記でメモってるこの部分って、必要ある? この動きもない、ティガもなにも関係ないシーンに何千文字使うの?

「あ、あの……ごめんなさい、いい話だとは思うんですけど、えっと、この話はどこに繋がるんです?」

 あたしの言葉に、マーキさんは双眼鏡から目を離し、パチパチと瞬きをした。そして……頬を赤らめた。

「だ、だからもっと肉食えってことだよ肉! ファンゴの肉は食ったことあるんだろ!?」

「へ? え!?」

 ガノス装備の話から始まったのに、そこに着地しなかったぞ!?

「そりゃ、小さいファンゴの肉は生肉で流通してますし……。でもドスファンゴは食べたことないですね。タンジア支部の管轄だとドスファンゴの討伐クエストはなくて、あ、ロックラック支部はどうだったかな――」

「――そういう話じゃないんだよ、えっと……うまい言い方が思い浮かばん! オレは小説家じゃないんだから、なんでもかんでも言葉にできるわけじゃないんだって。あとは勝手に解釈してくれ!」

「うわあ、丸投げしたよ……」

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