『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
「エリちゃん、“エリア6”まで行ける?」
バニィさんが呟き、マーキさんとあたしは一瞬ポカンとする。
「君が行くんだ。ボクらはここでボルボロを引きつけながら、ティガがどう動くか見てる」
「おいバニィ、そりゃやばいだろ――」
「――ボルボロがいるって最初に気付いたのはエリちゃんだ。このエリアに来る前から、でしょ?」
「どうして分かったんです?」
「マーキが『ブナハブラか』って言ったとき、不思議そうな顔してたじゃないか」
「え、マジで?」
マーキさんが驚いたようにあたしを見たので、思わず瞼を伏せてしまった。
「それに、ブナハと戦いながら巣の様子を見に行ったのは、ボルボロが食い荒らした跡があるかもって思ったからじゃない?」
「それは……そうかな、と思っただけです。でもそれでも言わなかったのはあたしだし、あたしが残らなきゃ――」
「――ああいや、そりゃオレが余計なこと先に言ったからじゃね? 本当なら指示を出す前に――」
「――そうじゃないでしょ!」
バニィさんが大声を上げ、あたしたちもボルボロスもビクリと反応する。
「ボクらの今の目的はティガの調査! そしてこの中で一番観察力に優れてるのは、エリちゃんなんだよ!」
「そ、そんな、観察力なんて! あたし別に、そんな……」
「マーキも分かってるでしょ? ティガが“エリア6”を登ってるって言ったのもエリちゃんじゃない」
「でもあれは早いか遅いかだと思いますし、ボルボロだって、あたし結局なにも言えなかったんですし――」
「――だからそのミスを返上する機会がここにあるだろう!」
バニィさんの語調は強く、あたしは圧倒されてしまう。
でも確かにそうだ、後ろ向きに責任を取るって言ったら、帳消しにできても穴埋めにしかならない。でも次のチャンスで挽回すれば、評価をプラスにすることだってできるんじゃないか?
本番に強いんだろ?
ティガを見つけて謎を解いてみせろ!
「……分かりました、あたし、やります!」
「おい、ならバニィも行けよ! エリちゃん一人じゃ危険すぎるぜ、だって“名誉”――」
言いかけて、マーキさんは口を噤んだ。
「――とにかく、オレかお前がついてなきゃ!」
「この包囲網をマーキ一人で対処できる? 少なくともボクじゃ一人は無理だ」
闇の中に佇むボルボロスたちとの距離は、少しだけ狭まっている。いつまでも待ってくれない。
「誰がどう動いたって危険なんだ。それにエリちゃんだって“モンスターハンター”なんだから、特別扱いするつもりはないよ。それとも、エリちゃんを信じてないの?」
「信じる信じないじゃなくて、リスクの問題だろ!」
と、東の山の上の方から、微かな青い光が瞬いた。
「おい、あれジュンか? あそこにも“秘境”があるのか?」
「らしいね……さてと」
バニィさんはそう呟いてから、あたしを見る。
「エリちゃん、洞穴と凍土は寒い。ホットドリンクはあるね」
「大丈夫です」
あたしは即座にポーチを一度叩き、頷く。そういえば“秘境”でバタバタ飲んでから、ポーチにホットを入れてなかった。あとで補充しなきゃ。
「マーキはボクとボルボロを抑える。たぶんジュンもこちら側につくはずだ。エリちゃんは“エリア7”を経由して“エリア6”へ。僕らも後から追う。いいね」
「は、はい」
「……しょうがねえな。まったく、『本番に強い』んならしっかりやれよ、“美少女名誉ハンター”!」
「だーかーら! “美少女”も“名誉”もなし! あ、バニィさん、討伐はしないでくださいね、手を出したのはあたしたちなんですから!」
「したくてもできないと思うよ。ボクらは“狩られる側”みたいだからね」
ガアン! と残響を含む音が届く。
ボルボロスが頭を地面に叩き付け、粘液混じりのぼた雪が飛び散った。威嚇されているのだ。
バニィさんが空に黄色い光を瞬かせ、一拍。
風を切る音と同時に閃光が雪原を貫き――
「行け!」
――瞼を閉じたあたしたちは、散り散りに走り出した。
更に音が続き、次いで生暖かい湯気のようなものが身体を取り囲む。
瞼を開くと、周囲を白っぽい煙が覆い尽くしていた。高密度な繊維の塊であるツタの葉を爆発的に燃焼させる、けむり玉を使ったのだ。
これなら逃げ切れる。煙が晴れるまで十数秒だとしても、餌を警戒するボルボロスの敵対対象からは外れるはず。
あとは全力で走るだけだ。
煙を突き抜け、その効力が消えることを確認することもなく走り――