『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
ここは“凍土”と呼ばれる、ハンターズギルドのタンジア支部とユクモ支部が共同管理する高原地域。その麓に位置する河川に敷設されたベースキャンプだ。
格好よく『ベースキャンプだ』などと言ってみたが、実際は、川を遡ってきた船を引き上げて改造した簡易宿場と、キャンプ中央で炎をちらつかせる焚き火と、ハンターズギルドが送ってくる支給品をしまっておくボックスと、特別支給の巨大な仮設鐘楼しかない、簡素なものだ。
今は寒冷期から温暖期への移行期に当たるため、キャンプの周辺は比較的穏やかな気候になりつつあるけど、それでも、ほとんど凍り付いて動きのない河川に落ちれば即死できるレベルの低温ではある。
そんな環境に、あたしたちチームが一箇月の滞在を予定しているのには、大きな理由がある。
マーキさんが口にした、“ティガ”だ。
“轟竜”と通名で呼ばれるティガ――ティガレックスは、砂漠や砂原のような熱帯・亜熱帯地域に生息する飛竜種だ。特定のテリトリーや狩り場をもたず、本能の赴くままに他者のテリトリーを闊歩して捕食する様と、それを可能とする肉食系高脅威動物の中でもトップレベルの戦闘力から、“絶対強者”と畏敬の念さえ込められて呼ばれることもある。
その性質から人的被害も多く発生しており、数十年前まではティガレックスが目撃され次第、近隣の村落に避難勧告が出されていたらしい。
そんな状況から、ハンターズギルドはティガレックスを最重要レベルターゲットに設定し、“モンスター”や環境の調査と情報収集を行う古生物書士隊と連携して可能な限り調査を行った。その結果、ティガレックスが草食系低脅威動物であるポポの肉を好物とすると特定され、荷物の運搬や耕作で活用しているポポを襲うために人里に出没していたことが判明。現在はティガの行動原理にあわせてポポの利用を制限することで、避難勧告レベルの脅威ではなくなっていた。
しかし、だ。
そんな数十年の平穏が破られたのが、去年の寒冷期の終わりから温暖期を迎えた数箇月だった。
前述のとおり、凍土はハンターズギルドの二つの支部が管理しており、寒冷期は山岳地帯の温泉地にあるユクモ村の支部が、温暖期は地中海沿岸のタンジアの港の支部が、それぞれクエストを担当している。
そしてポポは寒冷期にのみ凍土に北上してくる性質のため、ティガレックスが凍土で目撃されるのは寒冷期の真っ只中の三~四箇月の間だ。
それなのに、温暖期の凍土に出向いたタンジアのハンターが、ティガレックスの目撃を報告したのだ。それも互いに顔見知りじゃない数十名が、同時多発的に。
温暖期のティガレックスの目撃は、一応あるにはある。だけどその頻度は、タンジア支部の累計ティガレックス討伐数がゼロという記録が現すとおり、実質ゼロだ。タンジア支部は支部特有の“モンスター”にリソースを割くために、熱帯・亜熱帯地域のティガレックスもあわせてユクモに任せきっており、所属する“ハンター”に対して積極的に情報を開示してない。だから存在そのものを架空と認識している人の方が多いくらいなのだ。
情報のない“モンスター”に立ち向かう“ハンター”はいない。乱入してきたティガレックスに立ち向かったタンジアの“ハンター”はゼロ、死者もゼロだった。
ハンターズギルドはこれを異常事態と認定し、古生物書士隊には温暖期中に集めた凍土の情報の精査を命じた。その結果は、「ポポの移動時期や距離に変化はなく、凍土の平均気温の変動も観測できない」。ティガレックスの挙動だけが変わったわけで、それはつまり、ティガレックスにはハンターズギルドが関知しない行動原理があることを示唆している。
今年の寒冷期の末期――つまり現在――になってもティガレックスの目撃頻度が低下しないことから、ハンターズギルドは警戒態勢を発令、ティガレックスの情報をタンジア支部に展開しつつ、タンジア、ユクモ両支部の“モンスターハンター”で四人×二四組の大調査隊を編成し、八箇月に渡って凍土とその周辺地域に投入することを決定した。
ティガレックスの発見と調査、そして討伐を目的とするクエストは、そうして始まったのだった。