『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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● 小さくてもビッグです! / flub in darkness

 “エリア7”の広い空洞も、地面のコンディションは同様だった。純粋な氷がアップダウンの大きな地面がならしていて、動物の骨や植物の残骸と共に凍りついた地面が数メートル下に見えるところもあるくらいだ。

 氷は大きくえぐれた跡や細かな傷で覆われているので滑ることは少ないが、あたしは靴裏のスパイクに神経を集中して、表面に新たな傷を残して歩く。

 “エリア2”からの道の正面の壁面――エリアの東側の境界にぶつかったら、そこから北上すればいい。それで右手に“エリア6”に通じる亀裂に辿り着く。そこを潜り抜ける。それだけだ。難しくないことなんてない。

 しかし外も暗い暗いと思っていたけど、雲を通して降る月光がどれだけ明るかったのかがよく分かる。なにせここは、外光が入る余地がまったくないのだから。“光と影”というより、“有と無”の対比だ。

 もちろん二週間の間にこの洞穴も調査したことがある。でもその時は三番手や二番手についていたので、先頭を歩くバニィさんやマーキさんの明かりでそれなりの距離が見通せていたのだ。たった一人で持つ、半径五メートル程度の光でしかないたいまつの炎は、驚くほど心細い。

 二人もこんな心細さを感じていたんだろうか。それに思い至らないとは、なんて恵まれてたんだろう。

 あたしは荒い呼吸をなんとか押し殺して歩く。足音が蹴り上げた氷と共に背後に消え――戻ってくる。

 気にするな、ただの反響だ。怖いこともない

 一分ばかりで凍った岩壁が現れる。

 その確かな物質感に思わず寄りかかりたくなるが、いくらホットドリンクを飲んでいると言っても、その熱を瞬時に奪って水分を凍りつかせる岩に触れるのは愚の骨頂だ。

 南北に長い空間だから、ここまでは短い。北に向かって、たいまつの光が壁に触れるか触れないかの距離に離れて歩く。

 壁面にある大穴のことは考えるな。

 そう、あの地獄に通じていると言われた大穴のことだ。

 見えなければ怖くない、“無”を怖がる必要はない、目に見えるものだけに意識を集中しろ。

 がつ、がつ、とスパイクで氷を削る音が鳴り。

 かーん、かーん、と反響が戻り――

 ――たっ、たっ、と異音が混じる。

 立ち止まる。

 なにか聞こえた。あたしの足音でも反響でもない、もっと軽くて、細くて、小さいものが氷を蹴る音が。

 また、三回、四回、微かだけど聞こえる。幻聴じゃない。

 なにかいる。

 たいまつを氷の上に置くと、背中のボウガンを腰だめに構える。

 足音を殺して後退りしてたいまつから離れ、銃口を向ける。

 暗闇の中、無意識に指先で装填状態を確認。通常弾六発。

 息は荒いが指は震えてない。大丈夫。

 数秒後、空気を切る音と共にムチのような影が見えた。

 その根元に一射。

 ダメだ、と思った時にはハリの実の弾頭が虚空に吸い込まれる。

 でも火薬の燃焼で周囲に光が走り、ムチの持ち主は浮かび上がり、予想どおりの姿に眉間にしわを寄せる。

 鳥竜種に属する“眠狗竜”、その幼態たる小型の低脅威肉食動物のバギィ。鳥から進化したとされる“モンスター”で、収斂進化の結果か、ボルボロスなどの“獣竜種”に近いシルエットをもつ種別の生物だ。

 もちろん“小型”で“低脅威”というのは、数十メートル級の“モンスター”と比較しての話だ。体長四メートルの半分を占める尻尾は人間の腕脚の長さ軽く凌駕するし、嘴のような口に生える牙の一本一本は、ボウガンの弾頭に使われるほど鋭い。

 あ、バニィさんと似た名前だけど、別に関係ないです。

 音を立てないでいると、前方――つまり進行方向の左手から、鱗と氷のこすれる音が聞こえた。一頭とは考えない方がよさそう。

 どうする?

 バギィは暗闇を得意とする生物じゃないけど、それでも人間よりは感覚が鋭い。たいまつを捨てたところで氷を踏む音は聞こえるだろうし、発砲位置は特定されてると考えていい。

 戦うか?

 いや、あんな小さい明かりを守りながら、幅三〇センチほどの的に弾頭を叩き込むスキルはあたしにはない。散弾は一〇発しかないから、ここで消費するのはもったいないし。

 せめてこの空間を満たす明かりがあれば――

 ――かがり!

 ボウガンを背中に戻して走る。バギィの足音が何度か響き、尻尾を振るう音がするが、無視してたいまつに飛びつき、肌を守るように氷の上で転がると、すぐさま北へと走る。

 前述のとおり、洞穴内となる“エリア4”“エリア5”“エリア7”には光が差さない。そのためハンターズギルドが“かがり”を設置しているのだ。

 この前も使ったのに、どうして忘れてたんだ今まで!

 五秒も走ると、凍った土の上に四本の鉄棒を組み合わせた土台があり、直径四〇センチほどのドラム缶でできたかがりが目に入った。蓋を開けて油と木炭の残量もチェックせずにたいまつを突っ込むと、目が眩むくらいの光が走る。

「あっちちぃ!」

 同時にたいまつの先端が炎に包まれ、思わず放り投げる。

 でも視界は確保できた。赤々とした炎が立ち上り、洞穴内部を満たした。洞穴の南北は深い黒に包まれているが、東西と天井は見通せる。そして揺れるあたしの長い影の向こうに、“エリア6”への高さ一メートルばかりの低い横穴も視認できた。

 ゴールは間近、あとはバギィを蹴散らすだけだ!

「えっ?」

 背後に視線を戻すと、軽やかなステップを踏みながらバギィが包囲網を狭めていた。その数四頭。大きさはまるで違うが、雪原でのボルボロスと同じ行動だ。あたしを狩るつもりでいる。

 思わず毛皮を跳ね上げてボウガンを構え――それは失敗だった。

 顔の割りに低い唸り声をあげて、一頭が飛び掛ってきた。

 空中で身体を一回転、尻尾を使った攻撃だ!

 しなった尻尾を思わず左手でガードするも、バヂィン、と重い音とともにあたしの身体は大きく右に傾ぐ。

「いってえ! やめ、やめてよ!」

 思わず声を上げてボウガンのストックで殴り付けると、バギィは甲高い声を上げて離れる。だが若干ふらついたあと、別の一頭と元気に走ってきた。

「ちょ! うそ、ストップ!」

 ボウガンを一射、しかしハリの実の弾頭は左側のバギィの胴体を軽くえぐっただけで“開かず”、虚空へ消えていく。バズルボローカはブレが大きいので、小さくてしかも動きの素早い“モンスター”をチクチク打つには不適当なのだ。

 それでも左側のバギィの牽制に成功したあたしは、バックステップで一歩ゴールを目指す。

 その行動を読んだように、右側のバギィがいつの間にかあたしの右後ろにいる――

「――!」

 咄嗟に左手で剥ぎ取り用ナイフを抜き、バギィの頭を刺し貫いた。

 バギィは顎の力を抜いて氷の上に倒れ、肺に残っていた空気を吐き出すと、動かなくなる。

 ああ、でも、あたしもダメだ。

 他のバギィが威嚇の低い声を上げる。

 噛まれた。

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