『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
あの時だ、“秘境”でジュンさんに驚かされて、バタバタと移動の準備をしていた時だ。
たぶんあの時、ごちゃっと置いておいたバックパックを取り違えたんだ。
でも気付かないものか? 他人のバックパックなんだから、重さやバランスは違うはずだろ?
違ったんだろう。でも重さもバランスも狩りの過程で変化するものだし、いちいち気にしてるようじゃ“モンスター”との戦闘に支障も出る。だから、こういうことがあっても仕方がないとは言える。
じゃあ、なにが仕方なくなかった? リカバリーできるポイントはなかったか?
バニィさんが『ホットはあるね?』って確認してくれた時、あたしはなんて考えた?
メモを見れば分かる。
『そういえば“秘境”でバタバタ飲んでから、ポーチにホットを入れてなかった。あとで補充しなきゃ』
その結果がこれだ。
もう、自分に対する怒りはなかった。
呆れしかなかった。
『本番に強い』なんて完全にウソだよね。
ティガに圧倒されて腰抜かして、ボルボロの存在を言い出せないで、バギィにケンカを売って怪我して、挙げ句ホットドリンクを忘れて。
今日の調査、なんとかティガから逃げ切ったところ以外、いいところないじゃん。せっかくバニィさんたちが、あたしの名誉を挽回するチャンスを作ってくれたのに。
“名誉ハンター”を返上するチャンスを。
…………。
いや、チャンスはまだ消えてない。
ホットドリンクはあとどれくらいもつ? 四時間の計算なら、あと四〇分は行ける。半分と見積もっても二〇分。
あたしは大急ぎで今までの状況をメモ帳に書き起こし、ティガのいる場所の周辺を簡単な俯瞰図としてスケッチする。そしてメモ帳を鐘楼の時計の機械箱に押し込んだ。これでなにかあっても誰かが気付いてくれるはず。
なにかあっても……。
ポーチの中は応急薬などの雑多なものの他に、通常弾三二発、貫通弾九発、散弾三発、マヒ弾二発、閃光玉二つ。
そしてメモ帳から破いた紙片一枚。
あたしはいまだに動きのないティガを睨み、ギルドの助けも得られない永久凍土の氷床へと脚を踏み出した。