『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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◆ クエスト目標発見です / -

 両頬を引っぱたかれる感触で意識を取り戻し、口に流し込まれる熱い液体で身体が跳ね上がった。

「ぐげっほぉ!? ちょ、なにするんですか!」

「助けたんだよ」

 空ビンをバックパックに仕舞うのは、ああ、我がチームのリーダー、バニィさんじゃないか。その手にはあたしのバックパックが。

「バックパックの取り違えなんて、初めて聞いたよ」

「ご、ごめんなさい!」

「その上最低限の備えであるホットドリンクまでポーチにしまっておかないとは、言語道断にもほどがある」

 そう言ってあたしの襟首を掴み、無理矢理立ち上がらせたのはジュンさんだ。強風の中でもその身体をしっかりガードするポンチョは、なんかもうずいぶん前から見てない気がした。

「それもごめんなさい、もうほんと、なにも言えないです……」

「でも間に合ってよかった。ジュンがイヤな予感がするって言うから、慌てて追いかけたんだけど、ビンゴだったね」

「ふん、武勇伝を欲するエリだ、危なっかしくて一人にしていられないからな」

「あんな状況だったんだぜ! 大目にみてやれって姐さん!」

 マーキさんは数十メートル先の氷塊でティガを引きつけている。大盾でティガの爪を受け流し、もう片方の腕をランスで払って、滑らせている。

「ミスに対する罰は、あとでしっかり与えるが――あのティガの目的は見つけた功績は、認めよう。よくやった」

 ジュンさんはあたしたちの足元を示す。

 今マーキさんが戦っている個体よりも一回り小さなティガレックスが、足元――氷塊の数メートル下に閉じ込められていたのだ。その更に下にある、やはり氷に閉じ込められた巨大な岩から飛び立つような姿勢で。

 あたしが倒れた時に目にしたティガは、これだったらしい。

「子供、ですよね。やっぱり?」

「だろうな。あのティガは前々回の寒冷期に凍土に訪れた際にこれを見つけて、そのままその温暖期、そして今期と奇妙な行動をとっていたと考えるのが妥当だろう」

「お墓参りだったんだろうね」

 バニィさんが物悲しげに呟く。

 あたしは氷に顔を近付ける。

 小さいティガレックスは、まだ生きているかのような瑞々しい眼球であたしたちを見上げていた。飛び立とうとしたのか、落下に抗おうと四肢をバタつかせたのか、両腕を振り上げて口を開いたポーズは、まるで今にも氷をぶち破ってあたしに飛び掛ってくるみたいな体勢にも見えた。

「それでも、ティガは討伐しなきゃいけないんです?」

 あたしが呟くと、バニィさんはゆるく息を漏らす。

「ボクらが受注したクエストは、ギルドの関知しない行動原理をもつティガの調査と、討伐だ。それは揺るがない」

 そうだ、つまりその“調査”が終わった今、あたしたちに残された“討伐”をこなさなきゃならない。

「じゃあ、やるしかないんですね」

 あたしは弾薬を補充するために、バックパックを開ける。

「早合点が過ぎるぞ、エリ。だからホットを忘れるんじゃないか」

 ジュンさんが冷たい目であたしを睨んだ。

「えっ、でも、えっ?」

「ボクたちの討伐対象は、あくまで“ギルドの関知しない行動原理をもつティガ”だ」

 クエスチョンマークを頭に浮かべ、ジュンさんを見る。

「私たちの村のそばで、アシラが巣を作って子供を育て始めたことがあったな。あの時、ギルドは彼らを討伐したか?」

 それは……しなかったけど。そのアシラ――“青熊獣”アオアシラたちは、若いハンターの手によって引っ越ししたはずだ。あたしが大好きなお話だったから、よく覚えている。

 ん?

 強調した言い回しの意図を二秒ほど考え、あたしは手を打つ。

「そっか、あのティガがここに戻ってくる原因をなくせばいいんですね!」

「そういうこと」

 にっこり頷くバニィさんと、『みなまで言うな』と首を振るジュンさんに、あたしは笑いかける。

 よくよく見れば、マーキさんはティガを引き受けてはいたが、攻撃を加えてはいない。みんな最初からそのつもりだったのだ。あたしはなんだか嬉しくなってしまった。

 バニィさんが背負ったタル爆弾を、氷漬けのティガの真上に置く。

「よし、少し離れよう。起爆はエリちゃん、任せられる?」

「は、はい、大丈夫ですけど、こんなタル爆弾で大丈夫なんです!?」

「大丈夫だよ、これはボクの家で開発された特別製だからね」

「おーい! どうすんだァ!?」

 マーキさんがランスを振り回してあたしたちに自分の存在をアピールする。

「戻って起爆する! ティガを引っ張ってくれ!」

「了解! しょうがねえ、ティガ肉は諦めるかァ!」

 マーキさんはティガから逃げながら、あたしたちはティガを追いかけるように、揃って氷床を駆け抜ける。

 あたしたち三人は雪原までの道程を半分ほど走り、周囲を見渡せる高い氷塊で立ち止まる。

 マーキさんとティガはほどなく雪原に戻り、段差の上で対峙した。マーキさんは盾を叩いて気を惹き、ティガは雪に爪を立てて威嚇している。

 そして一〇〇メートル先の氷塊に、タル爆弾。

 オーロラを反射する氷の中にぽつんと残された異物は、まるであの小さなティガの墓標のように見えた。

 それも、これで消える。

 あたしはボウガンを構え、指先で装填した通常弾を確認する。三発だ。

 狙うは、タル爆弾の外部に起爆用に設置された、数センチのプライマー。

 腰だめに構え、

 風を計算し、

 発射。

 カラの実から解放されたハリの実の弾頭が、星明りの中に消える。

「さあ、走れ! 耳をふさげよ!」

 着弾も確認せずあたしたちは再び雪原に向かって走り出し――

 ――背後で小さな光が閃き、一拍遅れて爆音が響く。

 耳をふさいでも聞こえる音に驚きながらも、あたしはボウガンを納め、二人に少し遅れて氷床を駆け抜ける。

 光が収束し、残響が鼓膜から消えた頃、背後から、ばしん、と鋭い音。

 それは大小遠近様々な音に派生して――

 ――ガバァ、と爆心地の氷塊が砕けた。

「うっそお!?」

「音爆弾の効果を破壊に転用した、タル音爆弾だよ!」

 走りながらバニィさんが説明してくれる。

 肩越しに振り返ると、氷の中に閉じ込められていたティガの遺骸が、割れた棺桶と共に落下していくのが見えた。

 雪原の段差の上で、マーキさんと立ち回りを演じていた親のティガは、首を持ち上げて、呆然とこの光景を見ている。

 そして気付いた。

 やはり“エリア1”で見せた、小さいものを探すような仕草は、子供に向けられたものだったんだろう。氷の中に遺骸を見つけたものの、それが自分の子供とは信じられずに、凍土を探して彷徨っていたんだろう。

 でも、それも終わりだ。きっとあのティガが凍土に固執することは、もうないだろう。“ギルドの関知しない行動原理をもつティガ”は、ただの“轟竜”“絶対強者”ティガレックスに戻り、生き延びるか、生態系を乱して“ハンター”に狩られるか、道を選ぶんだろう。

 全体では一箇月半、あたしたちからしたら二週間にも及んだクエストは、これで完了なんだ。

 完了なんだが――

「――ど、どうするんですか! これぇ!」

「ちょっと効果が強すぎたみたいだね! まだ実験作だし!」

「そんなあ!」

 亀裂が止まらない。氷塊は下の方では一体化していたのだろう、爆心地のみならず、あたしたちが走り抜ける氷塊にも容赦なく破壊の爪痕が伸びてくる。

 これ、あたしの人生も完了しちゃいそうじゃない!?

「エリ! 無駄口を叩くな! 走るんだ!」

 分かってる。分かってるんだけど……。

 スタートで出遅れた分で開いた距離は少ないが、そこで“ハンター”としての地力の差が出る。

 いかにあたしが一〇〇メートル八・六七秒という一般人を上回る記録を持っていたとしても、ジュンさんとバニィさんは七秒台なのだ。

 少しずつ、だが確実に距離が開いていく。

「エリちゃん! 急げ!」

 戦闘を放棄したティガから解放されたらしく、マーキさんが雪原と氷床の境界で叫ぶ。

 音を立てて割れる氷の衝撃が、どんどん近付いてくる。

 数メートル先行する二人が雪原に辿り着き、雪を蹴り上げて急停止。

 マーキさんが手を伸ばす。

 あたしは氷を蹴り、その手へとジャンプ――

 ――の直前、蹴るべき氷が砕けた。

 あたしの身体は慣性に従って前進すると同時に、重力に引かれて落下を始める。

「うわ、うわあ、ああ!」

 マーキさんの手は上へ吹っ飛んでいく。

 あたしは目を瞑りながらも、それでも両腕を必死に天に向けて突き出す。

 あのティガの子供が、凍り付く瞬間にそうしたように。

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