『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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● maybe I am a HUNTER

 抜けていく体温に危険を覚えながらも、あたしは何度か火打石を打って、土の上のバックパックを見つけた。

 少し迷ったけど、たいまつに火をつけてみる。

 揺れる炎が改めて照らし出したのは、紛れもなく討伐対象の飛竜種、“轟竜”ティガレックスだった。

 あたしの通常弾がつけた傷が顎下と左肩に残っているし、マーキさんのランスが貫いた首筋の鱗の隙間には、乾いた血がこびりついている。あたしたちが対峙した個体で間違いない。

 ティガは両腕を腹側に折った姿勢で、瞼を閉じて眠りに落ちていた。

 あたしは彼の翼膜と腹部に挟まれる形で、体温を維持されて――というか与えられて、寝ていたのだ。

 でも、どうして?

 食べるため?

 “エリア外”はティガにとっても寒すぎたから、ここまで運んだの?

 たいまつですぐそばの壁を照らしてみたところ、ここは“エリア4”だ。あたしがバギィと戦った“エリア7”と繋がる、山脈内の洞穴の一部で、「ティガはここで休息を取る」と事前に聞いていた場所なんだけど……。

 食べる前に一休み?

 後生大事に、潰さないように抱いたままで?

 しっくりこない。

 …………。

 考えにくいけど……助けた?

 ティガを出し抜くために、閃光玉で目眩ましをした上に、彼を氷塊の向こうに叩き落したあたしを?

 どうして?

 なんのために?

 分からない。

 分からないんだけど……。

 ティガの寝顔は穏やかなんだよね。

 実際、眉骨と眼窩は怒った眉みたいな形をしているし、閉じた口の中には鋭いナイフみたいな刃が並んでるんだろうけど。

 戦ってる時は“恐怖を体現したような顔”なんて考えたのに、今はとても、そんなこと思えない。

 ジュンさんは、『“絶対強者”は恐怖心の投射』と言った。『血も肉もない神の化身じゃない』とも。

 その時は、それはそうなんだろうと思った。戦えば傷がつくし、傷がつくなら殺せるって。

 でも今は、ジュンさんが想定してないだろう意味で、それを感じてる。

 ティガも一人の生物なんだって意味でさ。

 出し抜けに、ティガの瞼が開いた。

 数度瞬きをしたのちに、右目の真正面にいるあたしを見据え、ゆっくりと頭を持ち上げる。

 数瞬前の達観した思考を投げ捨てて、全身に怖気が走った。

 お恥ずかしながら“チビリ”かける。

 そりゃそうだよね、今まで顔を合わせるたびに襲ってきた相手が、ちょっと寝顔を見せたからと言って、心を許してくれたなんて言い切れるわけない。

 でもあたまのどこかは、なんだか冷静だった。

 あたしが目覚めて地上に降りてから、ティガが目覚めるまで数十秒あったとして、それはあたしの逃走の猶予時間なんかじゃない。あたしの身体は相変わらずホットドリンク切れで、ティガのお腹と翼膜の間で冷風から隠れてなんとか生きていただけの状態だ。 ティガが起き上がったり飛び去ったりすれば、あたしは極寒の洞穴に取り残されて、死ぬ。

 あたしは助かったわけじゃない、そう考えたら、流れに任せるしかないじゃないか。

 だから叫ぶでもなく、武器を探すでもなく、表面上は穏やかにティガを見ていることができたのだ。

 ティガはなにを考えてたんだろう。

 持ち上げた頭を傾けて、あたしを睨み付けるように見下ろしたけど、それも数秒のことだった。

 やがて喉が鳴るような音を響かせて頭を下げ、同期して腹の下に折っていた腕を広げ、軽く腕を曲げてみせる。

「……入れって言ってるの?」

 返答はない。

「いやまあ、寒いけどさ。君も寒いんでしょ? そこまでしてもらうのもねえ」

 両腕で身体を抱えながら言うあたしは、端から見たらとんでもないバカだろう。

「そうだ、ちょっと待って!」

 とあたしはバックパックに手をかけ――『なにもしないよ』と左手を広げながら――ゆっくりと地面に置いた。悴んだ手で中を漁り、お目当てのものを引っ張り出す。

「これ、食べる?」

 と見せたのは、携帯食料だ。あたし自身お腹がペチャンコだったし、きっとティガも同じ状態だと思ったのだ。

 しかし、封を開けて地面に置いたそれを、ティガは一度鼻を鳴らしただけで興味を失ったみたい。もしかして、香辛料に漬け込まれて火が通った携帯食料は、好みじゃないのかな?

「ぬう、なんて選り好みな……そうだ!」

 あたしは手を一つ叩き、バックパックを更に漁る。

 これがあの食いしん坊という表現も生易しいマーキさんのものなら、絶対にあるはず!

「ガウシカの生肉!」

 ほら、ガウシカを狩ったなら、肉を剥がずにいられないよね。

 あたしは防水布から生の胸肉を出して、携帯食料から少し離して置いた。

 ティガはやはり一度鼻を鳴らして、あたしの顔を見る。

「ん? 毒なんて入ってないよ、食っちゃえ食っちゃえ」

 手で催促すると、ティガは結局口をつけた――というか丸ごと口に含み、骨もろともバリバリやりはじめた。

「ああ、はは、は、やっぱりそうだよね……」

 若干頬をひくつかせつつも、あたしも地面に置いた携帯食料を拾い上げて、口に含む。

 冷たい。滅茶苦茶冷たいけど、すきっ腹には美味し……いや、やっぱりまずいね。

「ねえ、君さ、周りから『誤解されやすい』って言われない?」

 唇を舐めるティガを眺めながら、そんなことを呟く。食欲を思い出したその口が、直後にもあたしをボリンと食べかねないのに、のんきなものだ。

 ああ、なんだこの状況。

 まるであたし、『アシラ一家のお引っ越し』の“ハンター”みたいじゃないか。

 あはは、あたしも英雄の仲間入りできるのかな。

 ガタガタ震えながらもそんなことを思って笑っていると、ティガは腕を伸ばして第四指を大きく広げ、翼膜を示した。先ほどよりももっと直接的な、『暖まれ』のサインみたい。

 でもあたしはそれよりも、ティガの右手の爪にストラップが引っかかった、身の丈ほどのサイズのボウガンに目がいってしまった。

 もしかして、あのストラップにあたしを引っ掛けて“エリア外”から運んできたの? 滅茶苦茶危ないじゃん。結果的には大丈夫だったんだけどさ。

「……ああ、そっか」

 あたし、助けてもらった“アシラ”側なんだ。

 ティガからすれば、自分が“ハンター”で、あたしたちが“村のそばにやってきたモンスター”。

 ティガは、“人間の縄張りを荒らしたモンスター”を討伐して、あたしたちを護ってくれる方。

 あたしたちは、助けてもらって、寛大な対応をしてもらって、引っ越しする方。

 あのお話とは逆なんだ。

 だけどこのお話は、その通りには進まない。

「ごめんね。あたし、お話の中の“モンスター”じゃないんだ」

 あたしたちの目的は、ティガを謎を解いて、討伐すること。いつかは必ず、討伐のために動かなきゃいけない。それを否定することは、“ハンター”としての自分を否定することにもなる。みんなのためにも自分のためにも、あたしにそれはできないと思う。だから――

「――あたし、君に牙を剥くよ。君にどんな事情があるとしても、君のこと、殺さなきゃいけないから」

 ああ、なに考えてたんだろう。

 このクエストでの個人的な目標は、飛竜種討伐数を一にすること。

 その理由は、“上位ハンター”のギルドカードの飛竜種討伐経験がゼロなのは、かっこ悪いから。

 なんだ、それ。

 あたしが憧れた“ハンター”なら、そんな外聞なんて気にしない。

 どんな命にも事情がある。当然じゃないか。

 それを奪って得られるトロフィーに、かっこいいも悪いもない。

 そんなこと、あの絵本を読んでるなら、分かってて当然のことだったのに。

 あたしはそれを、自慢にしようとしてた。

「ひどい“ハンター”だよね、あたし」

 ティガは腕を広げたまま、ぐうっと頭を傾けた。

 それが返答のように思えて、あたしは想像を巡らす。

「『仕方ない』? 『その時は全力で戦おう』? それとも『オレと逃げよう』?」

 当たり前だけど、答えなんてない。

 行動はどうとでも読みとれる。

 いや、そもそもあたしの言葉が通じているわけないんだから、彼の行動があたしが想像するものにあるかどうかなんて、分からないんだ。

 結局、解釈するしかないのか?

 彼の言葉が聞いてみたい。

 そうすれば、きっと、謎もすぐ解けるのに。

 うだうだ考えていると、ティガがもう一度翼膜を開閉させる。

「……じゃあ、今は甘えちゃおうかな」

 そうしなきゃ死んじゃうしね。

 あたしはたいまつを消すと、爪を基点に“V”を作る腕に掴まって翼膜に身体を預けた。

 薄いものの強靭なそれが思いのほか暖かいのは、血流のお陰らしい。震える身体を押し付けるようにすると、ティガはその翼膜ごとあたしをお腹に当てて、更に外側を逆の腕で覆った。なるほど、こうしてたのね。

 でも、理由は結局分からない。

 あたしを餌として認識してるわけじゃなさそうだけど……さ。

 そうこうしている間に、身体が暖まったせいか、ティガから伝わってくる穏やかな脈動のせいか、あたしはうとうと始め――

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