『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
――ぱあっと辺りが明るくなった。
なにが、と考える前に、ティガが立ち上がったのか、あたしの身体は急上昇してお腹に押し付けられる。
「むぎゅおお! ちょ、ちょっとお!」
と声を上げるが早いが、ティガは翼膜を展開して、あたしを凍った地面に放り出した。
怪我の残った右腕から落ちて、一瞬意識が遠ざかるが、その痛みを基点に逆に気を引き戻して身を起こす。
点在する二つのかがりに明かりがついていた。やはりここは“エリア4”だ。“エリア7”ほど気温は低くなく、吹き込む雪の量も少ないので、高い天井からデコボコした壁まで、乾燥した土で覆われていて、だからティガの休息に使われる場所だ。
「エリちゃん!」
そこに人間の声が響いた。バニィさんだ。
だけど、嬉しさを覚える前に、危機感を抱く。
彼らはあたしを助けにきたんだ。ティガを攻撃して追い払うつもりなんだ。
「ダメです! こっちにこないで! 危ないですよ!」
え、危ないって、誰が?
ふと止まった思考を吹き飛ばすように、ティガの左腕があたしのすぐ横を通り過ぎる。
手のひらがごりごりと地面をえぐりあげ、投擲武器と化した土くれがすさまじい速度で空を切った。
その風圧があたしの左半身を叩き、思わず半身振り返って顔を庇う。体温が文字どおり左に吹き散らされていき、膝が笑い始める。
「ヒュウ!」
マーキさんが大盾の向こうに隠れ、直後、ばあん、と音を立てて土が砕ける。
「ジャガイモっぽい攻撃だな、おい。ティガ、投げるならほんもんのイモにしとけよ!」
大盾を叩き、ティガの注意を引くマーキさん。
「エリちゃん武器拾え! そこにあるぞ!」
ん、そうだ、あたしのボウガンは?
ボウガンはティガの爪から解放されて、右手後ろの地面に落ちていた。
でもこれを拾ったら、ティガはあたしが敵対するつもりだと思うんじゃないか?
「どうしたエリちゃん!」
マーキさんが叫び、しかしその声をかき消すくらいのティガの叫びが耳を貫いた。
振り返ると、ティガの左後ろでデコボコした頭を持つハンマーが振り上げられる。そしておそらくは再度、振り下ろされた。
鈍い音がして、ティガがつんのめって前に倒れた。幸いにもあたしはティガの脇の下を抜けたのだが……。
ハンマー――バニィさんが左後ろ。
“T・レックス”フォーメーションが動いている?
“討伐”するつもりなのか!?
「やめてください、バニィさん!」
視界の隅でマーキさんがオーバースロウでなにかを投げた。
「飲んで離れろ! エリちゃん!」
たいまつに揺れて輝く液体は赤色、ホットドリンクのビン。無意識に掴み取り、ティガの動向も気にせず一気にあおる。染み渡る熱に毛穴が開いて猛烈にかゆみを覚えるが、そんなものは無視だ。飛びつくようにボウガンを拾い、ストラップをたすきにかけるが抜銃はしない。
ティガが方向転換し、狙いをマーキさんからバニィさんに向ける。
読んでいたマーキさんが盾を構えたまま一歩踏み出し、ランスを突き出す。四つ叉の切っ先が方向転換したティガの左足を捉えた。
「マーキさん!」
どん、と鈍い音が地面に走り、次いでなにかが転がってくる音。
バニィさんがタル爆弾を蹴り飛ばして、ティガの方へと転がしたのだ。
「エリちゃん、撃て!」
どうして。
討伐が始まっているということは、調査が完了したってことだ。
あたしが見つけた氷の中のティガの子供を誰かが再発見して、目的を更新したってことだ。
どうしてそんな判断をするんだ!
「やめてください! マーキさんもバニィさんも!」
タルは転がっていく。
「早く撃って!」
ティガの右腕にぶつかり、ティガが首を向ける。
「撃てよォ!」
叫び、しかし業を煮やしたかマーキさんはランスを反転させてチャージ、石突で蓋中央のプライマーを殴り付け――
――爆音と共に炎が吹き上がった。