『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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● bunni's recollection

「そりゃ……知ってますよ。ユクモ出身ですから、アシラを引っ越させた“ハンター”の武勇伝と、子アシラとの友情物語、どっちも小さな頃から何度も聞かされました」

「そう、その話。元となった実際のクエストは、一八年前のアオアシラ一家の討伐クエストなんだ」

「一八年前。意外と最近の話だったんですね。あたしが産まれたあとのことだったんだ」

 てっきり何百年も前から語り継がれている話だと思ってた。

「あの話の結末はね、君が知ってるのとは少し違うんだ」

 ……え?

「いえ、あの……引っ越したんですよね? アシラ一家は、遠くに……」

 バニィさんは、あたしの問いには答えない。

「その“ハンター”はね、確かに子供のアシラを助けた。少し前のクエストで赴いた渓流で、川で流されそうになっているところを救ってたんだ。子アシラ懐かれたっていうのも、アシラの素材を使った武具を着ていたこともあってか事実。親アシラからは全力で逃げたそうだけどね」

 バニィさんが微かに笑ったのが、背中ごしに伝わる。

「その“ハンター”は子アシラと仲良くなって、だけどクエストが終わる時には別れるつもりでいた。当然だよね、相手は子供とはいえ“モンスター”なんだから。ところがいくら歩いてもついてきて、事もあろうかユクモ村のすぐ近くのヤブで姿を消したんだ。そこにアシラの巣があることに気付いたその“ハンター”は、急いで村に戻り、ギルドに報告しようとした」

「え、ちょっと、そんな早いタイミングで? お話だと、その間にもっと色々ありますよね?」

 バニィさんは一瞬振り向いたみたいだったけど、すぐに話を再開する。

「その“ハンター”は地元じゃちょっとした有名人で、それがイヤだった。だから街を飛び出してユクモにやってきてたんだ。武勲を立てるために。だけどミスは許されなかった。しがらみのない場所で結果を出せば故郷の連中を見返せるけど、反面、ミスを犯せば永遠に後ろ指を差されると思っていた。焦ってたんだよ」

 なんだよその言い方。

 息がつまる。

「それでも、その子アシラを討伐する罪悪感が勝った。数日かけて子アシラを見つけ出して、再度仲良くなり、更に数頭いた兄弟とも交流をもった。村に連れ帰って飼おうなんて考えたらしい。でもそんなことしたら親アシラが村に攻め入ってくるし、そもそもその一家を見逃すことなんてできないことは、頭のどこかでは理解していたんだ」

 無意識が理屈を組み立てていく。

 あたしが知りたくないと願っても。

「子アシラは村の近くに生える種類の植物の味を覚えていた。数年後に親元を離れて成長した時、村のそばに戻ってくる可能性が高いことは想像できたし、戻ってきたならそこに新たな巣を作り、自分たちの縄張りとして主張し始めるのは確実だった。その点でも議論の余地はなかったんだ」

 その決断が正しいのだと。

 バニィさんに先んじて、とっくに結論を出している。

「その“ハンター”は問題が起る前に決断した。アシラの巣の位置とその数を、ユクモのギルドの出張所に報告した。ギルドは“ハンター”四人チームを二組作り、巣ごと討伐した。その“ハンター”は子アシラを含む三頭を殴り殺し、英雄となった。ユクモ村は護られた」

 なんだよそれ。

「エリちゃんが知っている英雄は、子供向けに美化された理想像だよ。本物はもっと俗物的で、保守的な、ただの人間だ」

「なんだよそれ!」

 気付いた時には立ち上がっていた。その拍子にバックパックが倒れて、一番上に置いてあった絵本が地面に滑り出る。

 『アシラ一家のお引っ越し』。

 それが目の下にある。

 背中で感じていた熱が、あたしが感じていた頼もしさと憧れが、そこにある。

 いや――もうなかった。

 バニィさんは動かない。顔も向けない。

 ガウシカを狩る時に感じた広さがウソみたいに、その背中が小さく感じる。

 『恐れは、その実体に直面することより恐ろしい』

 対は。

 『憧れは、その実体に直面することよりこよない』

 知りたくなかった。

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