『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
● death by fornication
しょぼついた目でテントから出ると、そこはやっぱり地下だった。時刻は午前の九時半少し前だけど、朝っぽさはゼロ。強いて言えば狩りの事前準備のために大きく焚かれた炎だけが、昨夜との差である。
ちょっぴり期待したけど、ジュンさんはちゃんとポンチョを着込んでいた。最後の見張りはバニィさんとジュンさんのペアだったし、まあ残念だけど当然か。
そういえば、バニィさんとマーキさんはクエストが始まって以来、一度もこのポンチョについて言及してない。気にならないんだろうか。絶対気になると思うのに。
「おはようエリ、よく眠れた?」
「あ、はい、でもなんか、まだドキドキしてる気がします」
「まあ初めてだったもんね。でもその割りにいい動きしてたし、すぐ慣れると思うよ」
「だといいんですけど……ん?」
テントから出てきたあたしに朗らかに話しかけてきたバニィさんの向こうで、マーキさんが支給された携帯砥石を取り落とし、ジュンさんが太刀を片手に立ち上がった。
「バアァァニイイィ! てめえエエエェェェェ!」
「見損なったぞ」
「えっ? な、なに?」
「なにじゃねえ! なんだよその馴れ馴れしい態度!」
「一皮剥けた男と女の会話。見過ごすことはできん。なにがあった。なにを剥いた」
「え!? ちょっとなんの話!? ボクなにかした!? なんにも剥いてないよ!」
ジュンさんは鞘を掴んだ手であたしを庇うように立ち、マーキさんがその前を大盾でカバーする。
あ、そういうこと?
なにこの状況。楽しい。
「ウソ吐け! 剥いてねえで『おはようエリ、よく眠れた?(キリッ)』はねえだろォ!? うおおああ!!」
「あー……うん、一応剥いてはいるかな」
バニィさんの言葉で、ぴたり、と二人が静止する。
「念のために聞くが……なにをだ?」
「ギィギだけど」
「ギ、ギィギ……意味深……」
「いや意味深って。エリも克服しようと頑張ったけど、結局ギィギエキスは飲めなかったんだよね」
「エキス……」
マーキさんとジュンさんが順番に呆然と呟くのを、バニィさんは不思議そうな目で見ている。
ああ。
なんだろう、この感覚。
自分から落とし穴に全力疾走していくこの無防備感。
……ゾクゾクする。
「あの、大丈夫ですよ、あたし」
ここは口を挟むべきでしょ。
「現実を知ってちょっと落ち込んじゃったりもしましたけど、あたし、バニィさんに色々教えてもらってよかったと思ってますから」
バニィさんは安心したように何度か頷いたけど、二人は言葉も出なかった。
「……よし、分かった。君のギィギを討伐しよう。それが弟子を“モンスター”のそばに置いてしまった私の、せめてもの償いだ」
「えっ? ボクの?」
「最後の別れくらいは言わせてやるぞ。さあ遠慮するな」
迅竜ポンチョの下で、ついに太刀が抜かれた。黒い黒い刃が炎の照り返しを受けて、異様なほど輝いている。それが下手に構えられると、すうっと切っ先が持ち上がり、大きく円を描くように翻る。必殺技の名前でも叫びそうな雰囲気だ。
「ちょっと待って、なんか勘違いしてない? ボクはエリとギギネブラを討伐しようとしただけだよ?」
「“ムスコ”がギィギだから本体はギギネブラか。うまく言ったものだなバニィ……!」
「ムス……えっ? えっ!? あ、ええええ!? ち、違う違う違うよジュン! そんな比喩じゃないってタイムタイム!」
「姐さん、“モンスター”が相手なら武具を使っても規約違反じゃないぜ……」
「ああ、そうだな。極上のジョークの礼もこれで払ってやろう……」
ジュンさんの筋肉に力がこもり始める。ギリースーツでも隠しきれない殺気が漏れ出す。
やばい、これ本気だ。
「ストップストップ! あたしなにもされてないです! 比喩でもなんでもなく!」
太刀が光を裂く前に割って入ると、ジュンさんの爆発しそうな筋肉から力が抜ける。そして横目であたしを見やる。
「本当か?」
「本当です! 昨日はギルドのこととか、ーカリオ家のこととか、理想じゃ割り切れないことを教えてもらったんです!」
「そうなのか?」
ジュンさんは自分の説教と話が繋がったと感じたのか、バニィに視線を戻す。
「そうだよ! ギギネブラとギィギを撃退したのも本当! 四人揃ったらビックリさせようって話してたんだよ!」
ああ、ビックリね。心の底からビックリしただろうね。
「そういえば昨日の夜から、なんかかがりの明かりが変わったような気がしたけど、そんなのあったのかよ!」
「そうなんです!」
ジュンさんはようやく合点がいったか、太刀を鞘に納めた。
「ちゃんと説明しろ。それと、そういうことはきちんと報告してくれ。誰にでも分かる言葉でだ、ほんとに頼む」
あ、珍しい、ジュンさんが疲れ顔してる。