『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
あたしたちは、肉を通した鉄串を炙る炎の周りに座っている。
打ち合わせに参加しているのは、観測船メンバーにしてギルドの代表者であるトン殿、氷塊内のティガを確認したジュンさん、そしてあたしだ。バニィさんはあたしたちの食事を焼くべく、鉄串を一定のペースでくるくると回している。マーキさんは小さな肉を刺した短い串を手に、慎重に炎との距離を測っている。観測船のインゴットハンター二人は、トン殿の背後を護るように、片手剣ハンターは焚き火を、ボウガンハンターは反対を見て立っていた。
「じゃあ、凍土“エリア6”の東側が“墓”って情報は、ギルドにはちゃんとあったんです?」
「当然だねー。というかボクらを始めとする“墓守り”一族は、ギルドができる前からそういうのを管理してたんだからねー」
なるほど、“ハンター”がエリア内だけに集中して調査や狩りをする環境を整えるために、ギルドの中には、もっと広い領域を対象に調査する人がいるってわけだ。まあそりゃそうだよね。“モンスター”はエリアなんて関係なく行動するし、その範囲も調べなきゃそもそも“エリア”の定義なんてできないわけだしね。
「ハンターズギルドの成立自体が、マスターブ家やーカリオ家などの金と情報を持った組織のリソース共有を目的としたものだからな。まあ最初は色々と小競り合いもあったそうだが」
とジュンさんはバニィさんやトン殿を横目に言う。
片手剣ハンターはなにか言いたそうにジュンさんを睨んだが、トン殿に『打ち合わせ中は喋っちゃダメだよー命令だよー』と笑顔で言われたので、ぐっと耐えている。
「あの“墓”が成立した時期も、一応特定されてるよ。今から一〇〇〇年前には、もうあったみたいだねー」
「い、一〇〇〇年前!?」
「でもその二〇年前には情報がないんだよね。というかその二〇年間の凍土の情報自体がないんだよね。不思議ー」
心底楽しそうにけらけら笑うトン殿を尻目に、私は首を振る。
「トン殿、その辺りの情報はハンターに伝えてはなりません! こんな情報の価値もしらない連中に万一情報を漏洩されたりでもしたら!」
「流されるんじゃないかなー?」
苦言を呈する片手剣ハンターに、実にあっけらかんとトン殿は応えた。
「だって、ここにいるのはかの有名は美少女ハンターにして小説家の、ザイゼン・エリさんなんだよ。今もばっちりメモとってるし、筒抜けー」
「あ、き、貴様!」
「“美少女ハンター”じゃないですよ! あ、いえ、書かないです! 書かないですって!」
何秒かバタバタしたのちに、ジュンさんとトン殿が咳払いをして、場が戻る。
「あたしの小説はハンターズギルドもチェックするんですから大丈夫ですよ。誰かの不利益になるようなことは『月刊 狩りに生きる』に掲載されませんって」
言っていて、自然とそこに意識が向いた。
このお話はチェックされる。“誰かの不利益”になる部分は削られるんだ。
……冷静に考えると、昨夜の会話ってどう考えても“ギルドの不利益”だよね。じゃあ全部削除? それだと、クエストの根幹に関わる状況が不明のままギギネブラが出てきて、朝になっちゃいそうな。
いや、“不利益”なのはそれだけか? あたしが説教を受けたシーンは問題ない? そもそもこのシーンは? ティガに助けられたところは?
あたしが悩んでいる最中、ジュンさんは片目を開けて片手剣ハンターを見据えた。
「私もチェックはする。心配するな」
さっき力の差を見せ付けられたからか、彼は『なら問題ないだろうが……』と語尾をにごしつつ納得したみたい。
でも、うーん、ジュンさんのチェックを経ても、この作品を再構成するための方法が見つかるんだろうか。
見つかったとしても、どんな構成にするとしても、それってウソっぱちなんじゃないか?
そんなお話を掲載していいのか?
クエストへ態度は昨夜のうちに固めている。だけど、この小説へ態度は、どうすればいいんだ?
ああ、クソ、こんなタイミングで悩むべきことじゃないのに。
集中しなきゃ。
ちなみにバニィさんは真剣な眼差しで肉を焼いていて、マーキさんは一本一本串の肉のやけ具合をチェックしていて、一言も発していない。なんか絡んでほしいよ。
「あ、そうそう、喋ったから罰ね。二つね」
トン殿の発言で、片手剣ハンターががちゃりと鎧を鳴らした。
罰か。昨夜ジュンさんからビンタを食らったばっかりだけど、トン殿はなにを与えるんだろう。二つ?
しかし気になることはまだある。
たとえば、どうしてトン殿は、女の子なのに自分のことを“ボク”って言うんだ? とか。
……いやいや、そんなことじゃなくて。
「あのティガは一〇〇〇年も前から氷漬けにされてたってことです? ああいえ、他にも色んな動植物や“モンスター”の姿もありましたけど。そんな昔からティガっていたんですか?」
「八〇〇年ほど前の文献には、既に現在とほぼ同じ性質をもつ“タイガレックス”――“トラの王”の名が、生物災害の原因として記録されている。“ティガレックス”の名で生物として学術書に記録されたのは、六〇〇年前だな」
「学術書の方は、あの“墓”のものを参考にしたんだよー」
「どうして生きてるものを参考にしなかったんです?」
「討伐も捕獲もできなかった時代だからね。『こんなの見つけたら教えてねー』って書くためのものだったらしいしー」
そこは“らしい”なのか。”墓守り”だけあって、“墓”のことには詳しくてもその外側のことになると知識は深くないみたいね。
「だがとなると、あの氷塊ができた原因についての情報は、まったくないということか」
ジュンさんが話を戻した。
「ボクの手元にはねー」
「ティガの行動の原因になりそうな情報もか?」
「だねー」
「では結論は変わりないな」
「うん」
「決まりだな。では――」
音も立てずにジュンさんが立ち上がり、注目を集める。焚き火の炎さえ反射しない漆黒の装備に、その顔だけが白く映える。
「――現時点を持って、当クエストは正式に『ティガレックスの討伐』に移行する。フォーメーションは規定通り“T・レックス”。ただし、可能な限り“エリア外”には出ないこと。出る場合は可及的速やかにティガを討伐すること」
そこまで言ってから、ジュンさんはインゴットハンターたちを指差す。
「君たちは、あたしたちが“エリア外”で戦闘不能に陥った際の、ネコタクの代わりとして動いてもらう。報酬は規定通り、このクエスト報酬の三分の一だ」
二人は音を立てて足を鳴らした。
「エリ、いいか」
「はい、問題ないです!」
視線を向けられ、あたしは背筋を伸ばして返答した。
お説教の時とは打って変わって聞き分けのいいあたしに、ジュンさんは若干の戸惑いを見せた。まあバニィさんは、昨夜なにがあったか話さなかったんだろうし、しょうがないよね。
ジュンさんはあたしと数秒間見合った後、鋭く視線を戻す。
「……よし。以上だ、質問はないな」
ジュンさんが言い切り、あたしたちは真剣な顔で頷く。
「ほら、じゃあまずは食事だ。そろそろ焼けるから準備して」
バニィさんが言うと、トン殿が弾かれたように立ち上がった。
「アレやるのー!? アレー!?」
お、アレか!
「やろうよやろうよ!」
「景気付けにみんなでやるか!」
「私はいい」
「ノリわりいなあ! 食いもんには敬意を払うもんだぜ!」
「払っている」
「もういい? まだ早い?」
「もうちょっとー」
「我慢しろエリちゃん!」
「じゃあみんな、132bpmで合わせてね」
「分かるように言えバギィ!」
「バギィじゃないよ! じゃあ……これに合わせて」
バニィさんが笑いながら、脚でリズムを刻みだす。
トン殿、マーキさん、そしてあたしがそのリズムに加わり、だん、だん、だん、だん、と音が洞穴内に充満する。
そしてバニィさんが片手をあげて注目を集める。
「はい、いち、に、せーの!」
あたし :「てっててーてれれ!」
マーキさん:「じゃっじゃらーんちゃちゃら!」
トン殿 :「ぱららっ、ぱららっ、ぱららっ、ぱららっ!」
三人 :「「「て、て、て、て、て!」」」
バニィさん:「はい!」
四人 :「「「「上手に焼けましたー!」」」」
バニィさんが持ち上げた鉄串には、こんがりと焼きあがったガウシカの肉が七つ、肉汁を垂らしながら輝いている。
「おっし、早く食おうぜ! オレ、ケツな!」
「あたし肩ロース!」
「ボクバラー」
「君たち、今完全にタッチが変わってたな……」
「やっぱバニィの焼く肉は最高だぜえ」
「ん、どうしたんですかジュンさん」
「いや、なんでもない」
「ほら姐さん、早く選ばないと全部食っちまうぞ!」
「アブラマシマシー」
「太るよトン殿」
「入る分より出る分を増やせばいいってご先祖様が言ってたー」
「ニャー!」
「あれ、この子たちって?」
「バニィはどこ食う?」
「腿がいいな」
「君をここまで運んできたアイルーだな」
「ほほお、胸やケツより脚がいい派か、マニアックなドMめ」
「なに言ってんの……」
「そうだったんだ。ありがとね、ちょっとずつあげるね」
「ニャー!」
「ん、今トン殿なんか言ったか?」
「言ってないニャー」
口々に言い合いながら、食事は続く。
ジュンさんは呆れ顔で肉を食べてるけど、こういう時にはなにも言わない。
姉も言ってた。『頑張っていると意識し続けること。意識しなくなった時は、無茶してるってこと』って。
気を抜くところはちゃんと抜いて、張るところはしっかり張る。それがいいハンターの条件なんだから。
だから、ちょっとくらいめげることがあっても、無理矢理にでもアップダウンを作るのだ。沈んでばっかりじゃダメなのだ。
……と言い訳するけど、肉焼きソングはやっぱり楽しいんだよ。