『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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● ドMとドSがいるらしいです / pusher and tractor

「で、姐さん、ポポいた? ガウシカは? 肉は?」

 あたしが口を膨らましていると、マーキさんが手を上げた。

「どちらも見ていない。肉もない。この時期だ、ポポは移動は開始しているさ」

「ティガレックスも、なんか分かんないですけど、あったかいところに帰っちゃったんですかね?」

「前任のチームもティガの痕跡を見つけているが、その可能性もあるだろう」

「そうですか……。でも、寒いのを我慢するくらい美味しいかなあ、ポポって」

「いや、最高だぜアレは」

「君はなんでも最高だろう」

 ジュンさんはポンチョから覗く顔でも一際目立つ、紫色のルージュを引いた唇を斜めにして笑う。人を小バカにしたような表情だけど、大人っぽい余裕な態度がそれをマイルドに匂わせるだけに留めている。

「さ、私たちも食事にしよう。最後の食事かもしれないがな」

 ジュンさんはそういって、支給品から二人分の携帯食料を取り出して、一つをあたしに放った。

 “最後の食事”、その言葉が、またあたしの気持ちを暗くさせた。

「二週間も粘ったのに、こんな扱いひどいですよ」

「ギルドのリソースだって無尽蔵じゃないんだ。八箇月間で一〇〇人近い“モンスターハンター”を凍土に投入するんだから、状況に応じてサポートにムラが出るのは当然だろう? 仕方ない」

「調査クエが始まってまだ、一箇月と二週間だからなあ。息切れしてもやばいしな。でもオレが先に息切れしちゃ構わんぜ」

「君は腹筋運動でもしてたらどうだ? 昨夜はだらしない腹を見せてくれたじゃないか」

「いやまあ、ねえ、その、ねえ……」

 あたしは自分の携帯食料のパッケージを切る。ツンと目にくる保存用の香辛料の刺激は、この携帯食料最大の楽しみと言ってもいい。なにしろ味は、製造元のハンターズギルドが公式に認めるくらいのまずさなのだから。

「別働する二チームが有用な報告をして、そちらに重点を置かれた可能性はあるだろうな」

「そうですよね……」

 お腹を撫でているマーキさんの横で、肉を直火にかけて――そこで気付いた。

「そういえば、バニィさんは?」

 ジュンさんと一緒に食材探索に出て行った、あたしたち四人メンバーの最年長であり、リーダー的立場のバニィ・ーカリオさんが見当たらない。“そういえば”とか言うのも割りとひどいけど。

「もうすぐ来る。二人分の荷物を持ってるから遅いんだ」

「どうしてです?」

 と言った後、彼女がなんの荷物も持ってなかったことを思い出した。

「姐さんの荷物を引き受けてんのさ。バニィはドMの鑑だからねえ」

「私が大変そうにしていたら、進んで持ってくれたよ。紳士的とかレディファーストとかって言い方もあるだろうが、あれはまあドMだな」

「いや、ちょっと、それは言いすぎじゃ……」

 と口に出しつつ、焼きあがった――というか暖め終わった――お肉を一口。

 うん、まずい。数十種類のスパイスとハーブが交じり合った雑多な味わいが口の中でそれぞれ自己主張を繰り広げ、決着がつかないまま鼻から抜けていくこの感じ。なんかこう、『狩りに出た!』って感じがする味だよね。まずいんだけど、嫌いな味じゃないっていうか――

「あー! もう食べてる!」

 ――ドキリ、とまた心臓が跳ねる。

 二つのバックパックを身体の前後に背負い込んだバニィさんが、談笑中のあたしたちを呆然と見ていた。

「先に頂いてるぞ」

「オレはもう頂いちゃったよ」

 平然と受け答えする二人。

 バニィさんの鎧は鱗ではなく、燃えるような橙色の甲殻を削りだした手甲や膝当てを厚く組み合わせたもので、黒い色合いの下履きに暖色を基調とした装備は、まさに夜の砂丘に佇む“風牙竜”そのものだ。一八〇センチ以上ある巨体とあいまって無彩色の凍土の中で一際目立っている。

 その彼はバックパックを宿場の壁に立てかけると、焚き火の方へやってくる。そしてあたしの口が動いているを見て、泣き笑いのような表情を浮かべた。

「エリちゃんまで! えー!? いつもボクが来るまで待っててくれてたのに!」

「え、あ、違うんです、これはその、ジュンさんに促されてつい――」

「――ついドSの仲間入りをしたか」

「エリちゃんもジュンの仲間になっちゃったのかあ」

「えっ? ち、違いますよ!」

「素養はあったと思うぞ。何度もバニを背後から狙撃しそこねたのを、私は見てるからな」

「さっきオレに『みんな帰ってきてから食べよう』って言ってたのに、さらっと食べ始めてる辺り、将来性を感じるね」

「そ、そうなの!?」

「違うんですって! ああいえ、違わないんですけど、その、考えごとしてたっていうか、無意識だったっていうか!」

「ヒュウ! 無意識か! 無意識のうちにバニィを足蹴にする様こそ本質的サディスト! まさにドS!」

「ドSとしても、師匠であるこの私の後をついてきてくれるか、愛弟子よ」

「ええ!? エリちゃんはボクの味方だと思ってたのにぃ!」

「違うっつってんだろおおお前らああ、もおお!」

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