『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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● he is/will me

「遅い」

 亀裂を登り切って“エリア6”へのスリットを潜り抜けるなり、全身をポンチョで覆ったジュンさんに苦言を呈された。

「トン殿! 連中なにかよからぬことをされませんでしたか!?」

 更に親衛隊の片手剣ハンターが駆け寄ってきて、あたしたちを押しのけるようにトン殿に取り付く。

「されてないよー。君も人を信じることを覚えようねー」

「信じられません、こんな下賎なものたちなど!」

 面倒な人はトン殿に任せよう。あたしとマーキさんはチームメイトの方に近付く。

「遅くなってごめんなさい。だけどトン殿を護衛しながらなんですから。大目に見てくださいよ」

 若干息は上がってるけど、ほとんど元通りだ。腕と脚のだるさは、もう少し経てば直ると思う。

「そうだぜ、メシだって二食しか食ってないぜ!」

「マーキは腹筋運動でもして腹へこませてろ。トンは君らに合わせてスピードを落としていたんだぞ。本来なら彼女が最初に上がってきておかしくないんだ。弛んでる証拠だ」

「まあまあ、それは事実だけど、エリたちに言ってもしょうがないよ」

 バニィさんが軽くジュンさんをいさめる。

 てか事実なのかよ。

 久しぶりに見る日差しは眩しくて、やっぱりヒトは地上の生物なんだと実感する。

 だけど、高標高で雲もなく直射日光を浴びる環境では、逆に眩しすぎて目が痛い。肌も雪に反射した日光で“雪焼け”してしまいそうだ。

 といってもホットドリンクがなければ命に関わる寒さに変わりはない。“星の囁き”と呼ばれる呼気の凝固も相変わらずだ。

 そして空にかかるオーロラも、依然として真っ青に澄んだ空に浮かんでいる。手を伸ばせばめくれそうな光のカーテンは、夜に負けず劣らす神秘的だ。

 “エリア6”の大部分を占める雪原は東西に分断されていて、西側はあたしたちがいる下層、東側は三メートルほどの段差を隔てた上層になっている。その段差に沿うように、“大猪”ブルファンゴの死骸が横たわっていた。斬られ殴られついた傷は、氷点下数十度の世界で凍り付いている。

「ボクらとティガの戦いに、邪魔は不要だよ」

 説明するバニィさんは、表情にも口調にも、罪悪感の欠片も見せない。

 でも分かってる。彼も“自然と人間の共存”を目指す“ハンター”の一人で、だけど“リーダー格”だから、名門“ーカリオ家”の一人息子だから、表に出しちゃいけないことがたくさんある。

 言葉が通じて、感情の読み取りも容易な人間同士でさえ、本人の態度と口にする言葉が本当のことかどうかなんて、誰にも分からない。

 だから、最終的には解釈するしかないんだ。

 みんなとのことも、ティガとのことも。

「おし、最後のメシだ!」

 雰囲気をぶち壊したのはマーキさんだ。下ろしたバックパックをごそごそやって、防水布を取り出す。ティガにあげたガウシカの生肉を包んでいた、あれだ。

「君な、最後くらいは真面目に――」

 と肩を掴んできたジュンさんを、ぴっと出した短い串で遮る。

「――ティガの肉だぜ」

「えっ!?」

 思わず声をあげてしまった。あの“エリア5”で焼いてた肉は、ティガのものだったの?

「“エリア4”で破壊したティガの爪にね、ほんの少しだけ肉片がついてたんだよ。エリには言わないでいたんだけど」

「ああ……」

 あの今はなき、バニィさんのタル爆弾が与えた傷か。

「ちっと予定が狂っちまったけど、でもいいだろ? オレらがあいつの肉を食う予定に変わりはないぜ」

 あたしは串を受け取って、わずかに眉を寄せた。

 橙色と青色の縞模様など思い出すこともない、赤みの強いなんの変哲もない肉。

 脂肪分の少ない切れ端は、三時間前に食べたガウシカの肩ロースとそれほど変わらない。

 だけど――

 この肉が支えていた爪が、あたしをここから運んでくれた。

 この肉が包んでいた翼が、あたしを寒さから護ってくれた。

 ――そう考えると、涙が滲んでくる。

 “赤みの強いなんの変哲もない肉”って、分かってるのに。

「エリちゃん、食え」

 顔を上げると、肉を配り終えたマーキさんがあたしを見ていた。いつになく真面目な顔で。

「何があったのか知らねえけど、言ったろ、オレたちと“モンスター”の関係は、食うか食われるかのどっちしかねえ」

 “食う”。

 そのキーワードは、最初にティガと対面して腰を抜かしたあたしに、マーキさんが言ったものだ。

 食われたいのか、食いたいのか、と。

「ティガを食うってことは、エリちゃんはあいつは同等になるってことだ。なんつったら言ったらいいのか、うーん、なにもかもが同等になるんだ。分かるか? 分かるだろ?」

「…………」

 ひと思いに肉を歯でくわえ、串から引きずり出し、驚きながらも笑うマーキさんの前で力の限り噛み締める。

 “ハンター”は“モンスター”の鱗や牙を武具としてまとい、その力を得る。でも外側を覆うだけじゃ意味がない。内側に蓄積されるもの、たとえば能力や経験、はたまた精神や心といったものも、一緒に鍛えていかなきゃいけない。

 マーキさんが討伐した相手を捕食するのは、その内側の成長のためなんじゃないか?

 討伐した“モンスター”を捕食という儀式を通じてで自分と同化させ、成長とする。それと同時に奪ってきた命を背負い込むことで、自分に対する責任を積み重ねているんだ。

 “食うか食われるか”

 それは生死だけじゃなく、食への欲求だけでもなく、相手を受け継ぐこと。

 それが、彼の矜持の本当の意味か。

 しみ出してくる肉汁は、ガウシカとは違って大分酸味が強い。臭みもある。マーキさんの予想通り、ちょっと筋っぽくもある。

 あたしはその味や匂いや食感に、今回のクエストと、ティガの記憶を紐付ける。

 これもたぶん、感情移入の一種なんだろうな。

 整理した気持ちと一緒に何とか肉を飲み下すと、肉を咀嚼してるマーキさんが歯を見せて笑い、あたしの肩を叩いてきた。

「よーし、これで君もティガだ。オレら全員、ティガだぜ。そうだよな、エリ」

 親指で示すジュンさんとバニィさんは、空になった串を手に何かを話していた。マーキさんと“モンスター”を討伐するのは始めての二人だけど、“モンスター”を食べるってことに抵抗はないみたい。

「はい、あたしもティガです。でも飲み込んでから喋ってください」

「お、おう」

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