『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
バニィさんはハンマーの頭部を下に氷に下ろし、いつでも手に取れるようにして息を吐く。
ジュンさんはティガの眉間から太刀を引き抜き、血を払って上部を展開した鞘に納刀する。
マーキさんはヒレを組み合わせた大盾を納めて、剥ぎ取り用ナイフを手に段差を登ってる。
あたしは腰を抜かして氷塊の上に投げ返されて、そのままお尻をつけて座り込んでしまう。
運頼みは失敗して。
だけど死ななかった。
またここで助けられた。
あたしは、あたし以外に。
ああ、もう。
『あたしを助けられるのは、あたしだけ』って思ったのに。
一度目は冷気に殺されそうになったところをティガに助けられ、二度目はそのティガに殺されそうになったところを仲間たちに助けられた。
力不足すぎる。自分で“名誉上位ハンター”と受け入れていても、それが痛いぐらいに実感できた。
いや……それだけじゃない。
謎は解けないまま、ティガは死んだ。
こっちもあたしの力は及ばなかったんだ。
彼はきっと自分の目的にそって動いて、あたしもそこに手が届きそうな気がした。だけどギルドの『可及的速やかにティガを討伐』には敵わなかった。そういうことだ。
それでも……あたしの落ち込んでなかった。
勝ち鬨も、拍手も、掛け合うねぎらいの言葉もない、静かな一時を、不思議な気分で過ごしていた。
「やったのー?」
腰を下ろしたあたしにとことこと近付いてきたトン殿が、そっと呟く。
「まだ確認はできていませんが、おそらくは――」
「――うし、メシの時間だ!」
大盾を背中に納めたマーキさんが、氷塊を登ってきた。
「オレの見せ場は狩りじゃなくてメシだからな。ティガ肉にかぶりつくところ、ちゃんと書いてくれよ!」
ああ、もう雰囲気ぶちこわし。
「なんですかその平常運転すぎる発言。このシーンなら『射出役じゃなくてオレも一発食らわせたかったぜ!』とか言うところじゃないんです?」
「オレに肉を食う以外の見せ場があると思ってんのか?」
なんで自信満々にヒゲ撫でてんのよ、ねえ。
まあでも、らしいか。マーキさんにとっては本当に、倒すべき相手は“生肉”、狩りは“食うか食われるか”でしかないんだね。
「じゃあ、剥ぎ取りが終わったら食べましょう。それまで我慢ですよ」
とあたしも笑ってしまった。
「気を抜かずに待機しろ。脇役、いるなら出てこい」
ジュンさんが鋭い声で指示を出した。前半をあたしたちに、後半をマスターブ家親衛隊に向けてだ。
応えるように、北側と南側からそれぞれ、氷塊の影に隠れていたインゴットハンターたちがやってくる。
「ティガの死亡は確認、クエストの成功条件はクリアだ。君たちも死骸を確認してくれ」
片手剣ハンターは倒れたティガの巨体をしげしげと眺めたあと、踵を鳴らしてあたしたちに敬礼した。
「ご苦労だった。おい、トン殿を頼むぞ」
ボウガンハンターに指示を出し、ティガの遺骸へと向かう。
やがて、
「こちらも討伐対象“ティガレックス”の死亡を確認した。クエスト完了だ」
と声が返ってきて、だけどあたしは意外な気分だった。
本当に死んだのか。
あのティガが……。