『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
● interlude part1
「みんなお疲れ様。これでおしまいだね」
「ニィちゃんグッジョブー! かっこいかったよー!」
トン殿が声を上げて、三〇センチは高いバニィさんの首に飛びついた。
「ありがとう。エリを助けてくれたのも感謝してるよ」
「はい、助かりました。ありがとうございます」
「“一乙”扱いだけどねー」
うっ。まあそりゃそうか。じゃあ尻尾で吹っ飛ばされた時に片手剣ハンターに助けを乞うてたら、あれで終わりだったのか。
「でもまだムチ使ってるんだね。そろそろギルドが許可する武器に絞ったら?」
「やだー。来年の新武器コンベンションには絶対出すんだからー」
「なあおい、早く新鮮なうちにティガ肉食おうぜティガ肉! もっとガッツリ食いたいだろ?」
「ボクはさっきので十分だよ。マーキももうちょっと食事制限したら?」
「でもこのお腹は気持ちいいんだよー。ぽいんぽいんー」
「ふんぬ! この腹を見ろ! この重さがオレのガード性能を大幅に向上させんだぜ!」
「鱗で見えないー」
「それに比べてバニィ! そのストイックに体重制限をする姿勢、まさにドM!」
「いや、それドM認定としては苦しいでしょ、“ハンター”なら普通だしさ……」
騒ぐみんなを見ていると、意識が身体に馴染んできた気がする。拡張(拡散?)された感覚が肉体という鞘に収まり、あたしはいつものあたしになっていた。クエスト完了と同時に“ハンター”タイムは終わり、“名誉ハンター”モードに戻ったのだろう。
ボウガンから通常弾をリリースしようと立ち上がりかけて、鈍い痛みが左肩を貫いた。開いた右腕の傷も疼いている。マヒダケの麻酔効果が切れてきたみたいだと気付くと、急に腰や胸が遠くの方から痛みを訴えてきた。
マヒダケを囓るか一瞬迷ったけど、応急手当を受けるにしても“エリア6”には自力で戻らないといけないんだし、補充しておこう。
ポーチの中からマヒダケを取り出して、傘を一囓り。
「おお、それマヒダケじゃん! オレにもくれよ!」
言うと思った。
「鎮痛目的で食べてるんです」
「オレだって空腹を和らげるためにだなあ!」
「空腹の鎮痛どころか気を失いますよ」
「てかマヒダケって味しねえだろ」
「味わってないですって、舌痺れちゃいますし」
すでに呂律が若干あやふやになっているけど、気にしない。
「じゃあマーキさんも、食べたことあるんです?」
「キノコの仲間なら食わずにはいられん」
「毒テングダケも? よく生きてますね」
「一回死んだぜ!」
「ああ、だから恐いものなしなんですか」
「それは前からだ!」
言い合っているうちに、蘇りかけた痛みは消えていった。残るのは、やっぱり茫洋とした感覚。
やっぱりあの拡張された感覚は、マヒダケとは関係ないみたいね。安心したような、残念なような。
「おーし、オレはティガの尻尾でも剥いでくるか。もちろん肉をな!」
「はーい」
手を振りながら立ち上がり、そこでジュンさんの姿が見てないことに思い至った。
見回し、すぐに目立つその姿が目に入る。
ポンチョを脱いだままのジュンさんは、ティガのすぐ近くにいた。
“迅竜”の胴装備は藍色の素材で作られたセパレートタイプの水着といった印象で、大きく露出した胴回りは網状のかたびらで覆われている。爪先から腿はふっくらと、逆に腕はタイトに編み上げた鎧で護られ、内股部分と肩周り干渉を排除するためにばっさり削除されている。
その藍色が、透き通るような白い肌を際立たせていた。
白い肌と、そこに刻まれた“ハンター”としての人生を。
それが、頑なに肌を晒さなかった理由か。
あたしは目を逸らすようにして、彼女のところに向かう。
ティガとティガが差し合わせるように手を伸ばした、その場所に。
三メートルほどの距離に近付いた時、
「どうだった。大変だったか?」
後ろが見えてるみたいにジュンさんが口を開いた。
「そりゃあ大変でしたよ。今までにないクエストでしたし、ティガは手強かったですし」
「その甲斐あって、飛竜種の討伐数は一になったじゃないか」
ああ……。完全に忘れてた。そうだよね、最初はそんな目的でクエストに赴いたんだもんね。
「嬉しいだろう?」
「それ、皮肉です?」
あたしは半笑いで返すと、ジュンさんは小首を傾げて笑う。
「最後の判断ミスがなければよかったんですけどね。助けてもらわなかったらあたし、死んでたかもしれないんですから」
その叱咤は受けなきゃいけない、と思う私だったけど。
ジュンさんは一度口を開きかけ、閉じ、
「すまん」
と誰にともなく呟いただけだった。
その正反対の言葉とニュアンスで――あたしは察してしまった。
ジュンさんたちはあたしのピンチにちょうど駆けつけたんじゃなくて、実は最初から隣の氷塊に隠れてたんじゃないか?
あの狭い氷塊で四人が入り乱れて戦うのは連携も難しいし、一対一で立ち回るティガの方が行動が予測しやすい。だからあたしを囮にして、連係攻撃をしかけたんじゃないか?
そう考えればしっくりくる。
でも……ちょっと寂しい気持ちにもなってしまう。
またのけもの扱いされたのかな、と思って、
ちゃんと言ってくれたら、あたしだってすんなり受け入れるし、がんばれるのにさ。
ジュンさんはティガの遺骸に目を向けた。あたしも倣う。
ティガは動かない。
死んだ……んだよね。
“モンスター”の中には頭を破壊されても活動を続けられたり、死んだふりをしたりする種類もいるっていうけど……。
ジュンさんは視線を外し、ポンチョを拾い上げてかぶらずに肩にかけた。
そしてあたしに背を向け――無造作に何かを放った。
咄嗟だったけど落とさないように掴みとったそれは――
「爪?」
――前腕ほどのサイズに割れた、橙色がかった鈍色に光る爪だった。高密度なためか、サイズの割りにずっしりと重い。鉤形の先端を構成していた尖った部分が、そのままの形で残っている。
「上物だ。取っておけ」
あたしは頷き、内容物の少なくなってしまったポーチにしまった。
「武具のチェックはしたか? オーバーホールの必要があるなら、修理用素材の補充計画を立てるんだ」
「あ、はい……」
結局あたしはジュンさんになにも言えず、氷の上にしゃがんで、『バズルボローカ』のフィールドストリッピングを始めた。どの部位にも大きな消耗の跡はないけど、二週間ぶっ続けで凍土に持ち込んでいたんだから、通常分解じゃなくて完全にオーバーホールする必要がありそうだ。手早く組み立てて納銃。
“紅彩鳥”の服は、バギィに噛まれたところをはじめ、羽根がすり切れたりベースの生地が裂けたりと、もう一度素材を集めて作り直しレベルだった。……その時にはちゃんと、クルペッコ亜種のお肉は食べてみようかな。
ついでに手持ちの道具もチェック。ポーチに入っているのは数種類の弾薬、応急薬一本、ホットドリンク二本、マヒダケ一本、ノート一冊、それにティガの爪。バックパックを捨てたことで、そのほとんどを失ってしまった。
武具と道具の消耗を合わせて、収支はとんとんかな。一人で“二乙”しちゃって、報酬は額面の三分の一なんだから。
素材の買い取り額と、小説の原稿料に期待しよう。