『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
● I am a MONSTER HUNTER
――食い込まない。
かすかな傷が残っただけで、あたしは爪を握ったままウカムの平たい額を頭頂の方へ滑っていく。
腕の各関節に加わった脱臼しそうな衝撃と左鎖骨の激痛を無視して、流れていく甲殻に爪を何度も立てる。
「かってええ!!」
そのたびに火花が咲くけど、数ミリ以上の傷はつかない。
遅れて着地したジュンさんが額を転がってから立ち上がり、小さくジャンプ。
あたしは爪を額の上に立たせたまま手放し――
――その層構造を見せる断面に剥ぎ取り用ナイフの柄頭が叩き込まれ、爪が数センチ食い込んだ。
でもダメだ、これじゃダメージにならない!
折れた氷塊が地面に達し、粉々に砕ける音が響いた。
ようやく頭上の存在が気になったのか、ウカムは潜行時のような熱気を噴き出し、軽く頭を振り上げてあたしたちを追い払おうとした。
額の甲殻には大小様々な起伏があるけど、全体的には氷中潜行のためのなだらかな曲線で、掴まる部分はない。
あたしはティガの爪を掴み、ジュンさんは自分の剥ぎ取り用ナイフを突き刺すも、どちらも簡単にすっぽ抜けて放り出されてしまう。
地面が遠のく。高低差二〇メートル近く。
さすがスコップ状の顎と顔面と共にすべての矢面に立つ部位、ティガの爪でさえ歯が立たないのか。
そもそも肩関節の隙間に貫通弾を撃ち込んでさえクリーンヒットじゃなかったんだから、一〇メートルの位置エネルギーとたかだか人間の腕力じゃ、無茶だったのか?
あの“絶対強者”の爪をもってしてさえ!
……あれ?
ジュンさんは堪えてる。不思議そうな顔で、自分と剥ぎ取り用ナイフを見比べてる。
あ……もしかして!
「エリ!」
ジュンさんも気付いたか、あたしにそれを投げた。
オーロラに揺れて輝く、赤色の液体が入ったビン。
「はい!」
ウカムはあたしの真下で、異物を見上げることなく、獣竜種に注意を戻した。
またバカにしやがって!
ビンの回転と位置を合わせ、爪を振りかぶり――
「吠え面見せろおおおお!!」
――手応えあり。
爪がビンの蓋を突き破り、厚い底を貫き、ガラスが粉々に砕け、空気に触れた液体が一気に熱を放出する。
液体は水蒸気を噴出させながら爪を伝わり、甲殻を熱する。
ウカムの甲殻の層を、灼熱したティガの爪が、一枚一枚破壊しながら食い込んでいく。
一〇センチ。二〇センチ。柔らかい、まだ入る。
なるほど、ウカムは潜行の際に甲殻を強固にするんじゃあなくて、逆にある程度の氷は受け流せるように多少の柔軟性を持たせてるのか。だから、氷を溶解させる時みたいに熱を与えれば、刃も通る。
ウカムは立ち膝の不安定な状態をぐらりと揺らし――そのまま氷床に潜り込もうとした。さすがにそれは耐えられない。
「エリ、離脱するぞ!」
「はい!」
とはいえまっすぐ前から降りたら潜行に巻き込まれるし、横に避けるにも助走距離が足りないだろう。
だから頭から背中の方に移り、ウカムをずるずると飲み込まれていく氷から逃れるように、“背ビレ”に沿って走る。
そして短い尻尾に到達すると共に、両サイドに跳躍。
瞬間、あたしはなにか決め台詞のようなものが言いたくなって、少し考えて――
「人間を舐めるな! これが“モンスターハンター”だバーカ!」
――思い返すには恥ずかしい台詞を叫んだ。