『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』 作:fuki
「はあ……」
獣竜種は潜行するウカムを追って、仲良く北の極地の方へと去っていった。
今はもう、氷床の向こうでゴミみたいな大きさになってる。
「なんだったんでしょうね、あれ」
「一〇〇〇年越しのケンカじゃないのか、まったく……」
雪原まで戻ったあたしたちは、どちらが言うともなく段差の上に登り、氷塊で埋まっていた海を眺めていた。
ティガの爪は熱を失い、本来の橙色がかった光る鈍色に戻ってしまった。
痛むのか痛まないのかよく分からない身体を立たせる。
ウカムが出てきて以降は、外側も内側も目立ったダメージはなかったかな? 身体中青くなりそうだし、手のひらから手首にかけてホットドリンクに長時間触れてできた火傷があるけど、まあ微々たるものだ。
「いやあ、生き延びましたねえ……」
「久々に本当に死ぬかと思ったな」
え、久々だったの? あたししょっちゅう思ってるんだけど。
そんなことを言ったらまた師匠モードでお説教されそうだから、話を逸らそうとあれこれ考えていると――
「生き延びたんだ。君の願いを聞いてやってもいいぞ。なんだ、年齢か?」
――ああ、そうだった。忘れてたよ。
「えっと、その……」
参ったな、なんか気恥ずかしい。
「どうした、遠慮するな」
「はい、あの……お姉ちゃんの似顔絵を、書いてもらいたくて」
ジュンさんは、ああ、と口を開けた。
姉の言葉はいくつも残ってるし、最期の姿も思い出したような気がするけど、でもやっぱり顔は覚えてないんだ。
だから、一目でいいから、見てみたいな、って。
「分かった、約束する。タンジアまで生きて帰れたら、な」
「そうですね」
そして、すっかり“モンスター”の去ってしまった氷床を眺める。
気温は上がり始め、氷塊も少しずつ崩れていき、もう誰もここを“墓”とは呼ばなくなるだろう。
目が痛くなるくらい青い空と、そこでひらめくオーロラを見上げる。
「これ、ティガの望んだ通りになっちゃったってことなんですかね」
「少なくとも、ウカムの復活は意図通りだろうな」
「そうですよね……」
ティガはあたしたちとの関係を常に戦いに置き、その上であそこに導いた。そこに『ウカムを目覚めさせるな』との意図があるとは考えにくい。
注意を促すのが目的なら、ウカムを起こすような戦いをあの場所でするわけがない。あたしやジュンさんがあの氷塊に気付いた時点で、ティガ自身があそこに向かう必要はないんだからね。
「勝ちか負けかでいったら、ティガの勝ちだろうな。まったく、すっきりしない」
そうなんだろうな。
ティガはたぶん、自分にウカムを殺す力はないって分かってたんだろう。だからやってきた“ハンター”を値踏みして、そして殺させた。自分を狩れるくらいの実力があれば、更に強大なウカムを倒す可能性があるだろう、と。だからあたしを本気で殺しにきたにもかかわらず、ホットドリンク切れで死にかけたあたしを助けたんじゃない?
でももしかしたら、氷の中のティガが生きてることが分かってて、それを助けてもらいたかったのかもね。その場合は、ウカムの独り勝ちになっちゃいそう。
……まあこんな謎解きも、“ウカム”という実体が出てきたことで逆算して組み立てたものだし。
結局は解釈でしかないんだけど。
でもさ。
ティガは確かに、血も肉もない神の化身じゃなければ、文字通りの“絶対強者”でもない一人の“モンスター”だった。
だけど、だからこそ、傷ついて苦しみながら、自分の目的のために命を使い切ったその姿に、ある種の矜持を感じるんだ。
あたしはそれを受け取れたのか、よく分からないけど。
でも、この身に宿したティガに恥ずかしくないように自分を鍛えて、そして、この話を責任をもって広めないと、って思うんだ。
そうできるようになるのに、どれくらいの時間がかかるかは分からないけど、彼の矜持は、なかったことにしたくないんだ。
「“絶対強者”のプライドはさ……」
呟いていたあたしの言葉を、ジュンさんは鼻で笑って受け取った。
「訂正するしかないな。大した“絶対強者”だったよ、あいつは」
そう不満げに呟く横顔は、ちょっとだけ嬉しそうだった。