『美少女ハンター凍土で大奮闘です!』改め『ティガレックス討伐譚:吹雪の前触れ』   作:fuki

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● 調査に出発しましょう / in fighting trim

 ……ここまで書いておいてなんだけど、この部分、小説に載せちゃっていいのかな。名誉毀損っていうか、『実録! おっさんハンターいびりの実態!』みたいになってない?

 それはともかく。

 落ち着いたバニィさんは食事を数十秒で平らげた後、こともなげにこう告げた。

「ティガの痕跡を見つけた。凍土西側のエリアでだ」

 あたしは鼻水を噴出しそうになる。

「どうしたの?」

「だってさっきジュンさん、『最後の食事かもしれない』とか言ってましたよ! けっこうキリッと!」

「それは『ティガを発見してクエストを完了するかもしれない』という意味だ。あと、キリッとはしてない」

「伝わってないですって!」

「そういうわけで準備をして。遅くても丸一日、明日の昼頃までの予定だけど、荷物は念のため一・五日分。キャンプ用具はボクが持っていく」

 さっきのドM姿勢はどこへやら、上背を活かした堂々たる態度と自信に満ちた張りのある声で、バニィさんが指示を出す。

「以上。質問は?」

「支給品減ってるらしいぜ」

「ああ、うん。確認してるよ」

「なんで平然としてんだよおー。お坊ちゃんなんだからポケットマネーで支給品増やしてくれよバニィー」

「あのね……クエストに自腹切ったものが持ち込めるわけないでしょ!」

「なんだよー。スポンサー特権でメシ支給二倍しろよー」

「父に殴られるよ! もう、ムダ口叩いてないで準備する!」

 くだらないやりとりを耳に、あたしは後ろ向きな気分もどこへやらと半笑いになりながら、支給品ボックスを開けてバックパックに荷物を詰めていく。

 一・五日分となると相当重いし、なによりかさばる。この他に狩りのための“武具”も持ち運び、場合によってはバックパックを背負ったまま戦わなければならないのだから、ハンターとして日々修練を積んで、筋力とバランス感覚を鍛えていなければ、とてもじゃないが立ち行かない。

「遠出になるんです?」

「たぶんね。追跡が始まったら、雪原から岩山の洞穴を抜けた永久凍土に至る可能性が高い」

 言われて、ジュンさんとマーキさんが一瞬目だけでバニィさんを見た。バニィさんもそれに応えるように、微かに頷く。

 あたしはその輪に参加できなかったものの、拳を握り締めていた。

 “洞穴を抜けた永久凍土”。そこは今からちょうど一箇月ほど前、前任のハンターチームがティガを発見して追いかけた際に、ティガが奇妙な挙動を見せていたとの報告があった場所なのだ。なんでも“モンスターハンター”がそこにいると認識しているのに、狩り場を離脱して東側の氷塊の上で往生したように立ち止まっていたとか。

 もちろん原因は不明。だが同じ行動を再度とるのであれば、それが今回の調査の核心になるのではないか、という予測があるのだ。先入観を持つまいとしているからか、誰も口には出してないんだけど、あたしが息をつめているのにも納得してもらえると思う。

 そんな様子を見たか、

「でも一昨日も行ったコースだから、いつもどおり防寒用具を着込めばいいよ」

 とバニィさんは敢えて明るい声で言った。

「あそこはさみぃからなあ。毛皮系の装備が欲しくなるんだよなあ」

 いかにも寒そうな鱗の鎧を着るマーキさんも、軽口を叩いた。

 二人ともあたしの緊張をほぐすためにしてくれてるんだ。

 なら、とあたしも、ここぞとばかりに自分の胸の辺りを叩く。

「こう見えてこの服、羽毛ですから断熱性能は高いんですよ。いざとなればこれだけでも――」

「――洞穴内の寒さは尋常じゃない。甘くみてると死ぬぞ」

 離れたところからジュンさんの鋭い視線が飛び、あたしは唾を飲んで頷く。

 今のは冗談半分だったんだけどね……。

「まあまあ、一応予備の防寒具も全員分持ってるよ」

 とバニィさんは一回り大きいバックパックを指して言う。彼がその体格を活かして、あたしたちより多くの荷物を運ぶのは、もうすっかり慣れてしまった。

「バニィ、エリを甘やかすな」

「ただの保険だよ。エリちゃんも自分のは持っていってね」

 バニィさんにも頷き返し、自分の荷物を確認。

 凍土の地図、応急薬、携帯食料、ペイントボール、支給されたガウシカ毛皮製防寒着、たいまつ、閃光玉、光信号用の鏡、双眼鏡、弾薬セットAとC、調号用の火薬類にマヒダケ、小説を書き付けるノートとメモ帳、愛読書の『アシラ一家のお引っ越し』の絵本、そしてなによりも大切なホットドリンク。

 絵本は私物の持ち込みだけど、これは肉体に影響のない精神高揚のためのものとして許可されているのだ。

 すぐ使うものはポーチにしまい、いつでも取り出せるようにして。

 うん、大丈夫。

 バックパックを背負うと、準備のできていた三人のそばに駆け寄る。

「じゃあ、最初のホットドリンクを飲むよ。効果は午後四時半頃までだけど、余裕を持って四時頃には次を飲むように。鐘楼の鐘を聞き漏らさないでね」

 と、調査クエストが始まる時にギルドがバタバタと組み上げた鐘楼を叩く。“時計”という時を刻む極めて高価な装置が組み込まれ、一時間単位で鐘を鳴らす仮設の塔は、数日間に及ぶことが確定しているクエストに特別支給されるものだ。凍土には他に二つの小型鐘楼が設置されている。

 四人で同時に、四〇〇CCほどのビンに入った赤い液体を飲み干す。

 口の中でうまれた熱が食道を通って、胃の中は真夏に鍋料理を食べた直後みたいになった。

 これは凍土や雪山のように気温が極端に低い地域で活動するための発熱剤で、これから約四時間、胃や腸から少しずつ全身へと熱を送り続けてくれる。わざと吸収しにくい調合がなされており、効果時間を狂わせないために、ハンターは狩りの間に食べてもよい食材とその調理法が厳密に管理されているのだ。なにしろこれがない状態で凍土を走り回れば、いかにハンターと言えど一〇分足らずで氷漬けになってしまうのだから。

 あたしたちは宿場のベッドから、各々の“武具”を取り上げる。

 バニィさんは、岩石の塊みたいな頭部から不規則なデコボコが飛び出したハンマーを。

 マーキさんは、自分の一・五倍の長さはある四つ叉ランスと、透明なヒレを組み合わせた大盾を。

 ジュンさんは、防具と同じ藍色の鞘に覆われた太刀を。

 そしてあたしは、中空構造で軽量化したリムとストックを備えたボウガンを。

 それぞれ、たすきがけにしたストラップに固定した。

 準備が整ったのを見て、バニィさんは引き締めた表情で口を開く。

「行くよ! ベースキャンプを離れたら、ティガレックス調査の遂行と討伐しか、ここに戻る道はないと思え!」

 飛ばされた檄に、あたしたちは片手を振り上げた。

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