早めに物語が完成したので投稿しました。
前回は切彦が空気だったので今回は視点を切彦に向けました。
では、始まります!!
024
紫との再会を終えて次は切彦の番となる。何故かは分からないが前と同じで紫と同行していた。
「な、何で切彦ちゃんが?」
「仕事帰りですお兄さん」
「・・・そっか仕事帰りか」
切彦の仕事帰りとは裏の仕事。殺し屋の仕事だ。考えたくもないが何処かで切彦のターゲットが首と胴体が離れていることだろう。
何度か考えたことがあるが、切彦には殺し屋を辞めて欲しいと思っている。しかしきっとそれは不可能かもしれない。「殺し屋を辞めてくれ」と言っても無駄だと頭のどこかで思ってしまうからだ。
「でも何で紫と?」
「わたしもお兄さんに会いに来ました」
頬を赤くしながら小さく呟く。これだけなら可愛い少女であり、本当に殺し屋には見えない。
ここで少し問題が起こる。なぜなら大和やクリスは切彦と言う名前に気付いたから。由紀江が言っていた「剣士の敵」の名前を同じだからだ。
そもそもご本人なのだが。
「なあ、その子って斬島切彦なのか?」
「はいそうです」
切彦自身も肯定する。本人なのだから肯定しないわけ無い。彼女のことを知っている真九郎もここで切彦の素性を隠す真似をしたら怪しく思われるのは当然だろう。
今ここには大和や冬馬と言った鋭い者がいる。下手な誤魔化しは逆効果だ。
(どう説明しようか。普通に友達って言うしかないけど・・・剣士の敵については説明しきれないな)
せめて切彦が殺し屋だということは隠しておきたい。銀子も同じ思いだ。まさか殺し屋と知り合いとなっては後の学園生活も大変である。
(たぶん・・・クラウディオさんは気付いているかも)
九鬼財閥で上層部である従者部隊序列3位のクラウディオならば『斬島』のことは当然知っている。しかし本人と接触したのは今日が初めてである。
だから静かに警戒しているのだ。もしかしたら後で呼び出されるかもしれない。それはそれでどうしようもない。
(・・・うーん)
時間は有限である。考えているうちに、気になったら何でも質問するクリスがついに口を開いた。
「なあ斬島切彦殿。質問良いか?」
「どうぞ」
「剣士の敵ってのはまさか・・・切彦殿のことか?」
ついに来てしまった質問。
「・・・たぶんそうです」
切彦は普通に答える。それに切彦は「剣士の敵」と呼ばれるより「ギロチン」と呼ばれてるので曖昧な返事をするのであった。
曖昧な返事を返す切彦にクリスは微妙な反応である。まさかダウナー系な彼女が剣聖である黛大成が戦いを避ける程の人物には思えなかったのだ。
同じく大和や忠勝もそう思っている。正直信じられないので同姓同名かと考えてしまう。しかし「斬島切彦」なんて名前はそうそういない。
(本当に彼女がまゆっちの言っていた剣士の敵なのか?)
大和の疑問は最もである。もしここに由紀江がいれば確認してもらいたいくらいだ。
「そうか・・・剣士の敵なのか。何をやっているんだ?」
クリスは「剣士の敵」と呼ばれる切彦が何者か気になっている。だから普通に質問するのは当然だ。
そして切彦も質問の答えを普通に応える。初めて真九郎に自分の職業を伝えたように。
「あいむひっとまん」
堂々と自分の職業を言うのであった。これには真九郎も心臓がバクバクである。
「あいむひっとまん?」
この言葉を聞いて考える者は大和や冬馬、クラウディオたちだ。
(あいむ、ひっとまん・・・I'm Hitman・・・殺し屋?)
この英文を簡単に和訳すると「殺し屋」となる。しかし信じられずに冗談と思うのであった。クラウディオ以外は。
「なあ弟。剣士の敵って何だ。とても強そうな響きじゃないか!!」
「そのままの意味で剣士にとって最大の敵らしいよ。詳しくはまゆっちが知ってる」
「じゃあ後でまゆっちに聞こうかな~」
本当なら目の前にいる本人に聞けば良いのだが如何せん「剣士の敵」には見えない。それに今の百代の興味対象は九鳳院近衛隊のリンと大作である。
出来れば戦いたいと思っているのだ。しかし本人たちは無駄な戦いをする気が無いので百代の願いは叶うことは無い。
「お兄さん」
「何かな切彦ちゃん?」
ここで切彦がギュッと真九郎に抱き付く。久しぶりに真九郎に会えた衝動と言っても良い。殺し屋とは思えない可愛い少女だ。
「こら切彦。真九郎に抱き付くなー!!」
「嫌です」
「私の言うことが聞けぬのかー!!」
「剥がすのを手伝うぞ紫よ!!」
紫と紋白がやんややんやと切彦を剥がそうと奮闘している。真九郎の周りで可愛い少女たちが集まっている状況だ。
見る者なら微笑ましい光景かもしれない。準に関してはいつも通り嫉妬している。
「紅って年下からモテるのな」
「そうかもね」
岳人や卓也が今の光景の感想をそのまま言う。年上好きの岳人は特に嫉妬はしない。
「やべえよ若。俺・・嫉妬でキレちまいそうだよ」
「落ち着けハゲー」
小雪が準に鋭い蹴りを食らわして黙らせる。中々の酷い扱いだ。
静かに床へと倒れた準を他所に話は進む。紫が川神を観光してみたいと言うのだ。これには真九郎も笑顔で了承する。
川神学園にて紫たちの来訪で一悶着あったが少しずつ収まっていく。さすがは川神学園、どんな状況でも抱える懐があるようである。
「じゃあ行こうか真九郎!!」
川神を観光するメンバーは真九郎に紫、切彦だ。追加でリン、紋白とクラウディオも加わる。そして案内役として大和が選ばれた。
本当ならば準も率先して案内するが残念ながら床に倒れている状態である。彼にとっては本当に残念だろう。
025
騎場大作は今、ヒュームと鉄心とお茶を飲みながら会話をしていた。
会話内容は紫が川神学園を訪れていると言うことだ。このことを聞いた鉄心は驚きを隠せない。何せ世界財閥の一角である九鳳院の娘が川神学園にいつのまにか訪れていたのだから。
さすがに武術家でない紫の気を感じとるのはできない。だからいつの間にか訪問していたとしても分からないのだ。
「まったく驚きじゃわい。まさか九鳳院の娘が訪れていたとはのう」
「お騒がせ致しました」
大作は礼儀正しく紳士的に謝る。この紳士さはクラウディオと競えるだろう。
「お前は紫様から離れていて大丈夫なのか?」
「ええ。何せリンがいますから。それに真九郎様もいますからね」
「・・・なるほどな」
ニヤリと口元に笑みを浮かべる。ヒュームは真九郎を思い浮かべたからだ。
「あの上等な赤子なら確かにマシだろう」
「ほう。ヒュームが人を認めるなんて珍しいの。真九郎とは交換留学に来ていた男子学生じゃな」
立派な髭を擦りながら鉄心も真九郎のことを思い浮かべる。確か揉め事処理屋をしていると言っており、初日からクリスに決闘で勝った学生だ。
そんな彼がヒュームから評価されているのにチョッピリ驚きだ。何故そこまで評価しているか気になる。
「真九郎くんか。確かクリスに勝った少年じゃな。決闘を見たが確かに強いのう」
「まだ未熟な部分もあり、精神的な弱さもあるがな」
「辛口評価も健在じゃな」
「だが、覚醒した時の強さは目を見張るものがあるぞ」
何かを勿体ぶって話す感じだ。これには鉄心も気になってしまう。その変わりなのか大作が説明してくれる。
「真九郎様は崩月の弟子なのですよ。とても強い少年です」
「何とっ・・彼が崩月の弟子なのか!?」
「はい」
今回の交換留学で驚きなのは夕乃だけかと思っていたが、真九郎が崩月の弟子とはまた驚きである。噂で聞いたことがあるが崩月流の修業は常軌を逸しているらしい。
川神流の修業も相当厳しいが崩月流と比べると優しい方だろう。一子曰く、川神流を修業すればまず毎回嘔吐するくらいキツイと言うだろう。真九郎が同じように語るなら崩月流を修業すれば毎回吐血すると言う。
嘔吐と吐血じゃ全然違う。きっと崩月流の修業を知れば誰もが恐怖するかもしれない。
「なら普通なのは銀子ちゃんだけかのう?」
「銀子様も大層なお方ですよ」
大作が静かにお茶を飲みながら銀子に関して話す。この話に乗ったのはヒュームだ。
「そうだな。九鬼で調べたら彼女から驚くべき結果が発見したぞ」
「それは何じゃ?」
「彼女はあの凄腕の情報屋である村上銀次の孫だ」
「あの村上銀次か!?」
「そうだ。戦前戦後の混乱期、および高度経済成長期に暗躍した凄腕の情報屋の村上銀次の孫だ」
彼女は村上銀次の情報屋として地盤を引き継いで情報屋を営んでいる。腕も確かである。
鉄心も村上銀次のことくらいは知っている。情報屋としてとても有名だ。彼に頼めばどんな情報も得られると言われるくらいだ。その孫である銀子ならばSクラスに居てもおかしくない。
「全く・・・今回の交換留学は驚いてばかりじゃわい」
お茶を飲んで一息つく。まさかの人選に鉄心は驚いてばかりだ。
裏十三家である崩月の娘に、崩月の弟子、凄腕情報屋の孫。これだけ聞けばとんでもない人材ばかりである。普通では揃わないだろう。
さらに真九郎には少ないが濃い人脈があることを鉄心たちはまだ知らない。しかも良くも悪くもだ。
何せ、良い方で答えるなら最高峰の揉め事処理屋である柔沢紅香。悪い方で考えるなら悪宇商会と繋がりがあるくらいだ。
「・・・さてと、私はそろそろ紫様の元へと戻ります」
「うむ。分かった。九鳳院の娘さんを頼むぞい」
大作は一礼して部屋から出ていくのであった。。
026
真九郎たちは大作と合流して、紫が無事であることを伝えた。そしてこの後は川神を観光すると言う。
それに関して笑顔で了承。大作は川神市内で待機しているとのこと。何かあればすぐに駆け付ける。
「なので紫様は真九郎様たちと楽しんでってください」
「うむ。騎場もまたな!!」
紫はピョンっと真九郎に乗って肩車する。それを見た紋白が羨ましそうな顔をするのであった。
「頼みますよリン」
「分かっている」
「私も居ますからご安心を騎場大作様」
「お願いします。クラウディオ様」
紳士的にお互い挨拶する。本当に気が合いそうだ。
後日、あるBarで仲良く酒を飲む2人を見かけるがそれはまたの話である。
「出発なのだ。フハハハ!!」
元気良く川神を案内される真九郎たちであった。
読んでくれてありがとうございます。
今回は少しでも多く切彦に出番があったらなと思いながら書きました。
まだまだ切彦には活躍させる予定なので今回で終わりじゃないですよ。なんせ、まだ刃物を持たせていませんからね!!
完全な切彦モードにはきっと武士娘たちは苦戦するでしょうねえ。
おそらく1対1は切彦がハンパないと思います。
では次回!!
と言っても2話同時更新なのですぐ次へどうぞ!!