紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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紅真九郎、川神で最後の揉め事処理の仕事が始まる。
今回は人を救うために人を奪う。これが正義なのか悪か分からない。

でもやらないよりかはやる方が後悔はしないはず。


強奪作戦開始

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旭の強奪作戦が開始がされる。作戦実行メンバーは真九郎を筆頭に大和チームに冬馬チームに源氏チームと多い。

それだけ絶対に旭を救うために力を集結しているということだ。さらに彼らだけではない。九鬼からも応援を頼んでおり、クラウディオ・ネエロと李 静初が応援に来てくれた。

流石に今回ばかりは学園生徒だけでは危険だろう。だからこそ大人の力である九鬼財閥の力を借りたのだ。

 

(…それでも直江くんたちがいるのが違和感があるな)

 

違和感があろうとももう後には引き返せない。大人には大人の決着があり、子供には子供の決着がある。

大和たちは子供の決着をつければいい。旭を必ず助けなければならない。

 

「周囲には異常なしです」

「分かりました。ではこのまま中に突撃ですかね」

 

李が最上邸の周囲を調べて異常が無いことを確認。そして最上邸へとの突入を決定。

 

「ではみなさん。慎重にスマート突撃しましょう」

 

クラウディオが言っている言葉にいろいろと矛盾がありそうな気がしますがあえてツッコまない。

 

「皆さまは私の後ろに。何があるか分かりませんからね」

 

応援はクラウディオだけでない。周囲には他の従者部隊たちも配置されている。絶対に幽斎を逃がさないためである。

 

(しかし最上幽斎…監視していたのに裏オークションにまで手を出していたとは)

 

幽斎の仕出かしたことにより九鬼財閥は幽斎を監視していた。だが木曽義仲のクローンの件以降はおとなしいものかと思っていたがそうでもなかった。

まさか裏社会に関係する者たちと繋がっていたとは。よくよく考えていれば幽斎は顔が広い。ならば裏社会の者と顔見知りなんておかしくないだろう。

幽斎はもう止まらない。これは九鬼財閥の問題でもある。

幽斎の仕出かしていることは九鬼財閥にとっても迷惑だ。しかし彼自身は本気で善意のつもりでやっている。つもりではなく確信で行っているのだ。

自分が神様視点でやっているのだから。

幽斎は自分が偉いとか1番とか序列を気にしていない。ただただ人の成長を見ていたいのだ。

 

「では行きますよ」

「はい!!」

 

真九郎たちが最上邸に突入。

突入と言っても堂々と入り口から入ったのだが。

 

「妙に静かだな」

「だね。それが逆に不気味だよ…」

 

最上邸は不気味に静か。だが百代たち気を察知する者にとっては既に戦闘態勢を取っている。

それはこの最上邸に複数人の気配がするからだ。

 

「この屋敷に五人の気配がする」

「5人?」

 

最上幽斎と最上旭がいるから2人は確定しているが、残り3人が不明だ。

予想としては此方側を想定して護衛を用意したのだろう。だがその護衛が相当の手練れだ。

百代は残り3人の護衛の強さを気の流れで感じ取ったのだ。それはクラウディオや由紀江も感じ取っている。

 

「やはり、ただでは奪わせてくれないということですか」

 

向こうも馬鹿ではない。こっちの動きを予想して対処しているはずだ。だからこその護衛だろう。

 

「相当な手練れだと思います。この先ですね」

 

長い廊下を慎重に歩いていくと扉が見えた。一般宅の普通の扉なのだが、この先に待ち構えているのが分かってしまう。

どうやら逃げないで待ち構えているようで、戦う覚悟があるのかもしれない。そうだとしたら真九郎たちの方が数の有利がある。それに九鬼財閥の援助もある。

有利さならば真九郎たちが上なのに立ち向かうというのならば護衛に相当の自信があるのだろう。

 

「行きますよ」

 

扉を開くと当たり前だが幽斎と旭が居た。

どちらも正装の姿で、特に旭のドレスは黒をメインとしていて大人の雰囲気を醸し出している。化粧だってしていていつもの旭ではなく、本当に大人な旭だ。

 

「やあ皆さん、こんばんわ。こんな大勢で私の屋敷に来てくれるなんて嬉しいですよ」

「何が嬉しいですか」

「あはは、怖いですよクラウディオさん。こっちとしては紅茶を出していきたいんですがこれから用事があるんですよ」

 

カチっとボタンを押すと車が床から這いあがって来た。よくそんな機能をいつの間にか用意したものだ。

 

「また今度来たら紅茶を出しますよ」

 

そう言って幽斎と旭が車を乗ろうとする。

 

「義仲さん!!」

 

義経が旭に向かって意を唱えるが無視して車に乗る。彼女の顔を見て、何も話すことがないというのが伝わる。

そして幽斎も運転席に座ろうとした時にクラウディオが糸術で車を絡めようとしたが幽斎がまたボタンを押す。

すると天井から鋭い刃が複数放出された。

 

「いけません!?」

 

クラウディオと由紀江やクリスたちが放出してきた刃を全てはじき返す。だがその刃で糸が切断される。

 

「こちらも色々と用意しているんですよ」

「ここは絡繰屋敷か!?」

「いやあ、こういう時に備えて準備したんですよ」

 

ニコリと笑いながら幽斎はアクセルを踏んで車を出発させた。

 

「そうはさせるか!!」

「それもさせるかってんだ!!」

「やはり来たか!!」

 

百代はずっと残り3人の気配を警戒していた。そして現れた3人は中華服を着た武装集団であった。

 

「頼みましたよ梁山泊の皆さん」

「任された」

「はいはーい」

「あ、こりゃあ強いのいっぱいじゃん!!」

 

彼女たちは武装集団の梁山泊。何でも歴史が動くとき、梁山泊が動いているなんて云われもある存在たちだ。

林冲、史進、楊志。この3人は幽斎が雇った護衛だ。実力的にも申し分ない。

依頼はただの足止めだけ。たったそれだけだ。なんせ幽斎にとって旭を無事に裏オークションに届かせれば良いだけなのだから。

幽斎は自分の屋敷を気にせずにぶち破って外へと車を走らせた。

 

「逃がすか!!」

「それをさせない為にアタイたちがいるんだよ!!」

 

史進が百代に自慢の獲物で攻撃する。その一撃はそこらの武術家なら一発アウトだ。

 

「姉さん!?」

「大丈夫だ。それより早く追いかけるぞ!!」

「そうはさせねえって言ってるだろ」

 

史進たち3人が百代たちを囲む。ここままでは幽斎たちを逃がしてしまう。だがこういう状況も予想はしていたから対応策は考えている。

屋敷の外には九鬼家特性の車が用意されている。その車に乗って追いかければよいのだ。

 

「ならこの包囲網を突破するしかねえな!!」

「そういうけどこの包囲網を突破するのは難しいかもだよキャップ!?」

「成せば成る!!」

 

そうは言うが確かに硬い包囲網だ。たった3人だが相手はプロだから簡単にはいかない。

無理矢理突破する可能性はできるが、そうすると誰かがやられるかもしれない。

 

「ならこうなったら足止め班と追いかける班で分かれるしかないだろ」

 

キャップの提案は当然のものであった。真九郎たちの人数は多いのだから分かれて行動するのができる。

 

「ならここは私が足止めします!!」

「私も応戦いたします!!」

 

李と由紀江が史進と楊志に突撃した。そして林冲には翔一が突撃。

 

「あんたは俺様が相手だああああ!!」

「私は負けない!!」

 

この瞬間に彼女たちの包囲網が崩れる。その隙に真九郎たちは脱出する。

 

「悪いが俺様もこっちに残るぜ。キャップが心配だからな!!」

「ぼ、僕も何かできるかもしれない。僕のできることをするよ!!」

 

更に岳人と卓也も残った。

 

「ヤバイと思ったらすぐに逃げるんだぞ!!」

「分かってるよ。加勢するぜキャップ!!」

 

旭奪還作戦はまだ始まったばかりである。

 

 

275

 

 

車の中。

 

「李がいるので大丈夫ですよ直江大和様」

「…はい」

 

大和の不安がクラウディオに察しられたのか、安心させるように言葉を発してくれる。

 

「彼らはみんな強いですから」

「はい。そうですね」

 

それにしても流石は九鬼家特性の車だ。普通ならスピード違反で捕まるが今回は緊急事態で捕まらない。

実は今夜川神で特例が出されている。九鬼財閥が警察と連携でこの川神で大掃除が始まるのだ。

大掃除とはこの川神に存在する闇の一掃だ。この頃、臓器売買組織なんていうモノが川神で人を食い物にしている。

こんなものは大事件で無視することはできない。更には川神の某所で裏オークションが開催され、多くの裏社会の人間たちが集まる。そいつらも一斉に捕縛する。

これは川神で起こる大事件である。

 

「裏オークションに逃げ込まれたらもう皆さんはもう何もできません。そこからは大人の仕事ですので」

 

子供には子供にしかできないことがある。だけど裏オークションに到着したらもう何もできない。

裏世界の洗礼はもう受けているのだから。

 

「そろそろ見えてきましたよ」

 

幽斎たちが乗っているの車が見えた。この九鬼家特性の車はどれだけスピードを出しているのだろうか。

 

「このまま突撃します」

「え?」

「安心してください。無傷のまま突撃しますから」

「どうやって!?」

「執事のたしなみです」

「どんなたしなみ!?」

 

いつものクラウディオからは発言しからぬ言葉であった。

 

「では…!? 横から誰か来ます!!」

 

九鬼家特製の車に追いつく車とは改造車かもしれない。そしてその車の上には絶世の美女が乗っていた。

 

「武神モモヨ!!」

「お前は…レイニィ・ヴァレンタイン!!」

 

百代は車から飛び出してレイニィの攻撃を受ける。

 

「姉さん!?」

「こいつは任せろ!!」

「っ、危ない大和!?」

 

レイニィの車に乗っていたもう一人の男の腕からワイヤーが放出されて大和の腕に絡まる。そして引っ張り出された。

その瞬間にクラウディオは糸術でハンモックのようなネットを造って落下の衝撃を和らげる。

 

「大和!!」

 

そして京も車から出て大和に駆け寄る。そんなことが起きようとも車は止まらない。今止めたら今度こそ幽斎に追いつかなくなる。

 

「大和、京、姉さま!!」

「俺たちは大丈夫だから先に進め!!」

 

後方から大和の大声が響くだけであった。

 

 

276

 

 

真九郎たちが旭の奪還作戦をしている間に川神全体で大掃除が行われていた。その大掃除とは川神に浸食している裏組織をあぶりだして潰すこと。

今、この川神は人さらいが横行しているのだ。その原因が全て臓器売買組織の手によっている。

その被害は少なくなく、今までの川神の歴史の中で今回が史上最悪の事件だ。

今回のことに九鬼家と警察に鉄心の力が合わさる。犯罪組織が川神で良いもの顔で好き勝手しているのを許せるわけにいかない。

そして今回はまさか裏オークションなるものがこの川神で開催される。その裏オークションでは裏世界で名をはせる大物たちが集まる。そこを一網打尽にするために集まる者たちがいる。

揉め事処理屋の柔沢紅香を筆頭に今回の裏オークションで集まる裏社会の大物どもを相手にするってわけである。だから揉め事処理屋まで力が加わる。

 

「おーおー。こりゃ怖い爺さんたちが集まってんな」

「柔沢紅香か」

「おお、紅香ちゃんじゃないか。まったく昔と変わらなく美人じゃのう」

 

実は紅香と鉄心は知り合いである。やはり彼女の顔は広いものだ。

 

「昔って…私はそんなに年寄りじゃないぞ」

「じゃったな。ほっほっほっほっほ」

 

デレデレの鉄心。

 

「まあ、私は昔は美少女。今は美女なのは確かだがな」

 

煙草を普通に吸って煙を漂わせる。

 

「その自信過剰はどこから出てくるんだか」

「お前に言われたくないヒューム」

「だのう」

 

紅香に鉄心にヒューム。今ここに世界の強者たちが集まっている。彼らが手を組んだらどの組織も潰せそうである。

 

「それにしても鉄心が動くのか」

「ワシ個人的じゃ。川神院は裏世界に巻き込まん」

「そのてっぺんにいるアンタがそう言っても説得力無いがな」

「…引退かのう」

「いつ引退するんだよ」

 

そもそも鉄心の年齢が何歳か分からない。自分でももう数えていないから覚えていないようだ。

それなら紅香も年齢は何歳か分からないものだが。

 

「警察も集まってきたな」

 

今回の仕事は警察も動く。警察の中でも今回のことは大きなヤマになるだろう。

 

「既に情報をもとに臓器売買組織の各アジトの突入も準備できているようだ」

「お、じゃあワシも気合を入れるかのう。この川神を食い物にしたことを後悔させてやるわい」

 

鉄心の身体から闘気を滲み出す。

 

「鉄心。お前は各アジトをしらみつぶしに潰して行け。リストはこれだ」

「任せろ」

「紅香には裏オークションの中でもこいつらだけはっていうリストがある」

「一応貰っておく。なに、全員捕まえるさ」

 

こうスパっと言うのが紅香のカッコイイところだ。だが彼女なら本当に達成できそうだから凄いところだ。

 

「そういえば昔聞いたのう。立て籠もりのテロたちを大声で啖呵切って全員ぶっ飛ばしたって」

「昔の話だな」

 

昔の話だ。隣に真九郎もいた。

 

「じゃあ川神を綺麗にするぞ」

「分かっておるわい」

 

川神で大掃除が始まる。

 

 

277

 

 

幽斎の車の中。

 

「いやあ、試練だね。彼らはまだ僕たちを追いかけてくる」

「そうねお父様」

「彼らもまた大きな敵と立ち向かい、試練を突破してほしいね」

「そうね。そうすれば彼らはまた強くなると思うわ」

 

旭は幽斎のことを理解している。だからこそ彼の気質や性格、望みに対して不満もないし、疑いもない。

 

「義経との源氏勝負は楽しかったかい?」

「ええ。それに義経ったら可愛かったわ」

「そうかそうか。真九郎くんとよく会って話をしてたようだけど、どうだった?」

「楽しかったわ。彼との対話は充実していた。もっと対話したかったのは心残りかも」

「彼のことを気に入ってたかい?」

「そうかもしれないわね」

「そっか」

 

自分はこれから人柱になるのも理解している。だが怖くないといえば嘘になるだろう。

 

「ごめんね。旭…これも世界のためとはいえ心が痛いよ。本当にすまない」

「良いのよお父様。これは私も納得したこと」

「そう言ってくれてもやはり心が痛い」

 

幽斎の目から涙が滴る。

幽斎のその気持ちは本物である。自分の愛娘を人柱にするなんて異常性をもってしても。

 

(まだ追いかけてくるね…なら残りの梁山泊も追加するしかないね。それと臓器売買組織からの応援も使うか)

 

幽斎の手には梁山泊、臓器売買組織からの助っ人。それに対百代のために用意したレイニィ・ヴァレンタイン。

全てを使って彼は世界のために動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

278

 

 

幽斎邸。

林冲は翔一たちを倒していた。彼らも強いがプロの彼女ほどではない。

 

「命までは取らない。今回の仕事は足止めだからな」

「ぐぐ…まだだぜ」

「まだ立ち上がろうとする意思はあるか。お前は強いな。でも私も負けられないんだ」

 

林冲は翔一たちを無視して屋敷から出る。

 

「史進と楊志はまだ戦っているか。なら作戦通り空いた私から追いかけるか」

 

林冲は隠していたバイクに乗る。追いかけるは真九郎たちである。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。

ついに最終章の後半戦。いわばラストスパートに入りました。
それぞれの戦いが始まります。

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