紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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お待たせしました。
足止め戦後半です。


激戦・後半

288

 

 

一子たちは裏闘技場のオーナーと戦っているが優勢というわけではない。クラウディオが牽制してくれていなければまともに戦えていないのだ。

伊達に相手は裏社会の人間というわけだ。如何に一子たちが武術を習っているとは言っても殺し前提の戦いなんて経験なんてない。

それに相手は肉体改造を施しているので鉄のように硬く、有効撃も無い。

 

「ったく、なかなか近づけない」

「ふん、九鬼の従者が居なければすぐにで首の骨を折っているところだ」

 

相手の言う通りである。クラウディオが居なかったら確実に殺されている。

それが当たり前の現実である。その現実に立ち向かっている今も現実である。

 

「これでも結構打ち込んでるのに何て硬さだ」

「あいつの太い腕に絶対に捕まるなよ」

「分かってるわクリス」

 

何度か打ち合っているうちに分かったことがある。相手が自分の肉体を改造していると言っても限度があるのだ。その限度に一子たちは気が付いた。

攻撃を打ち込んでいる時に相手が意識的に防いでいる部分があるのだ。

 

(あいつが肉体改造をして鉄みたいになっても人間の身体的にどうしても手が出せない部分がある)

 

人体の急所。目や禁的などはどうやら改造していないらしい。だからソコさえ狙えば勝機はあるということ。

(だが、それはあいつだって分かってることだ)

 

意識的に守っているなら此方の攻撃をあてるのは難しい。だが、相手が意識的に守っているということはソコだけは攻撃されたくないと言うことなのだ。

 

(覚悟を決めるしかないか…いや、覚悟ならもう決めてんだろ)

 

この事件に関わるということはとうに意味を理解している。危険がないなんて馬鹿な考えは無い。

今まさに死と隣り合わせ。そして後ろには守らねばならない人たちがいる。

忠勝は大和たちと比べれば一番危険という言葉を理解しているのだ。

その危険を対処するのは自分の役目。自分が馬鹿で結構だ。

大切な友人たちを、努力している一子のためなら彼は身体を張れる。

 

「一子、クリス。俺が隙を作るからその間に叩きこめ」

「か、かっちゃん!?」

「それは危険だ源殿!!」

「危険じゃなんだじゃねえんだ。やるしかないんだよ」

 

もうやるしかない。この事件に関わってしまった以上はもう後戻りはできない。

この場で決着をつける他ないのだ。

死ぬのが怖いなんて当たり前だ。怖いに決まっている。だけど一子たちが殺される方がよっぽど怖い。

だからマシな方を選ぶのだ。

 

「今からてめえをぶっつぶす」

「ふん、ガキが」

 

覚悟は最初から決まっている。自分の身体からじんわりと決死の気が出ているのが分かる。目には鮮明に相手の動きが映る。

この感覚をゾーンに入るというのかもしれない。足は不思議と軽く、身体は敵の間合いに入っていた。

 

「死ねガキ」

「ぶっつぶれろ」

 

前に真九郎が見せた動きが蘇る。

相手の太い腕を掻い潜り、手を相手の顔面へと突き出す。オーナーは狙いが眼球だと思って、片腕で防ぐが狙いは目ではない。

手の動きを急転回させてオーナーの耳に指を無理やりねじ込んだ。

 

「ぐおおが!?」

 

流石に鼓膜破壊は想定していなかったようだ。彼の動きにオーナーは崩れる。

 

「今だ!!」

「やああああああ!!」

「はあああああああ!!」

 

一子とクリスが全力を込めての突き。オーナーは突き飛ばされた。

 

「や、やった!!」

「このクソガキどもがぁ!!」

 

だがオーナーは沈まない。隠し持っていた拳銃の引き金を引く。

 

「一子、クリス!!」

 

気が付いたら忠勝は飛び出していた。2人を押し出して代わりに凶弾が脇腹を貫通した。

 

「かっちゃん!?」

 

悲鳴の如く一子は忠勝を呼ぶ。

だが頭部や心臓に撃たれていない。クラウディオが急いで弾道をずらしたのだ。それでも直撃してしまったことは最悪だ。流石にゲルギエフと戦い、学園生を守りながらでは厳しいのだ。

でも生きている。まだ間に合う。

 

「このガキが…」

 

次の凶弾を装填する。

 

「おい」

「なん…だぎゃ!?」

 

オーナーがまた殴り飛ばされた。殴り飛ばした謎の人物を見てクリスは足の力が抜けてしまう。

 

「お嬢様に手を出したということは死ぬ覚悟はできているんだろうな!!」

 

マルギッテ・エーベルバッハ。クリスが姉と慕う大事な人。

 

「お嬢様に近づくな。この屑どもが!!」

 

マルギッテがオーナーを殴り飛ばしたのだ。

そして誰かが忠勝を倒れる前に受け止めてくれる。

 

「誇りに持っていいぞ少年。君は今、2人の人間を救ったのだ。そして私の大切な娘を救ってくれた…ありがとう」

 

クリスの父親であるフランク・フリードリヒであった。

彼の技であるメフィストフェレスを使用して細胞を活性化させているの若返っている。

それに他の猟犬部隊も揃っている。

 

「ジークルーン。娘を救った大恩人を必ず助けるんだ」

「はい」

「お父様!!」

「クリスすまない。遅れてしまった…よく頑張ったな」

「うん、うん」

 

安心したのかクリスは目からボロボロと涙が溢れてくる。この涙は止められない。

怖かったのだ。本当に怖かったのだ。ただの学園生が裏社会の人間と渡り合うなんて普通は怖い。

彼女の反応は当然である。

 

「クリスのお父さん?」

「クリスの友人の一子くんだね。君もよく頑張った」

 

フランクは彼女たちを守るように前に出る。そして一気に気を爆発させる。その顔は冷静でありながら鬼のように怒る。

 

「我が娘、そして娘の友人に手を出したことを後悔させてやろう!!」

「ふん、娘の親が登場したか…なら娘の前で殺してやろう」

「ふん。この私がクリスの前で負けるとでも?」

「死ね!!」

 

フランクはすぐに駆け出し、オーナーの前に出る。拳を硬く握りしめて。

彼の鬼のような気迫にオーナーはたじろぐ。

 

「私の大切な娘に手を出すなあああああああああ!!」

 

フランクの拳がオーナーをぶち抜き、肋骨から内臓まで破壊した。

 

「ご、ごぱあ!?」

 

オーナーは泡と血を口から吐き出しながら地に沈む。

 

「お前のような中の下ほどの戦闘屋なぞ、いくらでも相手にしてきた」

 

フランクの勝利であった。

 

 

289

 

 

フランクたちが応援で来たことで現状が大きく変化した。それはクラウディオ側が有利になったということだ。

 

「あのオーナーがやられたか。しかも援軍まで来るとはな」

「また私がいながら失態ですね。彼に傷を負わせてしまった」

 

クラウディオは糸をキリキリと拳で強く引っ張る。自分がいながら学園生を傷つけてしまった。だが、生きてくれていて本当に良かった。

ならばここからは目の前にゲルギエフを倒す。それだけだ。

 

「こちらとしてはフランク様が来てくれたおかげで気兼ねなく力を発揮できます」

 

糸が周囲にキリキリと張られる。クラウディオの顔がいつもの穏やかな顔から厳しい顔に変化する。

久しぶりに全力で力を開放する。これはヒュームですらあまり見ないクラウディオだ。

 

「その毒のナイフはいりませんね」

「む!?」

 

ナイフがクラウディオの元に引っ張られる。彼の戦法の1つである毒ナイフを封じればあとは肉弾戦だ。

 

「うおうらああああああ!!」

「てやああああああああ!!」

 

毒ナイフさえ持っていなければ近づけるのだ。準と小雪のコンビ攻撃を繰り出す。

 

「ガキ共が!!」

「そのガキがまた増えたぜ!!」

 

獣の如くの男、竜平が拳をゲルギエフの顔に叩き込む。彼だけではない、板垣三姉妹だっている。

彼らはならず者で、後先のことは考えない。そしてやられた借りは必ず返すのだ。

 

「この野郎が!!」

「くらいやがれえええええ!!」

 

特に竜平と天使は借りを返すために最初から本気である。彼女たちにとって敵を倒すのに遠慮は無い。

 

「この死にぞこない共め」

「悪いですが彼らに指一本も触れさせません」

 

糸がゲルギエフに絡みつき、動きを封じていく。その隙に準たちが攻撃していく。

攻撃時は休める事なかれ。目を閉じる事なかれ。全力を持って叩き潰せ。

 

「こざかしい!!」

 

糸を力の限り千切るが、そんなものはクラウディオが許すはずもない。

千切られれば、また糸で絡まさせ。また千切られれば糸を巻き付ける。もうゲルギエフに何もさせるつもりはない。

 

「私たちを舐めないでいただきたい」

 

糸がゲルギエフの腕に、足に、胴体に、首に絡みついていく。

 

「ぬうううううううううううう!?」

 

どんどん絡まる糸。

 

「辰子いくよ!!」

「うああああああああああああああああああ!!」

 

板垣姉妹コンビでゲルギエフに叩き込む。だが、それでも肉体改造を施している彼の肉体は硬い。

だからこそ冬馬は用意した。筋肉の収縮を緩める薬品を。

 

「何だこれは」

「貴方が毒を使うならこっちは薬を使うまでですよ」

「ふん!!」

 

クラウディオが糸を力の限り引くとゲルギエフが撃ってくれと言わんばかりの隙が出来る。

 

「今です。叩き込みなさい!!」

「分かったよ冬馬!!」

「任せな若!!」

 

準の拳が、小雪の蹴りが交差する。

 

「ぐおおおおお!?」

「攻撃の手を緩めてはいけない!!」

「分かってるよ。行くよ!!」

「任せな!!」

「行くぜ!!」

「うあああああああ!!」

 

板垣姉妹の総力がゲルギエフに叩き込まれる。

 

「ガキどもが!!」

 

それでもゲルギエフは倒れない。ならば決めるのは大人であるクラウディオの役目だ。

老体に鞭を打ってクラウディオが動く。

 

「はあ!!」

 

力の限り糸を引っ張ってゲルギエフを引き寄せる。そして糸を何重にも重ね合わせて糸の槍を複数展開。

この技は相当身体に負担だが気にしない。何故負担かと言われれば、特別な糸とはいえ、槍のように鋭利で硬度のある状態にするのに無理やり力を込めているのだ。どれだけ筋力を酷使しているかが分かる。

 

「こ、この老害が!?」

「沈みなさい戦闘屋」

 

糸で出来た槍がゲルギエフの身体を貫いた瞬間が勝利の瞬間であった。

またもう1つの足止め戦が終了した。




読んでくれてありがとうございました。
次回も気長にお待ちください。

今回は、子供たちでは勝てないのならば大人の力を借りるという物語にしました。
マジ恋の設定でフランクは娘に激甘なので当たり前にヘルプに来ます。
まあ、本当ならば娘にこんなこと関わらせたくありませんが…マシ恋的に無理ですかね。

さてさて、足止め戦は後半終了です。
次回は足止め戦決着です。百代や弁慶たちの番です。


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