紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

17 / 107
こんにちわ。
日常パートです!!
こんな日常もたまにはあります。

では物語をどうぞ!!


明け

039

 

 

土曜日の昼前。この時間帯は腹がそろそろ減る時間だ。特に食欲旺盛の学生たちにとってもう空腹になるかもしれない。

その1人が翔一である。

 

「あー、腹が減った」

「そろそろ昼時だからな。俺も小腹が減ってきた」

「大和~何か作ってくれ」

「俺は料理作れない」

「同じく。俺は食べる専門!!」

 

料理を作れない男が2人揃っても意味は無い。ただただ時間が過ぎて、腹が減るだけだ。

 

「誰か作れる奴は居ないのか。源さんとか」

「我らが愛する源さんは宇佐美先生の所にいるから駄目だ」

「帰ってきてくれ源さん~」

 

料理を作れる由紀江はクラスの友達である伊予と出掛けているの今は居ない。京は激辛料理なので選択として外される。そもそも新刊の本を買いに行っているので島津寮に不在。そしてクリスは論外。

 

「駄目か・・・真九郎、崩月先輩や村上さんは?」

「さすがに図々しいだろ」

「でも、このままじゃ餓死するのは俺らだぞう」

「そもそも崩月先輩は出掛けてるし、村上さんは部屋から出ていないから分からない。そして紅くんは昨日の夜遅くまでと源さんと仕事の手伝いをしてたから寝てる」

 

腹がぐううっと鳴る。

 

「・・・うーん。クリスに頼んで村上さんに作ってもらうか?」

「作ってくれるか分からないけどな」

「それは無理だと思うぞ」

 

好きな大河ドラマを見ながらクリスが会話に加わる。彼女もまた小腹が空いてきたのだ。

 

「何でだクリス?」

「銀子殿は今部屋で資料作りのバイトで忙しいみたいだ。私がオススメする大河ドラマを一緒に見ようと誘ったら忙しくて断られてしまったからな」

 

ならば銀子はバイトが終わるまで下に降りてこないだろう。これでは料理を作ってもらうという選択肢は消えた。

 

「どうするか~」

「真九朗殿は?」

「紅くんは昨日の夜遅くまで源さんの手伝いをしていたから寝てる」

 

真九朗に作ってもらう選択肢も厳しい。でも昼時になるから、もしかしたら起きてくれるかもしれない。

 

「・・・起きているかもしれないから静かに見てみるか」

 

椅子から立ち上がったと同時に誰かが近づいてきた。タイミングが良いとしか言えない。ちょうど噂をしていた真九朗である。

 

「待ってたぜ真九朗!!」

「え、待ってたって何かな翔一くん?」

「腹減ったあ!!」

「何となく察したよ」

 

腹の鳴る音で全てを理解する。

皆がお腹を空かしているのだ。そして誰か料理が作れる人を待っていた。

 

「真九朗殿は確か料理を作れるんだったな。作ってはくれないだろうか?」

「いいよ」

 

夕乃に英才教育をされた真九朗は女性の頼みを断らない。今すぐ料理を作り始める。

 

「紅くん。基本的に冷蔵庫の中身は使っても大丈夫だよ」

「分かったよ直江くん」

 

献立は卵丼に決定。そして汁物。

だし汁、砂糖、酒、みりん、醤油などで煮汁を作り、それを玉ねぎと一緒に大きめのフライパンに投入。一煮立ちさせてから溶いた卵と刻んだかまぼこを加える。そして決め手に上から三つ葉を散らしてしばらく待つ。

いい具合に火が通るのを待つ間は汁物に取り掛かる。お椀に鶏ガラのだしと擦ったしょうがを投入。そしてお湯を注げば簡単なしょうがの汁物が完成だ。

 

「そろそろ火が通ったかな」

 

フライパンの卵を均等に分けてご飯に盛りつける。そうすれば卵丼の完成だ。

 

「出来たよ」

「おお、旨そうだ!!」

 

パクパクと食べていくクリスたち。味の感想は「美味い!!」の一言。翔一はガツガツとかきこんでいる。

 

「美味い。空きっ腹だったから更に美味く感じるぜ!!」

「ありがとう」

「自己紹介でも言ってたけど紅くんは料理ができるんだ」

「うん。これでも一人暮らしをしてるからさ」

 

五月雨荘で鍛えた家事全般能力は高いのだ。正確には環と闇絵に鍛えられたと言っても過言ではない。

 

「真九郎殿の料理は美味いな~もぐもぐ」

 

クリスが本当に幸せそうに食べている。やっぱり自分が作った料理を美味しく食べてもらうのは嬉しいものだ。

 

「真九朗殿はよく誰かに料理を作ってたりしてるのか?」

「まあ、しょっちゅうかな」

 

いつのまにか部屋に入り込んでいる環と闇絵に御飯をねだられている。毎回ねだられているので誰かによく作っているのは当てはまる。

 

「本当に美味いな」

「夕乃さんほどじゃないけどね」

「それでもすごいよ。俺なんか何も作れないしね」

「俺はカップ麺なら作れる!!」

「それ料理じゃないだろ」

 

ボケとツッコミにかるく笑う真九朗たち。こんな青春も悪くない一時だ。

 

「ところで紅くんは何かツマミとかって作れる?」

「まあ、簡単なものなら作れるよ」

「じゃあ今度作ってくれないかな。もちろんタダじゃないよ」

「ツマミくらいならタダで大丈夫だよ」

「それはありがとう」

 

お盆に玉子丼と汁物を乗せる。これは銀子の分だ。これをクリスに持っていってもらう。自分で持っていきたいが女子部屋は入ることが禁止なので仕方ない。

 

「任されたぞ」

「うん。お願い」

 

銀子も美味しく食べてくれると嬉しいなと思うのであった。

 

 

040

 

 

村上銀子の部屋。

特に拘りが無くて簡素な内装だ。そもそも交換留学中だけしか住まないので凝った内装にしても意味は無いと思っている。

部屋の主である銀子はパソコンのキーボードを素早くカタカタと打ち込み終える。ちょうど情報屋としての仕事を終えたのだ。

 

「これで良し」

 

トントン。

ドアをノックする音が聞こえる。

 

「空いてるわ」

「失礼するぞ銀子殿」

 

クリスが玉子丼を持って入ってくる。そういえばもう昼時である。昼食の時間だと思い至る。

 

「昼食だぞ銀子殿。この玉子丼は真九朗殿が作ったものだ!!」

「そう。ありがとね」

「しかし真九朗は料理が上手いのだな。凄いぞ」

「まあ、あいつは五月雨荘で無駄に鍛えてるからね」

 

たまに五月雨荘で集まって皆で食べる食事を思い出す。ごちゃごちゃとした食事会だ。おもに環が原因なのだが。

 

(それにしてもクリスさんか。たしかドイツ軍のフランク中将の娘。そして2Sにいるマルギッテさんの妹分ね)

 

銀子は自分の持つ情報収集能力で川神学園のことを調べていた。もちろん学生から教師まで。だからクリスのことがある程度分かる。

 

(まあ九鬼とかは相手をすると面倒だから深くは調べられないけどね)

 

流石に九鬼財閥までは相手にできない。相手にしようと思えばできるがリスクが高いため平気な程度しか調べていないのだ。

 

(調べてたら九鬼のシークレットがパンドラボックスとか出てきたけど・・・これは罠よね。機密情報なら調べて簡単に出てくるはずがない)

「銀子殿?」

「ああ、ご免なさい。考え事をしていたわ」

 

九鬼を相手するのも面倒だが、クリスのバッグにいるドイツ軍も面倒だ。彼女の性格から進んで相手をすることなんて無いが。

 

(確かマルギッテさんは猟犬部隊のリーダー。特に選りすぐりのメンバーをまとめてるのよね)

 

川神学園に軍の関係者がいる。やはり驚きだ。自分たちの方も人の事は言えないかもしれないけれども。

 

「なあ銀子殿。午後から暇なら一緒にオススメの大河ドラマを見ないか!!」

「大河ドラマか。良いわよ。私も一緒に見て良いかしら?」

「勿論だとも!!」

 

クリスの無垢な笑顔を見ていたら難しい事なんて吹き飛ぶ。今は交換留学中だ。何でもかんでも情報屋として接するのは疲れるだけだろう。

 

(それに川神学園には水上体育祭と言う行事があるみたいね。それでも聞いてみようかしら)

 

学園の行事を聞くなんて、なんとも学生らしいだろう。これもまた日常である。

大河ドラマを見るために下に降りるとマルギッテが訪問していた。訪問理由は簡単。クリスに会いに来たという一点それだけだ。

 

「クリスお嬢様!!」

「おおーマルさん!!」

 

ヒシッと抱き付くクリス。どこからどう見てもお姉さん大好きっ子だ。そしてマルギッテが持っているケーキに超反応するのであった。

 

「クリスお嬢様のために買ってきました。そしてあなた方の分もあります」

「みんなで食べよう!!」

「ありがとうございます」

 

銀子が心の中で気にしていたドイツ軍人が来た。今は川神学園を大人しく過ごそうと思っていた矢先がこれである。

どうやら今の流れはまだ大人しく過ごすものではないらしい。人知れずに心の中でため息を吐いてしまった。

 

「今紅茶を用意しますね」

 

真九朗はすぐさま紅茶を用意してブレイクタイム。マルギッテの買ってきたケーキも人数分に分け与える。そして話の内容は水上体育祭の話だ。

 

「え、川神学園には海で体育祭をするんだ」

「そうなんだよ。うちの学園長は様々な行事を考えて実行する持ち主なんだ」

 

海で体育祭とは珍しい。しかも競技は他の学園と違って豊富である。内容は多少物騒だが武術が盛んと言う点のせいでもあるだろう。

 

「んでもって学園長はよく自分で考えたわけの分からない競技を出すぞ」

「訳の分からない?」

「ああ。学園長は何でもどうでも良いことを考えてる。しかも本人は超真面目」

「川神学園の学園長って・・・」

「まあ村上さんの言いたいことは分かるよ」

 

去年の水上体育祭を思い出す大和は今年はどんな変な競技が出されるか不安しかなかった。

 

「自分はどんな競技でも全力だぞ」

「さすがクリスお嬢様です。私も負けていられませんね」

「自分も負けないぞ!!」

 

本当に姉妹ように見える。仲が良いの素晴らしいことだ。夕乃と散鶴のように仲が良い。

 

(ちーちゃん元気かな)

 

夕乃の妹である散鶴を思い浮かべる。今度また会いに行くのも良いだろう。

 

「マルさんは強いからな。手加減無しだ!!」

「私も手加減しませんよクリスお嬢様。どんな競技も猟犬部隊のリーダーとして恥の無いようにします」

「猟犬部隊?」

「ああ。マルさんはドイツ軍人で猟犬部隊と言う特別部隊に所属して隊長なんだ!!」

「へえ。軍人か」

「特別部隊ってカッコイイよな。どんなんだ。教えてくれい!!」

 

翔一は堂々を教えてほしいと口を開く。彼の性格上気になったら聞くのは仕方ない。

 

「おいおいドイツの機密情報だぞ。教えてやれないぞ」

「じゃあ俺の秘蔵のプリンをやろう」

「わあ、プリンだ!!」

 

プリンに目が暗み、ペラペラと猟犬部隊をしゃべってしまう。

 

「お、お嬢様!?」

 

「チョロイ」なんて思ったのはマルギッテとクリス以外が思ったことであった。

 

「安心しろマルさん。流石に自分だってプリンで全て話すことはしない。話すのは言っても全然平気なくらいだ。それに今話したのはどうせ調べれば分かることだしな」

 

確かに聞いたのは隊長や副隊長とかのくらいだ。そしてクリスがよく仲良くしてもらっている猟犬部隊のメンバーの紹介。

これくらいならば聞いたところで差し支えない。そもそもクリスの言う通り調べればどうせ分かる情報だろう。

 

「猟犬部隊のメンバーは全員美人だな」

「ああ。猟犬部隊は美人揃いだ!!」

「皆、自慢の仲間です」

「それにマルさんが率いる猟犬部隊は仕事の成功率100%だ!!」

「当然です!!」

 

ドイツの猟犬部隊はおこ数年で有名になった部隊。軍事関係では名を知らぬ者はいないほどだ。

特にマルギッテが選りすぐりのメンバーを集めているので強さも最高レベルだ。

 

「でもマルさんの猟犬部隊でも危なかったことはあったんだ。その時は凄く心配したんだぞ」

「その説は申し訳ありません。クリスお嬢様にとても心配させてしまいました」

「でも過去の話だ。今はマルさんが近くに居てくれて嬉しいぞ!!」

「お嬢様・・・」

 

本当に仲が良い。

 

「でもマルギッテさん程の実力者が危なかったほどの任務って何だ?」

 

翔一や大和は素朴な疑問を抱く。彼らはマルギッテの実力を知っている。だからこそ気になるのだ。

軍の任務なんて確かに危険なものしかないが、彼女の実力からは気になってしまう。

 

「テロリストの制圧時だな。あの時は大きな任務であって、予想外なことも起こった」

 

マルギッテも既に終わった任務なので差し支えない程に話す。

 

「まず制圧したテロリスト自体が厄介だったな。そのテロリストグループはある組織をバックに援助してもらっていたため任務レベル高かった」

「ああ・・・確かユガミソラって言ったけ?」

「そうですお嬢様。『歪空』です」

 

テロリストと聞いて、まさかだとは思ったが『歪空』と言う単語が出てきた。

『歪空』は代々テロリストの家系だ。本家はイギリスに移住している。そして今なお健在だ。ならば世界中で起きているテロ事件に関わっている可能性は高い。

ドイツ軍人であるクリスやマルギッテが知っていてもおかしくない情報だろう。

 

(歪空か)

「ユガミソラ・・・何だそりゃ?」

「学生であるあなた方は知らなくて良いことです。とりあえず大きなテロ組織のようなものです」

 

その大きなテロ組織の1人娘と死闘した真九朗は取りあえず黙っておく。言ったら面倒だろう。

 

「任務自体はレベルが高かったが成功しました」

 

だからこそマルギッテがここにいる。それが証拠だ。

 

「しかし、その後が予想外の問題が起きたのです。不幸な事故とも言うべきしょう」

 

起きた不幸な事故とは猟犬部隊とは別にテロリストを制圧していた者との戦闘だ。戦場では起こってしまう不幸な事故の1つ。

普通ならばマルギッテたちが起こすようなミスでは無いが相手が相手と言うべきだろう。

何故なら、戦場のド真ん中で赤髪の女性がたった1人でテロリストグループを壊滅させたのだから。

 

「たった1人ぃ!?」

「ああ。たった1人で別のテロリストグループを潰していた。しかも酷すぎる戦場となっていた」

 

たった1人でテロリストグループを壊滅させるなんて翔一からしてみれば武神である百代くらいしか思えなかった。

 

「おいおいモモ先輩かよ」

「もちろん武神では無かった。だが今思えば、彼女は武神並みかもしれんな」

 

不幸な戦闘を思い出すマルギッテ。結果を言えば猟犬部隊の敗北だった。正直アレは死を覚悟したものだ。

自慢のトンファーを叩き折られ、信頼する仲間の攻撃も効かない。奇策を講じても相手の理不尽なまでの暴力で叩き潰された。

敗北はしたが不幸な事故と相手が気付き、勝手に撤退していった。何でも依頼以上の仕事はしないとのこと。

 

「武神は不死身と聞きますが、彼女も不死身かもしれん。なにせ攻撃が全く効かったからな」

「おいおいマジか」

「ああ。銃も刃も通さない肉体。全てを砕くような打撃だったからな」

「モモ先輩じゃねえか」

 

弾丸が頭に当たっても貫通せず、跳ね返った。ナイフで斬りつけたが一ミリも切れない。そんな現実を見てしまえば人間ではなく化け物と思うだろう。

それを聞いて翔一はますます「やっぱモモ先輩じゃん」と言う。

 

「世界にはモモ先輩なのがいるんだなー」

(武神並みか・・・正直不気味さで言えば『孤人要塞』の方が)

 

日常を過ごしていたらまさかの話が出る。どうやら川神にはいろいろとあるようだ。

良くも悪くも。真九朗は川神で普通の青春は過ごせないかもしれないと密かに思った。どうしてこうも自分の関わりのある話が自然に出るのだろうと。

 




読んでくれてありがとうございます。
感想などあればジャンジャンください。

今回はそのまま日常パートでした。
自分で書いてて卵丼が食べたくなりましたね。親子丼でも可!!

そして軍事関係のクリスやマルギッテなら『歪空』を少しは知っていてもおかしくないと思って少しだけ関係性を出しました。
そしてマルギッテと猟犬部隊に関しては星噛絶奈と不幸な事故というエピソードも組み込みました。可能性としてはあると思うんですよね。原作でも依頼が重なるなんてこともありましたし。
星噛絶奈自身はデスクワークが多いって言ってましたが、たまに仕事で戦場に行くいこともあるので違和感は無いと思います。
マルギッテや猟犬部隊は強いですが、やはり星噛絶奈となると厳しいでしょうね。


ではまた次回!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。