タイトル通りで決着の物語です。
真九VS鍋島。どんな展開かは物語をどうぞ!!
051
真九郎対鍋島
「崩月流甲一種第二級戦鬼、紅真九郎」
「天神館館長。鍋島正」
壁を超えた者同士の戦士たちが闘い始める。戦いが始まった瞬間に周囲の空気がピリピリし、観客たちは全員息を飲む。
この勝負は誰もが静かに見守っている。どうなろうがこの勝負で本当に決着がつくのだ。
「あんたはこの中で一番強い。なら俺の一撃を逃げずに立ち向かってくれるよな。行くぞ鍋島さん!!」
「・・・良いぜ来い紅真九郎!!」
鍋島はクッキー2や弁慶との闘いで倍返しが好きだと言っていた。なら挑発すれば乗ってくると期待した。
しかし相手は慢心を捨てているから本気で攻撃してくるに違いない。でも勝負世界でそんなのは構わないと思っている。
ステイシーが試合開始の合図を言い放ち、その合図と同時に力を込めた両足に動かす。重力の無視のロケットスタートだ。
いっきに鍋島に近づいて右拳を突き出す。同じく真九郎の挑発に乗った鍋島は彼のロケットスタートに一瞬驚きながらもすぐに冷静になり同じように拳を突き出す。
「はあっ!!」
「ふん!!」
拳と拳が合わさる。竜平と戦った時と同じだが威力は比べものにはならない。それでも負けるつもりはなく、勢いのまま拳を振るう。
「こ、この力は!?」
「・・・はああああああああああああ!!」
重い一撃だ。だが『崩月の角』を開放した真九郎には軽いと思えた。もちろん相手は本気で攻撃しているのだろうが込めてる覚悟が足りない。
真九郎を倒すにはもう動けなくなるまで壊さなければ駄目だ。この古書争奪戦での覚悟のあり方としては似つかわしくないだろうが本当に真九郎を倒すにはそれくらいの覚悟がなければいけない。
だから鍋島は拳に込めた覚悟が間違っていた。鍋島は勝つ気持ちはあったが真九郎の力を試したいという気持ちの方が強い。逆に真九郎は『崩月の角』を開放した時から既に覚悟を決めていた。
真九郎は全力で容赦の無く、ただ相手を倒すために、勝利をもたらすために拳を振るったのだ。
「ぶっ飛べえええ!!」
拮抗なんて状態は無く全力の拳は鍋島を撃ち抜いた。その威力は計り知れない。もし例えるならば超特急電車が突撃したみたいだと後の鍋島は語ることとなる。
「ぬおおおおおおお!?」
鍋島の身体が殴り飛ばされ、重力関係無く一直線に飛んで行った。
ドシャアアアッと河原に無造作に転がり倒れる。気で身体防護していたとは言え戦鬼の全力をまともにくらったのだ。鍋島の身体がいうことを効かない。
(い、意識を吹き飛びそうだったぜ。弁慶の時みたいに気のガードしてなかったらゾッとするぜ。しかし動けん)
たった1発。たった1発の一撃でこの状態とは恐れいるものだ。だが鍋島にはこれでも武術者として誇りがある。ここで立ち上がらないわけにはいかない。年だなんて言ってられないのだ。
「や、やるじゃねえか」
(・・・今ので立ち上がるか。でも俺だって素人じゃ無い。鍋島さんは無理しているな)
息を荒荒く吐いてもう一度強く吸う。初撃必殺は不発であった。だが全く効いていないわけでは無く次の一撃で今度こそ決着がつく。
恐らく鍋島も今度は本気の本気で攻撃してくるだろう。ならば真九郎は捨て身で突撃する。四肢に力を込めて歯を食いしばる。
仕切り直し。
「真九郎。お前さんを強者だと認めて攻撃するぜ。肉が潰れても骨が折れても恨みっこ無しだ。まあそん時は良い医者を紹介するぜ」
「鍋島さん・・・構わない。こっちも壊すつもり行く」
2人の目はギラめき構える。お互い放つ気は熱く、周りの者たちでさえビビらせる。鍋島は剛毅な武人に見え、真九郎は荒荒しい戦鬼と誰かが言った。
年とは言え、それでも剛毅な気を纏う鍋島には真九郎は尊敬する。やはり自分よりも強き者だと思ってしまう。強力無比な一撃をくらったら、きっと自分なら弱い部分が出てマイナスな方向に考えてしまいそうだ。
(こちらはまだダメージは無い。動ける)
どうやって鍋島を倒すか考えるが難しいだろう。初撃必殺で決めるつもりだったからだ。しかし一応次の手は打ってある。
まさか失敗の後のことを考えていないわけではない。これでもプロであるのだからいくつか策は講じている。その中で確実なのを選ぶ。
(・・・・・確実なのはカウンターだな。どうせ無傷で勝てるなんて思ってない。なら覚悟を決めて突破する)
決死の覚悟を決める。殴られようが蹴られようが、骨を折られようが血を吐き出そうが突き進む。絶対に拳を届かせて見せる。
でなければ勝てないからだ。今までの戦いで簡単な戦いなんてなかった。覚悟を決める真九郎。
「行くぞ鍋島さん!!」
「来な真九郎!!」
もう一度鍋島に向かって走る。目の前にいる鍋島は構えたまま動かない。おそらく向こうもカウンターを狙っているのだろう。
ならばあえて乗ってやると思って突貫。すぐさま間合いを詰めて攻撃するが紙一重で避けられ、渾身の一撃が真九郎を襲う。
「うらあああああああ!!」
「が、ぐううっ!!!!」
鍋島の攻撃が人間の出す威力とは思えない。人のことを言えないがこれが壁を超えた者の一撃。意識をもっていかれないように歯を食いしばる。
肉が撃たれ、骨が軋んで悲鳴をあげるがそれでも耐えて目を開く。今この瞬間ならもう一度拳が届く。
どんな達人でも攻撃の後は隙ができるものだ。その一瞬の隙をつく。曰く、肉を切らせて骨を断つ。
(実戦でやるのは珍しいけど覚悟があればできる。そして身体が動けば確実に相手へと拳が届く!!)
攻撃をくらってもなお無理矢理身体を動かして拳を振るう。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
「こいつ・・・無理矢理!?」
「くらええええええええええ!!」
「ぐわあああああああああ!?」
今度こそトドメの拳を振るった。肉をえぐり、骨まで到達するくらいの勢いで拳を振るった。そうでなければ勝てないから。
ミシミシと拳から肉と骨の感触が伝わる。そのまま力の限り殴り飛ばして河原の彼方先へとぶっ飛んだ。
「そこまで。勝者は紅真九郎!!」
052
「ったく。今回は油断せずに戦ったつもりなんだがな。負けちまったぜ」
「ありがとうございました鍋島さん」
「こっちもだぜ。久々に熱い戦いだったぜ」
仰向けに倒れている鍋島を起こす。戦いが終わった後は2人とも顔が穏やかだ。
戦いの後がこんなにも清々しいのは初めての気分である。きっとこれが青春の1つかもしれないと真九郎は考え込む。
「それにしてもお前さんの力はとんでもないな。流石は崩月の弟子・・・それにまさか角まで継承しているとは驚きだぜ」
「・・・鍋島さんはやっぱり知っていたんですね『崩月の角』のことを」
「まあ『裏十三家』は有名だ。そして戦鬼のことも多少知ってるさ。・・・その角は移植したのか」
やはり知っている者は知っているようだ。でも鍋島は堂々と言いふらす人間ではない。しかしもう遅いだろう。観客たちが見ている。
自分自身のことがこの川神でどこまで広まるか今から不安である。自分で開放していて何だが。
でも今は古書争奪戦に勝利したのが大事だ。文太を見るとまるで信じられないと言った顔をしている。
「ば、馬鹿な・・・オジサンが負けた!?」
「これで俺たちの勝ちですね」
「く、くそっ・・・」
勝ちにと言うよりも上に立ち続けたいという気持ちが高い文太はこの敗北に納得ができない。誰でも敗北は認めたくないかもしれないが誰が見ようとも真九郎の勝利であり、直江たちの勝利でもある。
「そんな・・・負け?」
「ああ負けだぜ。どっからどう見てもな」
「オ、オジサン」
納得できない文太を諭すように鍋島がヨロヨロしながら近づく。それでもモヤモヤは取れない。
だから真九郎も話しかける。敵側からの言葉なんて聞くか分からないが敗北を何度も知っているからこそ多少は負けの気持ちが分かる。
「文太さん。負けってのは誰もが悔しいものですよ。でも負けても終わりと続きがある」
「続きだと? 負けで終わりじゃないのかよ」
「文太さんは負けました。で、もう終わりですか。死んでしまうんですか」
「し、死ぬわけないだろ!?」
「なら良いじゃないですか。まだ人生に続きがある。文太さんは俺なんかよりも才能がある。俺は羨ましいですよ」
文太は確かに真九郎より頭が良いし才能がある。経済的にも上であり、社会でも上手く渡って行ける。真九郎の今なんかよりも相当良いだろう。
負けてもまだやり直せるなら良い。真九郎は本当にそう思っている。今まで彼が経験した中で負けたらやり直しも出来ないし、死にたくなるほどの事もあった可能性がある。
なら今の文太の状況はどうだろう。醜態は晒したし、貴重な古書も手に入れられなかった。大きな痛手だろう。でもまだ挽回はできる。
ならば大丈夫だと言える。
「・・・・・簡単に言ってくれるな」
「文太さんはファーストクラスの人材でしょ。なら俺よりも成功しますよ。今ここで終わりでは無いですよね」
「・・・・・ふん。今回ただ貴重な古書が手に入らなかっただけだ」
文太の顔からは敗北の顔からリベンジの顔に変化する。こんな時はズルズルと引っ張っていくより早く立ち直った方が一番である。
幸い文太は負けず嫌いのようですぐさまリベンジしてやろうと思っている顔している。
「今に見てろ。すぐさまお前らが驚くような存在になってやるさ」
「おう。その意気だな。はっはっはっはっは!!」
鍋島が文太の意気込みに関心しながら笑う。
「でも今はまだ敗北の傷が心に染みるな」
「そういう時はお酒が良いですよ。その心の痛みを和らげてくれると思います」
「酒か・・・・お前酒飲めないのにそんなことを推奨するのか」
「まあ、知り合いに酒癖の悪い人がいますから。彼女曰く酒を飲むと嫌なことを忘れるらしいですよ」
ここはもうちょっとそれらしいことを言いたかったが酒に関しての知り合いは2人。しかも2人とも酒癖が悪い。
詳しく言ってもあの2人じゃ参考にはならないだろう。1人はエロオヤジ走る五月雨荘の住人。もう1人は酒を酒と思わず飲む超人。
「酒か・・・良いな。最近良いBarを知ったんだ。連れてってやるよ」
鍋島がガシリと肩を掴む。おそらく魚沼もBarかもしれない。この川神では人気のBarだからきっと文太も気に入るだろう。
「これで勝負は終わったな。いやーこれで全て良しってことだな。オジサンも帰りに一杯やっていこうかな」
「お、良いね」
「弁慶さんは駄目でしょ。手に持ってる川神水で我慢してください」
「ちぇー・・・んくんく。ぷはあ。はい大和に真九郎も」
「俺たちも?」
せっかく渡された川神水を捨てるのはもったいない。真九郎と大和はいっきにグイっと川神水を飲み干す。
「・・・水」
「川神水だよ。ノンアルコール」
ノンアルコールの割には弁慶が酔っているように見える。場酔いの可能性もあるが、それにしても酔ってる。
この川神水は本当にノンアルコールなのかともう一度確認のために大和を見るが「ノンアルコール」と言われる。
「ノンアルコールか・・・」
納得できないがノンアルコールを主張するのだから信じることにした。深く考えてもどうしようもない案件は本当にどうしようもないからだ。
今大事なのは古書争奪戦に勝ったことだけだ。今は勝利を感じよう。
「良くやってくれたぜバッキャロー。本当にありがとう!!!!」
本屋の店長が凄い笑顔で喜んでくれた。これを見ただけでも心が温かくなる。やっぱり誰かのために戦って勝つのは悪くないかもしれない。
「これからも営業頑張ってください」と言うとさらに本屋の店長は笑顔になる。お返しかどうか分からないが今度本を買いに来た時は安くしてやると言ってくれた。
あまり本は買わないけどたまには良いかもしれないと思った瞬間だ。今度銀子を連れて行こうとも思った真九郎。
「・・・真九郎か」
「何かな弁慶さん?」
「なに、ちょっと良いかなって思っただけだよ」
「そう?」
弁慶の気持ちをよく分かっていない真九郎はただ頷くことしかできなかった。彼女の心にもまだ小さな燻りだ。
それでも彼に何か惹かれてしまう。それは彼の危険な香りなのか、優しい力強さなのかはまだ分からない。
周りの観客たちは決闘の終わりに嬉しく喚きだす。祭りの雰囲気ももう終わりで九鬼の従者が片づけを始めている。
クラスメイトや銀子たちが河原に降りてくる。「凄い」や「お疲れ」と言ってくれる。そして質問してくる『崩月の角』。
詳しくは話せないのでやんわりと断る。秘密の力とかそんな感じに言うしかなかった。きっと川神学園ではもっと質問攻めされるだろう。今から考えるだけで大変な目になりそうだ。
「お疲れ」
「銀子。・・・ああお疲れ」
『崩月の角』を戻して布で肘を巻く。肘を突き破って開放されるのだから案外傷が大きいものだ。
「私が巻いてあげるわ」
「ありがとう銀子」
「・・・む」
「どうした弁慶?」
「何でも」
先ほどまで夕方だったがもう暗くなる。お腹も空いた。
「家に帰ろう」
052
源義経。武蔵坊弁慶。那須与一。葉桜清楚。
全員がクローン人間であり、偉人の転生者とも言える存在だ。葉桜清楚だけ名前から偉人が想像できないが九鬼財閥から公式に歴史の人物と言われているのできっと凄い偉人なのかもしれない。
そんな偉人のクローンたちは日本的にも世界的にも有名な存在となっている。しかも武術者と言うことで世界中から挑戦者が川神に集まっているのだ。
那須与一や武蔵坊弁慶は面倒ということで上手く逃げているが真面目な源義経は無理にならない程度で挑戦者と戦っている。
これに関しては考えてみると大変だろう。なにせ世界中からの挑戦者と戦うのだから。もしこれが自分自身だったら本当に面倒だ。武蔵坊弁慶や那須与一の気持ちが分かりそうになる。
自分自身の気持ちの問題を置いといて、彼女たちの話にすぐ戻す。
容姿端麗で誰もが認める美人であり、イケメンだ。誰も容姿に関して文句を言わないだろう。知識も一般の者と比べれば頭が良い方だ。
性格に関しては那須与一が難有りだが後々治せるものなので問題無い。そして武術者と言うことでもちろん強く、才能はある。きっと数年後には更なる成長で強くなるだろう。
壁を超えた者たちからして見ればきっとマスタークラスになれると言うはずだろう。皆が良く言う将来有望と言うやつだ。
パララララ。
今のは写真と資料が机に適当に置かれた音だ。
写真には源義経たちが写っており、資料には彼女たちのプロフィールが書かれている。机に適当に置いたのは資料を読み終えたからだ。
ギシリとフカフカの椅子に背中を預ける赤髪の女性。「ふう」と息をついて酒をまるでコーヒーのように飲み干す。
これでも一応仕事をしているのだ。仕事中に酒を飲むなんてどうかと思われるが今は彼女1人だけなのでバレない。そもそも時間的にも定時をすぎているので世間的にはセーフ。
「それにしてもまさかクローン人間を欲しがる奴がいるなんてね。まあ・・・いるか」
人間には様々な人間がいる。優しい性格の人間もいれば、残酷な性格の人間、何を考えているか分からない人間もいる。
「この依頼者は良い趣味してるわ。クローン人間を誘拐しろなんて・・・相手はこれでも九鬼財閥なのよね」
言葉の意味としては物騒な良い方だ。何せ誘拐をするのだから。しかし彼女は眉1つ動かずにどの人材を送り出すか考える。
「あの3人でいっか」
ここは裏社会では最大手の人材派遣会社である悪宇商会。さらに詳しく語るなら最高顧問の部屋。
悪宇商会は金次第でどんな犯罪にも加担し、どんな犯罪の解決にも協力する。だから誘拐の依頼を受けてもビジネスとしか思っていない。そこには善悪は無い。
「これって最悪・・・九鬼財閥と戦争になりかねないんだけど。今回はただ人材を派遣するだけだからセーフでしょ。向こうもこっちの存在に気付いたとしても簡単には手を出せないからね」
パソコンのキーボードをカタカタと打ち込む。彼女が決めた人材を3人予定に入れる。
「それにしても川神か。あそこには良い人材がいそうねー」
川神に裏世界の闇が滲む。
読んでくれてありがとうございます。
感想などあればガンガン下さい!!
今回の物語はどうでしたでしょうか。
戦いに関してはシンプルな感じだと思いますが確実な戦い方だと思ってます。
これから工夫ある戦闘も頑張って考えていこうと思います!!
そして真九郎の会話。彼って説得の力(言霊)を持っていそうです。
なにせ言葉の威圧だけで戦闘モードの切彦を無理矢理人助けに変更させますし。
そして最後に次の物語の布石が!!
登場した赤髪の女性とは一体!?←バレバレですね
次回から川神に紅の世界観が少しづつ迫ります。