今回も少しずつ悪宇商会の魔の手が川神に滲んでいます。
そんな状況でも川神はいつも通りの平和?です。
056
アンパンを齧り牛乳を口に含む。
「なあ銀子。悪宇商会って簡単に知れ渡るものなのか?」
「急に何よ」
カタカタとパソコンのキーボードを止めずに打ち込む。彼女はいつも通り情報屋の仕事をおこなっている。
真九郎と違って銀子の情報屋としての仕事は繁盛している。ここまで繁盛しているなら幼馴染みよしみで借りた金を帳消しにしてもらいたいくらいだ。
そんな甘えは捨て去って、本題に戻ることにする。悪宇商会とは一般の者でも知ることができるかどうか。
「ええ。知ることができるわよ。去年の九鳳院系列でのテロ未遂があったでしょ」
「やっぱりそうか」
「どうしたのよ」
「いや、銀子のクラスにいる与一くんが悪宇商会のことをネットで偶然知ったみたいなんだ。だから案外ネットであるのかなって」
「あるわよ悪宇商会のホームページ」
「あるんだ」
また意外かと思ったが悪宇商会は人材派遣会社でビジネスに徹底している。会社の経営としては可笑しなことではない。
もちろん裏社会の組織だから悪宇商会のサイトに行くには手順があるらしい。もしくは伝手が無い限り連絡は取れないだろう。
去年起きたテロ未遂を起こした奴らはどうやって悪宇商会と連絡を取れたか疑問である。
「本気で復讐したい奴らは何が何でもするわ」
「そんなものかな」
「そんなものよ。だからあんな奴らがくだらない理由でも簡単にテロを起こそうとしたのよ」
カタカタとキーボードを無心に打ち込む。
「これ以上余計なことに首を突っ込まないでしょうね?」
「それはどうかな」
「馬鹿」
いつもの会話である。罵声を浴びるのがいつもの会話とは変かもしれないが真九郎はそういう性癖ではない。
単純に変な意味を加えないで普通の安心できる会話なのだ。
「クラスの方はどうだ銀子。こっちは馴染めてきてるよ」
「私の方もまあまあよ。義経たちや葵くんたち。後は不死川さんとかね」
2Sも2Fも癖の強いクラスメイトが多いが癖の強い人物には慣れてる2人は問題無い。銀子はあまり他人に話しかけないが2Sだと義経たちがどんどん話しかけてくれる。
少し鬱陶しい時もあるが嬉しい時もある。そして2Sでは珍しく心もたまに話しかけてくる。内容は真九郎のことを聞いてくるので多少「むっ」としてしまうが顔には出さない。
そもそも最近は真九郎の話題が多いのだ。それは古書争奪戦のせいだろう。そんなの本人に聞けばよいことなのに何故か銀子にも聞いてくる者もいる。
単純に詳しく聞きたい者もいれば『崩月の角』について聞きにきた者もいた。その最たる例が燕である。銀子は情報屋として燕は自分のためになる情報を徹底して手に入れる者だと気付いている。
(ああいうタイプはあまり表で活躍しない。ここぞという時に活躍するわよね。それにしても『崩月の角』を知ったところで何もできないのに・・・利用でもするのかしら?)
真九郎に「気を付けなさいよ」と注意するがよく分かっていない様子だ。これにはいつも通りため息が出る。
どうして真九郎は自分のことを大切にしないのかと思ってしまう。彼は今もまだ誰かから心配されているということに自覚していないのだ。
「・・・・・なあ銀子。今度暇ができたら出かけないか?」
「良いわよ」
「本当か?」
「溜まったお金を返してくれたらね」
「・・・善処します」
これもいつもの会話である。本当にいつもの会話だ。
そんな会話を遮るように聞こえている声。
「真九郎さん。こんなところに居たのですね」
「夕乃さん」
夕乃が優しい笑顔で近づいてくる。そしてこの後の展開が読めてしまう。
またと言うか、いつも通り夕乃と銀子のちょっとした対決である。夕乃がいつも通りに真九郎を我が物宣言をして、銀子が冷たく受け流して彼女の言葉を否定する。
「私の真九郎さん」に対して「貴女の物じゃないわ崩月先輩」と空気が凍りそうである。このままだと静かに怖いことが起きそうなので真九郎が中心に入る。
「ど、どうしたの夕乃さん?」
「ああそうでした。実は真九郎さんに用があったんですよ」
「俺に用ですか?」
「はい」
ニッコリと優しい笑顔。彼女が言う用とは崩月家に関することだ。
何でも今度の休日に崩月家の人たちが来るらしいのだ。その人たちとは崩月冥理と崩月散鶴だ。崩月法泉は来れるかは分からない。
どうやら交換留学の行き先である川神が気になったのと夕乃たちが上手く過ごしているか気になるから訪れるらしい。基本的に観光気分で来るようだ。
「冥理さんたちが今度来るんですね」
「はいそうなんですよ。全くお母さんったら急なんですから」
崩月家である意味一番強いのは冥理である。姉弟子である夕乃でさえ敵わないのだから。母は強しである。
「そっか。ならこっちも準備しないとな」
「そうなんですよ。なので今度お買い物をしましょう!!」
「もちろんです」と答えたが今何か誘導された気もするが真九郎は素で気付かない。夕乃は真九郎とデートの約束することができたので心の中でガッツポーズだ。
そして銀子はムカムカと機嫌が悪くなる。これもまた青春である。
057
川神には様々な噂や出来事が飛び交う。真九郎や弁慶が活躍した古書争奪戦も勿論川神で一瞬で知らせれた。
だからこそ真九郎と弁慶は今注目の的である。それが面倒なのだが人間として新しい何かはどうしても惹かれるものだ。
そしてまた川神に新しい噂が広まる。その噂とは『鉤爪の女』。
「鉤爪の女?」
「そうなのよ大和。何でも『鉤爪の女』ってのは最近この川神で強者たちを倒しまわってるらしいわ」
一子はこういう噂が好きで自分も戦ってみたいと思うのは根っからの武士娘だからこそだろう。
だがよく分からない者と戦うのは危険と判断して大和は一子に注意する。それはまるで子犬を注意する如く。
「ふむ。自分も戦ってみたいがな・・・でも危険なのだろうか京?」
「さあ。でも誰彼構わず戦ってるわけじゃないみたいだけど」
『鉤爪の女』は京が言った通り誰彼構わず戦っていない。そもそも噂の始まりはクローンからだ。
偉人のクローンと戦ってみたいと言う武人たちが川神に集まり、義経と戦う。しかし、そこで終わりでない。
武人が川神にたくさん集まれば他の武人たちが決闘するのは当たり前かもしれない。武人にとって強者が近くにいれば手合わせしてみたいと思うだろう。
その中で『鉤爪の女』は決闘してくる武人を倒してきたにすぎない。そして負けた武人は他の武人に『鉤爪の女』が強いと話して、さらに他の武人が戦いに挑みに行くのだ。
それが何度もループして『鉤爪の女』が強いという噂が広まったのだ。だから一子の耳に噂が入ったのだ。もちろん一子の耳に入れば百代の耳に入る。
「私も『鉤爪の女』ちゃんと戦ってみたいなー」
「姉さんはいつも急に現れるね」
「お前の姉だからな」
「意味分からない」
「まあ、そんなことよりも。その『鉤爪の女』がどこにいるか分からないんだよ」
目立つように戦っていないのと自分自身から戦っていないので、どこに現れるか不明なのだ。戦った武人たちも偶然出会ったから決闘したという話が多い。
ゲームで例えるなら中々出会えないまるでレアキャラみたいだなっと思った大和である。最も向こうも意図してやっているわけでは無い。
「キャップでも連れて探すか」
「キャップの剛運は凄いけどさ。基本的にキャップだけが使える運だから恩恵を得られるか分からないよ」
「それでも無理矢理引き連れる。お前もだ弟」
「俺を巻き込まないで」
「でも何だかんだでついてくるだろ?」
「・・・まあ」
今日の放課後あたりでも探しに行こうと考える百代であった。その捜索にもちろん一子も加わる。
百代がいるから大丈夫だと思うが大和は一応心配なのでついていくことを決める。ファミリーの愛玩動物枠である一子が心配だし、超人である姉もある意味心配なので保護者感覚だ。
「ところで姉さんは崩月先輩と紅くんに決闘を迫ってるんだって?」
「そうなんだよー。しかも断られるし」
「無暗に戦いたくないんだってよ」
「何でだよー。強いんだろ。戦いたいよー。角とやらを見てみたいよー」
駄々っ子のように不満を言う百代。大和は真九郎から「無暗に戦う主義じゃない」と聞いているから断られていることは察する。
「私は見てなかったからあんま分からないけど凄かったんだろ。弁慶の時も凄い気を感じたが紅のやつの気は更に鬼のように荒々しい気のようだったぞ」
「そうね。アタシも遠目だったけど右肘から角が飛び出した瞬間に背筋がゾゾゾってしたわ」
「強い奴が川神に集まってくれるのは良いけど、戦えないのが不満だ」
「でも義経たちの挑戦者の選別の決闘はしているでしょ」
「まあな。でも燕はまだ戦ってくれないし、夕乃ちゃんは普通に断られるんだよ」
燕は策を講じて戦うのでホイホイと戦うことはしない。夕乃に関しては戦う理由がなければ戦わない。しかし、真九郎が絡めばすぐに戦うが知らない百代は分からない情報である。知っていたとしてもどうにも出来ないが。
「やっぱ『鉤爪の女』を探すか」
今の百代の戦い脳の中には燕、夕乃、真九郎たちはいる。だが彼女たちとは戦えないので今噂になっている『鉤爪の女』がターゲットになったのだ。
「戦えるか分からないけど探してみようか」
与一ではないけど大和は何か嫌な予感がするのだ。だから百代たちについていって注意せねばならない。
(姉さんがいるから大丈夫だと思うけど・・・何かある気がする)
こんなことを口にすればまた百代たちに厨二病でからかわれてしまう。だからソっと言葉を飲み込む。
今日の放課後に噂の『鉤爪の女』を探しに行くことが決定。
058
放課後。大和たちは早速、噂の『鉤爪の女』を探しに行く。
メンバーは大和に百代、一子、京、クリスだ。大和以外は全員とも噂の『鉤爪の女』に興味深々である。
中でも百代は強者に目が無く、女の子にも目が無い。興味が出るのは早い段階に分かっていた。
「どこにいるのかな~噂の鉤爪ちゃんは?」
「噂だからね。よく出没する場所なんて分からないから虱潰しで探すしかないよ」
取りあえず自分の情報網を使って今日の川神で決闘を行っている場所をまとめる。情報をまとめても『鉤爪の女』はどこも決闘をおこなっていないようである。
だがもしかしたら決闘場所の近くにいるかもしれないから1つずつ回ることが決定した。
「そういえば真九郎は?」
「紅くんは崩月先輩と買い物してるよ。何でも今度の休みに知り合いがくるから用意したいみたいだよ」
「知り合いとは・・・可愛い子ちゃんか!?」
「それは知らない」
今度来るのは環に闇絵、崩月家族たちだ。真九郎なら可愛い子と言われれば散鶴だろう。
環と闇絵は可愛いとは言わない。むしろ面倒と怪しいが似合う。冥理は大人の色気と言うのが似合う。
「でも紅くんの知り合いは気になるかも。揉め事処理屋の知り合いだと一癖も二癖もありそう」
「実際に癖の強い人たちらしいよ」
「可愛い子ちゃんなら問題無し!!」
「モモ先輩はいつもどーり」
歩いていると騒がしい声が聞こえてきた。どうやら路上決闘をしているようである。百代が決闘している相手たちを見て「知らないな」と小さく呟いたので有名ではないのかもしれない。
そして両方とも男性なので『鉤爪の女』ではないだろう。周囲を見渡してもそれらしい人物は見当たらない。
「そういえば『鉤爪の女』の特徴って分かるかワン子」
「鉤爪よ!!」
「常時鉤爪をつけてる女はいないよワン子」
京が冷静に応える。確かに彼女の言う通り鉤爪を常時装備している女はいないだろう。これでは分からないので他の情報が必要だ。
情報網をまた駆使してまた『鉤爪の女』の情報を得る。すると新たな情報が出てくる。
「何々・・・どこかの学園の制服を着ているらしいよ」
「同じ学生かあ。どんなトレーニングしてるか気になるわね!!」
「周囲に制服着た子は・・・」
「いる?」
「居た」
「どこどこ!?」
「そこ」
京が指を指す先を見ると制服を着た女性がいた。鉤爪はつけていないが、特徴としてはここの場所では彼女しかいない。
もしかしたら彼女が『鉤爪の女』かもしれない。まずは会話からだろうと思って話しかけようと思ったら既に百代が話しかけていた。
「へい、そこのお嬢さん。もしかして噂の『鉤爪の女』かい?」
キザったらしく会話を始める百代に顔を向ける制服の女性。顔の反応からでは普通である。まさに「なに?」って感じである。
「・・・噂だとそうなっている」
噂の『鉤爪の女』を発見した。百代はすぐさま品定めをしてしまう。
(・・・ふむ、確かに噂通り強いな。たぶんマルギッテくらいか?)
百代は彼女の気の強さと雰囲気で大体の予想をする。今ここには複数の武術家が集まっているがおそらく彼女が1番強い。
一子たちも彼女の強さを感じており、中でも百代と一子は戦ってみたいとソワソワしている。
「お姉さま。アタシ彼女と戦ってみたいわ」
「私も戦ってみたかったが、まあ良いぞ。ワンコ頑張れ」
一子が『鉤爪の女』と戦うことが決定した。
「・・・勝手に決めないでもらいたい」
「そうだよ姉さん。それにワンコ。向こうは決闘するなんて言ってないんだぞ」
「大丈夫。今から交渉するから。アタシと決闘しましょう!!」
元気良く決闘を交渉する一子は本当にいつも通りだ。そこが彼女の良いところなのかもしれないが。
「・・・良いですよ」
「やった!!」
喜ぶ一子とは逆に『鉤爪の女』は顔1つ変えないで鉤爪を装備している。
「アタシは川神一子。よろしくお願いします!!」
「ユージェニーだ」
川神院の一子と噂の『鉤爪の女』が決闘すると周囲がワイワイ騒ぎ始める。
「何か向こうが騒がしいですね真九郎さん?」
「路上で決闘するみたいだ。さすが川神」
「まあ今は買い物ですよ買い物。行きましょう真九郎さん!!」
真九郎と夕乃は買い物に向かう。
(真九郎さんと買い物デート。幸せ日記に書かなきゃ!!)
読んでくれてありがとうございました。
感想などあればゆっくり待っています。
今回の『鉤爪の女』はユージェニーでした。
紅の漫画版を見ている人はすぐに理解したでしょう。前回はビアンカでしたからね。
なら最後の1人も分かりますね。(隠す気なし)
悪宇商会のユージェニーに決闘を挑んだ一子はどうなる!?
正直危険だぜ・・・一子たちは相手がプロの戦闘屋と気付いていませんから。
そして真九朗はそのことに気付かない(夕乃に買い物デートをさせられてます