タイトルで予想できるかもしれませんが、真九郎が川神流の歓迎を受けます。
相手はあの女性です。
では、始まります。
006
真九郎はさっそく2Fのクラスの学生に歓迎を受けていた。質問攻めというやつだ。
多すぎてどこから質問を答えればいいか悩んでいたが、担任の教師である梅子の鞭捌きでクラスは静かになる。
鞭を持っている担任なんて汗がタラリなのだが。
「質問は1人1回だ!!」
「えっと、まずは改めて自己紹介しようと思います」
自己紹介を始める。
自分の好きな物や苦手な物、得意なことを話していく。得意なことは家事全般である。五月雨荘で鍛えたのは誇れるはずである。
そして大事なことを言う。それは真九郎にとって名刺のようなものである。
「俺は揉め事処理屋をやっています。何か困りごとがあれば力になります」
揉め事処理屋は必要ならば実力行使で何でも解決します的ないわゆるひとつの何でも屋のような稼業である。
その、何でもの幅は広く深い。表から裏の世界まで揉め事を解決するからだ。
「皆さん。何か困りごとがあれば俺に相談してください」
笑顔で自分の職業を宣伝するのであった。揉め事処理屋と聞いて2Fのクラスはザワザワとする。初めて聞いた職業だからだ。だが内容は何でも屋というのは理解できた。
2Fのクラスの中でも特に源忠勝が興味を持っていた。なぜなら彼は里親の宇佐美巨人が営んでいる代行業を手伝っているからだ。
どうやら揉め事処理屋と代行業は似たような職業である。ならば必然としてライバル関係になる。
「揉め事処理屋ねえ」
「お、気になるのかゲンさん!!」
「うるせぇ。黙ってろ・・・まあ似たような職業だからな」
ここから1人1人の質問攻めが始まる。
「頭は良いのか?」
「好きな食べ物は?」
「揉め事処理屋ってどんなんか?」
「彼女はいる?」
「武術はやっているの?」
真九郎は1つずつ丁寧に質問を答えていく。
「頭の良さは平均くらいかな」
学業成績に関しては努力してやっと平均が取れる程度だ。仕事との兼ね合いで勉強が疎かになってくるのでまだ努力が必要である。
「好きな食べ物は・・・おにぎりかな」
おにぎりが嫌いな人間はいないだろう。
「揉め事処理屋は何でも屋と思ってくれれば幸いですね。物探しや荒事の解決とか様々です」
本当に何でも屋である。ただ普通と違うのは表世界でなくて裏世界も携わるくらいである。
「彼女はいません」
彼女はいないが真九郎は案外モテる。その真九郎に恋を抱く女性たちは一癖も二癖もあるのだが。
幼馴染だったり表の三大財閥の娘や裏十三家の姉弟子だったり、殺し屋だったりと複数である。もしかしたら揉め事処理屋の仕事の中でも恋に落ちた女性が他にいるかもだろう。
「武術はやっています。格闘技ですね」
真九郎の学ぶ格闘技は便宜上では崩月流と呼ばれている。しかしそれは、いわゆる武術とは一線を画するものだ。
武術とは基本的には誰でも学べるものだが崩月流はそうした普遍性ではない。人間を壊すのに特化された武術とも言えるだろう。
実際に真九郎の師匠である法泉もある意味ケンカ殺法だと言っていた。ケンカ殺法と例えて良いかは分からないのだが。
「よろしくお願いします」
あらかた真九郎の自己紹介と質問攻めが終わる。これで授業に入るかと思えば入らないのが川神学園だ。
ポニーテールが印象の元気ハツラツ、天真爛漫な女学生が手を挙げる。また「質問だろうか?」と思う。
「ねえ紅くんは武術をやっているんだよね。なら川神流の歓迎をするわ!!」
彼女は川神一子。一言で表すなら努力家少女だ。いつも頑張り屋でみんなから愛されている。
そんな一子が川神学園のワッペンを手に持つ。それを見た2Fのクラスのみんなは理解する。それは決闘である。
真九郎も川神学園で決闘が行われているのは知っている。最初に説明された時は驚いたものだ。なぜなら学園で決闘が設けられているなんて普通では無い。
しかも当たり前だが勝者が正義と言うべきか、問題を決闘で解決した場合は勝者が正義となる。
(本当に最初聞いた時は驚いたな。もしかしてこの学園から決闘を紹介する者が裏世界に放たれたりしてるんじゃないか?)
そんなことは無いだろうが可能性は0ではない。「悪宇商会にも就職してないよな・・・」と小さく呟いてしまう。さすがに無いだろうが。
それはさて置き、一子は真九郎の前に来て机にワッペンを叩き付ける。決闘の合図だ。これで同じくワッペンを叩きつければ決闘が成立するのだ。
「どう?」
いきなりの荒い歓迎である。しかしこれが川神学園の歓迎なのだ。周りの学生はいつものことだと言わんばかりの顔をしている。それを見て「えー・・・」と思う。
「待った。自分も川神学園の学生として歓迎したい」
「クリ?」
もう1人、決闘を推薦する女学生が現れた。金髪が目立つ美少女である。彼女はクリスティアーネ・フリードリヒ。
騎士道精神を持ち、真っ直ぐで礼儀正しい正確だ。しかし負けず嫌いでプライドも高く自分自身の考えを曲げない頑固さもある。
「何よクリ。アタシが先に言ったのよ」
「自分も最初に川神学園に転入した時のように歓迎がしたいのだ」
キャアキャアと一子とクリスのどっちが歓迎の決闘をするかを揉めるのであった。まだ真九郎が決闘を受理してないのにだ。
(血気盛んな学園だ・・・)
真九郎は女性の扱いについては夕乃から徹底的に仕込まれている。その英才教育の成果から周囲の女性陣の我侭を何の抵抗もなく自然に聞き入れてしまうのだ。
だから流れるように受理する結果になるのは言うまでも無い。
007
これから第1グラウンドで決闘が始まった。真九郎の決闘相手はクリスに決まった。
どうやって一子とクリスが真九郎の相手を決めたかと言うとジャンケンであった。
「負けた~」
「ジャンケンは運だからね」
一子をなだめる師岡卓也であった。
ゾロゾロと第1グラウンド場に集まる川神学園の学生たち。やはり交換留学生が決闘をやると聞いて見学にきたのだ。それはもうお祭騒ぎだ。
弁当を売る者や賭けでトトカルチョを行う者までいる。その行為を特に注意しない教師たち。本当に学園かと何度も思うのであった。
真九郎とクリスは決闘前の準備運動をするのであった。
「おお。我が友、真九郎が決闘するのか!!」
「お嬢様が戦うのですね。これは応援せねば!!」
マルギッテ・エーベルバッハは可愛い妹分であるクリスを応援するために窓から飛び降りた。窓から飛び降りるのも日常茶飯事だ。
「あの馬鹿・・・早速目立ってる」
銀子は早速目立っている真九郎を見てため息を吐く。恐らく目立っているのは揉め事処理屋としての名を川神学園に広めるためだろうと思う。
まさに正解である。この決闘で勝てば揉め事処理屋のしている強さを少しは分かってもらえる算段である。
そもそも何でも屋のようなものと説明して、荒事も解決していると口から言ってしまったら実力を見せないと信じてもらえない。それに、そうしないと揉め事処理屋として仕事を貰えないかもしれないからだ。
(決闘に勝たないと揉め事処理屋としてのパイプ作りにいきなり躓くわよ)
カチリとパソコンのキーボードを打ち込む。
「やあ村上さん。貴女の友人が戦うみたいですよ。近くで見なくて良いんですか?」
「ええ。ここからでも見えるから」
「そうですか。実は夜景が綺麗に見えるレストランを知っているんです。今夜どうですか?」
流れるように葵冬馬は銀子を口説いた。
「結構よ」
玉砕した。
その返事に冬馬は「おやおや」と余裕の表情であった。
「おお。若の口説きが玉砕じゃん。しかも瞬殺」
「わー。トーマがフラれたー」
「これは手厳しい。とってもクールですね」
無視して窓から第1グラウンド場を除く。
「ボクらはグラウンドで見ましょうか」
「うむ。我が友が決闘するならば近くで見ねばならんからな。行くぞあずみ。フハハハハハ!!」
「はい英雄様ぁ!!」
九鬼英雄と忍足あずみも外に出る。
「義経たちも行こう!!」
「はいは~い主」
2Sのクラスは天才クラスだが、やはり川神学園の学生。決闘を見に行くのであった。
(ここの学園って血気盛んなのね)
銀子も真九郎と同じ感想を抱くのであった。
「あ、崩月先輩」
いつの間にか夕乃が外に出ていた。もちろん真九郎の応援のためにだ。
「頑張ってください真九郎さーん!!」
手を振りながら応援する。応える様に手を振り返す。それよりも気になるのが夕乃の周りにいる学生たちだ。
おそらく早くも夕乃のファンになった学生だろう。もうファンを作るとは大和撫子の異名は伊達ではないようだ。
(でも星領学園の学生よりも積極性はありそう)
確かに積極性はあるだろう。変なところでだが。
夕乃の才色兼備の凄さを確認しながら準備運動をしている。準備運動が終われば決闘だ。
(ふむ・・・あのクリスさんと言う方は中々強いですね。でも勝てない相手ではありませんよ真九郎さん)
008
真九郎対クリスの決闘が始まる。
「自分は剣を使う。真九郎殿は何を使う?」
「ああ、俺は体術だよ」
静かに構える。その構えは隙が無い。体術と聞いて学生たちは勝手に想像する。
空手か、柔術か、ボクシングか。だがどれもが違い、崩月流である。
「川神学園2年F組。クリスティアーネ・フリードリヒ!!」
名乗り上げ。最初は崩月流を言おうとしたが止めた。あの名乗り上げは本当の闘いのみにしか言わない。
歪空魅空が言ったことを思い出す。今まであの名乗り上げは確かに命がけの時だけであった。
ならば今言う名乗り上げはクリスのを参考にするのであった。
「川神学園2年F組。紅真九郎!!」
審判が決闘開始の合図が放たれる。
「行くぞ真九郎殿!!」
クリスが強力な突きを繰り出す。
「ハアアアアアアアアアアア!!」
強力な突きは真九郎の胴体を狙っていた。突きの速さはとても速い。しかし真九郎も負けていない。速い突きを避ける。
「速いな・・・」
「真九郎殿もよくぞ避けたな!!」
攻防戦が始まる。クリスが剣で突き、真九郎が全て避ける。
学生はクリスの突きを褒める。そして全て避ける真九郎も褒めるのであった。
「やるわね紅くん。クリの突きを全部避けてる」
「そうだな。クリスの実力は知っているがまさか全て突きを避けるなんて驚きだ」
直江大和は興味深く観察する。確か揉め事処理屋をやっていると言っていた。それが本当なら強さがあるのは予想できる。
どれほどの強さか見極めたいがまだ分からない。だからこそいつの間にか横に来ていた川神百代に聞いてみた。
「姉さんはどう思う?」
「まあまあだな。・・・でもどこの流派か分からん。見たこと無い動きだし。古流武術かな?」
百代も真九郎の動きを見て何の武術かを予想する。しかし分からない。
それはそうだろう。崩月流は表世界で活躍することは無い。武神である彼女も知らないはずである。
(それにしてもあいつ・・身のこなしのキレがありありだな。少しは面白そうなやつだ)
武神に少しだけ目を付けられたのであった。
一方、真九郎は突きを完全に見切っていた。
(避けられる)
去年では自分よりも超格上の戦闘屋や殺し屋と戦ってきた。クリスの突きは速いが見切れる速さだ。
真九郎はクリスよりも早く剣を振るう少女を知っている。最も、その少女は剣士では無くて殺し屋なのだが。
(切彦ちゃんに比べれば・・・遅い!!)
怒涛の突きをすれすれで避けて剣を持っている手首を掴む。流れるように足を掃いて体勢を崩す。
「なに!?」
「てやあああ!!」
そして投げ飛ばして地面に叩き付ける。
「くあっ!?」
「でやっ!!」
トドメに拳をクリスの顔スレスレで止める。この光景を見れば誰が勝者で敗者か分かる。
「そこまで!! 勝者、紅真九郎!!」
決闘の勝者が決まった。真九郎は実力を魅せたのであった。
読んでくれてありがとうございます。
どうだったでしょうか?
真九郎対クリスに関しては真九郎の勝ちで揺るがないと思っています。
なにせ、真九朗は何度も自分より格上の者と命がけの戦いをしてきましたからね。
経験値の差があると思います。
でもクリスも覚醒すれば良い勝負になるまもしれませんね。
真九郎が崩月の角を開放した状態だと・・・たぶん止められるのは百代とかくらいかもしれませんね。さらに覚醒したとなると・・・・どうなるかな。
では、また次回をゆっくりとお待ちください。