今回も決闘前の物語となります。次回こそついに決闘です!!
では、物語をどうぞ。
070
プルルルルルルルルルル。電話のコール音が鳴り響く。
『はい、もしもし。悪宇商会のルーシー・メイです。って紅さんですか』
「お久しぶりです。ルーシーさん」
『どうしました紅さん。もしかして悪宇商会に就職したいとか?』
「いえ、違います。そちらの方で『御隈秀一』という人から九鬼財閥が発表したクローンを誘拐する依頼が来てませんか?」
『どうでしょうね。あったとしても教えるとでも?』
「仕事での秘密の黙秘は確かにありますね。ではハッキリと言います。御隈秀一と九鬼財閥がクローンを賭けて決闘をします。その決闘に俺は選ばれました。相手は悪宇商会の戦闘屋と聞きます。これは条約の関係でどうかという問題で電話しました」
『・・・はぁ。紅さんはどうしてこう、私たち悪宇商会と敵対してしまうんですかね』
敵対したくて敵対しているわけでは無い。ただ単純に運命と言うか、運が悪いのか分からないが、悪宇商会とぶつかってしまうのだ。
今回のクローン誘拐事件もそうだ。九鬼財閥から揉め事処理屋として仕事を依頼されたが相手が悪宇商会とは情報を聞いてから知ったのだ。
だが、このような事例は可能性としてあるものだ。だから悪宇商会側の方もすぐに返事はできる。
『そこまで今回の依頼を知っているなら話しても構いませんね。今回のクローンを賭けた決闘ですが、紅さんが参加しても構いません』
「分かりました。ありがとうございます」
『このような状況も想定してますからね。今回に限って条約は破られたことにはなりません。しかし、決闘いうことで戦いますよね?』
「そうですね」
『なので不慮の事故扱いで紅さんが死んでしまってもこちらは条約を破ったことにはなりませんよ』
「はい。それに関しては文句はありません」
『私としてはこちらの仕事を完遂させたいので応援なんてしませんよ』
「分かってますよ。でもこちらも彼女たちを助けないといけないんで負けるつもりはありません」
『・・・何だが宣戦布告されてるようですよ』
「そんなつもりは無いんですが」
『今回はこちら側が頭を抱える案件になりました。仕事は完遂させたいですが、紅さんが負ければうちの最高顧問が五月蠅そうです』
「絶奈さんですか」
星噛家はビジネスに徹するが絶奈自身の個人的な気持ちとしては自分と引き分けた真九郎が他の戦闘屋に負けるのは許せないらしい。
なんとも板挟み的な案件となっているらしい。でも今回は私闘では無く仕事としての戦い。結局はビジネスに徹するような形になりそうだとルーシー・メイは言う。
『これはあくまで仕事ですからクローンがどうなろうとも恨まないでくださいよ。では、失礼致します』
ピッと携帯電話の通話ボタンを切る。
「これで今回の事件で俺も参加できるな」
携帯電話をズボンのポケットに閉まって、九鬼財閥極東支部へと向かう。義経たちを救うための決闘に関しての作戦会議を行うのだ。
見張りのメイドであるステイシーたちに挨拶して会議室へと案内される。案内されながらつい内部を見てしまうが本当に執事やメイドがたくさんいるのだ。中には学者の人やスーツ姿の人もいる。
あるスーツ姿の人は何か不思議な雰囲気を醸し出していたし、ある年配の学者は「アイエス」がどうこう言っていたが今は気にしてる暇も無い。今は義経たちを救うのが先決だ。
「真九郎!!」
「あ、紋ちゃん」
九鬼家の末娘である紋白がトテトテと歩いて来た。その顔は不安さも混ざっていた。
「すまぬ真九郎。我らの問題に力を貸してもらって」
「良いよ。俺だって義経たちが心配だ。それに紋ちゃんの力になれるなら本望だよ」
しゃがんで真九郎は紋白の頭を優しく撫でる。彼はとても優しい顔だ。その優しさに紋白は胸のあたりが温かくなる。
よく姉や兄から頭を撫でられるが真九郎から撫でられるのはどこか温かみが別なのだ。おかげで不安が消えていく。
「任せてね紋ちゃん」
「う、うむ!!」
紋白と別れて会議室に入ると既に燕と与一がいた。
「紅、来たか」
「紅くん。ヤッホー」
「さっそく作戦会議を始めようか」
椅子に座って手元にある資料を見る。そこには悪宇商会の戦闘屋3人の資料だ。流石は世界一を誇る九鬼財閥だ。
短時間でここまで調べ上げるとは凄い。だが悪宇商会側も負けていないだろう。調べられる範囲も限りがあったようだ。
「私たちはこの3人の誰かと戦うんだよね」
「そのようだな。ヒュームから聞いたが紅はこいつらを知っているそうだな」
「知っているけど、戦ったわけじゃないよ。俺が戦ったのはこいつらをまとめていたリーダー格さ。でも情報はある程度分かる」
「教えて」
「分かった。まずはこの女性から」
プリムラ。彼女は素手で戦う戦闘屋で握力が尋常では無い。元々、部下の指揮や雑務などを担当するキレ者だ。
実力に関しては強いはずだが分からない。前回に倒したのが切彦であって、一太刀で仕留めたらしいから彼女も首を傾げていた。
「この3人組のリーダー格か」
「次にこの人」
ビアンカ。悪宇商会の戦闘屋で二つ名は『八角杖』。戦闘スタイルは長い棍棒を用いて戦う。
環やリンが戦った感想だとやはり強いとのこと。彼女の棍棒の間合いに入られると攻めが厳しいのだ。
長い棍棒は自分の間合いを保ったまま攻撃できるし、防御もできる。勝負の鍵はどうやってビアンカの間合いを破るかだ。
「なるほどな」
「最後に彼女だ」
ユージェニー。悪宇商会の戦闘屋で二つ名は『裂爪士』。武器に鉤爪状の刃物を使い、間合いに入り込まれると即座にピンチとなる。
彼女は身軽で簡単に間合いに入ってくるので注意のことだ。接近戦に適した戦闘屋であろう。
「俺なら遠距離で攻めることができる」
「与一くんなら相性が良いかも。でも近づかれたらヤバイよね」
「ああ。でも近づけさせなければ良いだけだ」
簡単に言うが相手は死線を潜り抜けた戦闘屋だ。近づけさせなければ良いなんて言葉を簡単に実行させるほど甘くは無いだろう。
真九郎以外はプロの戦闘屋と戦った経験は無いから油断は本当にしないで欲しい。油断してなくとも更に気を張って欲しいのだ。戦闘屋と戦うことはケガをするだけでは済まされないからだ。
今回のルールでは殺しは不可だからと言っても安心してはいけない。燕と真九郎が戦うにあたって最も危険だ。与一に関しては賭けの賞品であるから殺されることは無いがケガはするだろう。
「気を付けないとね。で、相手が出る順番だけど先鋒がビアンカ、中堅がユージェニー、大将がプリムラってことみたいだよ」
「順番まで分かるのか。流石九鬼財閥」
この仕事の速さは本当に凄い。紅香の付き人である犬塚弥生と同じ、もしくはそれ以上かもしれない。
そういえば、あずみは犬塚弥生を同じ忍としてライバル視していた。弥生に関しては特に気にしてもないようであるが。
そもそも彼女はあまり他人に関心がないためライバルとか気にせず、ただあずみが突っかかってくるだけだ。
あずみ曰く「今度会ったら忍として勝つ」なんて言っていた。
「で、誰がどう戦う?」
「俺は順番は気にしない」
「じゃあ紅くんは大将ね」
さも当然のように厄介で1番強い奴を真九郎に渡す燕はなかなかの者だ。
「じゃあ俺はこのユージェニーにする。間合いに入り込まれれば危険だが、逆にこっちが間合いを保てば勝てる」
「んー、私は残りでビアンカって人かあ」
それぞれが写真を見る。
燕はビアンカと戦うことが決定した。
「武器は棍棒か。リーチはあるね。どうにか掻い潜って攻撃するかな」
ビアンカのあるだけの情報から燕は脳内で何通りのも戦闘を考える。自分も実力はあると理解しているが戦闘屋と戦うのは今回が初めてである。
これは出し惜しみなんて考えるのも馬鹿だろう。切り札である『平蜘蛛』も出すべきだ。
(平蜘蛛の調整を急がないとね)
燕は切り札の『平蜘蛛』を準備する。
「俺はこいつか」
与一はユージェニーと戦うことが決定。彼は愛弓である『ソドムとゴモラ』を調整しないとと思っている。
後は自分の冷静なる精神力を保ちできるかどうかだ。義経たちには恥ずかしくて言えないが与一にとって大切な家族だ。彼女たちを誘拐した奴らを絶対に許せない。
(悪宇商会め。何故先に俺を狙わなかった。くそっ、俺が居ながら)
最初は悪宇商会なんて存在は与一の妄想の世界の存在であった。しかし今回で現実の存在となったのだ。
ただ運が悪いのか良いか分からないが偶然に『悪宇商会』の存在をネットで知った。そして彼の中二心に触れてつい調べてしまうくらいのものだったが、本当に関わりあってしまった。
もう中二病とか何だか言っていられない状況なのだ。遠い妄想がすぐ近くの現実。
「待ってろ。俺が助け出す」
真九郎はプリムラと戦うことが決定する。
去年の事件にて顔見知りではあるが、よくは知らない。ただ切彦からは握力はとんでもないと言っていた。
なら気を付けるのは彼女の両手だろう。捕まれば簡単に人の肉を握り取り、骨を握り潰す。
「こいつらか」
夕乃や銀子に伝えるか悩んだが、結局伝えることにする。どうせ彼女たちには隠し事はできない。なら後で説教させられるなら言う方が賢明だ。
(こいつらなら隻さんはいるのだろうか?)
兄弟子とあたる赤馬隻。彼と戦って以来、もう再会することはなかった。崩月家は今でも彼の帰りを待っている。
彼のやったことは許せるものではないが、それでも家族なのだ。崩月家は彼の罪さえ抱え込む懐の深さがある。
(彼女たちに聞いてみるか)
隻のことを知れるかどうか分からないが会えるなら話すことはいくらかあるだろう。
「ところで紅くん」
「何ですか松永さん?」
「何か悪宇商会を知ってるようだけどさ。どうして?」
「まあ、何回か接触したことはあるから」
「そうなの!?」
「な、聞いてないぞ!!」
今まで言うつもりは無かったからだ。
「何か戦うことを最初難しい顔をしてたけど、それは?」
「それは、悪宇商会とちょっとした休戦協定があったから。今回は特例として無しにしてもらったんだ」
「ちょっと待って!? それってよく聞くととんでもないことじゃないの!?」
「どうやって休戦までに?」
「今はどうでもよいじゃないですか」
「どうでもよくないぞ!!」
作戦会議は続く。
071
夜。川神学園のグラウンド場に複数の男女が集まる。九鬼財閥に選ばれた者に、その関係者。そして悪宇商会の戦闘屋。
その場の雰囲気は男女の集まりとしては重く、ピリピリとした空気だ。それもそうだろう。これから行うのは人間を賭けた決闘だ。川神市で行われた決闘の中でもきっと最悪な内容だ。
「お互いによく集まってくださいました。これより義経たちを賭けた決闘えお開始致します」
「ワシの名は川神鉄心。今回の決闘の審判をする者じゃ。公平な審判を下す」
決闘の審判をする者が鉄心なら安心だろう。最も決闘を審判する者は公平な者にしかできない。
「悪宇商会よ。義経たちはどうした?」
「いますよ。こちらに」
悪宇商会のプリムラの背後に義経、弁慶、清楚がいる。様子を確認すると無事のようだ。
「義経、姉御、葉桜先輩!!」
「よ、与一。すまない、捕まってしまった」
「謝るな。絶対に助けるからな」
「紅くんに燕ちゃんまで…」
「主を守れなかった。すまない」
「だから謝るな姉御。この決闘に勝てば全て丸く収まるからな」
与一の言う通りでこの決闘に勝てば全て丸く収まるのだ。義経たちが捕まったことを、どうこう言うのは間違っている。
これから決闘をおこなう与一たちの心は冷静でありながら熱い。与一に関しては怒りを抑えながら悪宇商会を見る。彼は今すぐにでも義経たちを助け出したいだろう。
「…彼女たちはやっぱりあの時の悪宇商会か」
写真で見た時と同じように、やっぱりあの時の事件の戦闘屋たちだ。彼女たちは真九郎を見ても顔色は変えない。いや、プリムラだけは殺気が少し滲み出た気がする。
相手も真九郎との休戦協定を知っているはずだが、今回は特例として無しと言うのも伝わっているだろう。
「ねえ、あいつって紅真九郎だよね」
「そうだな。あの時の奴だ」
「紅真九郎…!!」
真九郎は悪宇商会に思うところがあるが、相手も思うところがある。休戦協定をしているし、前回の事件で関わったのだから当然だろう。
だが、今回はもう違う。前回の事件はもう片付いて今回は別の事件となっている。相手もプロなら気持ちを切り替えているだろう。これに関しては真九郎の予想であるが。
「では、先鋒の方はグラウンド場へ出てください」
九鬼財閥側は燕が、悪宇商会側はビアンカが前に出る。
「こんにちわ。私は悪宇商会のビアンカと申します」
「こちらこそよろしく。松永燕だよん」
なんとなく握手をもちかけるが無視するビアンカ。棒付きキャンディをパキリと噛み砕いて、棍棒を振り回して構える。
これを見た燕は最初の掴みは失敗と判断して、ベルトを装着する。
「ベルト?」
「いっくよん!!」
変身した。変身したのだ。それはもう日曜日に放送される特撮番組のようにだ。
黒を基調としたボディスーツに蜘蛛をイメージしたガントレット型の武器。チューブをベルトに装着して機械音の声が響く。
「勝つよ!!」
「勝てるかな?」
「では、これより松永燕対ビアンカの決闘を開始する!!」
松永燕VSビアンカ。
「悪宇商会所属。『八角杖』ビアンカ」
「川神学園3年F組。松永家の娘、松永燕!!」
決闘が始まる。
読んでくれてありがとうございました。
感想などあれば気軽にください。
今回は決闘について作戦会議的な感じになりました。
真九郎と悪宇商会の休戦協定もまとめておきました。
私の考えではお互いに、敵対することが禁止であって、仕事上にぶつかる場合は流石に考慮させられると思います。
例えば、ある事件を中心に別々の依頼者が悪宇商会と紅真九郎に依頼してぶつかったら考慮するしかないと思います。じゃないと仕事の達成ができませんからね。
どちらか一方が諦めるなんてありえませんし。
では次回は今度こそ決闘です!!