時期的には、あけましておめでとうございます。
では、早速物語をどうぞ!!
タイトル通り、バトルです!!
074
那須与一VSユージェニー
「源義経が家臣。那須与一」
「悪宇商会所属。『裂爪士』ユージェニー」
名乗りを上げた瞬間が試合開始の合図だ。先に仕掛けたのは与一である。
決闘形式であることから間合いはとれているので与一はすぐに矢を放った。鋭い矢は一直線にユージェニーに向かう。
音を切り、空を切り、何よりも早く矢が放たれたのだ。その威力は岩をも貫き砕く。
「速い。そして鋭い。でも当たらなければ意味は無い」
矢は正確にユージェニーを捉えていたが、その正確さが仇となった。正確に一直線にユージェニーの頭を狙って来た矢を軽く首を傾けただけで矢は後ろにへと飛んで行った。
「何!?」
「正確すぎる矢ほど避けやすい矢はない」
ユージェニーの言う言葉は挑発とも言えるし、本当のことだ。速すぎる矢とはいえ、一直線で向かってくるものなら狙いの場所が分かれば避けることが可能である。
与一の正確すぎる一撃は正確すぎるゆえに避け易いのだ。これならまだ乱射する方が当たるかもしれない。だが相手はプロであるため乱射の意味はないだろう。
「まだだ!!」
弓の弦を弾いて矢をもう一度放つ。次の狙いは右足、左肩、左手、左脇腹と矢を放つが全て避けられる。
「正確だと避け易い」
この決闘はユージェニーにとって仕事の延長線上である。ただ淡々と相手を倒せば良いだけだ。それだけで仕事は完遂する。
2つの鉤爪を交差し、ギャリギャリと金属音が響く。火花まで散るほどまで力を入れている。
「来るか」
「もう来た」
ユージェニーが一瞬で与一の間合いに走り込んできた。与一の目は彼女の動きを捉えていたが身体の反応が追いつかなかったのだ。
一直線に走って来たのは分かったがどう動けばより効率が良かったのか。そう反応して行動にするまでの過程を行えなかったのだ。だからこそ彼女に間合いに入り込まれたのである。
(速えな!?)
「その腕もらった」
鉤爪はちょうど与一の右肩を狙って来た。弓矢を使う者にとって腕を攻撃されて使い物にならなくなったら敗北確定である。何せ弓が引けないのだから。
瞬時に与一は今の状況を理解して身体を捻った。そうすれば大事な腕を守れるからだ。そのおかげで完全な負傷は免れたが引っ掻き傷の生々しい痕がついた。
ポタポタと紅い血が落ちる。すぐさまもう片方の手で抑えても痛みがジンジンする。でも我慢できないほどの痛みではない。それよりも次の一手がくるから避けないといけない。
「よく避けた。次はどうだ」
今度はえぐるように鉤爪が顔面に迫る。
「危なっ!?」
両足で力の限り地面を蹴って後退する。何とか間合いを取るための脱出なので受け身などは上手くとれずにゴロゴロと転がりながら離れた。
「ったく、とんでもないな」
ボソリと小さく呟く。
「離れても意味はない。どうせすぐに追いつく」
「できるかな?」
「ただの戯言だな。実力の差が分からない者じゃないだろう?」
与一はユージェニーとの実力差が分かっているのだ。戦闘屋と学生。これだけの言葉を比較すれば誰だって分かるもの。
彼自身だってこの決闘が不利すぎるものだと理解している。普段の彼ならこんな戦いは挑まないだろうが相手が家族とも言える義経たちを誘拐するような奴を許さない。
譲れない意志、戦いが男にはあるのだ。
「ああ。実力の差くらい分かっている。俺が圧倒的に実戦経験が無くてアンタに負けているってことはな」
「ならすぐに降参すれば良い。痛い目に合いませんよ」
「出来るかバーカ。したら俺らはどこも知らねえクズにコレクションとして見世物にされるか実験されるかだろーが」
「…依頼者は自分の物は大切にするらしいですよ」
「んな情報はいらねえ」
吐き捨てるように言葉を言う。
負けたら引き渡される誘拐犯の元凶なんか情報としていらない。できるなら相手に勝つ情報がほしいものだ。
そんな情報があってももらえるはずもないのだが。ならば自分で勝つ経路を探し当てるしかない。
「まったく、貴方は依頼品なのですからあまり傷をつけるわけにはいかないのです。…ですがこうも反抗されると仕方ありませんね」
彼女の殺気が濃くなる。与一は一歩後退してしまう。流石は戦闘屋だと言いたいが飲み込んだ。
(とんでもねえな。だが負けられないんだよ)
矢を取り出して弓の弦を引く。
「何度言えば分かる。当たらないぞ」
与一は口元をニヤリとする。そして矢が放たれた。
「避けられ…な!?」
まっすぐに飛んできた矢が軌道修正して傾いた。そして避けようとしたユージェニーに迫る。
これは矢の後ろについている羽の部分に細工をしたからだ。それに矢を少し削って重さも微妙に変えている。矢を少しでも細工すれば何かしら変化するのだ。
だが、細工した矢が自分の思った通りに飛ぶとは限らない。細工するにも計算は細かく、難しい。
「かすったか」
ユージェニーの頬から血がツゥーっと垂れる。完全なヒットでは無いがヒットである。彼女は血を手で拭って見る。
「油断。いえ、良い小細工です。だけどもう分かった」
「言ってろ。必ず矢をてめえの脳天にぶち込んでやる」
指を自分の頭にズンと突き立てる。
「くらいな」
変則な動きをする矢が連発される。
「良い小細工だと言ったが、もう意味はない。変則する矢ならば避けずに全て切り裂けばよいだけの話だ」
飛んでくる変則の矢を全て鉤爪で全て切り裂いた。
「どうする。もう…何?」
ユージェニーが見たのは与一が川神学園の内部に入っていく姿であった。
「追いかけっこをするつもりか。いや、場所を変えたいようだな」
075
2Sの教室。
「はぁはぁ。これでよし」
カチリと音が聞こえた。
「20分。時間との勝負だな」
ガチャガチャと武器を持てるだけ持つ。ここが川神学園だからレプリカの武器がある。普通の学園ならば複数の武器のレプリカなんて無い。
「ここが川神学園だってのに感謝だな。だから色々とある」
与一にとって川神学園はよく知っている空間だ。中二病特有の性質からで学園中を調べ尽くしている。だから彼にとっては動きやすい。
逆にユージェニーは川神学園の内部なんて知らない。有利なのは与一だ。
「実力差は埋まるワケじゃねえ。だが勝率は0.0001くらいは上がる」
ほんの少し勝率が上がっても、なんて思うだろうが実力が負けている者にとって可能性があるだけあればよいのだ。
「スマートな戦いじゃないが、ウダウダと言ってられないからな。見せてやるぜ。俺のどろどろの糞みたいな戦いをな」
ガラリと扉を開いて走り出す。
「決着をつけてやる悪宇商会」
076
ユージェニーは静かに川神学園の廊下を歩く。耳は微かな音さえ見逃さないように鋭くしている。
今、川神学園には与一とユージェニーしかいない。なら自分が出した音以外ならターゲットの与一となる。
「学園内に入り込み身を潜めたか。だが無駄だ。すぐにでも見つける。それに内部なんて弓矢がさらに使えないだろう」
川神学園が広いといっても弓矢で狙撃するには障害物が多すぎる。攻撃に至っては与一は大幅ダウンである。
有利な地形だとしても決闘の最中で戦力を落とすとは厳しい。これは防衛戦ではないのだから。
「何処にいる那須与一のクローン。逃げているだけか?」
ここで大きな声を出す。自分の居場所を教える行為だが、彼女にとって何ら問題はない。今は早くターゲットの場所を把握しなければならないからだ。
更に鉤爪でギャリギャリと音も立てる。
「いたな」
廊下の角を曲がると廊下が一直線になっていた。そしてその先にいる与一。複数の武器を身体に身に付けている。
「武器を増やしたところで何も変わらない」
「言ってろ」
シュパッ。
矢がまたユージェニーに向かって放たれたが避けられる。
「ただの無駄打ちだろう」
「無駄打ちでも打つことに意味があるんだよ」
シュパッシュパッシュパッ。
連続で放たれる矢。すべて避けられる矢。だが、与一は矢を放つのを止めない。
「やはりただの無駄打ちだったな」
ユージェニーはまたも矢を全て避けて与一の間合いに入り込む。だが前と違うのは与一が他の武器も持っていることだ。
「おら!!」
日本刀に持ち変えて抜刀する。素人同然だが無いよりマシだ。そしてすぐに捨て去り、次の武器のレイピアを突き刺す。
「届かない」
レイピアがユージェニーに届く前に鉤爪の間に入り込ませて捻り折る。そのまま蹴りあげた。
与一は窓から他の教室へと跳ばされた。
「ぐう、女の脚力じゃねえ。いや、女でも馬鹿力はいるか」
ガラリと勢いよく扉が開き、突撃してくるユージェニー。そうはさせまいと誰の机か知らないが心の中で謝りながらぶん投げた。
机が勢いよく投げ飛ばされてきたが、蹴り返される。
「危なっ!?」
「その腕もらった」
「さらに危なっ!?」
鉤爪が右腕を狙う。だが、与一は目がよいのだ。今回は何とか避けて、鉤爪がその後ろの壁に深く刺さる。
「今だ」
「何が今です?」
ドス。
与一の右肩に鉤爪の爪の部分が1本刺さっていた。
「何いい!?」
「この鉤爪には仕掛けがある」
「くっ、この」
爪を抜き取り、体勢を立て直すために教室から出る。ユージェニーは壁に刺さった鉤爪を抜き取り、1本欠けた爪を再装着する。予備の爪はまだある。
「また追いかけっこか」
ユージェニーは与一を追いかける。
「右肩をやられちったか。だがまだ大丈夫だ」
与一は走る。逃げているのではない。誘き寄せているのだ。気付かれたら終わりだから悟らせないように必死さを演じる。
「誘き寄せるのにこの傷は使える。血が俺の場所を教えてくれるからな」
到着した場所は科学実験室。ここには色々ある。そう、様々な物が揃っているのだ。危険な物でも。
「ここか」
「ここだよ悪宇商会」
今度は棍棒を片手で持って応戦する。リーチを活かしながらユージェニーを攻めるが基本的に素人なので決定打はない。それが片手なら尚更だ。よく振るえるものだ。
「おら!!」
近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
「もう面倒だ。さっさと終わらせます」
踏み込み、一気に間合いに入り込む。そして鉤爪の連続攻撃が始まる。
右、左、右下、右上、下、上、左上。至るところから鉤爪が与一を攻撃していく。この連続攻撃を何とか避けるが切り傷がどんどん増えていく。科学実験室に血がピタピタと跳ねていく。
「脇腹」
「ぐあっ!?」
ついに鉤爪が与一の脇腹にグザリと刺さってしまった。激痛が身体に走る。
「今度は腕を貰う」
「腕はやらねえよ」
与一の懐から液体の入ったビンがユージェニーに迫る。
パキャアッと割れると液体がユージェニーにかかった。謎の液体を警戒して一旦離れた。
「この臭いはアルコールか?」
「正解。よく理科室とかにあるだろ」
そう言うと与一はまた懐からアルコールランプとライターを取り出す。これもよく理科室や実験室にある物だろう。
「火炙りにでもするつもりか」
「もっと酷いぜ。気付いてるか。今この部屋はガスで充満してる」
「貴様!?」
与一の発言はとても危険なものであった。
「何を驚いてるんだよ。戦闘屋は死と隣り合わせなんだろ?」
「貴様…たしかに戦闘屋は死と隣り合わせだ。だが、自ら死地に踏み込んで戦う戦闘屋はいない。貴様は馬鹿か?」
百戦錬磨の戦闘屋でも猛毒の充満する部屋でターゲットを仕留めろと言われて戦う者はいない。前提がおかしいのだ。死ぬと分かって戦う奴なんていない。
「馬鹿かもな。開き直ってるから。負けたら死ぬのと変わらないからなあ!!」
ガシャアンッと窓から飛び出す与一。それと同時にアルコールランプに着火して外から科学実験室に投げ込んだ。
「那須与一のクローン!!」
爆発音が響いた。
「死にはしないだろ。これでもガスの量は調整したからな。でも損傷は酷いだろうな」
与一は爆風に巻き込まれながらプールへと落下した。
バチャリとプールから這い上がる。
「はぁはぁ、やり過ぎた。でもこうでもしないと勝てないからな」
相手は非情な戦闘屋。ならこっちだって非情で容赦なく戦わなければならない。
ドチャッと座り込む。時計を見て時間を確認する。
ぼそりと「後少し」と呟く。
「やり過ぎた。学長すまねえ。そして従者部隊の出番だろ…俺も罪を償う」
息を整えながら爆発した科学実験室を見る。部屋からは爆煙が吹き出している。
「…チッ」
舌打ちをした瞬間に科学実験室からガシャアンと飛び出してプールへと落下してきた。それが誰かはすぐに理解する。
「嘘だろ。あれでまだ動けるのかよ」
バチャリとプールから這い上がるユージェニー。身体には火傷の痕が見てわかる。
「さすがに死ぬかと思った。でも万策尽きたはず。もう今度こそ終わりにしましょう」
「ちきしょうが」
鉤爪を構えてゆらゆらと近づいてくる。脇腹の痛みが酷くなる。嫌な汗まで垂れる。
「終わりだ」
ユージェニーが走り出し、与一へと突っ込んだ。与一は動かない。
そして鉤爪が与一に刺さった。
「ぐううがあ!?」
「これで終わりだ」
ポタポタと血が落ちる。
「ああ。終わりだな」
「負けを認めた…がっ!?」
まさか瞬間。まさかの出来事。まさかの攻撃。ありえない方向から矢が飛んできてユージェニーの脳天に直撃した。
その衝撃に真横へと倒される。
「あぐ…な、何が!?」
「言ったろ。脳天に必ずぶちこむってな!!」
「ど、どうやって!?」
「簡単だよ。お前の目で見えるか?」
与一が目線を2Sのクラスに向ける。ユージェニーも何とか目線を向けるが脳天にくらった矢のせいで見ることができない。
「見えないか。ボウガンだよ」
与一が川神学園内に入ってまず先に向かったのが2Sのクラスだ。ここでボウガンの仕掛けをセットしておいたのである。
矢が自分以外から放たれるなんてことはないという隙をついた作戦である。そして今いる場所がボウガンが放たれる地点。ここまでおびき寄せたのだ。
「本当ならあの爆破でくたばってくれたら、こんな賭けまがいな作戦はしなかったがな」
「く、こんな当たるかも分からない作戦を実行したのか!?」
「ああ。だからアンタが倒れているんだろ」
与一が密かに投げ込んでいた棍棒を拾い上げる。そして動けないユージェニーに近づく。
「俺はアンタに実力じゃ負けている、技術も負けている、殺気も負けている。でもよ、それでも勝っている部分があったぜ」
棍棒を大きく振りかぶる。
「それは運だよ。どんな勝負も運の流れってのは必ずある。今回は俺にその運が流れた!!」
「この、クローンが!!」
棍棒がユージェニーの脳天にクリーンヒットした。この瞬間に勝敗が決定したのだ。
勝者は那須与一。彼は自分らしくない戦いをした。本人は糞みたいな戦いだったとずっと言い続けるだろうが救われた者にとっては、見ていた者にとってはガッツのある戦いだったと言われるはずだ。
この決闘は彼に大きな成長と大きな悪の存在を教え込んだ。
077
「与一!! 弁慶!!」
「主!!」
義経が弁慶と与一に思いっきり抱き付く。
「痛たたたっ。痛い!!」
「わわ、ごめん与一!!」
「それくらい我慢しろ与一!!」
「俺はこれでもケガ人だ!!」
仲良し3人組とも言うべきだろう。彼女たちの姿は良い。お互いに支え合い、励ましている。家族とはああいうもののことを言うのだろう。
「松永先輩、真九郎くんもありがとう!!」
「いや、俺は何もしてないよ。助けたのは与一だ」
「そうそう。頑張ったのは与一くん」
「でも私たちの為に戦ってくれる。本当にありがとう!!」
涙をポロポロ流しながら笑顔だ。だがまだ完全な笑顔では無い。清楚を助けねばならないのだ。
「おい」
「何だ与一?」
「まだ完全勝利じゃねえんだから喜ぶな。まだ清楚先輩がいるだろ」
「そ、そうだな。ゴ、ゴメン」
「謝らなくていい」
プイっと顔を背ける。弁慶は「可愛くないねえ」と呟くが軽く笑っている。
「頼むぜ真九郎。俺は勝った。だからお前も必ず勝て!!」
「分かった」
手と手を強くパシンっと合わせる。そしてグラウンドの中央へと向かう。相手は既に準備ができているのか、静かに立っている。
ついに大将戦。紅真九郎の戦いが始まる。
読んでくれてありがとうございます。
感想など気軽にください。
今回のバトルはどうでしょうか。戦闘屋のプロになんとか与一がどろどろになりながら戦ったバトルでした。
正直、弓矢だけでは勝てるシーンが思い浮かばなかったので学園内に入り込み、様々な手を使って、運に任せて勝った状況でした。
そして次回はついに真九郎VSプリムラです。
どんな戦いになるかまた考えないとなあ…。