紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

39 / 107
こんにちは。
今回で環と百代の決闘は終了です。結果はまあ、賛否両論あるかもしれませんが自分としては落ち着いた感じになったと思います。



欲求

094

 

 

拳が飛び交い、蹴りも交差する。環と百代の決闘が開始されてから今5分が経過した。

武神である百代と決闘して5分も経過したなんてもう凄すぎると言うのが大和たちの感想である。先ほどから環と百代が決闘を始めてから「凄い」しか感想しかない。

だが人間は本当に驚きしかない場合は「凄い」としか言いようがないのだ。それほどまで大和たちは環を評価している。

最近で言えば百代にもし対抗するならばと考えた場合、九鬼家の中で従者部隊の一桁台の者や燕があげられる。その中に環はまさにランクインしている。

ここに燕がいればすぐにでも観察するだろう。そしてこんな好カードの試合があったと聞けば燕は見逃したと絶対後悔しただろう。

 

「はははははははははは!!」

「良い笑い声だな」

「ですね闇絵さん」

「戦いを楽しむ…か」

 

真九郎からしてみれば戦いなんて楽しむ余裕はないし、楽しむ気持ちも分からない。特に分からず、悪態を最もつきたかった時はキリングフロアでのことだろう。今も思い出しても良いものではない。

決闘はスポーツという感覚にもなれない。ここ川神でが武術をどこかスポーツという感覚がるような気がする。それは川神学園の影響もあるかもしれない。やはり学生ではどうしても命のはかりごとはできない。

そう考えると真九郎の考えもまたおかしいのかもしれない。彼は戦いとなると命を賭けることを考える。それは彼の人生の影響だ。

こればかりはどちらかが違うというわけではなく、どちらも正解なのかもしれない。

武術は扱う人間によってその意味合いが変わるものだ。相手を潰すだけ使う。人を守るために使う。自分の身を守るために使う。少し考えるだけでいくつも上がる。

だから今の百代は武術を楽しむために使う。真九郎はというと生きるために使う。やはり人が違うと武術という名の力の使いようはこうも違うものだ。

 

「紅くんは戦いを楽しむとは思えないかね?」

「学園長…そうですね。すいません。どうも職業柄、戦いは楽しむとは思えません」

「謝らんでよろしい。戦いとは元来楽しむものではない。楽しむと思うようになったのは時代によって変化したせいじゃ。今やテレビでも格闘技は娯楽で放映されておるからな」

 

どこか真九郎の気持ちを感じ取ったのか鉄心は口を開く。鉄心は彼についての評価は中々高い。

学園での評価を聞くところ彼の行いは良いが学力に関してはもう少し。精神、心の強さに関してはどこか波がある。でも彼は『戦い』に関して人並、それ以上に本当の意味を理解しているのだ。それは今時の若い子に関しては異常なくらい。

その理解に関しては百代にも見習ってもらいたいと思っているのだ。自分の孫はどうしても戦いを楽しむ癖がある。武術をスポーツとして楽しむことに関しては構わない。

だが『死闘』と『試合』の意味合いを一緒にしないでほしいのだ。孫である百代は2つの戦いを一緒にしているのだ。それは彼女の退屈と戦闘欲求が支配しているからだろう。

 

(彼らはある意味異質な者たちじゃ。だが彼らがモモに良い意味で影響を与えてくれるといいのじゃが…)

 

良い影響を与えるか悪い影響を与えるかは彼女の影響の受け方次第だろう。

 

「おおー。もう何が何だか分からない」

「まだ拳の撃ち合いが続いております紫様」

 

紫は環と百代の決闘をしっかりと見ているが動きが早すぎて全然分からないのでリンの解説を聞きながら見ている。でもやはり紫は幼女なので戦いに関して分からない。

だから聞いても見ても「凄い」としか思えない。だが彼女は直感で相手の気持ちを感じられる。だから2人が、特に百代が楽しんでいるのが分かる。

 

「とっても楽しそうだな」

「そうだな。だがそろそろ決着かつきそうだ」

「そうなのか。どっちもまだまだ戦えそうだが?」

「時間だ」

「ああ、そういうことか」

 

今回の環と百代の決闘にはちゃんとルールが設けられている。川神院で師範代のルーが審判をしているのだからちゃんとしたルールはあるに決まっている。

非公式とはいえ、百代が暴走しないようにルールは付けられる。ルール無用なのは殺し合いだけだ。

今回のルールは簡単だ。

制限時間は多めに取って7分。武器等は有り。場所は川神院内。不殺であること(当たり前)。時間内に決着がつかない場合は審判による判断で勝敗が決まる。

 

「もうすぐ7分経過する。どっちにしろ終わりだ」

 

百代がとても楽しんでいる決闘ももうすぐ終わる。だからまだ倒せない環ともっと戦いを続けたいと思っている。だが戦いは始まれば終わりはある。

だからこそ彼女は最後の最後で拳に渾身の力を籠める。

 

「いくぞ武藤さん。川神流無双正拳突きぃ!!!!」

「じゃあ私も…正拳!!!!」

 

拳同士が交差する。

 

「ぐあっ…なんて突きだ!?」

「意識飛びそうなんだけ…でも、こっからは頭の固さが物を言わせるわよ!!」

「いいでしょう!!」

 

額と額がぶつかりあう頭突き。どっちも遠慮なく振り上げた結果、鈍い音が響く。この音を聞いただけで痛いと思ってしまう。

当の本人たちはそのまま一瞬だけ動かなかった。そしてルーがタイムアップ終了を宣言したのであった。

 

「引き分け!!」

「痛っつー…」

「一瞬…意識が飛びましたよ」

 

額を擦りながら2人は地面に座り込んでしまう。やはり石頭でもどっちも超石頭同士がぶつかり合えば相当効くらしい。

 

「ウーン…悩ム。これは難しいヨ」

 

ルーは今回の決闘の勝敗について審査しているが判定が難しいのか悩みに悩んでいる。総代である鉄心だって悩んでいる。

武神である百代と引き分けたならば寧ろ勝ちを譲りたいが、ただ相手が武神だからってことでは勝利を宣言するわけにはいかない。勝敗はどちらがより技や攻め、防ぎを上手く立ち回れたによって決まる。

環は上手く百代の攻撃を防ぎながら決闘していた。逆に百代は技を多彩に繰り出し攻めていた。どっちも判定評価としては充分だ。だからこそ決めにくいのだ。

 

「ウムム…これは本当に引き分けと言いたいガ、勝者は百代!!」

「あり、負けちゃったかー」

 

残念と言いたい感じで口にしたが表情は悔しい顔はしていない。寧ろ楽しかった感じの顔だ。それは百代も同じで、表情は晴れ晴れしていた。

やっとマトモな戦いができて戦闘欲求が解消できたのだ。今回戦った環は自分と張り合える武人でまだ力を出し切っていない。なら次はもっと楽しめるかもしれない。

そう思うと百代はワクワクが止まらないし、またすぐにで戦闘欲求が出てくるだろう。

 

「百代を勝ちにしたのはやはり有効打が武藤サンより百代の方が少し多かったカラ。そう判断したヨ」

「そっか。防御に徹しすぎたからな」

「だけどこれはワタシの判断結果ダ。他の者なら武藤サンを勝ちにしてもおかしくないくらいの評価だったヨ」

「うむ、その通りじゃ。ワシじゃったら武藤さんを勝ちにしてたのう」

「総代!!」

「何だよジジイ、そこは孫の私にしろよなー」

「馬鹿者。孫だからといって贔屓せんわい。モモだって決闘の判定は真剣にするじゃろうが」

「まあな。流石に私だって贔屓や妥協はしないさ。だからこそ武藤さんの強さは本物だ」

 

視線を環に移す。彼女はまだまだ本気を出していないことくらい戦った百代は理解している。だから今度は本気の本気で戦いと思っている。その目は尊敬や興味などを含めたものが含まれていた。これを見た鉄心はため息を吐きそうになってしまう。これは彼女があまり変化が無いことが分かってしまったからだ。

強者と出会ってしまい彼女はさらにもっと戦いをしたいと欲求が生まれてしまったのだ。彼女の中の退屈は無くなった。だが次はよりもっと戦いたい、死闘をしてみたい、命を燃やすような戦いをしてみたいという欲求が彼女の中で生まれてしまったのだ。

 

(モモのやつ…余計なこと思ってなきゃいいんじゃが。やはり根本的に変化あるにはモモに敗北を知らなきゃいけないかのう)

 

戦いに勝ち続ける百代。その影響で彼女の成長は停滞していると過言ではない。何も敗北しなければ成長しないというわけではない。彼女の心の変化があれば良い。

だが鉄心が今思うのはやはり敗北をしって欲しいのもある。そこから学ぶ物もあるからだ。

 

「お疲れ様です環さん」

「頑張ったな環!!」

「いやー負けちゃったよ。でも楽しかった!!」

「…何か食べたい物ありますか。作りますよ」

「ありがと真九郎くーん!!」

 

ガバッと抱き付いてくる環だが真九郎は引き剥がさない。良い勝負であったが負けたのだから少しは悔しいと思ってるかもしれない。

今回くらいは大目に見ようと思っているのだ。去年、環は夕乃と戦ったことがある。原因は真九郎のせいであるが、その時のことを聞いてみたら落ち込んでいた。

やはりどんな勝負でも負けると落ち込むものだ。だから優しく接しようと思った矢先。

 

「銀子ちゃーん、由紀江ちゃーん。慰めてー!! あ、柔らかいし良いお尻!!」

「キャアァァァ!?」

「あわわわわわ!?」

「だから止めんか!!」

 

前言撤回したくなったのは仕方ない。あと補足だが夕乃に負けて落ち込んだのではなく、スタイルに負けて落ち込んだかなんだか。

 

「さあて、次は九鳳院の近衛隊のリンさんと紅と戦いたいなーなんて」

「遠慮する。私の仕事は武神と戦うことではなく紫様を護衛することだ」

「あ、俺もです。戦う理由がありませんし」

「だよな」

「まだ戦う気かいモモ」

「でも武藤さんと戦えたから良いんだもん!!」

 

まだ戦いたいようだが今の気持ちはスッキリしているようなので簡単に食い下がってくれた。

 

「…武神に1つアドバイスをしよう。甘く危険な誘惑に耳を傾けないことだ」

「およ、ミステリアスな闇絵さんからアドバイスなんて…有り難く受け取っておこう!!」

「本当に受け取ったんかいモモめ」

 

急にポツリとアドバイスをした闇絵。どういう意図かと聞いてみると「少年にもあったことさ」と返されるだけであった。

彼女は多くは語らないが的確な事を言ってくれる。そのアドバイスが外れたことはない。

 

 

095

 

 

電車の中。

 

「お姉ちゃん。本当にお友達できたのかな?」

 

ガタンゴトンガタンゴトンっと揺れる電車の中で可憐な少女は自分の姉の心配をしていた。妹は姉のコミュニケーション能力が低すぎることは理解していた。

だから新生活が始まって川神に向かった時は大丈夫かといつも心配していたほどである。そんな時に手紙が届き、友達ができたと報告がきたのだ。これは本当かどうかと思い抜き打ちチェックをしようと決断。

必要な物を用意して川神に向かっているのだ。姉はとても優しく、家族に心配をかけないように嘘をついているかもしれない。それに『松風』の件もある。やはり妹として心配するのは当たり前であった。

駅の売店て買ったお菓子を齧りながら川神までゆっくりと待つ。そんな時に彼女の席に1人の少女が近づいて来た。

 

「席、失礼します」

「あ、はいどうぞ」

 

電車の同じ席に座って来たのは自分と同じくらいの歳で、金髪のサイドテールの少女。雰囲気はどこなダウナー系である。

普通なら挨拶するだけで終わりなのだが、何となく彼女からは興味が出てしまった。この直感は女の感なのか、父親と同じように武士の感なのかは分からない。ただの赤の他人のはずと思ってその興味を置いておく。

 

「…紅のお兄さん」

 

小さく誰かの名前を聞いたが、声が小さすぎたので誰のことか分からなかった。

 




読んでくれてありがといございました。

百代VS環の決闘はなんだかんだで百代の勝ちにしました。
環さんも規格外ですけど原作の紅だと謎めいた感じで詳しくは語られなかったんですよね。だから今回は負けたけどまだまだ余力はあるぞ的な感じで決着にしました。

本当に環さんて何者だろう・・・指2本で拳を止めるし、複数の敵を簡単に倒すし。
更に夕乃さんとも渡り合うみたいで、『黒騎士』に気付かれないように尾行もする。
環さん・・・本当に何者ですか。


そして由紀江の妹と切彦もそろそろ参戦しますよー。
今回の章は彼女のルートにオリジナルを加える物語になっていきます!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。