紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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こんにちわ。ついに沙也加ルートの話になっていきます。
しかし真九郎が絡みのでオリジナルになっていきます!!


妹の揉め事

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揉め事の仕事が真九郎のところに届けられた。依頼者は黛沙也加である。

姉の由紀江が心配で川神市に訪れたのことだが、実際のところは別の理由もあって川神市に来たというのだ。

それは彼女たちの父親との揉め事だ。彼女たちの父親は剣聖と言われる黛大成だ。国から帯刀を許可されている人間国宝。

そんな偉人ともなりえる人と揉め事とは良くないだろう。まさか暴力でも振るわれているのだろうか。どんな人間にも隠された人格はある。

表では優しくても裏では凶悪な一面があったりするものだ。家庭内暴力なんてまさにその典型だ。

沙也加はとても良い子だ。こんな子が不幸な目に合うのは不条理である。ならば真九郎は揉め事処理屋として解決しなくてはならない。

プロとして心を落ち着かせて沙也加の言葉を待つ。申し訳なさそうな顔をしているが、そんな顔はしないでほしい。どんな揉め事も処理するのが揉め事処理屋なのだから話してほしい。

 

「紅さん…実は」

「うんうん」

「お父さんが…私を結婚させようとするんです。結婚というかお見合いをさせようとしてるですかね」

「え?」

 

予想していた揉め事と違くてつい間の抜けた声を出してしまった。だがよくよく考えてみよう。お見合いに関しての揉め事なんてよくあるものだ。

これも立派な揉め事だ。もしかしたら無理矢理お見合いさせようとしているのかもしれない。

話を聞いていくとあらかた正解であった。だが悪いのあるお見合いではなく、父親として善意のあるお見合いであった。

 

「お父さんは私のためと思ってお見合いの機会を作ってくれたんですが私に内緒で勝手に進めてるんです。私はまだそんなの早いって言ってるんですけどお父さんが聞いてくれなくて」

 

娘の幸せのためにお見合いをセットしたことは善意であるが、娘の沙也加にとっては有難迷惑でしかない。

 

「なるほど。じゃあそのお見合いを解消したいってことだね」

「はい。そうなんです」

 

お見合いの解消が今回の仕事。といってもやることは簡単だ。聞いてるだけだと彼女のお見合いは父親が勝手にセッティングしたのなら父親に嫌だと言えば良いだけだ。

アドバイスとして大成にはっきりと「お見合いしません」と言えばよいと沙也加に伝えるが、彼女は「それができたら…」と言いよどむ。

彼女の父親である大成はどうやら頑固でもあるらしく、一度お見合いしてからでもよいだろうとのことだ。お見合いして嫌だったなら断ればよい。そう主張するのが大成だ。

その主張も間違いではないが、ここは沙也加の主張を汲み取る。何せ彼女が依頼主なのだから。

 

「実はお父さんに遠距離恋愛をしている恋人がいるって言ったんです。だからお父さんに恋人がいるって思わせてお見合いを解消させようと思うんです」

 

この揉め事は大和たち風間ファミリーにも相談しているらしい。そして嘘の恋人作戦を実行しようと賛成したのだ。

それにこの作戦を仕立てる材料はある。姉がいる島津寮に訪れたのは遠距離恋愛の彼氏もいたという設定なら沙也加が川神市にきたのも大成も騙せるだろう。

そして嘘の恋人役だが候補として大和か真九郎の名前が挙がったのだ。遠距離恋愛という理由では2人は選ばれる要素はある。

 

「へえ、俺が」

「はい。紅さんって大人っぽいですし、恋人役としても十分だと思うんです」

 

恋人役になるのは構わないが夕乃や紫から何か言われるだろう。もし恋人役になって過ごしたら凄い目で見られるのは予想できそうだ。

だが真九郎は理由も分からないで視線を浴び続けるだろう。

 

「力を貸してもらっても良いでしょうか。姉の私からもお願いします」

「俺からも頼む紅くん」

 

由紀江や大和も頼まれる。もちろん依頼は受けよう。断る必要はないからである。

 

「お願いします」

「うん。その依頼を受けるよ」

「ありがとうございます!!」

 

まずは遠距離恋愛の恋人を決めましょうと沙也加が言う。相手は大和か真九郎だ。どっちでも構わない沙也加は悩んでいる。

 

(うーん、直江さんも紅さんもどっちか悩んじゃいます。嘘の恋人役なのに何で悩んでるんだろう)

 

嘘の恋人役と仕立てるとはいえ、彼女も乙女だ。悩むのは仕方ないだろう。それに沙也加は大和と真九郎に淡い思いが少しだけあるのだ。

大和は知的で一緒にいるとノリ良く接してくれる。真九郎はお兄さんのようで頼りがいのある男性だ。背伸びをしたい沙也加にとって彼らは魅力のある男性だろう。

 

「えっと…じゃあ」

「ちょっと待って」

 

ここで真九郎は待ったをかける。彼女の揉め事を解決するのは決定した。だけど嘘の恋人作戦をするとは言っていない。

 

「え、でもそれじゃあ作戦が…」

「そんなことしなくてもいいじゃないか。普通に嫌だって言えば良いだけだよ」

 

真九郎の言葉は正しい。それなのに嘘の恋人作戦をやってお見合いを解消させるなんて面倒なだけだ。

 

「あの、だからお父さんは私の話を聞いてくれないから作戦を行うわけで」

「話聞いてた紅くん?」

「聞いてたよ」

 

沙也加も大和たちも嘘の恋人作戦を真剣に思って実行しようとしている。しかし真九郎からしてみればそんなことをせずともよいと思っている。

頑固な父親でも娘の幸せを願っているなら、ちゃんと沙也加の言葉を聞いてくれるはずである。余計な嘘なんてつかないで言いたいことをはっきりと言えば良いだけだ。

 

「嘘をついても結局はバレる。ならはっきりと言った方が早いよ」

「え、でも…」

「大丈夫。俺も一緒に付き添うからさ」

「紅さん…」

 

今回の解決方法は自分の本当の気持ちを言うだけで良いだけだ。

 

「それでも無理矢理にお見合いにつれていくなら俺が止める」

 

 

105

 

 

大和たちと沙也加が立案した嘘の恋人作戦は無しとなった。するのは直球勝負の会話だ。

嫌なら嫌とはっきり言うのが一番なのだ。余計なことはしなくてもいい。沙也加は言いたいことを父親の大成に言えばいい。

 

「なんだせっかく嘘の恋人作戦のためにいくつか考えてたのに」

「作戦って何さガクト」

「デートスポットの下見とか。なら今度俺様が彼女できた時に使うか」

「そもそもガクトが彼女できたらね」

「それを言うなよ京…」

 

岳人は彼女をつくるために頑張っているが全て連敗。彼は良い人なのだが、がっつき過ぎなのがいけないのだと思う。

そうじゃなければ彼ももしかしたら素敵な女性と出会えるかもしれない。

 

「ふむ、嘘を言わずにはっきりと堂々と言うか。真九郎殿は正直者なのだな!!」

 

クリスはこの作戦に賛成していたが彼女の性格上、やはり「嘘」という言葉に納得できないでいたのだ。彼女自身が作戦を立案しといて何だが。

そんな中で真九郎が嘘を言わずに正直にぶつかった方が良いと言ったのに感動していた。目をキラキラしているのは尊敬する者を見ているかのようだ。

 

「いや、俺は正直者じゃないよ。俺だって嘘はつくし」

 

流石にクリスからそんな純粋な目で見られては申し訳ない。真九郎はクリスが思っている程、正義を準ずるような者じゃないのだから。

 

「え、そうなのか!?」

「いや、人間なら嘘の1つや2つ言うだろ」

「大和は嘘ばっかりだからな」

「そんなに嘘はついてないぞ。俺の場合は策を考えてたり仕込みをしてるだけだ」

「それが義に反しているのだ」

「はいはい」

 

大和とクリスの会話には終わりはない。どっちも一方通行の意見なのだから。なのでそうそうに大和が先に折れる。

 

「真九郎殿も嘘つきなのか…」

「俺だって嘘はつくさ。クリスさんは嘘が嫌いなんだね?」

「もちろんだ。嘘なぞ正義に反する」

 

頭をポリポリと掻きながら真九郎は苦笑いだ。嘘は確かに良いものではないが、人生で生きていくには必要な時もある。

意地悪をするつもりではないがクリスには彼女の正義について少し考えてもらおう。

 

「ねえクリスさん。例えばの話をしていいかな」

「例えば?」

「ああ、ある悪人がいたとする。そしてその悪人を捕まえる善人もいる」

「ふむふむ」

「そして悪人には友人もいる。その友人は悪人が犯罪を犯しているのを知らないんだ。

だから友人は悪人のことを本当に親友だと思ってる」

「ほう」

「善人はついに悪人を捕まえた」

「それで良いじゃないか」

 

勧善懲悪の話なら特におかしいことはない。この話で要なのは友人に対してだ。

 

「ここからが本番。友人は善人に悪人のことを聞くんだ。彼はどこに行ったのかと?」

「それって…」

「さあクリスさん。君ならどう応える?」

 

友人は悪人のことを親友だと思っていて、犯罪なんて犯しているなんて知らない。そんな彼について聞いて来た友人に善人はどう返事をするのか。

真実を言うのか、嘘を言うのか。それは善人次第である。

 

「…さらに身近な人に当てはめてみようか。すいません、直江くん、川神さんに川神先輩で例えさせてもらいます」

 

善人が大和で悪人が百代、友人が一子とする。これならもっと分かりやすいだろう。一子と百代の中は見て分かるように仲良しで家族愛に溢れている。

さて、真九郎が言う例えに当てはめると一子は百代が悪人だと知らない。そんな時に捕まってしまったことで一子の元から消えてしまった。

知っているのは大和で彼女たちの仲は痛い程知っている。さあ、どう言うべきだろうか。

 

「そ、そんな…」

 

クリスは黙ってしまう。正義として真実は言うべきだと思うが感情的には言えない。

 

「んん…これは」

「意地悪言っちゃったかな。難しいよね。でも俺だったら嘘を言うよ」

「むう~」

「これに正確な答えはない。クリスさんが選べばいい」

「むむむ~」

 

クリスが悩みに悩んで頭から蒸気が噴出しそうだ。世の中にはこんな選択を迫られることもある。

結局のところ嘘を言うか真実を言うかは本人次第だが、優しい嘘を言う時もあるということだ。

 

「ま、今回は嘘を言わずに真実を言うべきだけどね」

 

話が脱線したが今回は嘘を言わずに真実を言うのだ。

 

「…ねえ紅くん。さっきの例えって実体験?」

「…ま、どうだったかな」

 

意味がありそうな雰囲気だ。きっと彼にも同じようなことがあったんだなと大和は思った。

 

「はっきり言うっていってもどうやって?」

「そんなの沙也加ちゃんのお父さんの目の前でだよ。俺も一緒に付き添うから実家までついてくよ」

「そこまでしてくれてありがとうございます」

 

やることは決まった。なら早速いつの日に行くかと決めようとしたがここで銀子がある物を持ってきた。

 

「沙也加ちゃん。貴女当てに手紙が届いてるわよ」

「あ、ありがとうございます村上さん」

 

手紙を受け取って中身を見た瞬間に沙也加は目を丸くした。

 

「どうしたの沙也加ちゃん?」

「…お父さんが来るって、川神に」

「え、そうなの?」

「ちょうどいーじゃんか。何時?」

「明日です」

「ワンモア」

「明日です」

 

急な来訪なものだ。

 




読んでくれてありがとうございます。
やっと沙也加ルートですよ。しかし真九郎の考えで嘘の恋人作戦は吹き飛ばしました。
彼からしてみれば嘘で固めずに「言いたいことは言え」で通します。

九鳳院蓮杖に堂々と言いたいことを言って納得させたし、紫を助ける時も彼女の気持ちを汲み取って助けました。
そんな彼にとってお見合いを善意とはいえ、無理やりセッティングしている父親相手なら言いたいことを沙也加に言わせるしかない。
結局のところ嘘よりも本当の言葉の方が大成に響くと思ったからです。

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