そしてあいつらがちょっと登場です。
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黛沙也加が攫われたと大和から真九郎に連絡が来た。つい先日まで仲良くみんなで遊んでいたのに今日になったらいきなり物騒すぎる知らせである。
何故、彼女がこんな不幸な目に会わなければならないのだろう。彼女が一体何をしたというのだろうか。
沙也加は善人で彼女は誰かに恨まれることはしていないはずである。なのに攫われるとはどうしたものか。
「沙也加ちゃん…」
すぐさま島津寮で緊急会議が始まった。風間ファミリーや環たちが全員集合だ。
沙也加と関わった者は心配して集まってくれている。その中で由紀江はとても不安で心配している。実の妹が攫われたのだから当然だろう。そして父親である大成もまた心配している。
「黛さん。狙われる理由や恨みを買っているのような輩はいますか?」
「いや、いないな。しかし知らぬ間に恨みを誰かに買われている可能性はあるかもしれんな」
「それは黛さんの『剣聖』という域に達した嫉妬のようなもので恨まれているとかですかね?」
「あるやもしれん」
偉業などを達した者は多くの者から讃えられるが、ごく一部には嫉妬という恨みを買われることもある。その嫉妬する者に対してこちらからは何もしていないのに恨まれるとは不条理である。
しかし世の中にいる人間は全員が全員褒めたたえてくれるわけではない。
「それはあるかもしれませんね。武術を極める者の中でも相手の才能に嫉妬して恨んでくる人はいますからね」
「むー、相手の才能に対して恨むのは駄目よ。しかも関係無い娘に手を出すってのは許せないわ!!」
勝手な因縁をつける奴が無関係な人を巻き込むのは許せない。一子の言葉に納得する全員だ。
「今までも似たようなことはありましたか?」
「いや、無い。今回が初めてだよ。今までこんなことは一回も無かった」
今まで黛家に対して事件はなかった。今回の沙也加が攫われたのが初めての事件なのだ。ならば予想するに2つほど候補がある。
1つ、昔から恨みを持っている者が実行した。1つ、最近の出来事で恨みを買った者が実行したかだ。この候補だと後者が可能性があるだろう。
「黛さん。最近だと何か人間関係で問題が起きたりはありますか?」
「うーむ…無い。だがあるとすればお見合い相手かもしれんな」
「お見合い相手ですか?」
「ああ。お見合いの件を断ったのだが…相手はたいそうお見合いをしたいとしつこかったな。それほど沙也加を紹介写真で気に入っていたのかもしれん」
お見合いをするはずだった相手が沙也加を攫うとは相手はとんでもない相手だろう。普通はここまで出来るはずがない。
こんなことが出来るとしたら相手は相当な力を持っている人だろう。一般家庭ではないとしたら大物になる。
「ふむ。確かに沙也加のお見合い相手の家は莫大な財力と権力がある。しかし見合い写真を見て相手はそこまで余裕が無いような男とは思えんかったが…私の目は節穴だったかもしれん」
「見合い相手とは?」
「綾小路麻呂という」
「え」
何処かで聞いたことがある名前だ。大和たちを見ると凄く微妙な顔をしている。
「直江くん…俺の勘違いかな。綾小路麻呂って川神学園の綾小路先生じゃないよね?」
「…たぶんどころじゃなくて、本当に綾小路先生だろうね」
川神学園の教師が何をしているんだ。こんなものはニュースに放映されて、川神学園が叩かれる事件ではないか。
「あんのえせ平安貴族が!!」
「性格は悪いと前々から思ってたけど…これはやりすぎよ!!」
「許せねえ!!」
麻呂の評価は今この瞬間に地に堕ちた。しかしこれは当然だろう。教師としてあるまじき行為だ。
確かに麻呂の評価は川神学園でも低い。それでも歴史の授業では、特に平安時代での範囲授業は確かな腕を持っていたというのに。
「助けいくべきだ」
「紅くんなら言うと思ったよ」
真九郎の言葉に全員が頷く。
「ならなら私も力になるよ」
環たちも力になってくれると言う。これは百人力である。
「銀子。沙也加ちゃんが誘拐された場所を特定してほしい」
「もう特定したわ」
流石は凄腕の情報屋だ。仕事が早くて助かるものだ。
「凄いな銀子殿!!」
「なら今からでも突撃だ。美少女らしく正面からな!!」
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沙也加は困惑しており、不安に駆られていた。今いる場所はまるで高級料亭の庭のような場所だ。
何故こんな所にいるかと言われれば忍者に誘拐されたのだ。そして彼女を誘拐するように依頼したのが目の前にいる平安貴族のような姿をした綾小路麻呂であった。
「よくやったの鉢屋よ」
忍者の正体は天神館の十勇士の1人である鉢屋壱助。彼は忍者の末裔として現代に忍者の名を残そうと様々な仕事をしているのだ。今回の依頼もその1つである。
「いえ、これも忍者としての仕事をこなしたまでです」
「うむうむ。其方の仕事ぶり素晴らしい。約束の報酬は例の口座に入れておく、の」
「では、引き続き周囲を警備してきます」
そう言うと十勇士の鉢屋壱助は音も無く消える。
「さて、麻呂はお主のお見合いである綾小路麻呂でおじゃる」
「お、お見合い相手って…貴方が!?」
全然お見合い写真の人物が違うので凄い勢いでツッコミをしてしまう。凄い写真詐欺である。
まさしく麻呂がお見合い写真を弄っているので違うのは当たり前である。しかしこうも別人になるほど弄るのは詐欺レベルだ。
「何でこんなことをするんですか!?」
「もちろん麻呂と清くお付き合いするためでおじゃる」
「誘拐する時点で汚れきってます!!」
「誘拐から始まる恋もあるでおじゃる」
「ありません!!」
話が通じなくて心底嫌な気持ちになる。まさかこんな人がお見合い相手なんて本当に反対した選択は正解であった。
しかし結局、誘拐なんて荒事をして対峙させられるなんて夢にも思わなかっただろう。普通では体験しないし、普通でも誘拐はされない。
「私はお見合いを反対しているんですよ。なのに何でですか!?」
「ふむ。それは麻呂がお主に惚れたからでおじゃ。お主の可愛らしい丸顔、それに清楚な雰囲気に黛という家名。麻呂の妻にふさわしい、の」
「私はお見合いするつもりも結婚するつもりもありません。他の人をあたってください!!」
「ふっふっふ。嫌も嫌も好きのうちっていうでおじゃる。それにこれから麻呂のことを好きになっていけば問題ないでおじゃるよ」
「そ、それって…」
実は沙也加は結構妄想が激しいのでこれから起きることを変に意識してしまう。それに状況が状況なので余計不安なことを思ってしまう。
これから沙也加は麻呂にどうされるのか、ナニをされるのか、襲われてしまうのかと思ってしまう。妄想が激しいからそう思ってしまうのだ。
「まずは手始めに清く交換日記から、の」
最も相手の麻呂はヘタレなのか初心なのか分からないが沙也加が妄想していることはいきなり起きたりはしない。
「ふふ、ふふふ。さあ麻呂と一緒に遊ぼうぞ。…麻呂についでおいで」
「うう、嫌ぁ…助けて」
心の底から出た言葉であった。そして彼女は物語で言うところの助け出される姫のような存在。彼女の言葉は届いたのだ。
「沙也加ちゃん!!」
「沙也加!!」
「く、紅さん。お姉ちゃん!!」
真九郎に由紀江、風間ファミリーの面々が綾小路家の隠れ屋敷に突撃してきたのであった。
「むお、お前たちは!?」
「沙也加を返しに貰いに来ました綾小路先生」
「沙也加ちゃんを返せ!!」
「むむむ、麻呂の恋を邪魔するか。それに不法侵入でおじゃるよ!!」
「先に誘拐という犯罪を犯したのはそっちだろーが!!」
これは麻呂も言い返せないが、聞いてはくれないだろう。
「うぬぬ。鉢屋、それに綾小路御庭番衆よ出会え出会えぇぇぇぇ!!」
麻呂の掛け声で壱助を筆頭に多くの綾小路のガードマンたちが現れる。
「おい忍者。何で麻呂なんかについてんだよ」
「これも仕事だ。恨むなら恨め。…相手を見て油断するな。奴らは実力者だぞ!!」
壱助の言葉に綾小路家の御庭番衆たちが目をギラつかせる。どうやら警護のリーダーは鉢屋のようだ。
そして壱助が煙幕を焚いた。モクモクと煙幕が庭を包み込む。だが百代が気を周囲に放出すると煙幕が一瞬で消える。
「私に不意打ちは効かんぞ」
「いや、今のは一瞬だけ隙ができれば良い」
「姉さん。麻呂と沙也加ちゃんがいない!?」
「なに!?」
今の煙幕は麻呂と沙也加を移動させるためのものであった。
「ならアタシは追いかけるわ」
「自分も行くぞ!!」
「私も向かいます」
一子、クリスに由紀江が沙也加を助けるのに走り出す。
「俺も行く」
真九郎も彼女たちとは別のルートで麻呂と沙也加を探しに行くのであった。
残ったメンバーは壱助と御庭番衆の片づけだ。百代に翔一たちは構える。
「私も頑張っちゃうよ」
「お願いします環さん!!」
環と翔一たちが御庭番衆やガードマンたちに突撃して次ぎから次へと殴り飛ばしていく。彼らもプロなのだが翔一たちも負けていない。仲間のコンビネーションによって綾小路のガードマンたちを翻弄しているのだ。
彼らの実力を見て環は口笛を鳴らす。学生だが実力あると認めた口笛である。だが環は彼らの倍以上は既に倒している。
「むう、あの女は相当な実力だな」
「もちろんだ。この私と戦えるくらいだからな」
「ほう、それはそれは。しかし今は目の前にいる武神に集中しよう」
壱助と御庭番衆は気を引き締める。相手は天災扱いの存在であるため初撃に全てを込めるつもりだ。
「沙也加ちゃんを早く助けるからさっさと終わらせるぞ!!」
「そう簡単に終わらせるとよく言う」
「行くぞ光龍覚醒!!」
「その技は御大将の!?」
「私はその先を行く!!」
壱助と御庭番衆の前には光耀く雷の龍が降臨した。
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庭の反対側で巨大な雷が迸った光景を見た。
「おー、何か凄い雷でも落ちたんですかねえ若君サン」
「それは後でいいから目の前の不埒者を片づけるのでおじゃる!!」
「了解」
由紀江たちの前に大柄のアロハシャツ男が立つ。由紀江たちはすぐさま目の前の男が強い存在だと理解した。
纏う気が普通じゃない。そのおかげで3人は迂闊に動けない。すぐそこに沙也加がいるというのに助けられない。
「この人…強い」
「ああ。只者じゃないぞ」
警戒しながら目の前のアロハシャツ男を囲むように移動する。
「今回の警護仕事の最初の相手が女子供とはなあ。ま、でも昔ガキが相手で痛い目にはあってるからな。油断はしないぜ」
ガキンっと鉄の拳を合わせた。そして静かに構える。
「早く片づけるのじゃ『鉄腕』!!」
「オーケー!!」
「来ます!!」
『鉄腕』と呼ばれた男が最初に一子に殴り掛かる。だが負けじと一子も薙刀を振るう。
「どりゃあ!!」
「おっと、なかなかの振るうスピードだな」
「はああああああ!!」
「てえい!!」
クリスも由紀江も攻撃を仕掛ける。レイピアの突きと日本刀の斬撃が舞うとガキィンと鉄の腕でガードされる。
「やるねえ嬢ちゃん」
「まだまだ!!」
(特に刀を持つ嬢ちゃんがなかなか強い。流石はサムライガールってやつか)
『鉄腕』が拳を突くと地面がえぐれたのを見て、食らえば骨が折れるのは間違いないだろう。一撃でも食らえば重症である。
「おい『鉄腕』よ!!」
「なんすか若君サン?」
「絶対に殺すな。痛い目に合わせるだけじゃぞ!!」
「面倒っすねえ」
「相手は不法侵入者といえ麻呂の生徒じゃ。教師として殺すなんてできるかぁ!!」
麻呂も一応教師なので殺すなんてことはさせない。問題教師ではあるが心までは完全に腐っていないらしい。
「じゃあ痛い目に合わせるだけにしますよ」
「そうするでおじゃる」
「お姉ちゃん…」
不安になる沙也加だが姉である由紀江は安心させるために諦めない目で見る。
「必ず助けますから待っててください!!」
由紀江たちは相手がどんな存在かをまだ知らない。
「言うねえ。オレは悪宇商会所属『鉄腕』ダニエル・ブランチャードだ!! 行くぞ嬢ちゃんたち!!」
彼女たちは裏の者に立ち向かう。
一方、真九郎は別の場所で因縁の相手と再会していた。
「何でお前がこんなところにいるんだ」
「ちょっとした成り行きだよ小僧」
「…『サンダーボルト』」
本当に何で彼がここにいるのか分からなかった。
読んでくれてありがとうございました。
次回『鉄腕』と『サンダーボルト』との戦いです。
彼らが何故いるのか。またも悪宇商会との条約などは次回に詳しく書いていくつもりです。
しかし、由紀江たちはついに悪宇商会の者と戦う羽目になりました。ただでは済まない・・・。ついに関わる!!
そして麻呂も一応教師なので「殺すな」宣言はさせました。原作でも麻呂は教師らしからぬ存在ですが殺人まではしないですからね。
切彦は次回登場しますよ。仕事の内容が『サンダーボルト』に関することなんですよね